第22話 1人目
僕は走りながら、魔力の気配を探った。
試験官は、いったいどこに・・・・・・
「おいおい!ちんたら走るなんざ効率悪いなあ!!」
その時、後方の集団の中からそんな声が聞こえた。
次の瞬間、飛行魔法で飛び上がる人影が。
「ひひっ、お先にい!」
ここは天井が充分に高い。だから、飛ぶことは可能だ。が
「バカだな」
隣のダイスさんの呟きに、僕も黙って彼のなりゆきを見守る。
「ひっはー!一番だ――――!?」
彼がぐんとスピードを上げた瞬間、ガコンという音がなった。
あ、これ、まずいな。
「結界!」
僕はすばやく後方に半円球型の防護結界を張る。
僕の結界が完成すると同時、天井付近の壁から矢の雨が降る。
「ひああああ!」
「巻き込んでんじゃねーぞ、バカヤロー!!!」
防護結界を張れなかった何人かが、後方で倒れているようだった。
もちろん、最初に飛行魔法を使ったバカも墜落して白目をむいている。
「あーあ、気づいて、なかっ、たのかよ」
「仕方ありません。今は、ライバルが少しでも減ったことを喜びましょう」
そう。今見たとおり、この神殿は、飛行魔法で簡単に突破できるような代物ではない。
自分の足で地道に攻略することが求められる神殿なのだ。
今だって、僕たちは常に罠の危険にさらされ続けている。
「っ!」
右足でガコッと床を踏み抜いた感覚を察した瞬間、反射のごとくスピードで頭を下に思い切り下げる。
と、頭上すれすれを風の刃がすりぬけた。
「はっ、少しの油断も許されませんね。これは」
「っおい、リツキ!分かれ、道だぞ!」
ダイスさんの言うとおり、目の前では道が5つに分かれていた。
「いよいよ、本命のおでましということですか」
さて、どうしようか。選択肢は5つ。
この選択が、運命の分かれ道になるだろう。
「お、い!どうす、る!?」
「そうですね」
道の先の魔力を感じ取れないかとも思ったが、それはなかなか難しそうだ。
なら、頼りになるのは勘だけ。
「・・・・・・真ん中」
「いよし!」
僕とダイスさんはいきおいよく真ん中の道に足を進めた。
〇〇〇
「はっ、はっ」
僕もだんだんと息が上がってきた頃、狭い廊下のようだった道から、いきなり開けた空間に出た。
僕は足を止めてあたりを見回す。
なんだか、いかにもって感じだな。
となりを走り続けていたダイスさんも、ひざに手をつき息を整える。
僕はその様子をちらと見てから、頬をかいた。
「あの、ダイスさん」
「ん?」
「少し言いにくいですが・・・・・・僕について来るのにはなにか理由が?」
「・・・・・・」
これは、僕が密かに引っかかっていたことだった。
先ほど分かれ道を選択したときも、ダイスさんは当たり前のようについてきた。
確かに、今回の試練は複数人で動くことは禁止されていないし、複数人だからって有利になるようなルールでもない。
師匠に指定を受けているのは第1試練だけなので、問題はない、が。
「僕は、ダイスさんのことを特別助けようとかしません。いざとなったら、置いていくことだってあるかも。そういうときに、あの時僕が助けてれば、と言われるのは困ります」
「・・・・・・」
「さっきの道の選択だって、そうです。僕の選択が悪かった、とか言われたくないです。だから」
「あー、分かってるよ。俺も、そんなダセーこと言うつもりはない」
ダイスさんは、少し決まりが悪そうに視線をそらした。
「今、リツキについて行ってるのは、なんつーか、技術を盗もうとしてるというか。俺としては修行のつもりというか」
「え?」
「いや、ある意味これもずるいかもだけど・・・・・・。とにかく、俺はリツキに置いて行かれたり、リツキの選択に文句言うなんてことぜってーしない。それに、これは俺とリツキが一緒に動いてるんじゃなくて、俺が勝手にリツキのあと必死こいて追いかけてるだけだから」
「そ、なんですか」
「ああ。だから、もし俺のことが邪魔になったら追いつけないくらいに振り払ってくれ」
「別に、邪魔ではないです」
「そっか」
ダイスさんはそう言うと、ニカッと笑う。
その笑みに、裏はないように感じた。
だから、僕もダイスさんを信じることにする。
そもそも、僕がダイスさんの意志を聞きたかっただけだし。
「ふぉっふぉっふぉ。若人のぶつかり合い。若いって良いのー」
その時広間に響いた声に、僕とダイスさんはそろって目を向けた。
「およおよ、こんなよぼよぼのじいさんに、そーんな怖い目を向けないでくれー。チミたちのことを取って喰いやせんよ」
広間の奥で、1人の小さな老人が杖を片手に笑っていた。
なんとも小さくて、かわいらしいとすら感じてしまう老人だ。
「あなたが、試験官さんですか?」
「いかにも。わしが試験官じゃよお」
「なんというか、気ぃ抜けるな」
ダイスさんが小さくつぶやいた声に、僕もうなずいて応える。
警戒心が、湧いてこない。
「ふんふん。いいの、いいのー。若いもんは、元気であるべきじゃ」
老人はニコニコしながら何度もうなずくと、ふっと動きを止めた。
一瞬の静寂が、広間に満ちる。
「さて」
ゴウッ
「・・・・・・へ?」
気づいたら、僕は地面に膝をついていた。
なにがあった。なにをされた!?
混乱する頭を必死にめぐらし、ある1つの応えにたどり着く。
――――なにも、されていない。
先ほど老人がしたことは、ただひとつ。
魔力と殺気を、僕たちにぶつけた。ただ、それだけ。
「・・・・・・っ」
これは、なかなか、大変なミッションになりそうだ。
「早速だけど、ミッション始めよっか」




