第15話 忠告
「トワ、大丈夫?」
僕――――リツキは、トワの後ろから歩み出ながらトワの体をざっと確認する。
・・・・・・・うん、ケガはなさそうだな。
けど、ちょっとだけ、毛並みが荒い。ところどころ焼け焦げた跡もある。
僕は、いらいらとしながら相手を見やる。
トワを危険な目に合わせて、ただですむとおもってないよな?
「おやおや、君がこの子犬ちゃんの飼い主さんかい?飼い主なら、飼い犬の手綱くらい握っておかなきゃ」
「トワは、だれよりも利口な良い子ですよ」
僕は、スッとピンブローチに手を添えて臨戦態勢をとる。
「あなたに分かってもらう必要はありませんが――――氷」
氷の礫が男たちを襲う。
男たちはそれを避けることにしたようだ。が、逃がさない。
「おいおい、えらく好戦的じゃないか?ええ?」
「さきに仕掛けてきたのはそちらでしょう」
「・・・・・・・っ。結界」
僕の氷の礫は特別製だ。
追跡魔法と併せて、狙った相手は逃がさない仕様になっている。
男たちもたまらず結界で防ぐことにしたようだ。
結界に防がれた礫は粉々に砕け散る。
「はっはっ・・・・・・・まさか、ここまでやるとは」
「トワを傷つけた分は、やりかえさせていただきますよ」
「あ、あー!タンマ。ちょーっとタンマ!」
男がいきなり手のひらをこちらに向け、そう叫ぶ。
僕は眉根をよせ、警戒はしつつも追撃はやめた。
「いやー。悪かったよ、少年。まさかここまでやるとは思ってなくてさ」
「・・・・・・・僕を油断させるつもりですか?そういうわけには」
「違う!違う!本当に、一時休戦!」
「では、負けを認めると?」
「いやー、そう言われちゃうと引けなくなるというか・・・・・・・とにかく、ちょっと待ってよ。今、魔法も解くからさ」
「魔法・・・・・・・?」
男の1人はそう言うと、パチリと指を鳴らした。
「!?」
瞬間、3人いた男は1人、また1人と消え、最後は真ん中にいた1人だけが残った。
「分身魔法。すごいでしょ」
「・・・・・・・」
僕は絶句して目の前の景色を必死に頭で処理する。
この人は、間違いなく実力は最高峰の魔法使いだ。
しかし、分身魔法はこの人にとって切り札のはず。それを解除したということは、敵意はないとみていいか・・・・・・・?
僕は渋々警戒を緩め、男の話に耳を傾ける。
「とにかく、試したかっただけなんだって」
「試す?」
「そうそう。本当に単詠唱が使えるのか。ダイスたちの前で使ってたとこ、見てたんだー 僕」
この人、ダイスさんの知り合いなのか。
だが、それとこれとは話が別だ。
「それが、どうかしましたか」
「いやいやいや、偉業だからね、それ!」
男は途端に目をキラキラさせ、身を乗り出す。
「いやー、僕もすごい魔法使いだけど、君の才能は目を見張るものがある!さっきのは、複合魔法だろう?その若さで単詠唱と複合魔法を操る。すえ恐ろしいね」
「で、言いたいことはそれだけですか?」
「あー、実は、それだけじゃない」
男はつかつかとこちらに近づいてくる。僕は反射的にうしろに下がろうとしたが、グッと堪えた。
男は僕の真横まで来ると、ささやくように、呟く。
「君、マノン様の弟子でしょ」
「・・・・・・・!」
僕は勢いよく男を見やる。
「おや、あたりのようだ」
「っ」
鎌を、かけられた・・・・・・・っ。
思わず動揺するが、深く息を吐いて自分を落ち着かせる。
「・・・・・・・それが、なにか」
「おや?あまり動揺しないね」
「別に、隠してるわけじゃありませんから」
「へえ」
そう。隠しているわけじゃない。
師匠から、言うなと言われているわけじゃない。
ただなんとなく、言っていなかっただけだ。
「どうして、分かったんですか?」
「別に、大したことないよ。その年で単詠唱が使えるまで育てられる師匠っていったら、限られるってだけだからね」
男はキザったらしいウインクをする。
「そうですか」
僕はサラッと流して前を見据えた。
「ひとつだけ、忠告しておこう」
「・・・・・・・」
「この世界に弟子を単詠唱以上のレベルまで育てられる人は、もう1人いるよ」
僕が目を見開き何かを言う前に
「じゃ」
とだけ言い残して、男は転移魔法を展開し、消えた。
僕は、男の言葉を頭の中で反芻し、考え込む。
彼が言いたかったのは
「おい」
「ん?なあに、トワ」
トワが僕に歩み寄り、なんともいえない表情をしている。
「あー、その・・・・・・・」
「?」
「~~~~っ、だーーーーーっ」
いきなりの大声に、僕は身を震わせる。
「なっ、なんだよいきなり!」
「なんっでもねえよ!!それより、これからどうすんだ」
「そう、だね」
このまま、今日はここで寝るわけにはいかないだろう。なにせ
「そういえば、今回の試験、参加者同士の戦闘禁止されてないんだよね?しかも、魔水晶は人数分無い。これは、対人戦を前提とした試験なんだ。はーっ、もっと早く気づくべきだった」
「脇が甘いな」
「むっ、いいだろ。取り返しがつかなくなる前に気づけたんだから」
「ふんっ」
僕は1回背伸びする。そして、気を取り直すようにトワに言った。
「よーし、また寝床探しだ!!今度は、見つからないような場所に」
トワは、なにも言わずに僕が乗りやすいように前脚を折ってくれる。
僕はそれに、面食らう。
「なんだよ。乗らねえなら」
「乗る乗る。乗るよ!!」
僕は思わず満面の笑みを浮かべて、トワの背に飛び乗った。
「さ、行こう!」
そう。まだまだ。第一試練は1日目なのだから。




