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1.

 朝、起きるとそこは…




 いつもと変わらない自分の部屋だった。


 夏は風通しが良いが冬になると隙間風が寒くて仕方ない所々補強された天井や壁。

 書籍よりもどこからか拾い集めてきた石ころやら標本にした昆虫ばかりが並ぶ陳列棚と化している本棚。

 元々寝る広さぐらいしかないとは言え、机の上から床まで足の踏み場も無いほど物が散乱しギリギリ寝床のスペースだけがあるそんな部屋。


 そのどれもが昨日寝た時と何ら変わりは無かった。


 そろそろ少しは片付けないと床が抜けるって母さんに怒られたばかりだし、手を付けようと思いつつも結局昨日も寝ちゃったな。



「ふぁ〜」



 ひとつ大きなあくびをしながらむっくりと起き上がると、器用に物と物の間を歩いて窓を開ける。

 この部屋にひとつだけある小さな小窓を起きたらまず開けるのが俺の日課だ。


 外から鳥の鳴き声が聞こえてくるな。

 今日もいい天気そうだ。



「うん。やっぱりいい天気だ」



 開け放った窓から覗く景色は例に漏れず、いつもと変わらない景色が広がっていた。


 青い空、白い雲、連なる山脈と鬱蒼と茂る木々。

 庭に植えてある低木に小鳥達が止まり、朝の挨拶でもしているのかチュンチュンと鳴いている。


 家が何軒か建てられる程の大きさの畑を挟んで家が建ち、また畑を挟んでといったように、ぽつんぽつんと数軒の家と畑が交互に並んでいる。

 まだ日が出たばかりではあるがすでに畑仕事に精を出す人々もいる。

 自給自足が基本の生活であるこの村の当たり前の風景だ。





 そして、人を乗せて飛ぶ大きな鳥や、一目では大きな岩が動いているのかと勘違いしてしまいそうな大きさの亀、全身が毛で覆い尽くされ大きな毛玉のような牛など、数多の生き物達で溢れるいつもと変わらない景色だった。





 ーーーーーーーーーー


「母さん。おはよう」


「おはよう。ジン。畑当番でも無いのにこんなに早くからどうしたの?」



 部屋から出て下へ降りていくと、母さんが畑の世話から帰って来て朝御飯の支度を進めていた。



「どうしたのって、今日からは畑当番の日は朝御飯は俺が作るから休んでいいって昨日決めただろ?」


「そういえばそうだったかしらねぇ?ちょっといつもより早く起きちゃったから流れで作っちゃったわ。まぁいいじゃないの。もうすぐ出来るから顔でも洗ってらっしゃい。頭もボサボサよ」


「無理しないでよ?」


「はいはい。じゃあ明後日からはそうさせていただきます」



 俺は、この家で母さんと二人暮らし。

 父さんはもともと仕事の関係でほとんど家には帰ってこない。

俺が最後に見た父さんの記憶は5、6才の頃だろうか。

もう顔もしっかり思い出せないほどだ。

いったい次はいつ帰ってくるのか。


 だから母さんは女手一つで俺を育て上げてくれたと言ってもいい。

 小さい時は、その大変さとか全然分かってなかったから我が儘ばっか言ってたけど、ちょっとずつ恩返し出来たらなと朝飯も作ろうと思ったんだけどな。



「でも、嬉しかったわよ。あんたがそんな事言ってくれるなんてね。いつまでも子供だと思ってたけど、知らないうちに大人になってるのかしらね」


「いや、まぁ」



 なんだかんだ話しながら、出来立ての朝御飯が食卓に並べられていく。



「はい。じゃあちゃちゃっと食べちゃって」


「いただきます」



 これもいつもと変わらない味付け。

 やっぱり美味い。



「あぁ、そうそう。今朝いっぱい採れたから学校行くとき一緒に持ってって。外に袋に入れて置いてあるから」


「へいへい」



 畑で育てた作物は、一定量を村に納品すればあとは家々で好きにしていいようになっている。

 家族で食べてしまったり、加工して商団が来たときに自分で売り込んだり、家畜の餌にしたりといろいろだ。


 うちは、二人しかいないから食う分には困らないし、売り込んでお金を稼ぐ必要も特には無いから、余ってしまう分を学校に持って行っているのだ。



「そういえば、最近はイルちゃんとはどうなのよ。昔から可愛い子だったけど、最近はちょっと大人っぽくなってきてますます綺麗になってきたじゃない?進展はないの?」


「ぶっ…な、なんで急にその名前が出てくるんだよ。進展も何もそもそも最初から何も無いよ」


「あらそうなの?母さんてっきり」



 ニヤニヤ笑いながらこっちを見てくる。

 狙った獲物は逃がさないって顔だ。



「ごひほうはま!いっれきまふ!」


「そんなに慌てなくてもいいのに」



 こういう時は逃げるが勝ち。

 残りのご飯を一気に掻き込んだせいで上手く喋れない。


 時間的にはちょっと早いけど、頼まれた荷物もあるしもう学校に向かおう。

 必要な物だけ取りに部屋に戻るとそのまま家を出た。





 ――――――――――


「よっと。本当に大量だな」



 俺の体がすっぽり入りそうな袋いっぱいに野菜がつめられている。

 日々の畑仕事で鍛えているけど、これだけあると流石にちょっと重たいな。

 まぁゆっくり行こう、まだ時間も早いし。


 うちから学校までの道のりはずっと平坦な道が続いているだけだし、ほとんど真っ直ぐだ。


 学校がちょっとした丘の上に建っているからそこだけ坂道だが、そんなに大したものじゃ無い。

 春になるとちびっ子達が、坂に生えた雑草の上を木の板に乗って滑る遊びをしているくらいだ。


 ただ、うちが村の中では一番街道に近い場所に建っているので学校だったり集会所や診療所なんかが集まる中心からは一番遠い事になるわけで。

 それを毎日歩いて通い、時には今回みたいに大量の野菜を担いでいたりもするものだからなかなか足腰が鍛えられるんだよな。

 別に嫌ってわけじゃない。

 やっぱり男たるもの筋肉はあってこそだしな。


 それにそこに家を建てることにしたのは、父さんが家に帰ってくる時に少しでも早く家族の顔を見られるようにと思って母さんが決めたらしい。


 あんまり父さんの記憶はないけど、それには俺も賛成だ。

 きっと帰って来た時にはいっぱい可愛がってくれてたんだろう。

 母さんは俺が小さい時の父さんとの話をする時いつも楽しそうな幸せそうな顔をしているから。


 学校までの景色はほとんど代わり映えが無い。

 道を挟んで左右には畑が広がっていて、植えられている野菜などの植物の種類が違っていたり、村から与えられている畑の大きさによって家の建つ間隔は変わっているが、畑と家が建っているという景色がずっと続いていることに変わりはない。


 村人全員が農業をやっているわけではなく、農具の整備や製造をしてくれる鍛冶屋や酪農を行う人もいる。

村の中でのやりとりは基本物々交換が主体になってる。

稼いで大金を持っていても使うところもないしあんまり意味ないからな。


 村の周りはぐるっと山や森林に囲われてて街道に接するうちの近くだけがひらけている様な感じだ。

 その山や森林からは良く野生の動物なんかが顔を出すこともあって、この前も畑に被害が出たって言ってたな。


 まあ俗に言う典型的な田舎ってのが、このズミ村だ。


 いつもと変わらない風景を見ながら歩いてたら学校も見えて来た。

 遠くからちびっ子達の声が聞こえてくる。

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