第32話 覚悟
今週こそ、予定通りです!
一歩一歩を踏みしめながら歩く僕たちは、道の先に光を見つけた。
それは、人工的なものでは決してなく、自然が生み出す自然の光だ。
それを見て取った瞬間、僕とダイスさんは走り出す。
光の中へ飛び込み、真っ先に目に入ったのは――――青。
空の青が、目一杯に広がっていた。
「おめでとう、リツキくん。合格だ」
僕が神殿を出たと実感するのと、名前を呼ばれたのはほぼ同時だった。
はっとして振り向くと、そこにいたのはシルクさん。
白金の髪が日の光を反射し、キラキラと煌めいている。
「シルクさん・・・・・・」
「おや、どうしたのかな。嬉しくない?」
「いや、嬉しいんですけど」
僕はグッグッと何度か拳を開閉しながら、言葉をにごす。
なんだか呆気にとられてしまって、いまいち合格を喜び切れていない。
神殿を出られたのだ、という実感は得られても、第2試練を突破できた実感はつかみきれないのだ。
「トワ、僕、合格したんだよね」
「ガウ」
トワも呆れているようで、ひとつ返事をするとそっぽを向いてしまった。
だが、それだけで僕の胸にはようやく喜びがわき上がる。
「やっ・・・・・・」
「リツキ、おめでとう!」
後ろから響いた声に、僕はパッと振り返る。
そこにいるのは、ダイスさんだ。
ニッと笑んで、こちらに片手を挙げている。
「はい!やりましたね、ダイスさん!これで第3試練に進めます!」
「・・・・・・あー、それなんだけど、よお」
どうにも歯切れの悪いダイスさんに、僕は首をかしげる。
どうしたのだろうか。
具合でも、悪いのだろうか。
「どうしだんですか、ダイスさん。まさか、どこかケガを・・・・・・っ」
「いやっ、そうじゃねえんだ。そうじゃなくて、な」
「彼は、第3試練に進めないよ」
「・・・・・・へ?」
唐突に声を挟み込んだのは、シルクさんだ。
僕はシルクさんの言ってる意味が分からず眉根を寄せる。
「どう、いう、ことですか?だって、ダイスさんは僕といっしょに」
「あー、リツキ。いいんだ。その人が言ってることはあってるよ」
「リツキくん。君は第2試練の最後の、10人目の合格者だ。そして彼は、リツキくんよりも少し後にゴールした。つまり、突破したのはリツキくんだけだよ」
「そん、な」
僕は言葉を失い、口をポカンと開ける。
対して、ダイスさんは苦笑を浮かべ、後頭部に手を当てた。
「惜しかったなー。あとちょっとだった」
「惜しかった、じゃないですよ!」
僕はぐいっとダイスさんに詰め寄り、まくし立てる。
「だって、だって、おかしいじゃないですか。僕とダイスさんはいっしょにゴールしたのに。僕だけ合格だなんて・・・・・・!」
「そういうルールだからね」
穏やかに差し込まれたシルクさんの声に、僕は素早く振り返る。
そして、つかみかかりそうな勢いで詰め寄った。
「どうしてですか。どうして、ダイスさんだけ・・・・・・っ」
「最初に言ったはずだよ。合格者は先着10名のみだとね」
「ですが、僕とダイスさんはいっしょに」
「それは、僕たちの方で判断することだ。僕も見ていたけど、明らかにリツキの方が早かったよ」
「でも」
「これは、決定だよ。リツキくん」
キッパリとした口調に、僕はもうくつがえせないと悟って口を閉じる。
「リツキ、いいんだよ。これで」
「ダイスさん・・・・・・」
僕は思わず涙目になりながらダイスさんを見つめる。
ダイスさんはニッと笑みを浮かべて、僕の頭をぐしゃぐしゃなでた。
「俺がここまで来れたのは、リツキのおかげだ。なら、ここでリツキが合格するのが通りだろ」
「そんなこと」
「ある。少なくとも、最後のナオとの戦いはリツキが勝ったんだ。俺はずっと後ろで隠れていただけだ。それに、確かにリツキの方がゴールしたのが早かった」
「うう~~」
ははっ、と空気を吐き出すような笑い声を聞きつつ、僕はくちびるを噛みしめる。
「リツキ」
ダイスさんに名を呼ばれて顔を上げると、ぱしんと両頬を手で挟み込まれる。
「第3試練、がんばれよ!」
「・・・・・・」
僕はダイスさんの顔をじっと見つめて、拳をギュッと握り込む。
己の胸の中で、覚悟が固まっていくのを感じた。
「はい」
ダイスさんはほっとしたように息を吐くと、そっと手を離した。
しばらく見つめ合った後、ダイスさんは僕の肩を促すように叩く。
「行ってこい」
「行ってきます」
向かうのは、シルクさんのところ。第2試練の合格を記録してもらうのだ。
僕は今まで、この魔法大会をがんばろうと思ってはいた。思ってはいたが、師匠に言われたから、手を抜くようなつもりもなかったから、という軽いものだった。
けど、これからは違う。
僕は、ダイスさんの思いも背負って第3試練に挑むのだ。
〇〇〇
ダイスは、合格の印をもらうリツキの背を見守りながら、こみ上げる悔しさを必死に押し殺してた。
(まだ、耐えろ。今は、耐えるんだ)
流れそうになる涙を、目元に力を入れて押しとどめる。
ダイスは、幼い頃から最強魔女ミオンに憧れていた。だからこそ常日頃、憧れのミオンに追いつくために魔法の修練を重ねている。
そんなダイスにとって、魔法大会は重要な催しだった。
ミオンの目に自分がとどまる数少ないチャンス。
多くの魔法使いが義務だからというだけで参加し、本気でミオンに挑みたいと思う者など数えるほどしかいない中、ダイスは毎回毎回身を削る思いで挑んできた。
ダイスは、自分が天才ではないことを知っている。
だが、自分の実力が劣っていることはないことも知っている。
自分は弱くないと、そう断言できるだけの努力を、ダイスは重ねてきた。
その、はずなのに
(敵わねえ、よなあ)
ダイスの脳裏に浮かぶのは、ナオとリツキの戦闘だ。
入り込む隙など無かった。岩壁を維持し続けるだけで精一杯だった。
乾いた笑みが口からもれでる。
最後、ゴールへ向けて、神殿の外へ走ったとき。
確かに、リツキは速いし、ダイスの体力もすでに尽きかけていた。
けど、リツキも戦闘のすぐあとだったのだ。死力をつくせば追いつけないこともなかった。
それでも、リツキの少し後ろを走るようにし続けたのは、頭のどこかで既に10人ゴールしてしまっているのではと思っていたから。
リツキが先にゴールできるようにすれば、リツキが合格する可能性が少しでも上がるのではと思ったから。
(あの時、もう少し速く走っていれば)
そこまで考えて、ダイスは軽く頭を振った。
(これで、良かった)
ふと前を見ると、腕輪をかかげて駆け寄ってくるリツキと目が合った。
「ダイスさん!」
「やったな!」
2人で拳をぶつけ合えば、素直にリツキの合格を喜ぶ気持ちがあふれる。
ダイスは己の実力不足と目の前の少年の強さを認めた。
今回は、ダイスの負けだ。けど
次は、絶対負けない。




