PM1:00
大分片付いた部屋を見回し、その出来栄えに思わず携帯で写真を撮る。
掃除の途中で出てきた海外映画のポスターや、用途不明の陶器の小瓶を飾ったら、まるで小洒落たフランスのアパートの一室のようになったからだ。これに観葉植物でもあれば、オシャレなOLの部屋として雑誌で紹介されていてもおかしくなさそうである。わたしは満足気に頷いて、綺麗になった部屋の、磨かれたテーブルの前に座る。
さて、部屋も綺麗になったことだし……遺書を書くことにしよう!
わたしは中学生の頃に買った便箋セットから一枚、そっと抜き取って、皺ひとつないそれを眺めた。紙の端の方が透き通るような素材になっている凝ったデザインの便箋で、これもまた肥やしになっていたお気に入りの一つだった。
わたしはたっぷりインクの詰まったボールペンで、丁寧に言葉を綴る。
決して悲観的ではない自殺の動機。口座情報。様々なIDとパスワード。そして、実家の家族へのメッセージ。
滞り無く滑っていたペンが、そこに来て途端に動きを鈍くする。言葉が迷子になり、宙をなぞることの多くなったペン先に、わたしは溜息を吐く。
長々と書いても仕方ない。伝えきれない気持ちは、どんなに頑張っても伝えきれないのだ。
「本当に有難うございました。皆様のご多幸を、心より祈っております」
と締めくくり、わたしは丁寧に折り畳んだそれを封筒に入れて、糊付けした。
封をすると、もう後戻りができない気持ちになった。