ショートショート2本
【兄のお姉ちゃんになりたい妹】掲示板風味
夕飯前
ガチャ
妹「今日からあたしはお姉ちゃんになります!」
兄「ああ、母さんのお腹が大きいよな」
妹「あれは脂です。10年前から」
兄「2年前だ。お前が中学卒業するまで維持してたろが」
妹「最近忘れっぽくて」
兄「元からだろ。思い出すまで巣に帰ってろ」しっしっ
妹「うん……」しゅん
パタン
5分後
ガチャ
妹「今日からあたしはお姉ちゃんになります!」(赤面)
兄「それはさっき聞いた。再凸なら最新の情報を寄越せ。体重は何キロだ?」
妹「え? やだ」
兄「今が1番軽いぞ。風船みたいに息を大きく吸って乗ると尚いい」
妹「!」くるっ。タタタ……
2分後
……タタタダン!
妹「0.5キロ減った!52!」
兄「それは誤差の範囲だ。もうすぐ晩飯だぞ」
妹「!……」硬直
兄「妹が健康なら俺は嬉しい。飯は食えよ?」
妹「うん……」(赤面)
パタン
夕食&入浴後
ガチャ
妹「今日からあたしはお姉ちゃんになります! ……あれ?」
兄「…………」スヤァ
3日後
ガチャ
妹「今日からあたしはお姉ちゃんになります!」おこ
兄「ちっ、思い出すなよ」
おわり。
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【手紙】
VR技術によって生み出された島がある。
ログインすると、タイプライターが備え付けられた机と粗末なベッドだけの洞窟に降り立つ。そこを出たら目の前は大海原。周囲を見回せば、直径20m程の小さな小さな島。中央にヤシの木が1本。他に何も無い。
1人に1つの島が与えられる。それが、このソフトウェアの特徴である。
君は1人になりたくてこの島に来ていた。
何をするでもない。ヤシの木の下で潮騒を聴きながら、ただぼんやりと過ごしている。
君は、ふと視界の隅に光る物を捉えて視線を向けた。
立ちあがりそちらへ歩く。見付けたのは、砂浜で波に弄ばれる小瓶。君はそっと拾い上げた。
中に紙片が入っている。
もしかしたらと洞窟に持ち帰り、君は中の紙片を取り出す。
『お返事が来たら嬉しいな』
たったそれだけが印字された、手紙だった。
(本当にこうやって流れ着くんだ)
この島はネットの海に手紙を流す事が出来る。それは他のユーザーの島を巡って漂い、誰かが好きなのを拾って読む。そういう付かず離れずなサービスが売りなのだ。
君が何もしていなかったのは、それすらも煩わしいと思うくらい、他人との折衝に疲れていたからだ。
(シャイな子なのかな。まあ見ちゃったし。同じ瓶に詰めれば返信になるんだっけ)
君は内心で言い訳をしながら、備え付けのタイプライターに専用の紙をセットする。
『私も。あなたのお話が聞きたいです』
そう印字した紙を瓶に詰めて岸辺に戻ると、出来るだけ遠くに投げ込んだ。
とぷん、と小瓶が沈んだ海を見て、手紙の主に届くといいな、などと考えた自分がおかしくて君はくすりと笑った。
翌日。
また、瓶が流れ着いていた。
『私も。あなたのお話が聞きたいです。』
君はくすりと笑ってタイプライターに向かった。
――おわり――