第九十九話【しつこい剣に嫌悪する鳳華音】
緊迫した試合展開、怒涛の斬撃の応酬!
…かと思いきや、何処か抜けた会話もする美鈴です。
…いえ、これが何時も通りの平常運転でしたね。
高原に突風が吹いた。
ヒュオッと捲き上げられた枯れ草が宙を舞う。
ジャッジ役の教員が魔法眼鏡で双方に不正が無い事を確認、問題無い事を告げる。
すると次の瞬間、スリーカウントのカウントダウンがスタート。
『三、二、一…。』
『始め!』
ズザッ!
向かい合う両選手がそれぞれの剣を構える。
「まずはそちらからいらしてくださいな。」
「何をおっしゃいますか?下級生の方から来るのが礼儀というものです。」
「それではお言葉に甘えまして…。」
美鈴が姿勢を低くした。
彼女の足元が僅かに光る。
そして次の一瞬、彼女の姿が消えた。
ガシイッ!!
互いの剣が火花を散らしてぶつかり合った。
「…やりますわね、この一撃を初見で受け止められるとは…。」
「フフフ、これが威合斬とやらですか…」
「なるほど、噂に違わぬ速さと鋭さ…中々の剣でございます。」
鳳華音の剣が少しだけギリギリと押し込まれている。
彼女、強がってはいるけど結構手が痺れたらしい。
「あら知っておられたのですか?しかしこれを止められるとは相当な実力者、さすがは北学院の代表選手だけの事はおありですのね。」
「…ど、どういたし…まして…!」
不敵な笑みを浮かべ合う両選手。
「では、お次は素敵な技を見せてくれたアナタへと私から返礼させていただきます。」
「ええ、是非見せて下さいな?」
ガイン!
二人は剣を払い、再び距離を取る。
(はー、何とか体裁保てたけど危なく秒殺負けになるところでした…それに何て馬鹿力なんですかあの方は!)
鳳華音は小さく舌打ちをし、背後に回した方をフラフラと振って痺れの回復を待った。
美鈴は霊斬剣を正眼に、中段の構えを取る。
(これは少しこちらも本気を見せねばなりません。)
対して鳳華音は下段、それも大きく後ろへ剣を構えた。
(あんなに剣を後方に…)
(テイクバックを大きくして全力で剣を叩き込む姿勢…?)
美鈴はその構えに想像を働かせて華音の一手を読もうとした。
「鳳流…。」
チャキッ。
鳳華音が下側に向けていた刃の向きを上へと変えた。
そして彼女は目を閉じる。
「………旋風の舞っ!」
スパスパスパッ!
軽く三回剣を振っただけだった。
それなのにその斬撃は離れた美鈴を襲った。
(くっ!)
ガキガキガキッ!
辛うじてこれを防ぐ美鈴。
鳳華音はまだ目を閉じたままだった。
しかし追撃は無かった。
「今のは…『気の力』ではありませんし魔力でも無い…一体何が…?」
美鈴は初めて味わう攻撃に戸惑った。
「別に不思議なモノではありません…技を磨き心を鍛えれば可能となる、それが鳳流派の技術。」
鳳華音が目を開いた。
「今のもその技術の一つに過ぎません。」
戸惑っていた美鈴だったが鳳華音の温かみのある瞳を見た時、その戸惑いは尊敬に変わった。
「…凄い…凄いですわ、鳳さん!」
「さっきの技も凄いし語る言葉も深い…けれど。」
「アナタそのものが素晴らしいですわ!」
「ウフフ…褒めても何も出ませんよ?」
鳳華音は美鈴に褒めちぎられて少し嬉しそうだった。
が。
「そんな事言わず次の技を繰り出して下さいな?」
「その尽くを私が全部受け止めて差し上げますからぁ♪」
美鈴はこの強敵を前にウキウキしていた。
「何せ私も剣仙の称号を貰った端くれ、剣の勝負で負けるわけには参りませんわ!」
ニヤリと不敵に笑う美鈴。
「さあさ、遠慮なさらず幾らでもかかっていらして下さいな?」
………カチン☆
その様子を小馬鹿にされたと感じたんだろう、鳳華音は少し癪に障ったような表情になった。
「…これはこれは…減らず口をどうもありがとう…?」
鳳華音はヒクヒクしながら今度は長剣を頭上に振り上げた。
そしてダッシュで飛び掛かる。
「ふん!」
ズバズバズバズバズバッ!!
今度は特に大技とは思えない。
ひたすら上段、中段、下段から斬撃を見舞い更に突き。
それらを高速で一連の斬撃として組み合わせる。
切り込む高さや突き技はその都度組み合わせを変えた。
(ロングソードで一撃必殺の剛剣かと思いきや、まさかの連撃とは…!)
美鈴はこのラッシュをひたすら防ぎ防戦に徹した。
(しかし…このラッシュはいつまで続くのでしょうかね…?)
