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2話 冒険者ギルドへ

2話 冒険者ギルドへ


北に広がる大森林には豊富な資源があり、未だ人類が知らない生命体やあの幻の薬ことエリクサーの材料が豊富に存在すると言われている。

東には海が広がっていて人々を富ませている。

西には長く争いの絶えないグランツ帝国があり、今もなお小競り合いを起こしている。

南には友好国として名高い異種族国家ファタールがあり、ファタールとマーシャル王国をつなぐ街道には今日も無数の荷馬車が行き交っている。


マーシャル王国が勇者召喚を行うことは各国の王族と教会が運営する魔王討伐委員会の決定によるものだった。

ただ召喚にはリスクがつきものであり、4割の確率で失敗に終わるものであった。

成功した場合でも特殊なスキルやギフトを授かった事で調子に乗った勇者を排出すると近隣国に迷惑をかけるので内々に処理されることも多く、世間の望む勇者という存在は十数年に一度世界に発布されれば良い方であった。


また勇者召喚には異世界から召喚するという事からそれ相応のデメリットもある。

一つは膨大な数の魔石を用意する必要があるということ。

魔石とは「魔力を持つ生物には大体備わっている器官」の事であり、広く人類の敵と言われる魔物はこの魔石を人類よりも多くの確率で持っている存在である。

勿論人類にも備わっているがその確率は6割と魔物よりは少ない数値だ。

そして魔物は人類の生活圏を脅かし人類に対して好戦的なので人類からしたら討伐の対象になるのだ。

一応、魔王討伐委員会の財源から魔石の費用は捻出されるがそれは召喚可能となる一定額までであり、確実に勇者を輩出するための確率を上げるためには召喚する国の「自助努力」が必要とされている。

そのため魔石代金を捻出するための費用面が一つのデメリットとなる。


2つ目にして最大のデメリットが「話が通じない」であった。

考えてみれば至極当たり前の話なのだが、自分の世界の異種族でさえ言語が違うのだから異なる世界の人類が同じ言語を発する確率は天文学的数値となるだろう。

勇者召喚は女神様にお願いをして召喚をしてもらうという性質状、女神の采配による部分が大きい。

過去幾度も召喚してきた中の成功した部類でごく稀に召喚国の言語を理解する者たちもいた事があるが、それでも文化も文明も違う世界にいきなり召喚された事で不信感を与え無理な行動を取りすぐに死ぬケースや処理しなくては行けないケースが多くあった。

しかし数年前に召喚された勇者の内、後方支援に長けた勇者デトロイト・C・マクスウェルが【言語理解:共通語】のバフ魔法を開発した事でこのデメリットも解決に向かっている。


そのほかにもデメリットはあり、リスクも勿論ある。

召喚する国は魔王討伐委員会の参加国で持ち回りとなるが、ここ数年はマーシャル王国の立候補によりマーシャル王国が担当している。

【言語理解:共通語】が世に知られてからマーシャル王国が勇者召喚を行った回数は5回。

内3回は【言語理解:共通語】の効かない生物が召喚され処分、1回はそもそも老人ばかりが召喚され【言語理解:共通語】が効くことを確認した後魔王討伐委員会の参加国に均等に配置した。

そして今回やっとの思いで成功に至る。

成功し、一般人程度の能力しか持たない勇者が混じっていたことを踏まえマーシャル王国はその事実を隠蔽する事にした。

成功は成功で終わらせたいという欲が生まれたのだ。

一部の隙もなく成功で終わらせたい。

そんな欲と「なんか不穏な始まり方だから早く脱出したい」という青山博士の欲が合致した結果、本来の勇者数38人という数値は改悪され37人が正式な数字として各国に発表される事になった。


そこに当然ながら青山博士という青年の存在は無かった。



◽️◽️◽️


「ふぅ、やっと人心地つける」


王城を脱出した俺は城下町をウロウロと歩き、噴水がある公園を見つけたので適当な地面に腰を下ろす。


思えば自分の行動は浅慮だったかなと今になって思った。


観察し過去のなろう作品と照らし合わせた結果あまりいい状況じゃなさそうという結論に至った訳だが、今装着している装備品や金銭をくれた兵士たちの反応からするともしかしたらこの国はいい国なのではないかとすら思えていた。


