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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第19話 激励

 僕――――リツキは、重い身体を引きずりながら泊っている宿の部屋を目指していた。

 やっぱり、救護班の手当を受けた方がよかったのかな。

 でも、どうしても、簡単にこの傷を消してしまう気にはなれなくて

 それに、部屋に帰ればあれがあるし。

 腕の中のトワはまだ目覚めない。

 胸のざわめきをなんとか押さえ込みながら、僕は部屋の扉を開けた。


「あ、リツキ、帰った」

「リツキくんっ、おかえりっ」

「・・・・・・」


 僕は一度扉を閉める。

 うん、僕、疲れてるのかな。

 なんか、見えたような気がしたんだけど、気のせいだよね。

 今一度、扉を開ける。


「リツキ、どうした」

「るっ、ルネたちが来たよっ!」


 気のせいじゃなかった。

 部屋には、ベットに腰掛けるライリーさんと、ぴゅんぴゅんと飛び回る小さいバージョンのルネさんがいた。


「・・・・・・」


 いつもなら勢いよくツッコむところだが、そんな気力もなく、僕は部屋の中に足を踏み入れる。


「あっ、リツキくん、け、ケガしてるよっ。トワもっ」


 甲高い声でルネさんがそう叫び、ぴゅんっと側によると僕の頬にピトッと手を添えた。

 心配そうに僕の顔をのぞきこむ。


「ど、どうしたのっ?元気・・・・・・ない?」

「・・・・・・そんなこと、ないですよ」


 僕が力なく笑うと、ルネさんがじわっと目に涙をためる。


「やっ、やっぱりケガが痛いんだよおおお~~~~っ。い、いまっ、今治すからねっ」

「ルネ。待って」


 慌てて治癒魔法を展開しようとするルネさんを、ライリーさんが制止する。

 ライリーさんは、なにも言わずに立ち上がると、こちらにつかつかと近づく。

 僕がライリーさんをぼんやりと見上げると、なにを思ったか、わしわしと頭をなでられる。


「わ。わ。」

「ルネ、ここで魔法、まずい。ミオンにバレる」

「あっ、そ、そうだねっ。あぶなかった!でも、リツキくんが」

「ぼ、僕は大丈夫です。ルネさんと師匠が持たせてくれた魔法薬がありますから」


 僕はライリーさんになでられながら、なんとかそう言葉を返す。

 そう。僕は師匠が調薬し、ルネさんが魔力を込めた最強の魔法薬を持たせてもらっているのだった。

 にしても、僕はいつまでなでられるのだろうか・・・・・・?


