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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第33話 師匠

「へえ、リツキ、第3試練に進めるみたいだね」

「うん」


 魔法都市ヴィザレットを出て約1kmほどの地点で、マノンとライリーは第2試練合格を喜ぶリツキの姿を見守っていた。

 2人がいるところからリツキの試験会場までは、1日歩いても辿り着かないほどの距離がある。

 しかし、マノンは遠視の魔法で、ライリーは獣族特有の視力の良さで、リツキの様子がハッキリと見えていた。


「ま、リツキならいけると思ってたけどねー」

「リツキ、出来る子」


 マノンは普段リツキを雑に扱うが、それは弟子であるが故であり、心の内では大事に思っているし認めている。

 だからこそ、どこか得意げな顔で試験会場の様子を眺めていた。

 対してライリーは、リツキを幼い頃から見守ってきたいわば孫のように思っている。

 だからこそ、いつも通り無表情でありながらふすっと鼻息荒くうなずいていた。


「ライリー、前回、リツキは初めて挫折を経験したのよね?」

「うん。あんな風に泣くリツキ、初めて、見た」

「そっか」


 マノンは目を細めてリツキを見守り、ふっとまぶたを閉じた。


「じゃ、あとはよろしくね。ライリー。またなんか落ち込んでたら、尻引っぱたいてやって」

「まかせて」


 ライリーの答えを聞いたマノンは、もう充分だとその場を去って行く。

 その後ろ姿に、ライリーがそっと声をかけた。


「マノン、これから、どうするの」


 マノンはぴたりと動きを止め、うーんとうなった。


「そうだなあ。まだ何も決めてない、けど」


 マノンは不意にヴィザレットの方を見る。その視線の先にいるのはおそらくリツキ、ではなく


「そろそろ決着、つけないとね」


 ぽつりと呟かれた言葉が、空気に溶けて消える。

 マノンは歩みを再開し、ライリーもそれ以上止めることはしない。

 ライリーは横目にマノンの背を見つめ、その背が見えなくなるとヴィザレットへと目を向けた。


「出迎え、しなきゃ」


 頭に浮かぶのは、リツキの顔だ。

 またケガをしているのでは、落ち込んでいるのでは、と心配しながら、とんと地面を蹴ってヴィザレットへと向かった。


 〇〇〇


「ミオン様、どうかされましたか?」


 シルクは、唐突に窓の外に鋭い視線を向けたミオンに驚いて目を丸くした。

 ミオンはじっと遠くを見つめると、しばらくして手元の書類に視線を戻す。


「なんでもない」


 シルクは怪訝そうに眉根を寄せるが、ミオンがなにがあったのか教えることはない。

 シルクは軽くため息をつくと、手にしていた書類の山をミオンの執務机の上に置いた。


「・・・・・・まだ、あるの?」

「今日はこれが最後です」

「そう」


 嫌そうに顔をしかめたミオンが、さらに積み上がった書類の山を見上げる。


「ねえ、これ、ほんとに必要?明日じゃだめ?」

「明日からは最終試練の事前の調整があります。もっと忙しくなりますよ」


 ミオンはさらに顔をしかめ、諦めたのか書類の一番上を手に取った。

 昼間は魔法大会を見守り、夜間は書類仕事に追われる。

 まったくもって、代表者も楽じゃない。


「ねえ、シルク」

「はい」

「ナオは、どうしてる?」

「それは」


 今度は、シルクが言葉を濁す番だった。

 視線をさまよわせながら、言葉を選ぶ。


「シルク」


 ミオンに強く見つめられ、シルクは観念したようにコホンと咳払いをした。


「ナオは今、部屋にこもりっきりで私も行動を把握できていません。時々、外に出てはいるようなのですが・・・・・・」

「”還らずの森”に行ってるんでしょ。問題ないわ」

「はい?」


 ミオンの言葉に、シルクは目を丸くする。


「え、か、"還らずの森”ですか!?そんな、危険で」

「ナオの実力なら心配ない。それに、昔からよくあそこは修行の場所として使っていたし」

「それは、ミオン様がいらっしゃったからで。ナオ1人ではもしものときに」

「問題ない、と言ってるの」


 ミオンのキッパリとした声音に、シルクは閉口するしかない。

 それでも、せめてもの思いで呟くように言葉を紡ぐ。


「ナオは、危うい。1人にするのは、心配です」

「・・・・・・」


 シルクはナオに対して、複雑な思いを抱いている。

 正直なところ不気味だと思うこともあるし、ミオンの腹心としても心から信頼はできない。

 けど、ナオはまだ子どもなのだ。

 どんな思いをナオに対して抱こうが、大人が、子どもを守らなくてどうする。

 ミオンは手を止めると視線をさまよわせて、小さく息を吐いた。


「・・・・・・"還らずの森”で異常があれば、私が感知できる。それに、ナオが森に入ったときから、なんとなくだけど注意はしてる。いざというときは、すぐにでも駆けつけられる」


 今度は、シルクが動きを止める番だった。

 だが、すぐさまハッとして勢いよく頭を下げた。


「申し訳ございません!差し出がましいことを」

「いいよ、別に。私も言い方が良くなかった」


 ミオンは少し気まずげに咳払いすると、シルクに頭を上げるよう促す。


「・・・・・・私が聞きたかったのは、ナオの最近の様子はどうかっていうこと。ヴィザレットか"還らずの森”にいる分にはなにをしているか分かるけど、どんな様子かまでは分からないでしょ」


 シルクがまじまじとミオンを見返せば、ほんのりと頬が赤くなっていることに気づいた。

 ミオンはミオンなりに、弟子のことを気にかけているらしい。

 シルクは微笑ましくなりながら、小さく笑みを浮かべる。

 だが、ミオンが顔を曇らせたのを見て、シルクも真剣な顔つきにすぐさま戻す。


「あの子は、ナオは、初めて負けた。負けることに、慣れてないの」

「ミオン様、ナオは負けたわけじゃ」

「負けたよ」


 ミオンはグッと拳を握ると、吐き捨てるように言う。


「負けた。ナオは、リツキよりも先に魔力切れになって負けた。それは、事実よ」

「・・・・・・」

「ナオは、負けとの向き合い方を知らない。・・・・・・あの子が危ういというのはその通りね」

「ミオン様」


 ミオンは鼻で笑った。たぶん、自分の事を笑ったのだ。

 ミオンは手元の書類に視線を落とすと、ぽつりと呟く。


「シルク、ナオのことを、見ておいてあげて。私じゃ、ずっとは見ていてあげられない」

「かしこまりました」


 これで話は終わりだと言いたげに、ミオンは書類仕事を再開する。

 そんなに頭を深く下げ、シルクは静かに部屋をあとにした。




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