第23話 水風船
僕は、老人から目を離さないようにしながら、ダイスさんとトワに目を向けた。
「ダイスさん、大丈夫ですか」
「あ、ああ。今、なにされたんだ?」
「魔力と殺気をぶつけられたんです。トワも、大丈夫だから落ち着いて」
「グルルルルル」
僕はひざに力を込めて立ち上がる。
老人は、広間の中央に移動していた。
「それじゃあ、ルール説明するよ」
老人はそう言うと、自分の背丈と同じ長さの杖を振るった。
ゴゴゴゴゴゴゴ
「なんだ、この音!?」
地下を這うような低音が、広間に響き渡る。
一体、こんな音、どこから・・・・・・
そう思ってから、ハッとして足下を見た。
「下だ!!」
ちょうど、老人の真後ろで、地面がボゴッと膨らんだ。
次の瞬間、巨人のようなゴーレムが、地面をつきやぶるように姿を現す。
「は、はああああああ!?」
ダイスさんの叫びを聞きながら、僕もあんぐりと口を開く。
「ふぉっふぉっふぉ、若者はリアクションが大きくて嬉しいなあ」
老人だけが平然と、傍らに立つゴーレムの足をなでる。
「この子、わしのかわいいゴーレムちゃん。わしの得意な魔法なの。ほら、第1試練の時にゴーレム倒したでしょ。あれ作ったのもわしよ」
得意げに胸をはる老人を見て、僕たちは認識を改める。
このおじいちゃん、すさまじい。
「ま、まさか、このゴーレムと戦うのか・・・・・・」
戦々恐々と呟かれた言葉に、老人は不敵に微笑んで――――
「ほ?」
きょとんと首をかしげた。
「戦う・・・・・・?」
「?」
「あー、あーあー違うのよ。この子と戦えとは言わないのよ」
「へ?だって、どう見たって」
「んー、ある意味戦う、って言うのかもだけど」
老人は「んー」と唸ったあと、ぽんっと手のひらを打った。
「ま、見れば分かるよ」
そう言うと、老人はぱんっと手を打った。
瞬間、ゴーレムがその丸太の様な両手を上げ――――
ダダダダダダ
手のひらから、何かを打ち出した!
「なっ」
打ち出された物は、あれは、橙色の丸い
「水風船!?」
そう、ゴーレムが弾丸のごとく打ち出したのは、丸い水風船だった。
「わしのミッションは、難しくないのよ。ただ、この水風船を5分間避け続けるだけ。飛行魔法でよけてもよし。防護魔法ではじいてもよし。・・・・・・簡単でしょ?」
簡単・・・・・・とは、簡単に言ってくれる。
水風船をよけるだけ。それだけ聞けば、なんだそんなこと、と思わなくもないが、実態は違う。
まず、スピード。最初弾丸かと勘違いしたのが、あながち間違いではないのでは、と思ってしまうほどの速度。
次に、量。広間全体を埋め尽くすほど広範囲に広がる水風船。あれをよける隙間なんて・・・・・・。
「ふぉ。始めようか、のぉ?」
「トワ、準備いいよね?」
「ガル」
「やってやる!」
僕たちは、数歩前に歩み進めた。
その様子を見て、老人は厳かにうなずくと、不意に杖を頭上にかかげた。
「それではミッション――――始め!」
ド、ドドドドドド
瞬間、放たれる水風船の嵐。
「浮遊」
「地の精霊よ――――岩壁!」
僕は飛行魔法で宙に浮かび上がり、ダイスさんは地面から岩の防壁を出現させる。
僕は針に糸を通すような繊細さで、水風船をよけ続けた。
「ふぉっふぉっふぉ、器用なもんじゃのぉ」
「うちの師匠はっ、スパルタなので」
思い出すのは、師匠と行った飛行魔法の修行だ。
落とされる無数の雷撃と、その最中に投げかけられる一問一答形式の問題。
ひたすら飛行魔法でよけ続けるのは、魔力と体力がごっそり持って行かれてなかなか過酷だった。
「あれに、くらべれば・・・・・・っ」
だが、問題もある。
それは、水風船の大きさだ。小さすぎる。
少しでも気を抜けば、手や頭、足先に引っかかってしまいそうだ。
「・・・・・・っ、結界!」
とうとう飛行魔法ではよけきれない水風船があり、咄嗟に結界を張る。
だが、その結界も水風船が10個当たれば、すぐに割れてしまった。
「くそっ」
飛行魔法をしながらじゃ、結界の強度なんてたががしれている。
今はこれでもいいが、あと4分半、いつかボロが出る。
他になにか方法は・・・・・・
僕はそこまで考えて、辺りの状況を把握しようと視線を巡らせた。
もちろん、水風船の回避をしながらだ。
まず、ダイスさん。ダイスさんは地上にとどまったまま、岩の防壁で水風船に耐え続けている。
その防御力、強度は目を見張るほどで、ミッション開始から今まで防壁1枚で耐えきっている。
だが、それもそろそろ危うい。
防壁に一筋、また一筋と、ひび割れが走っている。
次に、トワ。トワは子犬姿のまま、器用に水風船をよけ続けている。その様子には安定感があり、トワの身体能力のよさがうかがえた。
使い魔に水風船が当たった場合、どうなるのかとも思ったが・・・・・・きっと、当たったら僕はその時点で不合格となるのだろう。
基本、使い魔と魔法使いはセットで考えられる。
使い魔をミッションに参加させないならば、安全圏にいさせればいいのか、だが、それはミッションにおいて使い魔の力は借りないと宣言するのと同義だ。
僕は水風船を飛行魔法で避けつつ、回避しきれないものは結界ではじきながら、考えを巡らせた。
思考は放棄すべきでない。
どんな場面においても、思考はし続けるべきだ。
今、僕ができることはなんだ?
避け続けるだけで本当にいいのか?
それだけが、このミッションを達成する方法なのか?
『わしのミッションは、難しくないのよ。ただ、この水風船を5分間避け続けるだけ。飛行魔法でよけてもよし。防護魔法ではじいてもよし。・・・・・・簡単でしょ?』
老人が言った、このミッションのルールを反芻する。
そうだ。僕は5分間、この水風船を避け続けなければならないのだ。
そう、避け続けなければ・・・・・・避け、続ける・・・・・・?
当てられるな、ではなく・・・・・・?
「・・・・・・!そうか!」
僕はぱっと目の前が明るくなるような感覚があり、頭が冴え渡る。
そうだ、そうだ、そうだよ!
どうして僕は水風船を、避けなくちゃいけないなんて思い込んでいたんだ!
老人からの説明で“水風船を避け続ける”と言われたから、迷うことなく避けてしまったが、ようは、当たらなければいいんだろう!?
そう思って、僕は空中で静止する。
「「「!?」」」
他の3人の驚愕するような空気が伝わってくる。
それはそうだ。この水風船に満ちた空間で、少しでも動きを止めれば致命的。
だが、問題ない。
僕はにやりと口角をゆがめ、水風船が僕の体に当たる寸前に、口を開いた。
「氷!!」




