第16話 邂逅
「いよし!5つ目ゲット!!」
第一試練も、あっという間に3日目に突入していた。
僕は、ノルマである5個目をようやく手に入れられた。
「はあ・・・・・・・、もう少しで間に合わないところだった・・・・・・・。隠れてたゴーレムを見つけてくれてありがとね、トワ」
「ふん」
「よーし、あとは、他の魔法使いから逃げ切るぞ!」
今、このフィールドでは、魔法使い同士の争いが白熱していた。
ありとあらゆるところで魔法の気配が爆発している。
みんな制限時間間近で、最後のデッドヒートを繰り広げているのだろう。
まあ、こんな風に他人事のような顔をしているが、魔水晶が5つそろった今、僕もそのデッドヒートの標的なわけで。
『いたぞ!』
『あいつ、魔水晶をもってる!!』
「げ」
遠くの方から聞こえてきた声に、僕は顔をしかめる。
ちなみに、この声の主は遠すぎて僕には声が聞こえていないと思っているのだろうが、僕は現在身体強化魔法で聴覚を高めているので丸聞こえなのである。
「トワ、さっさと隠れよう」
トワは僕の声に返事をすることはなく、ただ、前脚を折って僕が乗りやすいようにしてくれた。
僕はこの3日間でだいぶ慣れたスムーズな動きで、トワの背にまたがる。
トワは僕が乗ると同時に森の奥へと駆け出した。
トワの背に揺られながら、僕は隙なく辺りを見回す。
・・・・・・・他の気配はない、な。
「トワ、ここらへんでいっ」
うああぁぁっぁああ
「!?」
どこからか、奇声のような悲鳴が聞こえてくる。
僕もトワも目を見開いてピタリと止まる。
「なんだあ、いきなり」
トワの呟きを聞きながら、僕はくちびるに指を当てた。
聞こえた方向からして、向かっている方向とは逆か。
僕は、その方向を見つめて、目を細める。
・・・・・・・悩む必要なんてない。
何事もなかったかのように、前に進めば良い。
本当に命が危険な状況に合った場合は、運営側が回収してくれる手はずになっている。
それに、悲鳴だって、ただ単に戦闘中に思わず上げてしまったのかもしれないし、戦闘中かもしれない場所に向かうのは飛んで火に入る夏の虫だ。
「・・・・・・・」
けど、あの悲鳴は尋常じゃなかった。
「トワ」
「ちっ。後悔すんなよ」
「うん」
トワは僕の意図を拾って、踵を返してくれる。
大丈夫だ。ちょっとだけ、様子を見るだけ。ちょっと見て、何事もなさそうなら、すぐに引き返せば良い。
・・・・・・・そう、思うのに。
僕の胸は、謎の焦燥にかき立てられるのだ。
目的地に、近づいてきているのだろう。
先ほどから、悲鳴の主であろう人の声がぼんやりと聞こえてくるようになっていた。
同時に、その状況の異常さも、ハッキリと認識する。
「や、やめ・・・・・・・さい。もう、や・・・・・・・て」
「いやっ・・・・・・・ああ」
「たす・・・・・・・てた・・・・・・・けて・・・・・・・すけて」
僕は、バクバクと脈打つ鼓動を感じ取りながら、トワの背中にしがみつく。
声はどんどん大きくなってくる。
・・・・・・・あそこだ!あのひらけたところだ!
「トワ!!」
「わーってる!」
僕とトワは、半ば跳び込むようにして、木がなくひらけた場所に出る。
そして、見たものは
白
目が覚めるような純白の髪が、僕の視界で揺れる。
一瞬、それに目を奪われる――――が、すぐに僕の意識は別のものに移った。
「なにを、なにをしてるんだ!!」
僕の叫び声に、白髪の少年の、くすんだ灰色の冷たい瞳がこちらを見る。
だが、そんなことどうでもいい。どうでもいい!!
問題は、白髪の少年の真正面に倒れ込む、複数人の魔法使いだった。
「やめてくれ。もう、やめてくれよおおお」
「いやあああ。いやああああああああっ」
「助けて助けて助けて助けて」
魔法使いたちは、尋常ではない様子で、発狂していたり、うつろに空を見つめていたり、うずくまったりしていた。
こんな状況の元凶は疑うまでもなく、この白髪の少年だろう。
なにをしたんだ?
一体、こんなになるまで、なにを。
そう、憤りが胸を焦がしていると、白髪の少年は倒れ込む魔法使いたちをつまらなそうに一瞥した。
「うるさいな」
僕は、サッと嫌な予感、いや確信が頭によぎる。
考えるよりも前に身体が動いた。
「結界!」
僕が魔法使いたちの前に跳び出し結界を張るのと、白髪の少年が生み出した灼熱の炎が彼らを襲うのは、同時だった。
間一髪。
僕は彼の攻撃を耐えきった。
炎が途切れ、真ん前から見下ろす彼の灰色の瞳を、僕は信じられない思いで見つめ返す。
彼が無詠唱だったから、ではない。
そんなこと、ではない。
「なに、してんだよ」
喉の奥から、地を這うような声がにじみ出る。
だって、もし、もしも、僕が結界を張らなければ。結界が、間に合っていなければ
「お前は、この人たちを殺すつもりか!?」
ゆっくりと、緩慢に、彼はこてんと首をかしげた。
「だから、なに?」
「・・・・・・・は?」
僕は、硬直する。
言っている意味が、分からなかった。
だが、彼は純粋で、無垢で、だからこそ残酷な、子どものようなまなざしで、言う。
「この人たち 僕の魔水晶を盗ろうとしたんだ」
「な」
「それに反撃するのは、あたりまえでしょ?」
「・・・・・・・い、いくらなんでもやりすぎだ!!!!ここまで、こんなに恐怖を植え付けるまで、やる必要なんてない!!!!ましてや、殺す必要なんて」
「だって、そこまでやんないと、この人たちは、いつまでも僕を狙ってくるかも」
「・・・・・・・」
言葉が、出ない。
僕は、酸欠になった魚のように、パクパクと口を開けては閉じる。
彼は、変わらない表情、変わらない声音で、続ける。
「君も、僕の邪魔するの?でも君は、もう魔水晶5つそろってるよね?」
ひゅっと息をのむ。
咄嗟に、魔水晶をしまっている懐を押さえた。
「はやく、どっかいってよ。君は関係ないんだから。さあ」
瞳を、揺らす。
確かに、そうだ。
今、ここで引けば、僕は無傷ですむ。
無視してしまえばいい。知らなかったふりをしてしまえばいい。
もうすぐ、制限時間がくる。
ここは、非情でも、立ち去ってしまえば
「・・・・・・・っ」
パアン
高らかな、音が響く。
僕が、自分の頬を叩いた音だ。
・・・・・・・なに、考えてんだよ僕は。
一瞬でも、逃げようとした自分が恥ずかしい。
だって、そんなことしたら、逃げてしまったら、僕は一生、師匠に顔向けできなくなる。
僕は師匠にとって恥ずかしくない魔法使いで、ありたい。
「・・・・・・・行かないの?」
心底不思議そうな声で、そう聞かれる。
だから、僕は
「逃げないよ」
強い光を瞳に宿して、彼を見返した。




