表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間と妖し怪物の決まりごと  作者: あいうちあい
第一章
17/35

17.決行の日

 充は朝からずっと浮足立っていた。これほどの高揚は今までの人生で感じたことがない。


 いよいよ今日が長年計画していたことの決行日だった。


「準備が整いました」


 茨木童子が声を掛けに来た。この鬼もまた充と同じように朝からソワソワしていた。


(待ち望んだ歳月で言えば、こいつの方が俺よりもずっと長い)


 妖怪は長命だ。茨木童子は平安の頃には既に存在しており、その頃からずっとこの日を待ち望んでいたと考えると、ゆうに1000年は越えているだろう。

 1000年以上もの間ずっと同じ思いを抱き続けるなど、人間である充には想像することさえできなかった。平易な言葉を並べるなら辛く苦しい地獄のような日々だったに違いない。


「長かったな」


 充にしては珍しく畏敬の念を持って茨木童子を労った。


「はい」


 茨木童子も否定はしない。今までの日々を思い出したのかその瞳は虚空を見つめ、顔は能面のように何の感情もなかった。やはりその歳月はこの鬼の感情を欠落させるほど長かったのだろう。


「でも、仮に充さんが長命だったなら、きっと同じように悲願の日を夢見て待ったと思いますよ」


 そんな途方のない話をされても充には分からなかった。もし仮に自分がそういう状況に陥ったとしたらどうするだろう。それほどの年月を辛酸を舐めながら待ち望み続けることなどできるだろうか。


「きっとできます。充さんはそういう人だ。だから僕は力の無くなったあなたに話しかけ、そうして今ここにこうして一緒にこの日を迎えている。僕の執念とあなたの執念が合わさらなければ今日というこの日は迎えられなかったでしょう」


 茨木童子のその言葉には説得力があった。


 確かに幾度となく絶望した日はあった。全てを投げ出して楽になりたいと望んだこともあった。諦めることは簡単だ。自分の思いに蓋をして見向きもせず、それについて何も考えず何も感じず、また一切の行動をしない。そういうするとやがて自分の思いは風化し朽ちていく。そんなこともあったねと達成できずに終わったものとして、ほろ苦い思い出の一部になるのかもしれない。


 けれどもそれはできなかった。理由は明快で、充にとっては諦めることよりも放棄することの方がずっと難しかったからだ。すっぱり諦めがついたならどれほど楽だったろう。

 しかし充がいくら諦めようとしてもそれはいつも頭の片隅にちらついて離れなかった。見て見ぬふりはできなかった。自分の気持ちに嘘は吐けなかったのである。


 後ろ髪を引かれるこの思いは目的を達成できなかった未練であり、執着だった。


「そうかもな」


 茨木童子も自分と同じような気持ちだったのかもしれないと充は思った。


 ちなみに充と茨木童子は仲間というわけではなく、共同戦線を張っているにすぎない。お互いの目的のために一緒に事を成した方がメリットが大きかっただけだ。

 今日のこの計画が上手くいけば茨木童子の目的は達成されるが、充の目的は達成されない。ただし大きなアドバンテージが生まれるはずだ。それだけでも重畳であり、今日この日を待望するものであることに変わりはない。


「行きましょうか」


 今は夕暮れ、アジトには西日が射していた。


 真っ赤な血の色だった。

ご意見・ご感想などございましたら頂けますと大変励みになります。(できれば温かいものか歯に衣を着せていただけると幸いです…)

--------------------------------------------------

※初投稿なので使い方があまりよく分かっておりません。粗相がございましたら申し訳ございません。

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