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人間と妖し怪物の決まりごと  作者: あいうちあい
第一章
27/35

27.帰り道

「歩けそう?」

「はい、もう大丈夫です。ありがとうございました」


 リンの早急な救出と綾女の治療のおかげで暁はあっという間に回復していた。


「良かった、これで一安心だ」


 いつの間にか拘束しているアキを連れて、龍とミツが対岸に渡ってきていた。


「それにしても良いことはしておくものだな」


 しみじみとミツは言った。


「まさかあの栗大福で信仰されていたサトリが出てくるなんてねぇ」


 綾女は興奮気味だ。


「そうだな。さぁ、『隠の道』を使って帰還するぞ」

「あの、少しだけお時間をよろしいかしら?」


 龍が意気揚々と帰還命令を出したのを止めたのはアキだった。


「何か?」


 訝し気に龍が訊ねる。


「あの、暁君、疑ってごめんなさい」


 アキは暁に向かって深々と頭を下げた。

 暁は困った顔をしたが、すぐに言葉を紡いだ。


「頭を上げてください。俺、大事なかったので気にしてません。それよりアキさんは指輪は戻ってきたけど家は壊れてしまっている。それは本当にすみません。これからきちんと調査して真犯人を見つけたいと思っているので少し待っていてください。でも、この山の麓に住む近隣住民の方々にとってはアキさんは加害者だ。そこはしっかり反省してほしいと思っています」


 アキはふっと暁に微笑みかけた。


「ありがとう。若いのに随分としっかりしているのね」


 そしてアキは龍に向き直った。


「私は巻き込んでしまった人間たちに罪を償うのは勿論のこと、私を信じてついてきてくれたあの子たちにも大きな罪を背負わせてしまった。その長としての責任もしっかりと取るつもりです」

「分かりました。では、行きましょうか」


 帰りはまた一列になって『隠の道』を進んだ。リンが最後尾でその前が暁だった。


「あの時、すぐに助けてくれてありがとうな」


 暁が後ろを振り向きながら言ってきた。


「信用していたアキに裏切られて少しは懲りたか?」

「え?うーん、どうだろ?」

「おい、ちょっとは警戒心ってやつを養えよ」


 どうやら全然堪えていないようで、リンはがくりと項垂れた。


「俺馬鹿だからさ、リンみたいにいちいち誰かを信じるとか信じないとか考えてないよ」

「だろうな」

「何ていうか、気付いた時にはもう信じてるんだよ。きっと自分で心を開くかどうかをコントロールしていないんだ。いつの間にか、気が付いたら信じているし大切になっていく。勿論大切な誰かに裏切られるのは怖い。でもそれで信じることを恐れてはいけないんだと俺は思う」

「何故だ?一度痛い目に遭っているのにどうして恐れてはいけない?」


 暁が何かとても大切なことを言っている気がして、リンはいつの間にかその話に聴き入っていた。


「そうだな。リンの言う通り、誰かに裏切られてもう二度と誰も信じないって、独りで生きたいと願うこともあるかもしれない。でも人は元来とても孤独な生き物なんだ。生きている時も死ぬ時も、実はずっと独りなんだ。だからせめて生きているうちは誰かと一緒にいたいと、独りは寂しいと思ってしまう。その本能に抗うことはとても難しいから、やっぱり誰かを信じて慕う気持ちを止めることはできないんだよ」

「…妖怪も人と同じで孤独なのだろうか?」

「どうなんだろ?人と同じなら孤独なんじゃない?」


(もう一度、誰かを信じることなど俺にできるのだろうか?)


 あれほど手痛くしっぺ返しをくらったこの身はまだ、独りでいることと誰かと一緒にいることを天秤にかけ、後者を選択したいと考えられるだろうか?


「怖いならさ、誰かを信じるんじゃなくて、誰かの信じているものを信じてみたら?」

「は?」


 思索に耽っていたリンは暁のよく分からない提案に思わず変な声が漏れた。


「最初の問いだけど、アキさんに謝ってもらったし、俺そもそも裏切られたって思ってないんだ。多分アキさんを信じていたんじゃなくてアキさんの信じているものを信じていたんだと思う」 

「アキさんの信じているもの?」

「うん。アキさんは弥七さんのことを愛しているだろ?愛しているってことはその人を信じているってことだから、弥七さんに対するその気持ちを信じていたんだと思う。だからきっと悪い妖怪じゃないんだろうなって。全ての行動の動機がそれで、俺を襲った理由もそこだろ?裏切られたって気はしないし、逆に仕方ないよなって気持ちの方が強いかな」

「なるほど」


 誰かの信じているものを信じるか。


「あのさ、リンは何で人妖警察官になろうと思ったんだ?」

「何だよ、急に」


 そういえば暁がこんな踏み込んだ質問をしてくるのは初めてかもしれない。


「前に師匠とハチさんと話したことがあるんだ。人妖警察官の実務部隊って危険職だろ。だからモテたいとかお金が欲しくてこの職に就いている者はほとんどいないって。誰かを助けたいとか悪を罰したいとか、何か志とか信念があって入ってくるはずだから、考え方が違ったとしても目指しているものや信じているものは同じなんだって」


 見解の相違だと言ったことを意外と気にしていたようだ。


(随分と傷つけたな)


 リンは申し訳ない気持ちになった。


「俺はさ、見える者として困っている人や妖を助けたい。そういう自分でありたいと願っているし、そういう自分であり続けると信じている。けどもし道を踏み外すようなことがあったら殴ってでもふんじばってでも止めてほしい。自分の信念を曲げるような人間にはなりたくないんだ」


 暁は少し照れながらも、真っ直ぐに語っていた。


(初めてだ)


 この3週間で初めて、暁が何を思い何を考え生きているのかを本人の口から聞いた。今まではリンが拒絶していたからこういう話をしていなかっただけだ。

 しかし今は少し違う。リンはサトリの後押しで、少しだけ暁のことを知ろうとしていた。


(まぁ、聞かなくても何となく分かっていたことだけどな)


 暁には裏表がない。言行一致の男であることはこの短い間でも十分に分かっていた。


 そしてその男は何の衒いもなく聞いてくる。


「なぁ、リンはどうなんだ?」


(そんなキラキラした真っ直ぐな目で聞かれても恥ずかしいから答えないに決まってんだろ!)


 語る初々しさを持ち合わせていないリンは答えをはぐらかすことにした。


「さぁ、覚えてない。まぁでもはじめは似たようなことを思っていたのかもしれないな。だから」


 少し優しい気持ちになっている自分がいた。


「俺もまずは暁の志と信念ってやつを信じることにするよ」


 暁が色んなことに動揺して目を白黒させている。リンは気恥ずかしくはあったが、何故か妙に清々しい気もしていた。


 まずは自分を信じること。自分を裏切らない自分でいること。

 そして暁の信じているものを信じてみること。


 未だ心の傷が癒えたわけではないものの、少しだけ救われた気分になった。


(俺もあのサトリの祠にお参りに行こうかな)


 久しぶりに心が軽く、リンはそんなことまで考えていた。

ご意見・ご感想などございましたら頂けますと大変励みになります。(できれば温かいものか歯に衣を着せていただけると幸いです…)

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※初投稿なので使い方があまりよく分かっておりません。粗相がございましたら申し訳ございません。

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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