第26話 (脳筋)
僕は周りを見回した。
視界いっぱいに埋め尽くすのは、ゲンさんと瓜二つな分身たち。
僕はこれから、この中の偽物を探さなくてはならないのだ。
・・・・・・とはいえ、そこまで難しいミッションでないような気もしてしまう。
この中から本物を見つけるのは至難の業だが、偽物ならば逆に差異が目立つはず。
そう思い、目をこらすのだが
「数が、多すぎる・・・・・・っ」
そう。なんといっても数が多い。
これでは、差異を見つけるまでに時間がかかりすぎてしまう。
「くそっ、まったく分かんねえ」
隣でうめくダイスさんは頭をかいて、難しい顔をしている。
「棄権も手、か・・・・・・」
ダイスさんの呟きに、僕は眉をひそめる。
今回のミッションは棄権も認められている。それはつまり、偽物を見つけることをあきらめて、他の試験官の元へ行く、ということだ。
確かに、見つけるのは容易でもこの数を全て見ていくのは時間がかかりすぎてしまう。
もし、棄権の選択をするならば早い方がいい、が。
「僕は、絶対棄権はしません」
「え」
「次の試験官のところへ行ったところで、どんなミッションか分かりません。だったら、時間がかかっても確実にクリアできるこのミッションは、合格しておくべきです」
僕はダイスさんの返事を聞くこともなく、分身たちの中に入っていく。
ダイスさんが棄権するというなら、それもいいだろう。
僕に強要する権利などないし、したくもない。
と、思っていたのだが
「くっそ、絶対みつけてやらあ!」
という叫び声を聞いて、思わず口元がほころぶ。
どうやら僕は、ダイスさんと挑むこの第2試練を楽しんでいたらしい。
「よし」
僕は小さく気合いを入れると、改めて近くの分身を凝視した。
そして、足下で常に僕についてきているトワに声をかける。
「トワ、においで分かったりはしない?」
「ガウ」
トワに目を向けると、首を横に振って返される。
においで分からない、か。
「それは、においがしないの?」
「ガウウ」
「違うのか。じゃ、においがしすぎるから?」
「ガウ」
うなずくトワを見て、なるほどと顎に手を当てる。
この分身は体臭までも再現している。さらにこの数の人間がいれば、鼻がきかないのも仕方がない。
もしくは、偽物もにおいを寄せるなんらかの工夫をしている可能性もある。
「どうしたものか」
こうしている間にも、時間は刻一刻とすぎていく。
焦燥が、僕の胸を侵し始めたとき、僕はふっとある疑問を抱いた。
「そういえば、この分身、魔法は使えるんだよね?」
僕はこの分身を第1試練で見たことがある。
その時、分身は言葉を話し、魔法を使っていた。本体のゲンさんと同じように。
本体がどれかは自由に選べるのだから、当たり前と言えば当たり前だが・・・・・・
「ゲンさーん!ちょっといーですかー?」
「「「「なんだ?」」」」
「うおっ」
僕が声をかけると、周りにいた分身全てから返事をされる。
こ、これはなかなか、異様な光景。
僕は仕切り直そうと咳払いし、改めて口を開く。
「あの、ゲンさんに向かって魔法を放っても良いですか?」
「「「「は?」」」」
「だから、第1試練の時みたいに、戦っても良いですか?」
「「「「それは、別に、構わないけど・・・・・・」」」」
「そうですか?じゃ、遠慮なく」
僕はとりあえず手近な分身の一体に手のひらを向け
「氷」
なんの躊躇もなく、氷の礫を放った。
「「「「いきなりすぎんだろっ。結界っ」」」」
分身はギョッとして、反射的に結界を展開する。その速さは見事というしかないが、僕がもっとも至近距離で魔法を発動させた分身だけは間に合わず、ザラザラと魔法が解除されていた。
「なるほど、分身を倒すとこんな感じなんですね」
「「「「おっ前、恐ろしい奴だな!」」」」
「へ?」
恐ろしいとは、人聞きの悪い。
修行と称して殺意ましましの雷を弟子に当てに来る師匠や、弟子に持たせた真剣を木刀で切る勇者、料理をしようと地獄の業火を出して消し炭を作る魔族、怒るとニコニコしながら逆さづりしてくるエルフ、ぴぃぴぃ泣きながら無茶ぶり特攻を命じる精霊、無表情だと思ってたら血反吐吐いてぶっ倒れるまで鍛錬してくる獣族、豪快に笑う話しが通じないドラゴンに育てられただけだ。
・・・・・・別に恐ろしくない、よな?
「とっ、とにかく、これで数を減らそう!トワ!」
「ガアウ」
呆れたようなトワの視線を無視しつつ、僕は魔法を連発するべく照準を定める。
対してトワも一度ため息をつくと、ググググと成長させ成獣姿に変化した。
「じゃ、やるよ。トワ!」
「ガウ」
僕はトワとともに意気込み、目の前の分身を睨み付ける。
どこからか聞こえてきた「脳筋」という呟きは無視だ、無視。




