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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第29話 名前

「なんで、僕が君の言うことを聞かないといけないの?」


 心から不思議そうな声音でそう言う白髪の少年に、僕はなにも言わずにらみ返す。


「僕、弱い人に興味ないから。今あっち行けば見逃してあげる。この先に行きたいんでしょ?」

「行かないよ」


 僕が間髪いれずに答えると、彼はピクリと眉を動かす。

 こんなやりとりを、第1試練の時にもしたなと思いながら、あの時と同じようにまっすぐ彼を見つめる。


「第1試練の時も言ったはずだ。僕は、逃げない」


 彼は平坦な瞳で僕を見ると、スッと腕を持ち上げた。


 ――――くる!


結界(バリア)!」


 僕が結界を張った瞬間、不可視の風の刃が襲ってくる。

 ピシピシと嫌な音が耳朶を打った。


「・・・・・・第1試練の時・・・・・・?君、僕と会ったことあったっけ」

「ちっ」


 分かっていたが、僕のことを覚えちゃいないんだな。

 たぶん、彼にとっては誰も彼もが皆一律にどうでもいい存在なんだろう。

 彼はそれほどの実力をもっていて。彼から見れば、大抵の魔法使いが塵芥(ちりあくた)なのだ。


 だからって、負けるつもりもないが。


「おいリツキ!なんなんだ、こいつは!」

「無詠唱が使える天才です!今はそれで納得してください。とにかくダイスさんは」

「ああ、ったく。才能ある年下しかいねえのかよ!土の精霊よ――――岩壁ロックウォール!」


 ダイスさんは叫びながら、僕たちを半円状に囲うように岩壁を出現させる。

 次いで、風の刃の追撃の音が響いた。


「ダイスさん、ありがとうございま」

「そーいうの、いいから!防御は俺に任せて攻撃に専念しろ!年下に追い抜かされてばっかりでたまっかよ!!」


 ダイスさんの叫びに、僕は目を見開いてふっと笑みを浮かべた。


「任せました!」

「おうっ」


 これで防御は大丈夫。

 なら、僕がすべきは


「ガウアッ」


 トワの鳴き声にハッとして頭上を見ると、轟々と風が渦巻いているところだった。


「おいおいおいおい。マジかよ」


 ダイスさんが頬を引きつらせる横で、僕はすうっと目を細めた。


「ダイスさんはそのまま防御を続けてください。あれは、僕がなんとかします」

「お、おい。なんとかって」

(アイス)


 僕は氷で足場を作ると、一気に駆け上がる。トワがぴょいと僕の肩に乗ったことを確認し、グッと上を見上げた。

 そしてそのまま竜巻へ――――つっこむ!


結界(バリア)!」


 竜巻の中心に飛び込む直前に、球状の結界を展開して全身を覆う。

 吹き荒れる風に乗って、砂や小石がビシビシと当たる。普段であれば大した脅威ではないそれらも、竜巻の風に巻き上げられると鋭い攻撃になる。

 竜巻の中に入れば、結界はすぐにひび割れ始めた。


「おい、やべえぞ!」

「分かってる!――――浮遊(フロート)


 僕はふわりとした浮遊感を全身に感じると、前方に飛び出し竜巻を抜ける。そしてすぐさま竜巻に向き直った。


竜巻(トルネード)!」


 全力で詠唱を唱えると、ダイスさんの頭上にある竜巻の横に、新しい竜巻ができあがる。

 その新しい竜巻は徐々にもうひとつの竜巻へと近づていく。


「おいおいおいおいっ。大丈夫なのかよ、これ!」


 岩壁の向こうからダイスさんの悲鳴が聞こえるが、僕はすでに竜巻からは視線を外し、すぐそこにいる白髪の少年をにらみつけた。

 なぜなら、竜巻は、もうすぐ、消えるから。

 2つの竜巻がぶつかるとお互いを相殺し、数秒ほど爆音を響かせると、おどろく程あっさりと消え失せてしまう。


「へえ」


 それを見た少年は軽く眉を動かすが、さして残念そうでもない。少し意外な結果になったな、くらいの表情だ。

 対して、僕は当たり前のことをしたと言いたげな顔を取り繕いながら、内心はバクバクと心臓をならしていた。


 よ、よかったああああ。うまくいったあっ。


 正直なところ、本当にうまくいくかなど分からなかった。

 それになにより、僕は風魔法が得意じゃないんだ!


 僕は額を流れる汗をそっとぬぐいつつ、白髪の少年から視線を外すまいと目元に力を込める。

 彼相手に、一瞬でも気を抜いてはいけない。彼の一挙手一投足から目を離してはいけない。

 僕はじっと彼を見つめながら、ゆっくりと口を開く。


「なあ」

「・・・・・・」

「1つだけ、教えてくれないか」

「・・・・・・」


 話しかけても、彼の反応はない。

 常に気だるげで、めんどくさそうに頭をかいている。その灰色の瞳に、汚れなど一切無い。

 僕は彼の後ろにある人の山をちらと見てから、改めてその瞳をまっすぐに見つめた。


「君の名前は、なに?」

「・・・・・・」

「僕はリツキ。名前くらい、教えてくれたって良いだろ?」

「・・・・・・それが、なんになるの」


 初めて返されたまっとうな返答に、僕は一瞬目を見開く。そして逡巡した後に、再び口を開いた。


「別に、なにかになる、とかじゃない。ただ、知りたいんだ」

「・・・・・・ナオ」


 ぽつりと呟かれた声に、「ナオ」と口の中で復唱する。

 そうか、ナオか。僕が越えたいと、負けて悔しいと思った相手は、ナオというのか。

 僕はふっと口元に笑みを浮かべると、ビシッと指を突きつけ宣言する。


「僕は君に勝つよ。ナオ」



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