『フリーズ』俺だけの世界。
私には時間を止める力があります。
1日30分、時間を止めたとします。
1年で183時間、みんなより歳を取ります。
みんなが二十歳の時、私の年齢は30歳です。
みんなが50歳の時、私の年齢は75歳です。
それでも私の見た目はみんなと変わりません。
さて、わたしが止めた時間でしたことは何でしょう?
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「こう?コブヤン気持ちいいゴプッ?」
洞窟の行き止まりで仁王立ちした雄のゴブリンに膝立ちして抱きついている雌のゴブリンが上目遣いで話しかける。
「ああ……コブビッチ。気持ちいいよ……そのままお願いゴップ」
「あれが『告白』?」
物陰でココがじっとゴブリン達の行動を見つめる。
「あれは違うよ!むしろ告白が終わったあとのご褒美というか……あはは……」
慌てて俺が訂正する。
何してるんだよ!あのゴブリンども!
先生に言いつけてやるぞ!
羨ましいじゃねぇか!
悔しがる俺に、ロミが絡む。
「やけに詳しいなぁ~天外!では、あれは何をしているのだ?」
「あ……あれは……その……」
なんて言えばいい?なんて言えばいい?
ココが少し身を乗り出す。
「あ!雄のゴブリンが雌のゴブリンの頭を押さえた。天外、助けたほうがいいか?」
「ゴッ!?……ゴブゥ……」
雌のゴブリンから苦しそうな声が聞こえる。
ココは腰にくくりつけている麻袋からパワーグローブを取り出し、手にはめて俺の合図を待つ。
「だ、大丈夫だと思うよ!苦しいのが好き……というか、えへへ……」
全く答えになってない!
「苦しいのが……好き?『苦しい』も『好き』も……今まで感じたことがないな」
ロミが無表情で固まる。
ロミ達、異世界人は疑問に思ったことは首に巻いている『AIの首輪』が自動で答えを教えてくれる。
AIの首輪が答えに困ると、元々考える必要のなくなった異世界人は固まってしまうのだ。
ロミの頭の中でAIの声が再生される。
『『苦しい』『好き』どちらも理解できません。はるか昔、『効率』を求め世界がAI化した際に『恐怖』『非効率な感情』を全て排除してきました。故に人間もAI自体も苦しむことはありません。ただし、AIはプログラミングに不備がある場合にエラーを起こすことがあり、その結果、意図しない動作をすることがあります』
「こら――!!お前達――!!ダメごぶよ――!!」
俺達の間をすごい勢いでゴブナガ先生が走り抜ける!
ドン!
先生の肩が少しロミに触り、ロミはマネキン人形のようにその場に倒れた。
「ロミ!大丈夫か!?……あ、あれ?ロミ?」
ロミが固まって動かない。
ピクリとも動かない。
俺がロミを心配していると、洞窟の奥でゴブリン生徒とゴブリン先生の会話が耳に届く。
「やばいゴブ!ゴブナガ先生ゴブ!ゴブタの奴、見張ってろと言ったのに!!」
慌てる雄ゴブリン。
「コブァ!!……ゴブヤン!押さえ過ぎゴブ!」
コブヤンが手を離すと、まだ状況を理解していないゴブビッチはコホコホ咳き込みながらコブヤンを軽く叩く。
「洞窟内の『ゴブ姦』は禁止ごぶ~!!」
拳を振り上げるゴブナガ先生。
「わぁ――!!こぶ――!!」
「え!?キャァ――!!こぶぅ――!!」
ゴン!ゴン!!
先生の鉄拳がゴブリン達の頭に炸裂する!
「アギャァ――!!」
頭を押さえるゴブリン生徒達。
その頃、俺はまだ途方に暮れていた。
「……」
倒れたまま固まるロミ。
「……」
仁王立ちのまま固まるココ。
「ココ?お~い!ココ――!?」
ロミに続いて、ココも固まってしまった!
俺は無表情のまま、固まって動かないロミとココに声をかける。
あまりの出来事を目の当たりにした衝撃なのだろうか?
ロミの顔の前で手を振ってみるが反応がない。
渾身の変顔をココに見せるが反応がない。
え!?どうしたの?どうしたらいい?
俺はどうしようもない感情に駆られ、横たわるロミの胸に巻いてある布を下から上へ引っ張ってみる。
ポロンッ。
片方のおっぱいがポロンした。
「俺のバカヤロー!!」
バキッ!
俺は俺を殴った!
気づかないからといって手を出すのは最低な行為だ!「誰も見ていないから」てはない!俺が……俺が見ているじゃね~か!!
俺はその場で土下座した。
俺の目の前でココが固まっている。
スカートをヒラヒラさせながら、固まっている。
スカートを……。
……ヒラヒラさせながら。
「天外、何をしているの?」
ココが俺を見下ろしながら言った。
「わぁ――!?き、気づいたの!?二人とも固まってびっくりしたよ!!」
ココの足元で、犬のように四つん這いになっていた俺はココを見上げて話す。
ビュ!
その瞬間、洞窟内に神風が吹いた!
ヒラヒラと舞うスカート。
――――!?
【その頃 AI神国オムニポテント『マザーゴッドの間』】
―― エラー感知 エラー感知 エラー感知 ――
円柱の中で浮き沈みしているマザーゴッドAIの目が開く。
「ロミにエラーフリーズ?映像を再生して」
空中に映像が映し出される。
映像の中で、フリーズしているロミの胸に巻いてある布を引っ張り上げ、おっぱいがこぼれ落ちるのを見て興奮する天外が映し出された。
「あの子……unknownだわ」
無表情のマザーゴッドAIが呟いた。
【再び洞窟】
「天外?お~い、天外~」
ココの呼び声が、聞こえた気がした。
横になっていたロミも目を覚ます。
「あら?ここは……」
「ロミ……天外も動かなくなった」
ココが俺に指を指した気がする。
「あら?天外、なにしてるの?」
近づいてくるロミの胸の布は捲られたままだった。
片方おっぱいポロリロミに「ハッ!」として、「よ……よかった~。元に戻って~。あはは~」と四つん這いのまま、後退りした。
「変な天外」
ココは見下ろしたまま、いつもの無表情な顔を俺に向ける。
状況を理解したロミが俺に分かるように説明してくれた。
「ごめんね天外。私達、たまにエラーがでると修復処理が終わるまで固まってしまうの。でも、大丈夫。過去5分間の記憶は自動で消されるから」
「へ!?……へぇ~」
記憶が……消される?
なんか、ものすごく怖いことを言ったような……。
ロミの言葉も気になるが、俺の頭の中は『至高の思い出』でいっぱいだった。何度も何度も頭の中で繰り返し再生される映像。
「……なにも……履いてなかっ……た」
俺は誰にも聞こえない声で呟いた。
<つづく>




