第20話 確信
「少し、早く来すぎちゃったな・・・・・・」
僕は、だれもいない広場を見回してそう呟く。
そして、目前にそびえる石造りの神殿を見上げた。
荘厳で、壮麗。見ている者に威圧感を与える歴史ある神殿。
この神殿こそが、第2試練の試練会場であった。
第1試練が終了して早3日。
僕は、迫り来る第2試練に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「おい」
足下からの声に、僕は目線を下げる。
「緊張、してんじゃねえぞ」
「トワこそ、緊張して失敗しないでよ」
「けっ」
僕の足下では、トワが同じように神殿を見上げ、それを睨んでいた。
第1試練で苦汁を飲まされたことを、トワも忘れられないようだ。
僕はふと、第1試練後のライリーさんとの修行の3日間を思い出す。
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「遅い」
「うくっ」
一瞬で、ライリーさんが僕の目前に迫る。
咄嗟に身を引くが、間に合わない。
「はい、おしまい」
とんっと首に手刀が添えられた。
「っは――――」
一気につめていた息を吐き出し、崩れるように腰を下ろす。
僕たちは、人気のない公園の隅っこで、戦闘訓練を行っていた。
ライリーさんは座り込む僕の傍らに立ち、見下ろす。
「リツキ、戦闘、慣れてない」
「うっ、まあ、そうかもですね」
僕は、師匠との修行を思い出す。
師匠との修行はあくまで魔法の鍛錬だ。戦闘訓練じゃない。
ライリーさんは僕の前に来ると、ストンとしゃがみこんだ。
「対人戦の時、もっと隙をさぐること」
「隙・・・・・・ですか?」
「うん。リツキ、まっすぐ戦いすぎ。攻撃、避けられてあたりまえ」
「うう」
「もっと、集中。そうすれば、見える。そこを、突く」
「簡単に言いますけどお」
ライリーさんは、一度考えるように黙ると、側で僕の修行を見ていたトワを指さした。
「なら、トワの力、借りればいい」
「へ?」
「はっ!?」
「トワ、魔族と獣族の子。隙、探るの得意、なはず。なら、トワが合図。2人で、攻撃」
僕は、虚をつかれた顔でトワを見やる。
トワも、思わずといったようにこちらを見ていた。
「たっ、確かに・・・・・・っ」
僕はうんうん、とうなずく。そして、トワに詰め寄る。
「ねえっ、トワっ」
「お、俺は、やらね・・・・・・」
キラキラとした瞳で、トワを見つめる。見つめる。
「~~~~~~っ。だあああああ、わーったよ!やりゃー、いいんだろ。やりゃー!・・・・・・俺だって、あいつに負けっぱなしはごめんだ」
「よしっ。がんばろうね、トワ!」
僕は満面の笑みをトワに向ける。トワ、鼻にしわがよってるけど。
「そうと、決まれば」
僕たちの会話を静かに見守っていたライリーさんが、スッと立ち上がると、むんずとトワの首根っこを容赦なくつかんだ。
「今から、2人とも、特訓」
心なしかいきいきとしたライリーさんに持ち上げられ、トワがあわあわと足をばたつかせる。
「わかった!わかったから!!おろせえええええ」
「やるぞお!」
僕の気合いと、トワの絶叫が響き渡った。
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「トワ、訓練の成果、だそうね」
「・・・・・・あたりまえだ」
僕が声をかけると、トワがふんと鼻を鳴らした。
と、トワの耳がぴんと立てられる。
「? どうしたの、トワ」
そう言ってから、僕も気がついた。
第2試練会場に、だれか、来た。
その人は、光を綺麗に反射する白金の髪を持ち、騎士服をきっちりと着こなしていた。
あの人のことは、何度か見たことがある。
確か、第1試練の時、試練内容を説明していた人だ。そして――――ミオン姉さんの隣にいつもいた人。
僕がつい彼の方を見てると、彼も僕のことに気がついたようで、ほんの少し目を見張ったのが見えた。
そして、なにを思ったかこちらに足を向ける。
徐々に近づいてくるその人を、僕は冷静に迎えた。
「・・・・・・随分と、早いね」
「はい。気持ちが、急いてしまって」
この人・・・・・・せ、背が高い。
僕はめいっぱい上を向かないと、顔がしっかり見えない。
少し視線を下げても良いが・・・・・・なんとなく、この人からは視線を外しちゃいけない気がする。
「いきなり声をかけて悪かった。驚かせたね」
「いえ、大丈夫、です」
「そうか。・・・・・・ああ、そういえば、自己紹介がまだだった」
そう言って、白金の髪の彼は、薄く微笑んだ。
「私は、シルク。ミオン様の腹心だ」
「あ、えっと、リツキです」
ミオン姉さんの、腹心・・・・・・。
シルクさんが、僕に声をかけた真意は分からない。
ミオン姉さんの差し金か、あるいは。
けど、そんなことは考えても仕方のないことだ。
それに、僕にはシルクさんに声をかけられたときから気になっていたことがひとつだけ、あった。
「あの、シルクさん」
「なんだい?」
「僕たち、前にあったことありますか?」
じわり、とシルクさんの目が見開かれる。
・・・・・・ありえない、と突っぱねられるだろうか。
確かに、僕にはこんな綺麗な人と会った記憶なんて、ない。
こんな印象に残りやすい人、会ったことがあったら絶対に覚えているはずだ。
だから、シルクさんの顔を知らない時点で、僕はシルクさんと会ったことはない、はずなのだが・・・・・・どうしても、会ったことがあるようなそんな気がしてならないのだ。
なぜだかは、分からない。魔力の雰囲気、とかだろうか。
「予想以上だな」
「え?」
「いや、なんでもない。私と君は、今が初対面だよ」
「そう、ですよね。変な事聞いてすみません」
その答えに、僕は内心首をかしげる。
やっぱり、会ったことないよなあ。でもなあ。
うーん、とうなっていると、シルクさんがぽんっと僕の肩に手を置いた。
「リツキくん」
「はい」
「第2試練も、励むように」
次は、僕が目を見開く番だった。
どうして・・・・・・いや、僕の答えは決まっている。
「もちろんです」
僕が力強くそう答えると、シルクさんは満足そうに踵を返した。
第2試練会場に来る他の魔法使いの気配が、集ってきていた。
いよいよ、第2試練が始まろうとしている。
僕は、僕の全力を出し切ろうと、そう決意した。




