第30話 興奮
1日遅れてしまってすみません!お待たせいたしました!
僕はよく目をこらし、ナオの動きをひとつも見逃さないよう注意する。
見逃すな。絶対に見逃すな。
魔法を使う前兆。しぐさ。必ずなにかあるはずだ。必ず・・・・・・っ。
瞬間、ナオが指をピクリと動かした。
「結界!」
僕が結界を張るのと、ナオが風の刃を振り下ろすのはほぼ同時だった。
鋭い音が鳴り、攻撃をはじくことができたと胸をなで下ろす。
だが、これで気を抜くわけにはいかない。
ナオは無表情に、無造作に、不可視の刃を振り下ろし続けてくる。
僕はナオの動きをつぶさに観察し、適切に結界ではじく。
そして隙を見ては、氷の礫で攻撃を試みた。
ナオは防御結界も無詠唱でできるらしく、僕が放った氷の礫はことごとく防がれてしまう。
それでも、僕は何度も何度も礫をつくり、放つ。
息をつく間もないやりとりの中、僕はなぜか口の端を持ち上げていた。
やれる。やれてる。やれているぞ!
第1試練の時、僕はナオに手も足も出なかった。でも、今はどうだ。
攻撃は通ってはいないが、拮抗はしている。
ナオに、僕の魔法が、通用している!
こみ上げる興奮が、抑えられない。
顔が笑顔をかたどるのを、やめられない。
この胸のドキドキが、止まらない。
叫び出したくなってしまうほどの感情が、僕の中で膨れ上がる。
――――楽しい
頭の中で響いたその声に、僕は驚いて目を見開く。
僕は、僕は、この戦闘を、楽しんでいるのか・・・・・・?
これまでも、魔法を楽しいと感じることは多々あった。
だが、これほどまでに鮮烈に溢れ出すように思ったのは、初めてだった。
初めて感じる自分の心の動きに、自分自身が戸惑ってしまう。
僕は、戦うことが好きではないと、そう思っていたのに。
「ガウッ!」
トワの鳴き声にハッとする。
そうだ。今は戦闘の真っ最中。
戸惑いを顕わにしている場合ではない。
僕は切り替えようと軽く頭を振り、前方のナオを睨み付ける。
今、僕とナオは力が拮抗している状態だ。
僕の攻撃はナオに通じず、ナオの攻撃も僕に通用しない。
このままでは持久戦になる。先に疲れを見せた方が、隙を見せた方が、負ける。
そして持久戦では、僕に勝ち目はない。
ナオのあの、精密機械のような洗礼された魔法を見れば分かる。
あれは、簡単に崩れるようなものではない。
異常なまでの集中力と精神力、分析力、魔力量、精密さ、それらがナオの強みだ。
ナオの攻撃は、ひとつひとつの威力も強いが、なによりその均一性が末恐ろしい。
狙いがぶれることはなく、威力が落ちることもない。
ナオに比べれば大抵の魔法使いは格下だ。だからこそ、今までの戦闘はその神髄が見られることなく終わっていた。
ナオが最も得意とする戦闘。それは、持久戦じゃなかろうか。
僕は魔法を放ちながら、冷静に頭を回し続ける。
僕は、持久戦に向いていない。
魔力量も多いし、魔法の持続は得意だが、調子のよさにムラがあるのだ。
このままナオのペースで戦闘を進められては、先につぶれるのは僕だ。
「トワ」
「ガウウ」
トワに声をかけると、分かってると言いたげな声が返された。
相変わらずなその態度に、僕は苦笑をかみ殺す。
脳裏に浮かぶのは、ライリーさんの言葉だ。
『対人戦の時、もっと隙をさぐること』
『リツキ、まっすぐ戦いすぎ。攻撃、避けられてあたりまえ』
『もっと、集中。そうすれば、見える。そこを、突く』
『トワ、魔族と獣族の子。隙、探るの得意、なはず。なら、トワが合図。2人で、攻撃』
「結界」
僕は一度、全方位に結界を展開させると、ふっとまぶたを閉じた。
鋭い音が、結界の外から響く。
ナオの攻撃が、僕たちを襲っているのだろう。
ひとつひとつの威力が大きいナオの攻撃は、ものの数十秒で結界をダメにする。
数十秒、か。
僕は深く深く息を吐き、集中力を高めていく。
己の中にある魔力をまとめて、練り上げる。
それを、爆発しない程度に膨らませ
「ガウアッ」
トワの声と同時に、放出する。
「炎!!!」
僕の多大な魔力が紅蓮の炎となって、ナオを包み込んだ。




