第25話 2人目
2人目の試験官は、思っていたよりも早く見つかった。
「よお」
「うげ」
1人目の試験官の時と同じような広間の中央で、ヒラヒラと手を振る男を見て僕は思わず顔をしかめた。
「おいおい。うげって失礼じゃねえの。うげって」
「いえ、だって」
「リツキ、その人は知り合いか?」
ダイスさんの言葉に、僕はうーんとうめき声をあげる。
「知り合いっていうか、なんていうか」
「そこは知り合いって言ってよ」
うさんくさい笑みを浮かべるその人は、傷ついたとでも言いたいのだろうか、目元を手でおおって泣くふりをしている。
「だまされませんよ」
「ええ」
ひどく残念そうな顔をするが、一体全体どこまで本心か。
はあ、と僕はため息をついた。
僕には、この人との再会が良いことか悪いことか、この人が味方なのか判断がつかない。
ただ、少なくとも敵ではないはずだ、と思う。
キザったらしい笑みとしぐさ、そしてこのうさんくささ。わざとらしくて信頼しがたいが、僕に忠告をしてくれた分身魔法の使い手。
「なあ、リツキ、本当にどんな関係なんだよ」
不思議そうなダイスさんの声に、僕はどうしたものかと首をひねる。
「この人は、えーっと」
チラリと彼を見れば、彼は僕の意図を察したようでウインクしてきた。
「そういえば、名前を言ってなかったな。俺はゲンっていうんだ。覚えといてくれよ?リツキ」
僕の名前は当たり前のように知ってるのか。確か、第1試練の時は名乗らなかったと思うのだが。
そこまで考えて、はっとしてダイスさんを見やる。
「あれ、そういえばダイスさんはこの人と知り合いじゃないんですか?」
「え?違うぞ」
「え?」
いや、だって、第1試練でこの人と、ゲンさんと対峙したとき、ダイスさんの名前を出していたじゃないか。
「俺、将来有望な魔法使いの卵の名前は全員覚えてるんだよね」
俺の疑問を察してか、ゲンさんがウインクとともに口を挟んでくる。
なるほどそれで。僕が納得してうなずいていると、隣で「え、将来有望・・・・・・?」とダイスさんが顔を輝かせる。
ダイスさんは機転がきくし、魔力操作も精密だ。将来有望といのは納得出来る。
「第1試練にいたのも、試験官の仕事ですか?」
「いんや?普通に参加して、普通に落ちた。そしたらシルクのやつに急に試験官として入れって言われて・・・・・・ったく、人使いが荒いのなんの」
やれやれ、と両手をあげるゲンさんに僕はまたもや納得してうなずく。
そして、シルクという名前に首をかしげる。
シルクさんって、あのシルクさん、か・・・・・・?
「おおっと、雑談がすぎたな。そろそろ本題に入ろうぜ」
パンッと叩かれた手の音に、僕はハッとして視線を鋭くする。
そうだ。今は試験のまっただなか、こうしている場合ではない。
刻一刻と、他の魔法使いも進んでいるのだ。
「「お願いします!」」
僕とダイスさんが声をそろえて叫ぶと、ゲンさんはニッと笑みを浮かべ口を開いた。
「分身」
途端に、ゲンさんと寸分も違わぬ分身が数え切れないほど出現する。
・・・・・・本当に、精密な分身だ。
見た目が同じ、というだけではない。ふとしたときのしぐさやクセ、体臭や重心の置き方までもが本物と同一。
ここまで精巧な分身、よもや師匠にもできないのではないか。
「お前たちには今から、この中にいる偽物をそれぞれ探してもらう」
「にせ、もの・・・・・・?」
僕はゲンさんの説明に首をかしげる。ダイスさんも同様で、分からないと言いたげに首を振っている。
「本物を探すんじゃないのか?」
ゲンさんはその反応を待っていた、と言うようにイタズラげに笑う。
「ちっちっち。俺の分身は格がちげえんだなあ」
「え?」
「俺の分身はな、どれが本物か自由に選べるんだよ」
「え!?」
「だから、どの分身も本物であり本物じゃない」
ゲンさんは秘密を語るようにくちびるに人差し指をあてる。
「分身の中に赤の他人に変身魔法を施して紛れ込ませた。お前たちが今から探すのはそいつらだ。1人につき1人、見つけるんだ」
僕たちはごくりと唾をのみこむと、分身に視線をはしらせる。
分身の中の偽物を探せ、か。
「制限時間はなし。どんなに早く見つけても、どんなに遅く見つけてもよし。棄権もありだ」
ゲンさんは徐々に分身の中に姿を紛れさせると
「それじゃ、ミッション開始だ」
パチンと指を鳴らした。




