PM4:00
遊園地に着いたわたし達は、まず初めに入口付近のフードコートに立ち寄る。小さな遊園地のレトロな店内には勿論、アサイーボウルなんて洒落たものは置いていなかった。
「何か温かいものでも食べると、活力がみなぎってきますよ」
だがしかし、そう言ったわたしが注文するのは期間限定の『桜餅味ソフトクリーム』だった。コーンの上にぐるぐる巻かれていくそれはストロベリーよりも、優しいピンク色をしている。
「おい、温かいものが良いんじゃなかったのか」
「わたしは、十分活力で満ちていますから」
事情を知る者がいればどの口がそれを言うのだと言われそうだが、間違いではない。わたしは活力に満ちている。だからこそ、日曜日をダラダラ寝て過ごすことができなかった。
注文を決めかねている彼はメニュー表を睨んだまま「あっそ」とぶっきらぼうに言った。
店員から手渡されたソフトクリームを片手に、わたしはフードコート内の、比較的綺麗な椅子を選んで座る。清掃の行き届いていないテーブルには、たこ焼きのソースがべっとり付いていた。遅れてやってきた彼は、テーブルの上のソースに気付かずその上にトレーを置く。トレーの上では安っぽい使い捨ての容器に入れられたコーンポタージュが、ホカホカ湯気を立たせていた。
わたしは小さく「いただきます」と言ったが、彼は何も言わず、スプーンを黄色い沼に沈める。その様子にやれやれという顔をただのポーズで決めてから、わたしは桜色のてっぺんをそっと舐め取った。まだ肌寒い時期に食べるソフトクリームは角が立っていた。舌の上で転がすように溶かして味わうと、甘さの後でほのかな塩気を感じる。
「この季節、桜餅味のお菓子とか結構ありますけど、大体塩の味ですよね。きっと桜餅の葉っぱのイメージなんでしょうね」
「……スイカ味も、塩の味のものが多い気がする」
彼の返答は予想外に、話題に乗ってくれるものだった。「おや」と思い彼を見るが、コーンポタージュの白い湯気に隠されて、その表情はよく分からなかった。
夕食にはまだ早い時間だが、徐々に店内が混んでくる。ちょうど遊園地のショーが終わった時間らしい。狭い店内に、コーヒー、コーラ、ハンバーガー、ポテトの匂いが混ざりあう。
店員はてんてこ舞いだ。レジ付近のカウンター席からは、その忙しない様子がよく伺えた。彼がお喋りではないこともあり、わたしは自然と、店員と客の間で交わされる会話に耳を傾けてしまう。
「アイスコーヒーのSサイズですね。かしこまりました」
「コーヒーに砂糖付けてね」
「アイスにはガムシロップでしょ。ジャリジャリしちゃう」
わたしは店員にも客にも聞こえない、目の前の彼だけに聞こえる声で突っ込む。彼はズズっとポタージュを啜りながら、ちらりとカウンターに目をやった。
「店内でお召し上がりですか?」
「テイクオフで」
「……離陸かよ」
彼がポツリとそう零す。わたしはニヤけた顔で、しけったコーンをかじった。
「お客様、ポテトですが、まだ準備中でございます。揚げたてをご用意いたしますので、少々頂いてもよろしいでしょうか?」
「いやいや、頂いちゃダメでしょ。少々って数本?数本食べちゃうの?」
お時間、という言葉を省いた店員に、わたしが突っ込む。
彼の表情が強張り、肩が震えた。
そして、
「あ、大丈夫ですよ!」
という客の返答に、二人は吹き出すのだった。
彼の頬には仄かに赤みがさしており、生き物めいたその色に、わたしはそっと安堵する。