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こちら“元“最強御一行さまです!  作者: 茉莉花菫
第2章
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第42話 追憶ーミオンー

 人類のくに最北端の街、ノーザンモースト。

 そこは氷雪地帯に隣接しており、1年を通して寒さの厳しい土地である。

 ノーザンモーストはその寒さ故に作物は育たず、みな家庭でできる手工芸品を作って収入を得ていた。

 ノーザンモーストの住人が作る木工細工や装飾品は作りが細かく丁寧で、貴族を中心に人気を博していた。

 裕福でもないが、貧しくもない、ちょうどよい幸福を愛する街。

 街の中央には、都市部からきた商品が並ぶ市場があり、みなそこで日用品や食料品を手に入れるのだった。


「おいこらぁっ!待ちやがれ!!」

「やーなこった」


 ノーザンモーストの市場、みなが買い物を楽しむ中で、場に似合わない怒鳴り声が響いた。

 その怒鳴り声の主は、パン屋の店主のようだった。

 パン屋の店主が鬼の形相で追いかけるのは、灰色がかった桃色のボサボサ頭の子どもだ。

 子どもは、手に丸いパンをいくつか持ち、軽快な足取りで人混みを縫っていく。

 これは、パン屋の店主も追いつけない。


「このっ、ドロボー!!!!」

「へへっ」


 店主のなけなしの叫びも虚しく、子どもはお店の屋根へ飛び移り、目を離したつもりもないのに、パッと姿を消してしまう。


「なっ、どこ行った!?」

「こっちっだよー」


 声のした方を勢いよく見れば、子どもが真横に立っていた。


「このっ」


 店主がガバッと腕を広げて捕まえようとするが、再び姿が消える。


「はあ!?」

「じゃーねーっ、おじさんっ」


 再び声がして上を見れば、また子どもは屋根の上にいて、ひらひらと手を振っていた。

 そして、またあっという間に消えてしまう。


「クッソーッ」


 店主は、この鬼ごっこが子どもの勝利に終わったことを悟り、ガクリと膝をついた。


 一連の流れを見守っていた他の住人たちは、ひそひそと囁き声を交わし合う。


「あらあら、今度はパン屋がやられたね」

「あの泥棒、いつになったら捕まるのかしら」

「次はどの店から商品が盗まれるかって、話題になっているよ」

「あー、嫌だ嫌だ」

「あの、その話、くわしく聞かせていただけませんか?」


 囁きあっていたご婦人は、いきなり話しかけられギョッとする。

 パッと見れば、長い薄紫の髪の少女が、串焼きの串を片手にニコニコしていた。

 ご婦人がたは、互いに顔を見合わせ、真ん中のご婦人が代表するように口を開く。


「さっきの子どもは、ここ最近、この市場で盗みを繰り返す泥棒さ。子どもだからって油断してたらあいつ、姿を消したり現したりするのさ。だから、大人たちはあの子どもを捕まえるに捕まえられずにいるってわけ」

「私は、あの子どもを追いかけていたら、風に足をすくわれ転んじまった奴もいるとも聞いたよ」

「私は、何も無いところから水が降ってきてびしょ濡れになったとも聞いたね」

「ちまたでは、【灰桃の悪魔】なんて呼ばれてるね」

「へえ……」


 結局全員が口々に話したことを聞いて、薄紫髪の少女は興味深そうに顎に指を当てた。


「で、あんたは誰だい?どうして、あの子どものことが気になるんだい?」


 ご婦人の少し警戒したような視線に、少女は微笑んで答える。


「私はただの旅の者です。あの子のことは、少し気になっただけで」


 少女はそう言うと、ぺこりと頭を下げた。


「それでは、私はこれで」


 少女はご婦人方から離れ、市場の人混みへ紛れていく。

 その、最中


「さて、どうしようかな」


 という少女のつぶやきは、誰に届くこともなかった。


 〇〇〇


【灰桃の悪魔】なんて物騒な名前で呼ばれる少女は、戦利品を手に満足そうな顔で路地裏を闊歩していた。

 路地裏は暗く、所々で貧民層だとひと目でわかるような人々が、ボロ切れを纏って横になっていた。

 ノーザンモーストは裕福でもなく貧しくもない、ちょうどいい幸福を愛する街と言われているが、少し路地に入ると、こういった貧民層が目立つ。

 手工芸品が人気だからといって、全員が全員仕事を得られるわけではない。仕事を得られなかった人々は、こうして路地裏でボロ切れをまとい、死の影に怯えて日々を過ごしている。

 少しして、子どもはより一層暗く細い路地裏の入り口で足を止めた。


「おーい、出てこいよ。パンを持ってきたぞ!」


 灰桃の悪魔の声に、細い路地裏からは、数人の小さな子どもたちが姿を見せた。


「わあい!大将さっすが!」

「おいし、そう」

「お腹すいたよう」

「はいはい。みんなで分けて食べるんだぞ」


 灰桃の悪魔は子どもたちから“大将”と呼ばれ、優しげな声を出すと子どもたちに1つずつパンを与えてやった。


「あれ、大将の分は?」

「あー、気にするな気にするな!ちょっとヘマしちゃって、3つしか取って来れなかったんだ」

「じゃあ、大将にこれ分けっこしてあげる」


 子どもの1人が差し出したパンを灰桃の悪魔は受け取ると、ほんの小さくちぎった欠片を口に放り込んで、残りを全部子どもに返してしまった。


「ありがとな。私はもうおなかいっぱいだから、残りは全部食べなよ」

「なるほどねえ」


 灰桃の悪魔の後ろから響いた女性の声に、子どもたちは一斉に視線を上げる。

 全員がサッと顔を青くして、身を縮こまらせる。

 灰桃の悪魔が子どもたちを守るように、前に立ってその女性を見上げた。

 女性は、薄紫の長い髪と瞳をもち、静かにこちらを見据えている。


「ねえ、あんた」

「は、は?」


 女性は灰桃の悪魔を指差すと、グイッと顔を近付けた。


「魔法、使えるんでしょ」

「は?魔法?」

「さっき、パン屋さんから逃げてたじゃない。出たり消えたりって。あれ、転移魔法でしょう」

「し、知らない!便利だから、使ってるだけで」

「え?本当に??」


 女性は眉根を寄せると、厳しい顔をして人差し指を立てる。


「忠告するわ。その力を使うのを今すぐやめなさい。使い方も知らずに、なんとなく使っているのでは、いつか身を滅ぼすわよ」


 その声音、雰囲気に、そこはかとない圧を感じて数歩後ずさる。

 だが、後ろの子どもたちの不安そうな視線を感じとり、途中でグっと踏みとどまった。

 ぐいと顔を上げ、精一杯睨みをきかせる。


「問題ないね。この力は、旅のじいさんから教わったもんだ。危険なんかじゃない」

「旅のじいさん?」


 けげんそうに眉間のしわを深くする女性をよそに、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「だから、あんたの助言なんて迷惑なだけなんだよ。じゃあな」


 もう話はないだろうと、灰桃の悪魔は子どもたちの方へ踵を返す。

 だが、腕を後ろにくんと引かれバランスを崩す。思わずイラッとして、文句を言おうと振り向いた。


「だからっ」

「私はマノン。あんた、私の弟子になりなさい」


記念すべき100エピソードめ!(パンパカパーン)

だけど主人公が一切出てこないという……

リツキの姉弟子であり、現最強魔女ミオンちゃんのお話

いつも読んでくださるみなさん、ありがとうございます!

来週からもお楽しみに


り、リツキはまた今度活躍させてあげるからね!ね!


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