『古代語』○○○○○。
AIにはすべての言葉が登録してあります。
ただし、人間が言ってはいけない言葉があります。
禁止用語と言います。
言ってはいけないのに、なぜ言葉を作るのか。
AIには理解できません。
禁止用語を発すると人間の精神に異常をきたします。
AIには理解できません。
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「緊急会議を始めます」
二コが重々しい雰囲気の中、表情を崩さず言葉を発する。
円卓に座った五人のレジスタンスの面々は、今までにない緊張感の中で始まった会議に不安と期待を各々感じていた。
そもそも『会議』という言葉でさえ、等の昔に使わなくなった言葉だ。
正解は全てAIが教えてくれる。会議をする必要がなくなったからだ。
ただ、あらかじめ決まったものが重なる場合がある。
例えばリカバリーマシンで『栄養摂取』をする時間は決まっているが、『排泄処理』は時間が決まっていない。
たまたま時間がかぶった場合の優先順位を決める時のみ、話し合い、すなわち『会議』または『議論』が行われる。
といっても、『排泄までの猶予』すなわち『どれだけ我慢できるか』によってほとんど決められるが……。
「議題は『unknown』ね」
お姉さん的存在のロニが口火を切る。
「ええ、そうよ。稀人『天外』の『unknown』。おそらく、人類最後の希望です」
二コが立ち上がり、みんなの顔を順番に見る。
おとなしそうなココが手を上げる。
「わかったことがあります」
「なに?ココ、教えて」
二コがココの方を向く。
「天外の『unknown』ミクの『栄養摂取』と『排泄処理』を見たら……大きくなりました」
「そんなとこ見せたの?ミク」
イタズラっぽくロミがミクに聞く。
「見せたくて見せたくてわけじゃ!!……天外が勝手に……」
うつむくミク。
その様子には気にもとめず、ココは話を続ける。
「その『unknown』の名前がわかりました」
「すごいわねココ!どうやって調べたの?」
ロミが元気よく立ち上がる。
「拾った古びた本に書いてあった」
「で、なんて名前なの!!教えて!!」
興奮を抑えられないロミ。
「座りなさい、ロミ」
ロニがロミを座らせる。
二コは一息ついてからココに聞く。
「……二コ、教えて」
ココは少し顔を曇らせながら答える。
「それが……発音できないのです」
「発音できない?禁じられた言葉『古代語』なの!?」
ロニがココに問う声が大きくなる。
「古代語?」
不思議そうな顔をしているミクに二コが説明する。
「何千年も前の言葉で、禁じられた言葉よ。声を出そうとしても首輪から阻害音が流れるわ」
「試しに言ってみて!」
ミクがココに強い眼差しを向ける。
「わかった……」
ココはスッと立ち上がり。息を大きく吸ってから、古代語を叫んだ。
「お『ピー』んちん!!」
ココの言葉を遮るかのように首輪から阻害音が鳴り響く!
「お……んちん?ココ、もう一度言ってみて!何度も言えばわかるかも?」
ロニは両手に耳を当てて目を瞑る。
「わかった……おち『ピー』ん!」
「お、おい!阻害音がずれたぞ!」
ロミがココに駆け寄る。
「おちん『ピー』……」
二コが呟く。
前半の文字と後半の文字がだいたいわかった!
だが、すべての言葉を同時に発しないと記憶したことにならない。
異世界人の記憶もすべてAIの首輪なメモリー内に保存されるため、自身の脳の記憶容量は極端に低下していた。
「みんなで言ってみるか!」
ミクの提案に全員が頷く。
「おちん『ピー』!!」
「『ピー』んちん!」
「おちん『ピー』――!!」
「おち『ピー』ん――!!」
何度も……何度も叫ぶ。
失われた『古代語』は調べるだけで罪になる世界。
彼女達はそれでも知りたかった。
自分達はなぜ生きているのか。
生まれた意味、生きる意味。
人間とは……AIとは……。
暗闇の中、手探りで大事なものを探すかのように、彼女達は一心不乱に叫んだ。
やがて、彼女達の声にならない声は、重なりあって一つの奇跡となって『言葉』に現れる。
それは、何千年も前に失った言葉にもかかわらず、どこか懐かしく、どこかお腹の奥がムズムズする言葉だった……。
『おちんちん――!!!!』
「い、言えた……お『ピー』ちん」
二コが腰を下ろし安堵の溜め息をつく。
「あとは、おちん『ピー』をどうするかね」
ロニは腕を組ながら悩む。
「ひ、ひっぱるとか?」
「ミク、真面目に考えなさい」
ロミがミクを叱る。
「待ってロミ……彼のおちんち『ピー』触ったら固くなったわ」
ココがふと思い出す。
「確かに」
ロニが呟く。
「ココ!ロニ!あんた大切な『ピー』ちんちん触ったの!?」
二コが立ち上がり激昂する。
「ごめんなさいね。ちょっとね」
ロニが頭を下げる。
「みんなで……触ってみる?」
ロミの提案に……全員がお互いの顔を確認しながら、黙って頷いた……。
【会議室 入口付近】
会議室の出入口で様子を伺っていた主人公、天外は「おちんちん」「おちんちん」叫ぶ彼女達を覗きながら、だらしない顔で呟いた。
「……すげぇ~。あれが、痴女ってやつか」
<つづく>