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中-1:魔法使いの信託

その日、シルデット辺境伯の屋敷に、王都からの使者が訪れた。家の馬車よりも豪勢な馬車が、何台も並ぶ光景は圧巻だ。馬たちも何だ何だと、馬小屋から出ないギリギリまで身を乗り出していた。特にシュバは何故か小屋から出そうな勢いだったため、パルフィが慌てて止めている。


そんなパルフィなど、当然つゆ知らず。エリザ達は王都からの使者と応対していた。


「その、本日はどういったご用件でしょうか?」


「はい。数ヶ月後に行われる幻獣祭の最終日、聖域にて祈祷する魔法使いを探しておりまして。15歳から20歳までの魔法使いの皆様に、魔力測定を行っているのです」


「でしたら我が家では、エリザが該当しますわね」


そうしてそのまま、エリザの魔力測定が始まった。来客時は絶対に人前に出るな、とこっぴどく言われているのだ。あれが終わるまでは、ここから出ない方が良いだろう。相変わらず落ち着かないシュバを抑えつつ、じっと時が過ぎるのを待つパルフィ。


それなりに良い結果が出たのか、使者からは「おぉ!」と声が出ていた。これは有力候補だとの言葉に、エリザは鼻が高くなっている。


「本日はありがとうございます。是非我が娘への、良い結果を・・・」



「おや?該当する者はまだいるではありませんか、シルデット伯爵」



礼をしかけたエリザに待ったをかける、青黒い髪の騎士。家族全員が、ビクッと震えた。


「ガーネス・ギルツィア殿、それは一体・・・?」


「言葉通りの意です。この伯爵家には、優秀な魔法使いがもう1人いると」


ギルツィア!?マティウスと同じ家の人だ、と分かった瞬間、力が抜けたパルフィの手。シュバはそのまま、客人の方へ向かって行くではないか!


「ちょっ!シュバ、ダメだよ!」


慌てて追いかけると、シュバは丁度その騎士の前で止まった。「コイツは良い馬だな」と、その男声はシュバの毛並みを撫でている。ろくに服を与えられず、シワだらけの衣服姿で出てきたパルフィに、伯爵家は全員顔を青ざめていた。


「あっ、も、申し訳ありません」


「君がパルフィ・シルデットか。ウチの息子がよくお世話になっている」


息子という言葉に、パルフィは目を見開いた。ガーネス・ギルツィアはどうやら、マティウスの父親であり、今回の使者を任されていたのだ。驚きつつも、失礼の無いよう挨拶をする。


「は、初めまして。パルフィ・シルデットと申します」


「君のことはマティウスから聞いている。魔法についても教えてくれたし、色々面倒を見てもらっていると。資料によると、君も既に15歳だと聞く。測定対象者だ」


いつもなら不平不満をこぼすエリザ達だが、王都からの使者を前に、そんな態度は見せられない。黙って、測定の様子を見ていた。


ここでエリザより弱かったら、もう少し機嫌は良かったかもしれない。だが全ての真実を明かす測定では、パルフィの魔力は“最大値”に簡単に達してしまったのだ。使者達はエリザの時とは比にならないほど、歓声を上げている。こうして、今年の祭りで祈る魔法使いは、あっさりと決まったのだった。


その夜、エリザ達はパルフィに一方的な取引を仕掛けた。彼が選ばれた以上、その利益を最大限に貪るために。



得られる応酬や地位は、全て伯爵家に還元すること。


当日の王宮への参上には、エリザ達全員を連れて行くこと。


王都ではちゃんと、エリザ達を「家族」として扱うこと。



(今まで僕を家族と扱ってなかったのに・・・急にあんな態度を取るなんて)


仕方ないと思いつつも、どうも納得できずモヤモヤしてばかり。こんな風に生きてて、本当に良いのだろうか。こんなことなら、魔法なんか得なければ良かったな。そんなことを思いながら、パルフィは馬小屋から見える月を眺めるのだった。



同じ頃、ギルツィア公爵家の別邸にて、マティウスは父と話していた。


「いやぁ、お前の言っていた少年。なかなかの才能の持ち主だな、あの年であそこまで魔力を極めているとは思わなかったぞ」


「あそこで暮らしている以上、魔法を学ぶしか無かったらしいですよ」


力の強さを褒め称える父に対し、その理由をさらっと言うだけの息子。思った反応では無かったので、父は一瞬戸惑った。


「マティウス、お前は彼に選ばれてほしいと思ったのではないのか?」


「いやまぁ、そうなんですけど。どちらかといえば、正当な扱いをさせたかったんですよね」


パルフィとの話で、彼の過去はそれなりに知っている。庶子だからと馬鹿にされ、優れているモノがあることを許さず、挙げ句の果てには閉じ込める。誰にも救いを求められず、ずっと耐え続けながら、1人で生きている。


そんな彼を救いたい、そんな場所から連れ出したい。だが無理矢理行動しても、玉砕するのが目に見える。ならば世間の目にパルフィを見させてやるのはどうか?そう考えて、丁度魔法使いを探す係の父に進言したのだ。


やはり彼の魔法は本物だ。こうして世間から認められれば、そう簡単に虐められないだろう。


(・・・まぁ、自分から距離を取ってることになってるんだけどな)


あれほど騒がれたのだ、王都で輝くに違いない。認められた魔法使いになれば、きっとこんな辺境地になんかいなくなる。あの馬小屋から、そして己の未来からも。あの家族から解放できる一方で、自分とも距離を離してしまっているのだ。


分家の息子であるマティウスは、いくら騎士で活躍しても、どこかの良い家に仕えるので精一杯。大切な奴を幸せにしたいが為に、わざわざ自分と距離の離れる方にやるとは。本音と現実がなんとも矛盾している話である。


(・・・いや、これで良い。これで良いんだ)


話を終えて部屋に戻るマティウスを、静かに月は照らしているのだった。




(うわっ。こんなに綺麗な服、初めて着た・・・)


祭りのため、王都に参上する当日。パルフィが急遽用意された衣服に袖を通せば、その布の違いに驚いた。光沢のある生地は肌触りが良く、装飾もたくさん施されている。髪も複雑に結われ、普段しない服装と髪型に戸惑ってばかり。


似合うじゃない、とエリザは普段しないような微笑みだ。両親もすっかり有頂天の様子。まぁ王都からの使者が迎えに来るというので、それで嬉しいのだろう。時間になると、王都からの使者がやって来る。今回はマティウスの父などはおらず、全く別の人々の構えのようだ。知らない人ばかりで、パルフィは少し落ち着かない。


「魔法使い様は、こちらにお乗りください。ご家族様は、別の馬車にご案内いたしますので」


1人で馬車に乗るなど、生まれて初めての経験だ。周囲に飲まれつつ、パルフィはぎこちなく馬車に乗るのだった。



・・・背後からの嘲笑など聞こえないまま。


読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中-2」は明日夜に投稿します。

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