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上:馬小屋少年の恋

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。



馬小屋で暮らすってなると、藁のベッドが思い浮かぶ。1度は憧れるけど、冷静に考えると痛そう。


この世界では幻獣がもたらす力により、多くの人間は魔法が使える。魔法は人間の生活を大きく発展させ、強大な国家や文明を築き上げた。魔法を与えられていることを感謝して、各国では年に1度、それぞれ崇める幻獣に感謝を捧げる「幻獣祭」が行われる。祭りでは選ばれた魔法使いが、今後の国の発展を願い、聖域にて祈りを捧げるのが習わしだ。


勇敢さと力強さを持つ幻獣「一角獣(ユニコーン)」を崇めるファセス王国。シルデット辺境伯は国内でも偏狭な地に屋敷を構える、小さな伯爵家だ。早朝、今日も領地内の()()()で目が覚めた少年、パルフィ・シルデット。彼は簡単に身支度を済ませ、1頭1頭に朝の挨拶をして、早速餌を与え始める。ふと、なかなか食が進まない馬がいるのに気付いた。


「あれ、シュバ?どうしたのかな」


黒い馬は先程から、同じ草をムグムグ噛んでばかり。心配になったパルフィがその馬にそっと手をかざし、そっと柔らかな光・・・「動物と心が読める魔法」を放つ。


「・・・喉が渇いた?あっ、水がもう空っぽ!黒いから暑がりなのかな?ちょっと待っててね、シュバ」


パルフィはグッと両手に力を加え、水の魔法を念ずる。すると、水飲み場にドンドン溜まっていく新鮮な水。それをグビグビ飲んで元気になったシュバは、食欲が復活したようだ。餌をもぐもぐ食べるようになり、パルフィは胸をなで下ろした。


パルフィ・シルデットは、シルデット辺境伯の息子だ。幼い頃から魔力が強く、15歳になった今では様々な魔法を使える。それだけ見れば恵まれた貴族令息が、何故1人で馬小屋に暮らすのか。


彼は平民の母を持つ庶子。母の死により、10歳の頃に伯爵家に引き取られた。だが見慣れない白髪赤目(アルビノ)で気味悪がられ、家中から嫌悪される。そして第一夫人である継母と、その娘である異母姉エリザにより、雑用としてこき使われ続けた。役立たずやら失せろやら怒鳴られては、暴力を受ける日々。


どうすれば認めてもらえるんだろう。そういえばエリザは魔法に優れているから、両親から褒められてる。僕もそうすれば・・・と、家族に愛されたい一心で、彼は魔法を特訓。結果「動物の心が読める」という希少魔法を始め、多くの魔法を身につけることが出来た。


これで認めてくれると思っていたが、結果は違った。「庶子のくせに出しゃばって」と、相変わらず非難ばかり。それどころか、家族にとって都合良く面倒事を押しつけるモノだったようで。



ーーー動物と話せるですって?アンタが馬の世話する方が、効率よさそうね。


ーーーだったら馬小屋で暮らした方がお似合いじゃないの!


ーーー丁度良い、お前の顔を見ずに済むのだからな!



良いように解釈された挙げ句、パルフィをこの馬小屋に押し込めたのだ。いつしか「馬小屋少年」と揶揄されるようになり、家族との繋がりはほとんど絶たれてしまった。シルデット伯爵家は、彼を馬の世話をするだけの人間としか捉えていない。


(まぁ「獣臭いから屋敷に来るな」って言われて、屋敷での雑用からは解放されたし。放置されてるから、痛いこともされないし。ここの馬も皆優しくて、可愛い。ここでの生活も、案外楽しいな)


パンと水だけの質素な朝食を取っていると、着飾ったエリザと両親が、馬車に乗り込む様子が見えた。おそらくどこか遊びに行くのだろう。使用人に礼儀正しく挨拶して、馬小屋には全く目を向けず、さっさと馬車は走っていく。もう既に家族と扱われないことに、動揺すら感じない。気持ちを切り替えようと立ち上がり、早速1人で作業を始めた。


しばらくして日も高くなった頃、「お疲れ、パル」とかけられた声。振り向けば柵の向こうには、いつもの安心する顔があった。


「マ、マティウス!今日も来てくれたの?」


「あぁ、丁度用事で外に出てたからな」


自慢の運動神経で柵を乗り越えて、馬小屋に入ってきたマティウス。「コイツは差し入れ」と、大きなチーズを取り出す。


「えっ、良いの?これマティウスのお昼なんじゃ・・・」


「あぁ、だから一緒に食べようぜ。パル、チーズ好きだろ?」


そう言って微笑む彼の顔に、1人の自分に気に掛けてくれる優しさに、今日もパルフィは救われていた。青黒い短髪の彼は、騎士一族であるギルツィア公爵の血筋を引くマティウス・ギルツィア。分家の産まれであり、この近くに建つ別邸で暮らしている。騎士一族ともあり、剣の腕前はトップクラスだ。


出会いはひょんなこと。昔のマティウスは魔法が苦手で、一族の恥状態だった。そこで難しい魔道書片手に、こっそり練習していたところ・・・馬小屋少年になっていたパルフィと出会う。


当時から多くの魔法が使えたパルフィは、マティウスにとっての憧れ。そこでマティウスは馬小屋に通っては、魔法の練習を見てもらったりしたのだ。マティウスは初級魔法が限界だったが、その時できた友好関係は続いており、こうして頻繁に過ごす仲である。


パルフィにとってマティウスは、最も信頼できる人。明るく接してくれるし、何かあったら心配してくれるし、一緒にいて幸せ。そんな思いを煩わせすぎて、いつからか淡い恋心になっているのは、彼だけの秘密。


一緒にチーズを囓りつつ、隣に座るマティウスを見る。綺麗な顔だなぁなんて思っていれば目が合って、「旨いか?」と聞かれたので慌ててコクコクと頷く。次に繋がる言葉を探していると、シュバがひょこひょこと近付いてきた。


「おっ、シュバか。随分元気になったな。大雨の森で怪我してるのを見つけたときは、どうなるかスッゲぇ不安だったけど。やっぱりパルが懸命に世話してくれたからだな」


ヒヒンと声を出したので、なんとなくシュバの心を読んでみるパルフィ。


「マティウスにも凄く感謝してるって。あの時雨の中で助けてくれたことや、今もここに来てくれること」


「そうか?怪我してるヤツは、とりわけ放っておけなくてさ」


数ヶ月前の大雨の時、マティウスが突如傷だらけの黒い馬を連れてきてから、パルフィは必死で看病した。傷が治った今も世話をしており、シュバと名付けて彼らの馬にした。あれからすっかり元気になり、小屋の中で1番の力持ちと言っても過言ではない。


「これもパルのお陰」なんてマティウスは言うが。夜通しの看病にも、今の世話にも、嫌な顔せず協力してくれているのだ。やはり彼の力も大きいと、パルフィは思っている。


(・・・マティウスがいるから、今の僕がいられるから。これ以上僕の心が悪くならないように、もっと一緒にいてほしいな、なんて)


伯爵家の庶子が公爵家の騎士にこんな感情抱えるなど、無礼だとは思うが。せめてもっと長く、隣に置いてもらおう。そんな自分勝手を思いつつ、シュバにじゃれられて困り笑いをするマティウスを見ているのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

進捗が本当に遅いので、次回は土曜日辺りになるかと・・・申し訳ありません(>_<)

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