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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第28話 3人目

 僕とダイスさんはゲンさんと別れ、再び神殿の中をさまよい始めた。


「にっしても、思ったより単純な構造だよな。ここ」

「そうですか?隠し通路やら隠し扉やら、どこが繋がっているのかわかったもんじゃないですよ」

「ああ、基本的に一本道だし――――って、隠し通路!?」

「はい。いっぱいありますよ。あそことか」


 僕がそう言って指し示すのは、神殿の壁。一見なんの変哲もない土壁だが、よくよく見れば数ミリ程度へこんでいる。

 おそらくあれを押すなり出すなりすると、どこからか隠し通路が現れるのだろう。


「・・・・・・気づかなかった」

「だいぶ周到に隠されていますからね。今が試験中であることが悔やまれます。ただの探検なら、あっちこっちいじって見てみるのに」


 僕は仕掛けの形跡ひとつひとつを眺め、後ろ髪を引かれながらその全てを無視する。

 この試験を合格できるのは、先着10名限定。

 寄り道をして時間をくうわけにはいかない。


「ってか、なんでリツキそんなこと気づけんだよ。大抵の魔法使いが、しかも試験中に、こんな細かな神殿の仕掛けを見破れないだろうよ」

「あ、あはは。まあ、それは、いろいろありまして」


 僕は苦笑いを浮かべながら、遠い目をする。

 思い出すのは、師匠とアサヒさん、そしてルネさんに連れられた数々の神殿や洞窟。

 探検が大好きな3人は、ことあるごとに修行と称して僕を連れ回したものだ。

 おかげさまで、罠やら仕掛けやら見極める目を育て上げられてしまった。

 師匠たち3人と探検に行くときも、先頭を歩いて安全な道を案内する役目を僕が担うほどだ。


 だからこそ、分かる。


「おかしい、ですね」

「え?なにが?」

「今まで、試験官さんがいる広間は等間隔にありました。そして、各広間に1人試験官が配置されていた。なのに」


 僕とダイスさんは、新たな広間に到達する。


 ・・・・・・また、だ。


 そこは、1つ目と2つ目のミッションの時と同じような広間でありながら、ゲンさんや老人のような試験官はいない。

 ただ、がらんどうの空間がひろがっているだけ。


「これで2つ目、ですね」


 試験官がいない広間を見たのはこれで2度目。

 全ての広間に試験官が配置されているとは限らない、と言われてしまえばそれまでだが、そうではないと思うのだ。

 現に、この広間には魔力の残滓を感じる。それに――――

 ちら、と床に視線を向けると、赤いシミがポツポツと広がっているのが見える。


「・・・・・・嫌な予感がします。警戒を高めましょう」

「おう」


 僕とダイスさんは走るスピードを少し上げ、先を急いだ。


 〇〇〇


「・・・・・・そろそろ、次の広間が見えるはずです。準備はいいですか」

「ああ。もちろん!」


 ダイスさんの力強い声を聞きつつ、僕は前をにらみつけた。

 次こそは、試験官がいるはず。いや、いてくれ。

 そう願いながら、徐々に近づいていく。


「ッ、トワ?」

「ガルルルルルル」


 広間が見えてきたとき、トワが急停止し、体勢を低くしてうなりごえをあげた。

 僕もダイスさんも、あわせて歩みを止める。

 どうしたのか、と聞こうと口を開きかけ――――肌で感じた魔力の気配に息をのんだ。


「おい、リツキ。どうしたんだよ。早く次に行かねえと。・・・・・・ん?なんか血のにおいが」

「ダイスさん、少し良いですか」

「な、なんだよ」


 僕が暗い声音で重々しい声音を響かせると、ダイスさんもつられたように緊張感を走らせる。


「もしかしたら、この先にいる魔法使いは、非常に危険かもしれません」

「・・・・・・」

「こっちに隠し通路があります。迷ったり、遠回りになるかもしれません。けど、この先に行くよりいいかも」

「リツキは、どうするんだ?」

「僕は、行きます。ちょっと、言ってやりたいことがあるので」


 僕がこの先にあるであろう広間を睨みながらそう言うと、ダイスさんが一度押し黙る。

 もし、ダイスさんがここで隠し通路を選択したとしても僕は止めない。

 むしろ、その方がいいかもしれない。試験を合格する確率はグッと下がるだろうが、生きて帰ることはできる。

 この先に進めば、合格よりも生き残ることの方を優先しなくてはならない可能性もある。

 僕がもんもんとそんなことを考えていると、ダイスさんは大きく深呼吸をし、バシンと強く僕の背を叩いた。


「ふえっ!?」

「ここまで来たんだ。いっしょに行かねえわけねえだろ?」

「ダイスさん」


 ダイスさんを見上げると、ニッと快活な笑みを返された。

 僕はその笑みにうなずいて答える。


「・・・・・・行きましょう」


 そう声をかけて一歩を踏み出せば、ダイスさんとトワが力強く後に続く。

 その足音に背を押されるような感覚を覚え、思わず口角が緩んだ。


 〇〇〇


 そこは、嫌な静寂に包まれていた。

 足音が異様に響き、目の前の光景がより鮮明に強調される。


「おい、んだよ。これ」

「ちっ」

「ガルルルルル」


 ダイスさんは唖然として、トワはうなり声を上げて、僕は鮮烈な怒りを抱いて、その光景を見上げる。


「なに、君たち」


 そこには、試験官なのだろう魔法使いの人たちが折り重なった山とその上に座り込む少年がいた。

 試験官たちはみなひどい傷を負い、赤黒い血だまりを作っている。

 死んではいないが、無事ではない。ギリギリ致命傷ではない。そんな傷だ。


「なに、じゃない」


 僕は試験管の山に腰を下ろす少年を――――白髪の少年を、睨み上げる。


「そこから、降りろよ」

「やだよ。これ、座り心地がいいんだ」


 底冷えするような灰色の瞳が、こちらをのぞきこむ。

 その瞳には、興味も、関心も、ありはしない。そこにあるのは己の行動を邪魔するかしないかの2択だけ。


「もう一度だけ言う。そこから降りろ」


 僕は地を這うような声を響かせる。

 彼は、目の前を横切る蠅を見るかのような瞳で僕を見ている。


 ふざけるな。


 僕は胸元のピンブローチに手を添え、いつでも詠唱ができるように準備を整える。

 再戦だ。

 僕は、今度こそ、負けない。






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