表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

PM4:00

 遊園地に着いたわたし達は、まず初めに入口付近のフードコートに立ち寄る。小さな遊園地のレトロな店内には勿論、アサイーボウルなんて洒落たものは置いていなかった。


「何か温かいものでも食べると、活力がみなぎってきますよ」

 だがしかし、そう言ったわたしが注文するのは期間限定の『桜餅味ソフトクリーム』だった。コーンの上にぐるぐる巻かれていくそれはストロベリーよりも、優しいピンク色をしている。


「おい、温かいものが良いんじゃなかったのか」

「わたしは、十分活力で満ちていますから」

 事情を知る者がいればどの口がそれを言うのだと言われそうだが、間違いではない。わたしは活力に満ちている。だからこそ、日曜日をダラダラ寝て過ごすことができなかった。

 注文を決めかねている彼はメニュー表を睨んだまま「あっそ」とぶっきらぼうに言った。


 店員から手渡されたソフトクリームを片手に、わたしはフードコート内の、比較的綺麗な椅子を選んで座る。清掃の行き届いていないテーブルには、たこ焼きのソースがべっとり付いていた。遅れてやってきた彼は、テーブルの上のソースに気付かずその上にトレーを置く。トレーの上では安っぽい使い捨ての容器に入れられたコーンポタージュが、ホカホカ湯気を立たせていた。


 わたしは小さく「いただきます」と言ったが、彼は何も言わず、スプーンを黄色い沼に沈める。その様子にやれやれという顔をただのポーズで決めてから、わたしは桜色のてっぺんをそっと舐め取った。まだ肌寒い時期に食べるソフトクリームは角が立っていた。舌の上で転がすように溶かして味わうと、甘さの後でほのかな塩気を感じる。


「この季節、桜餅味のお菓子とか結構ありますけど、大体塩の味ですよね。きっと桜餅の葉っぱのイメージなんでしょうね」

「……スイカ味も、塩の味のものが多い気がする」

 彼の返答は予想外に、話題に乗ってくれるものだった。「おや」と思い彼を見るが、コーンポタージュの白い湯気に隠されて、その表情はよく分からなかった。


 夕食にはまだ早い時間だが、徐々に店内が混んでくる。ちょうど遊園地のショーが終わった時間らしい。狭い店内に、コーヒー、コーラ、ハンバーガー、ポテトの匂いが混ざりあう。

 店員はてんてこ舞いだ。レジ付近のカウンター席からは、その忙しない様子がよく伺えた。彼がお喋りではないこともあり、わたしは自然と、店員と客の間で交わされる会話に耳を傾けてしまう。


「アイスコーヒーのSサイズですね。かしこまりました」

「コーヒーに砂糖付けてね」


「アイスにはガムシロップでしょ。ジャリジャリしちゃう」

 わたしは店員にも客にも聞こえない、目の前の彼だけに聞こえる声で突っ込む。彼はズズっとポタージュを啜りながら、ちらりとカウンターに目をやった。


「店内でお召し上がりですか?」

「テイクオフで」


「……離陸かよ」

 彼がポツリとそう零す。わたしはニヤけた顔で、しけったコーンをかじった。


「お客様、ポテトですが、まだ準備中でございます。揚げたてをご用意いたしますので、少々頂いてもよろしいでしょうか?」


「いやいや、頂いちゃダメでしょ。少々って数本?数本食べちゃうの?」

 お時間、という言葉を省いた店員に、わたしが突っ込む。

 彼の表情が強張り、肩が震えた。


 そして、

「あ、大丈夫ですよ!」

 という客の返答に、二人は吹き出すのだった。

 彼の頬には仄かに赤みがさしており、生き物めいたその色に、わたしはそっと安堵する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