4.
畑当番の日の朝は早い。
日の出と共に家を出て、作物の様子を見に行く。
うちの村は基本的に農業で成り立っていて、各家がそれぞれに割り当てられた範囲の土地を耕して作物を育てている。
収穫物は一度村長の家に集められて商団が村を訪れた際に卸している。
村長とは言っても、もともと何かの実力者が作った様な村ではなく、ただ人が集まって今の形になっていっただけの村な為、特別大きな力を持っているわけでも無ければ、大きな家に住んでいるわけでも無い。
村長が亡くなると、村の人間全員で相談して次の村長を決めている。
商団と取引をするには村以上の集落でなくてはいけなく、また村を名乗るには村長を一人立てる必要があるからだ。
まあ、今の村長は社交性も良識もある出来た人で村の人達からも慕われているから、村で何かをする時や何かが必要になった時などに使う村の資金(作物で得た資金の為、そんなに大した額では無いが)はほとんど任せっきりになっているが、毎回何かに使うときは、集会を開いて決定してくれているので良い人選だったと皆が言っている。
とまあ、そんな訳で畑仕事は俺だけでなくこの村に住んでいれば、誰でも行わなくてはいけない仕事な訳だが、どうにもうちは他の家に比べるとその仕事量が若干多い気がするんだよな。
もちろん他の二人家族の家に割り当てられている土地とうちの土地の面積は同じであるし、育てている作物も同じ動かない種類のものなのだが、作物の成長速度が妙に早いのだ。
収穫までの期間が体感的に倍くらいの速さで育つ。
村長の所に持っていく収穫量は十分足りるし、うちで食べるにしても二人では余ってしまうので、たまにノマ先生の所に持って行っているわけだ。
それに、何故だかうちの周りで湧き土が起きる回数がやたらと多いのだ。
もともとこの辺りは湧き土が起きやすい土地でそれもあって人が集まって村になったらしいのだが、それでも起きる場所にほとんど規則性は無くどこから土が湧いて来るのかは分からないはずなんだが、何故かうちの家の床を突き破ってきた回数は昨日で三回目になる。
これは異常と言っていい回数だ。
丁度家の下で湧き土が起きた家は他にもあるが、せいぜい一軒か二軒で同じ家に起きたことはうち以外には無い。
こうなって来ると、一階部分の床板はもう張り直さなくていいのでは無いかと思ってしまう。
そもそも湧き土とは何なのかという話になるが、原理としては湧き水と同じ様なものらしい。
遥か大昔、それこそ俺たち人類が滅亡するんじゃ無いかって時に、この星に沢山の隕石が降ってきたらしい。
それが今の神石と言われているいろんな力をもった石みたいなんだが、この村の地下深くにもその一つが埋まってる様だ。
子供の頃よくみんなでそれを掘り起こそうと村中を穴だらけにしたのはいいお思い出だ。
結局見つかりはしなかったけど。
そして、湧き土が起きるということは、発生種の神石になるらしい。
絶えず神石から土中に作物の栄養となる神気が流れ出ているようだ。
雨が降って山の土の中に水が溜まり、許容量を超えると流れ出て来るのが湧き水であれば、土の中に神気が溜まり、許容量を超えると地下から土が湧き出て来るのがそのまんまであるが湧き土ということだと、ノマ先生から教わった。
当然湧いてきた土は栄養が満点なので、湧くと畑に撒かれる。
一度に湧く量はかなり多いのでご近所さんにも分けて持って行って上げている。
これは結構な力仕事なので俺の担当だ。
おかげで自分で言うのもなんだが最近ではなかなか良い体格になってきた。
まあ、俺の力を使えばそこまで大変ではないんだが、あれは身体に負担がかかるからなるべく使わないようにしている。
だからこそもっと鍛えて自力を上げようかと最近では考えてるところだ。
そんなわけで、やっとご近所さん達の家に土を配り終えて今からうちの畑にも昨日湧きたての土を撒こうとしていた時に、何故かイルが走ってやって来た。
いかにも運動着って感じの服装だ。
背中まである長い黒髪は頭の高い位置で一つに縛られていて、走るたびにその毛先が後ろで左右に揺れ動いている。
「おう、おはよう」
「やあ、おはよう。ジン」
少し息を切らしながら、垂れる汗を袖で拭いながら挨拶をしてくる。
こんな時間に何やってんだ?
「どうしたんだよこんな朝っぱらから走ったりして」
「いやね、昨日あの後ジンに言われたようにノマさんに相談しに行ったんだ」
「さっそくいったのか、流石の行動力だな。それで?」
くよくよ悩んでないで解決策があれば、さっさと取り組むのがイルの良いとこだよな。
「学校の事はなんとかなるみたいでさ、気にしなくていいって」
「それで調査員になろうって事か」
「そしたら条件を出されてね」
「ふぅん。それでその条件ってのが足を早くする事とかなわけ?」
「いやそうでは無いんだけどね。いくつかあって。そうそうこれを見てもらった方が早いな」
そう言って取り出してきた紙には、注意事項と条件がいくつか書かれていた。
‘‘注意事項’’
・何よりも無茶をしない事。自分の体を大切にする事。
・毎日の仕事は怠らない事。
・村の人には迷惑をかけない事。
‘‘条件’’
・軍隊兎を捕まえる。
・この村にある神石の場所を把握する。
・私に一撃入れる。
・次に商団が村に来るまでに達成する。
と、書かれていた。
「なんだこれ?」
「昔は運動試験なんてのもあって、それを合格しないと村を出てはいけなかったんだってさ」
「はあ?そんなの聞いた事ねえぞ。……嘘なんじゃねぇか?それにこの条件はなんなんだよ。ノマ先生村から出す気ないだろ」
「うん。まあ十中八九そうだろうね」
「おいおい、そうだろうねっておまえな」
「いいんだ。どんな無茶な内容だってこの条件さえ達成できれば許可してくれるとノマさんが言ったんだ。そこに嘘は無いはずだからね」
「そうは言ってもお前これは」
こんな朝っぱらから何してんのかと思ったらそういう事だったわけか。
まずは体力作りってとこか。
それにしてもノマ先生もまた回りくどい事考えたな。真っ向から反対しても言い出したら止まらないイルの事だから、無理難題ふっかけて止めようって訳か。
それに対して真正面からどうにかしようって所もイルらしいけど。