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5.

「なあ、そういえばこの軍隊兎(アーミーラビット)って最近うちの村の畑にやってくるあいつらの事だよな?」

「そうそう。ここ最近現れるようになってきたから、村長さんが相談をしに来てたみたいなんだ」


 さっきまで薄暗かったが、だいぶ日が昇ってきて朝日が畑にさんさんと降り注いでいる。

 イルの首筋を汗が伝って落ちていくのを、光が反射してきらきらと輝かせている。


「それでノマ先生の代わりにイルが捕まえるのか?早急に手を打たないといけないって程じゃないのか?」

「早い方が良いに決まってるんだけど、彼らは凄く警戒心が強いからね。まだかなり様子を伺いながらっていう感じだと思うから、そこまで焦る必要は無いはずなんだ。それにノマさんも動くみたいだしね」

「じゃあ先に捕まえるか競争って感じか?」

「いや、流石に元護衛隊だったと言っても、もう現役を引退してだいぶ経つからね。少し時間がかかるみたいなんだ。それこそ丁度二ヶ月くらいは準備が必要だって言ってた」

「ふぅん。じゃあそれまでにイルが捕まえれるかどうかってわけね」

「そういうこと」


 軍隊兎か、そこまで危険な動物では無かったと思うが、うちみたいな畑を基本としている村からはよく被害届けが出されているらしい。

 そこの住人達で何とか出来そうに無ければ、都の調査員に依頼して駆除してもらうなり、捕まえてもらうなりするのが良くある方法なんだが、うちの村にはノマ先生がいるからな。

 あんな細くてそろそろ初老に差し掛かりそうとは言っても都の護衛隊にいたって話だし、とりあえず相談するよな。


「で、どうなんだよ?」

「何が?」

「捕まえれそうなのかって話だよ。なんか作戦でもあるのか?」

「いや、今は特に無いね。無いからとりあえず走ってたとこさ」


 なんでそんな満面の笑みなんだこいつは。


「おいおい、大丈夫かよ?他の二つもどうにかしないといけないわけだろ?期限までそんなに時間ないだろ」

「まあ、そんなに焦らせないでよ。昨日の今日の話なんだから。ふふ、というかジンには全然関係の無い話なのによくそこまで心配してくれるんだね。」

「あ?いや、別に、それはその、あれだよ。またお前が無茶するじゃないかって。」

「やっぱり心配してくれてるのか。ありがとう。」


 さっきの笑顔の二割り増しぐらいの笑顔だ。

 そのキラキラ笑顔であんまりこっち見んな。なんか恥ずかしいわ。


「うん、いや別に。」

「でも大丈夫。そこはノマさんにも‘‘無茶はしない事’’って釘を刺されてるからね。そろそろ行くね。仕事の邪魔して悪かったね」

「いや、それは良いけどよ。お前の中でどこからが無茶なのかが気になるとこではあるけど、まぁ頑張れよ」

「うん。ありがとう」


 そういうと、イルはまた来た道を走って帰っていった。

  ていうか今日から鍛えだして二ヶ月しか無いのに間に合うのか?まあ身体作るところからは基本だとは思うが。


  そういえば、昔母さんに頼んで買ってもらった図鑑に軍隊兎の事が載ってた気がするな。

 何か良い作戦思いつくかもしれないし、あとで見てみるか。


 とりあえず、畑に水撒いちゃわないとな。

 水は近くの川から汲み上げているから、二、三日に一度家の横の貯め桶に補充しないといけない。

 丁度無くなりそうだから汲みに行かないとな。




 ーーーーーーーーーー



「おつかれさま。ご飯できてるわよ」

「ありがとう。いただきます」


 労働の後の飯は格別だね。

 しかも出来立て。

 例えおかずが無くても米が進みますわ。

 あるから更に進む。

 相変わらず地面はむき出し状態の床に机と椅子はおいてあるけど。


「そういえば、昔母さんに買ってもらった図鑑ってまだ捨てずにとってある?」

「図鑑?あのイルちゃんと揃いで買ったやつ?そりゃもちろんとってあるわよ。あんなに一緒がいいんだ〜って泣かれてせがまれた物そう簡単には捨てれ無いわよ。でも急にどうしたの?」

「そうだったっけ?ちょっと気になる事があって」

「二階の本棚探したらあると思うわよ。あっ分かった。もしかしてイルちゃんに関係あるんでしょ。ねえねえ」

「うるさいな〜なんでもイルに結び付けないでよ」


 まあ実際そうなんだけど。

 内心動揺しているのを必死に隠しながら、朝ご飯をかき込んだ。



 ーーーーーーーーーー



「あった。これだこれ。懐かしいな」


 少し埃を被っているが、ほとんど新品同様くらいに綺麗に取ってあった。

 確かまだイルと二人で村の中を走り回ってた頃に、俺は母さん、イルはノマ先生にねだって同じ図鑑を買ってもらったんだ。

 結局いつも二人で一緒に見てたから、二つも買う必要無かったと後から母さんに言われてたな。

 お陰で俺のはこんなに綺麗に残ってるわけだが。


「確か最初の方に載ってたような。ここか」


 何枚か捲ると、軍隊兎について書かれている場所を見つけた。




 ‘‘軍隊兎’’ 兎属 危険度星一〜三

 大きな両耳が特徴的。左右にそれぞれ二つずつある。鋭い爪が四足に生えているが、基本的には戦闘用のものでは無く、木に登ったり蔦を切ったり、硬い根や皮を割く為に使われる。

 全長は三十〜四十センチほど。それより大きくなる個体も確認されている。

 全身はまだら模様で、茶・黒・緑などの色をしていることが多い。

 基本的に鳴き声を出さない。

 音を立てないように行動するために肉球が発達し音を吸収しやすい作りになっている。

 主食は野菜や木の実を好んで食べる。

 人が住む場所や畑にも現れる事があるが、警戒心が高く常にその両耳で周りの異常を探っている為、捕まえる事はなかなか難しい。

 比較的住みやすい場所を見つけると数ヶ月もしくはその場所の危険(捕食者や土地の変動など)を感じるまでは、居座るようになる。

 また、そのような場所で他の個体と出会うと、縄張り争いをせずに群として行動をとるようになる。餌を狩るもの、住処を守るもの、捕食者や環境を探るものなど、役割をそれぞれが担うようになる。それこそが軍隊と名に付けられた所以である。

 その為、単体での危険度は星一つであるが、群れでの個体数によりその危険度は二〜三に上がる事もある。


 主記 東都調査団




「なるほどな。読んだことあるはずなんだけど、ふわっとしか覚えてなかったな。しかし、こんなの読んで楽しかったのかな。結構大人向けの図鑑じゃないか?」


 確か今村で確認されている被害数は五、六件だったはず。

 それが一匹の行いなのか、それぞれ別の奴なのかで危険度は変わるって感じか。

 まずはそこから調べていかないとって所か。

 イルのやつもこの図鑑まだとってあるかな。

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