それから約三分間もの間、ラッシュは続いた。
互いの剣は魔法で強化されてたらしく刃こぼれ一つしてなかった。
…ただ…。
「ゼエゼエ…。」
「あらあら、肩で息をされてますわよ?」
美鈴が涼しい顔で鳳華音を小馬鹿にする。
コイツはあまり動かずただ防いでただけだから体力の消耗が無いのは当然だな。
「し、しぶといですねアナタ…。」
反対に鳳華音はさっきまでのラッシュのせいかすっかり体力を消耗していた。
「…さあ、今度は貴女から来なさい?」
鳳華音は剣を水平に構えた。
「では…。」
対して美鈴は中段に剣先を突き出す。
「再びお言葉に甘えまして♪」
ズバッ!とダッシュする美鈴。
今度は威合斬とは違って純粋に脚力だけで駆け出した。
「しゅばばばぱばーっ!」
擬音を口にしながら楽しそうに剣で突きの連撃を見舞う美鈴。
「く、な…なんっ…、とっ、…おっ…たっ!…はっ…?」
鳳華音は何とかこれに食らいついて防ぐ。
大したもんだ、あの剣速に付いてこれるとは。
しかし一分経過すると防ぐよりバックステップで躱すようになって来た。
さては剣を持つ手がさすがにもたなくなってきたんだろうな。
「あ、あな、アナタ?いつまで…続ける…気です、かっ?」
「はい、先ほど鳳さんがやられたのが三分間連撃でしたので、私はその倍の六分間くらいはと…。」
「せ、せめて同じ三分くらいにして!」
「わかりましたわ、ではあと二分…。」
「や、やっぱりダメ、三十秒にして〜!」
鳳華音がたまらず叫んだ。
「ええー?それじゃ面白味に欠けるのでは?と思うんですの。」
「それってアナタが面白いだけじゃなくて?!」
鳳華音はややキレ気味だった。
「何だかお嫌そうですわね、ダメですよ好き嫌いは?」
「好き嫌いの問題ですかー?!」
叫びながら美鈴の剣から逃げ続ける鳳華音。
まあ、こうなるだろうとは思ってた。
魔法についてはまだわからないが剣の技術についてはいい勝負にはなるかもと思いはしたけど…。
…しかし技量が近くても純粋に剣と剣との勝負となれば結局はフィジカルがモノを言う。
幾ら他学院代表とは言えど、美鈴にフィジカルで勝てる相手なんてそうそう居ないだろうからな。
鳳華音もかなりのフィジカルの持ち主なんだろう、それに身体強化魔法も使ってるに違いない。
なのに美鈴に力では競り負けてしまう。
実のところさっきの攻撃で美鈴からは何の魔力も感じられていない。
強いて言うなら剣と肉体の防御力を魔法アップしてるが、攻撃に関しては純粋に筋力だけで戦ってる。
たまに、それも何度となく思うんだが、コイツ本当は聖霊の仮面無くても別に困らないんじゃないか…?
実力バレの危険があるので悪目立ちしない意味でも聖霊の仮面を持ってるハズなんだが。
それも白百合のプリンセスが単独で実体化してしまったのでそれ以来は他の三人の仮面の剣豪達の出番すら無い。
白百合のプリンセスが本来の力を出せない状態だけど、それも美鈴と二人で力を合わせれば結構何とかなってしまった。
これまで以上の本格的にヤバい相手でも出てこない限りは他の仮面の剣豪達はこのまま開店休業状態が続きそうだ。
………さて試合の方だが。
「…どうしました?もうおしまいですの?」
片膝を着いてる鳳華音に残念そうに美鈴が言う。
「…まるで化け物ね、アナタ…。」
ゼイゼイと息を荒げていた鳳華音は深呼吸をして息を整えていた。
勝負なんだからこの隙を逃してはならないんだけど美鈴は親切?に待ってあげてた。
(卑怯な真似で勝っても後悔するだけですわ!)
でもソレで負けたらそれはそれで後悔の材料になるんだけどな。
「フ…フフフ…アナタに合わせた戦いをしようと思った私が愚かでしたわ…。」
鳳華音が不敵に微笑った。
(あ、何かヤバそうなお顔されてますわ♪)
(散々挑発して来たのがやっと功を奏したようですわね?)
…あ、やっぱり挑発してたんだな。
美鈴はゾクッとするどころか、寧ろ期待でウキウキしていた!
「やはりアナタには私のスタイルで本気を出した方がよろしいようですね…。」
鳳華音が剣を両手で握る。
するとその剣は二つに割れ、双剣に変化した。
更には彼女の背後から魔力のオーラが。
「さあさあ、是非本気を見せてくださいな、どんな攻撃が来るのか楽しみですわ!」
美鈴が唇をペロリと舐めた。
今度は鳳華音が美鈴を挑発して来た。
「そうやって舐めてると痛い目を見ますよ…?」
「あらそうですの?」
「まあ確かにこれで舌を噛んだら痛いですものね、唇舐めるのは自重致しますわ。」
「その舐める、じゃありませんよ…。」
鳳華音はジト目になった。
次の瞬間、鳳華音の腰で
「ジャラン!」と音が鳴った。
武での勝負は不利と判断した鳳華音、何やら奥の手でも仕掛ける気でしょうか…?