「いや、勇者召喚なんてする程逼迫してないだろこの国」


周りを見ると元気に走り回る子供達や井戸端会議に勤しむ婦人方が目につく。

そのどれもが悲壮な表情など微塵もない。

更に言えば王冠を被ったおっさん…、国王だな。

国王ですら全ての指に指輪を嵌めるくらいには成金っぽいので困窮してるようには見えなかった。


「この手のなろう世界で魔王に困ってる国が富んでいる場合は困ってる=そこまで困っているわけではないという図式が成り立つもんだ」


俺はなろうの知識だけは豊富にあるのでこれからの対策を考える事にした。


「まずは冒険者ギルドで身分証の作成だな。時間制限付きの【言語理解:共通語】がある内にある程度のコミュニケーションとその後の対策を行っておかないとな」


俺のステータスには状態という項目があり、「健康・【言語理解:共通語】22:43:12」と表示されている。

健康は元々あったもので、言語理解の方は後付けの物だと推測される。

多分だけど宗教服のおっさんが唱えた魔法で掛けられたものだと思われる。

実際あれからこっちの世界の言葉が理解できるようになったのであながち間違いではないだろう。


【言語理解:共通語】とあるようにこの国言語は共通語、つまり世界共通で使える言語なのだろう。

地球のように英語が世界共通で使えるようなものだろう。

使えない人もいたし、俺も高校生程度しか使えないけどな。


なんせ外付けのバフでしかも時間制限付きなので切れる前にある程度の準備をしておかなくてはならない。


喝を入れるため頬をパチンと叩く。

立ち上がり砂埃を叩いたら兵隊さんに教わった冒険者ギルドの方へと向かう。



◽️◽️◽️


「テンプレきたー!」


両開きのウエスタンスタイルの扉にテンションが上がる。


外観が役所風なことを抜けばテンプレと言っても過言ではない。


扉越しに中を覗けばいるわいるわ。

ゴツくて、強そうで、厳つい人人人。

みんながみんな腰や背中に剣や槍を携えており、ゲームに出てくる魔法高いのような杖を片手に古びたローブととんがり帽子を被っている人もいる。


これぞ異世界!

俺のテンションは振り切れていた。


「おい、小僧入らねぇなら失せろ」


「ひぃっ」


後ろからかけられた冷めた声に直ぐにテンションは急降下、慌ててその場を離れ声の主を見ると周囲の人たちよりも1.5倍くらいタッパのある人がこちらを睨みつけていた。

隣には魔法使い風の男性がいてこちらはどこ吹く風と気にもしてないようだ。


「す、すみません!冒険者の皆さんがあまりにもかっこよくて見惚れてましたー!」


地に頭を擦り付けるくらいに土下座をしながら謝る。


「ふん」と鼻を鳴らして男達はギルドの中へと入っていく。


(こえーよー。なんだよあの生物同じ人間かよ!?)


異世界テンプレ施設を見た興奮はあっという間に萎み、現実を目の当たりにした俺は冒険者に本当になれるのか不安になってきた。


恐る恐るギルドの扉を開き、【言語理解】が表示する受付という文言のところへと向かう。

ビクビクと歩く俺に誰も突っかかってこないでくれと切に願いながら向かうが幸いにも不躾な視線こそあれど絡んでくる人はいなかった。


「あ、あのぉ」


「ようこそ冒険者ギルドへ、登録ですか?依頼ですか?」


「登録でお願いします」


「はいわかりました」


受付には受付スタッフと書かれた腕章をつけた女性が対応してくれた。

先程のでかい大男で戦々恐々としていた俺だが、女性の優しい声音と対応で緊張が次第に解けていき難なく登録が完了した。


「ではこのギルド会員証明証は無くさないように必ず首からかけておいてください」


そう言って軍隊に用いられるドックタグを渡される。

材質は木製で手のひらより少し小さいくらいの大きさだ。

表面には名前とJOBとランクが掘られており、俺の場合だとこのようになっている。


-------------

名前:アオヤマ ヒロシ

JOB:戦士

ランク:10

-------------


ランクは全部で10段階あり、依頼やギルド評価が上がれば徐々に数字が減っていくようだ。


「依頼票は朝7時にあちらに張り出されます。ギルドは24時間営業ですが、解体を依頼される場合は19時までにあちらに持ってきてください。そのほかの規約についてはこちらの資料を読んでください。何か質問はありますか?」


「この資料を読み込めば冒険者として過不足なく働けますか?」


俺が知りたいのは冒険者のイロハだ。

テンプレでは酒場で諸先輩方にチップを渡して教えてもらうのだろうが、流石にそれはまだ怖い。

出来ればこの資料で完結してほしい。


「はい可能です。ただ合同任務などもありますので資料だけを参考にするのはお勧めしません。ギルドには訓練場や蔵書は少ないですが図書館もあるので活用してみてください」


「分かりました。後これが1番の問題なのですが【言語理解:共通語】の重ねがけが出来る人を紹介していただけませんか?」


「【言語理解:共通語】ですか…。」


俺が喫緊の問題である言語の壁について質問をすると今までスラスラと回答してくれた受付嬢の表情が曇った。


(なんか不味いこと言ったのだろうか…)


黙ってしまった受付嬢の反応に困惑していた俺だが、スッと表情を明るいものに戻した受付嬢に困惑してしまう。


(なんだ。なんとか持ち直したっぽいぞ)


「アオヤマ様、恐れ入りますが少し奥で話をしませんか?」


受付嬢はそう言うと受付の机になっているところを上に開け通れるようにした。


「さあどうぞ?」


その有無を言わせぬ態度にやっぱり怖いな冒険者ギルドと思いながら気分は罪人となりながら指示に従う事にした。

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