6.
「ふう。だいぶ体力も付いてきたかな。」
毎朝の日課として、ここ半年程前から走り込みを続けてきたけど、だいぶ身についてきたかな。
始めたきっかけは、畑仕事だけじゃなく身体を鍛え始めたってジンが筋肉を自慢してたからだっけ。
筋力で競うのはもう流石に難しいからせめて体力では負けてられないって走り出したんだけど、そのおかげでそれなりに体力をつけておけたのは良かった。
最初は村の中をくるくると回っていたけど、最近は裏山に行って周りを走ったり登り降りをしてたおかげか、だいぶ体力と足腰を鍛えられた気がする。
今日はまだいける感じがあったから、ジンの家まで更に走ってみたが流石にもう限界そうだ。
そろそろみんなが起きてくる時間になるし、朝ご飯の準備をしないと。
ジンの所からもらった野菜がまだ沢山あるからそれを使ってスープでも作ろうかな。
ーーーーーーーーーー
朝食を終えて部屋に戻ってきた。
常に部屋は清潔に保つように心がけているし、なるべく余計な物も置いていない。
前に初めてジンが来た時は、もう少し女の子らしい部屋にしたらどうなんだと言っていたけど、私はこれで満足している。
あの時は来る時と帰る時でジンの様子が全然違ったけど何だったのだろう。
私達は、村のほぼ中心辺りに建てられた学校に隣接する形で建っている宿舎で共同生活を送っている。
私達だけでなく、集団生活を身につける為に、村に家はあるがここで生活をしている子もいる。
今のところ部屋数が住人よりも多いので、私は一人で一部屋を使っているが、小さい子供達は二人で一部屋を使っている。
ノマさんの考えでそうしてて、一人で寝るのが怖い子もいるし、その方が相手の事を考えて行動出来るようになるでしょう、という事みたい。
そんな部屋でもただ一つだけ存在感を放っている物がある。
本棚だ。
壁一面床から天井まで綺麗にすっぽりと収まっていて、もう少しで隙間がなくなるほど本が入っている。
ほとんどがこの世界の生き物や植物、土地や環境などについて書かれている図鑑ばかりだ。
どの本もかなり読み込んだおかげで年季が入っているけど、中でも特に傷んでいるのが一番のお気に入りで、初めてノマさんに買ってもらった図鑑だ。
これに関しては、一言一句暗記してしまったんじゃないかというほどには読み込んだ。
確かこれはジンもおばさんに頼んで一冊買ってもらってたはずだ。
だけど毎日二人でこの一冊を読んでて、よくおばさんに毎日毎日読みに行ってごめんねって言われたっけ。
でも夜に一人で読んでる時よりも、ジンと二人であんな感じかなこんな感じかなって言いながら読んでた時の方が楽しかったから全然気にしてなかったけどな。
「よし。まずは状況の整理から始めよう」
今日は学校は休みだから、これからの条件達成までの道筋を考えて動いて行こう。
ノマさんから出された条件は三つ。
兎の捕獲、神石の探索、ノマさんへの一撃を入れる。
それぞれ今分かっている事と、残りの日数から考えるとまずは……
ーーーーーーーーーー
「村長さん、こんにちは」
「おお、こんにちは。イルちゃん」
今のところ他の二つよりも情報があって取っ付きやすそうな軍隊兎の捕獲から進めていくことにした。
村長さんの家にいくと、中から明るく出迎えてくれた。
「少しお聞きしたい事がありまして」
「ああノマさんから聞いてるよ。軍隊兎の捕獲を手伝ってくれるんだって?立ち話もなんだから上がって上がって」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「あら、いらっしゃい。イルちゃん」
中に入ると、奥さんも出迎えてくれた。
すると奥から、
「誰かと思えば、イルか。なんでも軍隊兎捕まえるんだって?お前にそんな事出来るのか?」
一人息子のバートンがやって来た。
こんな事を言ってしまうと村長さんと奥さんには申し訳ないが、この二人で何故この子が育ったのか不思議でならないほどにバートンは愛想がないというか、つんけんしてるというか。
よく幼馴染のゴーラと一緒にいるのだが、この二人に近づこうとする子達はなかなかいない。
「俺みたいに覚醒もしてないのに、返って襲われたりしても知らないぜ」
「やめないか、バートン」
「ふん。別に忠告しただけだろ」
そう言うと家から出て行ってしまった。
「ごめんね。イルちゃん。覚醒してからどうにも自信が付き過ぎちゃってるというか。気を悪くさせてしまったね」
「いえ、いいんです。気をつけなくてはいけないのは本当のことですし」
バートンは私と違って覚醒済みだ。
よく一緒にいるゴーラも覚醒済みだし、ちなみにジンもそうだ。
ジンに至っては、生まれた時から覚醒していた、先天性覚醒と言われるやつだ。
バートンやゴーラは後天性覚醒で、私達くらいの年齢の第二次性徴期までに何かのきっかけで、身体的な変化をした人達の事を指してそう言われている。
覚醒した人達は目に見える部分で大きな変化がある人もいれば、見えない所が変わることもあるみたいだ。
バートンはかなり分かりやすく変わっている。
背中に大きな翼が生えているのだ。
最近までその翼は成長しっぱなしだったので、このままだと歩く事が難しくなるのでは無いかと思っていたが、ようやくおさまったみたいだ。
ただ室内はかなり窮屈そうだった。
何度か壁や天井にぶつけてたし。
体の骨格の方もそれに合わせてかなり変わって、図鑑で見た鳥人族とかなり似た見た目になった。
「というか、村長さんは私に協力する事はなんとも思わないんですか?」
「え?そうだな。危なくないかとか心配ってのは正直あるんだけど、ノマさんでもこっから二ヶ月は掛かってしまうって話だし、まだ危険性は高くないって言ってたから、少しでも解決しようとしてくれるってんなら協力は惜しまないよ」
「そうですか、ありがとうございます!」
「よし、じゃあまずは何から聞きたい?」
その後、村長さんから被害に遭った畑の場所と日にち、それからの軍隊兎の出没報告などを教えてもらった。