「ら、ライリーさん」

「なに」

「そ、そろそろ大丈夫ですので」

「ん」


 ライリーさんは、なにを考えているのか分からない無表情で、スッ手を引く。

 と、思ったら、肩をがっしりつかまれた。


「ふえ?」

「こっち」


 そのまま引きずられるようにライリーさんにつれられると、流れるようにベットに座らされる。


「ルネ、魔法薬」

「あったよっ。これっ」

「ありがと」


 僕の鞄から取り出した魔法薬を受け取ると、ライリーさんはそれを僕に押しつける。

 どうやら、それを飲めということらしい。

 抵抗する理由もないので、僕はそれをこくりと飲む。

 効果は、てきめんだった。


 温かな蜂蜜色の光に全身を包まれる。

 みるみるうちに傷が消えていった。

 体中に刻まれていた痛々しい擦り傷切り傷打撲傷が、一切合切綺麗に消えて痛みさえ取り去っていく。


「ハッ、トワっ」


 僕は自分の傷が癒えるのを確かめてから、トワにも同じ物を飲ませようと小瓶の口をトワの口に押し当てる。


「う、く・・・・・・」

「トワ、トワ。飲んで」

「ん、うう」


 僕が小瓶を傾け魔法薬を流し込むと、トワはこくりとそれを飲み込んだ。

 同じように蜂蜜色の光に包まれる。トワの場合、すでに傷は塞がっているので、魔力の回復が行われているようだ。

 苦しそうなうめき声がやみ、すやすやと気持ちよさそうな寝息に変わる。


「よかっ、た」


 ほっとしたら、じんわりと涙がこみ上げてくる。

 ライリーさんとルネさんがいた驚きで吹き飛んでいた悔しさも、再びこみ上げてくる。


「って、そうだ!どうしておふたりともここにいるんですか!?」

「へっ?」

「む」


 僕の事を優しげに見守っていた2人は、僕の問いに虚を突かれたように目を見開く。

 2人は一度目を見合わせると、口を開いた。


「ええ~っとお、なんというかあ」

「頼まれた」

「ふえっ、ラ、ライリーちゃんっ、それは」

「頼まれた?だれにです?」

「マノン」

「言っちゃダメなやつううう」

「? ダメなのか?」


 ライリーさんがきょとんと首をかしげた。

 ルネさんが涙目でうなだれる。

 そんなルネさんも意に返さず、ライリーさんは僕を見据えた。


「マノンいわく、ヴィザレットに入った瞬間、ミオンにバレる、と」

「え」

「だから、自分たちが来た」

「なる、ほど」


 えーっと、つまり、師匠の代理で僕の様子を見に来てくれた、というところだろうか。

 最強魔女であるミオン姉さんならば、自分の庭にも等しいヴィザレットの魔力の出入りなど呼吸をするように感知できるのだろう。

 規格外の魔力量を有する師匠やユーシサスさんが来れば一発でバレてしまう。

 そこで、魔力コントロールに優れるルネさんと、魔力が一切ないライリーさんに白羽の矢が立ったのだろう。

 ちなみに、アサヒさんは師匠やユーシサスさんに比べたら魔力量は少ないが、一般的な人類に比べたら当然に多い。アイヴィーさんも同じような感じだ。

 コルニオロさんは・・・・・・うん、考えるまでもなく却下されたんだろうな。


「マノンは、やっぱり、リツキの師匠」

「?」


 じーっと僕の顔を見ていたライリーさんの唐突な呟きに、僕はきょとんとする。

 今さら、なにを。


「伝言、マノンから」

「え・・・・・・」


「信じてる と かましなさい」


 じわり、と目を見開く。

 こみ上げてくる気持ちを押さえ込むように、口を手のひらで覆った。


「ははっ」


 思わず、笑みがこぼれる。

 本当に、師匠は。


「リッ、リツキくんっ、どうしたの!?」


 ルネさんが、驚愕したように声をあげる。

 それもそのはず。僕は、滂沱の涙を流していたのだから。


「リツキくんは、がんばってるよっ。すんごいよっ」


 ルネさんがあわあわとしながらも、僕に寄り添うように全身でほっぺたを抱きしめてくれる。

 ライリーさんも、そっと隣に寄り添って、頭をなでてくれた。

 僕にとって、家族同然の、大切な存在。

 白髪の少年と対峙し、命の危険さえ感じた時に思い知ったことだ。

 僕はこんなにも、愛されている。だから、大丈夫だ。

 どんなに打ちのめされても、辛い現実をつきつけられても、大丈夫だ。


「すみ、ませ。でも、これは大丈夫な涙、と、いうか」

「だいじょぶな、涙・・・・・・?」

「わけ、わかんないですよね。でも、大丈夫、です」

「リツキが、そう、言うなら・・・・・・」


 ルネさんは心配そうに瞳を揺らすが、きゅっと腕の力を強めただけで、それ以上、何か言うことはなかった。

 僕は目を閉じ、何度か深呼吸をする。

 そして、あるひとつの決断を己の中で下した。


「ライリーさん」

「なんだ」


 僕は、頭をなで続けながら静かに僕を見つめていたライリーさんに向き合った。


「僕に、修行をつけてくれませんか」


 ライリーさんの緋色染まった獣の瞳と、僕の群青の瞳の

 視線が交叉する。


「負けたくない人が、いるんです」


 僕の中に初めて湧き上がった感情――――悔しさ。

 今まで、師匠たちに手合わせしてもらい、負けたとしてもそれは当たり前のことだった。

 だから、本物の悔しさを感じたことなどなかった。


 僕の視線を真正面から受け取ったライリーさんは、僕の頭をなでる手を止め、深くうなずいた。


「分かった。最善をつくす」


 僕はライリーさんの答えにほっと胸をなでおろす。

 きっと、1人ではいきづまってしまうから。


「それじゃ、さっそく」

「へ?」


 ライリーさんはベットから立ち上がると、グッとのびをする。

 え・・・・・・っと、まさか、今、から


「あのー、ライリーさん。今日は、さすがにちょっと休みた」

「今日、第一試練終わったばかり。なのに、修行しようという心意気。さすが」

「あ、えっと」

「自分は、全力で応える」

「・・・・・・」


 僕から頼んでしまった以上、それを突っぱねることなど、できない。


「おね、がい、します」

「ああ」


 僕は内心悲鳴をあげながら、悲壮な覚悟を固める。

 同時に、かつてないほどのやる気も満ち満ちてきた。

 強くなってやる。強くなって、あの白髪の少年に、今度こそ勝ってやる。

 

 「いよしっ」


僕は、師匠からの激励を胸に、自分自身を鼓舞したのだった。

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