第九十四話【乱入者達を迎え討て!駆け付ける白百合のプリンセス!!】
泣き止まない土門をあやす羽目になる美鈴。
その一方で何やら良からぬ動きが…?
「ビエン、ビエエ〜ンンン〜〜ッ!!」
なかなか泣き止まない土門竜。
「困りましたわねえ、これでは試合が始められませんわ。」
美鈴は頬に手を当てて途方に暮れてしまった。
そこへ風魔法による放送が。
『ええー、只今試合開始予定時間から三分が経過が経過致しました。』
『このまま後一分間、土門選手が泣き止まない場合は試合放棄と見なし美鈴選手の不戦勝と致します。』
「た、大変ですわ!」
「土門さん大変でございます、このままですと貴女は不戦敗にされてしまいますわよ?」
「うっ、うっうう…でもでも、闘姫さんに会えないんじゃ…。」
美鈴は丸めた手をポンと叩いた。
「ん〜、ではこう致しましょう!」
「私に貴女が勝利された場合、私が貴女と闘姫さんと二人でお茶する機会を与えますわ。」
土門はこの美鈴からの提案にピク…と反応した。
「…もう一声。」
「は?」
「うっく、う、ううう…もっ、もっと何か…ご褒美いいい〜。」
嗚咽を繰り返す土門。
「え、え〜とぉ、そうですわねえ〜。」
(あ、後で闘姫さんにお願いしときませんと!)
だが美鈴はまだこの時気付いて無かった。
土門の要求が更にエスカレートしてゆき、そして闘姫がそのお願いに応えた結果、美鈴もまた闘姫から多大な要求を突きつけられるということに!
この負のスパイラルに美鈴が巻き込まれようとしたその時!
ピカッと遠くの森の方が光った。
「!」
「…それでねえ、どうせならぁ、闘姫さんと二人きりでぇ…。」
美鈴が言う事を聞いてくれそうなのをいい事に土門がもっとヤバイ要求をしようとしていた。
が、
「伏せてっ!」
美鈴は咄嗟に土門の頭を掴んで地に伏せさせた。
「ぶっ?!」
美鈴は加減したつもりだったが勢いがあったせいか土門の顔面は思い切り地面とキスさせられる結果に。
次の瞬間、ヒュン!と飛んで来た矢が二人の居るより二メートル先の荒れ地に突き刺さった。
更に押さえつけられてる間、土門はフゴフゴと顔を動かし身体をジタバタさせていた。
「ふぶっ、ふごっ、ふがっ…?」
「しっ!静かに…。」
美鈴は耳を澄ませて神経を集中させた。
「あの遠くの森から気配を…視線を感じますわ…。」
(そう言えば最初気配を感じたのは遠くの森から…近い方の森から土門さんが出て来たせいか彼女から出ていた気配とすっかり勘違いしてしまってましたわ…。)
そうして美鈴が様子を伺っていると。
ガサガサ…。
遠くの森の木々がざわめくと、そこからフワリと二人の人影が飛び出してきた。
一人は弓を、もう一人が剣と盾を手にしていた。
「しくじったな、」
「まさかこの私の無音之矢を躱すなんて…。」
ゆっくり近寄る謎の二人。
真っ赤なコートと真っ赤な覆面。
見るからにマトモな相手とは言えなそうだ。
美鈴は咄嗟に土門から離れて立ち上がるとこう言った。
「防御結界発動!」
それを聞いた伏せたままの土門からは
「ふえ?」
と一言洩れた。
次の一瞬、ガラスのドームのようなモノが土門とその周辺を覆ったのが見えた。
まるで一人用のドーム型テントみたいだ。
「土門さん、すみませんがソコでじっとしててくださいな?」
「ど、どういうことですのん?」
「事情は私があの二人をとっちめてから聞いてくださいな!」
それを聞いた二人組はクスクスと笑った。
「聞いたかい?我々をとっちめるだって。」
「随分と大層な自信だよねえ?」
「お黙りなさい、今から大事な貴族学院高等部対抗戦が始まるというのに何故邪魔するのですか?」
ピッ、と剣先を二人組へと向ける美鈴。
「怪我したくなければ早々にお帰りなさい!」
「フフフ…そんな刃を落とした試合用の剣如きで我々に勝負を挑むツモリなのか?」
…………緊張の睨み合いが続く試合会場。
そしてそれを見ている各学院の全員がザワつく。
「一体どうなってるんですの?」
「早く警備兵を派遣すべきです!」
「あの赤い変装の二人組は一体誰?何なんだ?」
どこの学院も生徒だけでなく教職員までもが混乱していた。
ここで一番現場に近い中央貴族学院の学院長代理が決断を下した。
「と、とにかく我々中央学院から教員を派遣して選手の身柄の安全確保を…。」
「し、しかし如何に我々と言えどもあの場所に到着するまでは有に一時間は…!」
普通、身体強化魔法を用いてもせいぜい一般道を制限速度で走る自動車に及ぶか?という程度。
しかもこの世界は中世ヨーロッパより進んでいるとは言え道路の整備状況は俺と前世の美鈴が住んでいた世界とは比べ物にならない。
都市部は辛うじて石畳みで舗装されているものの、それ以外となると整備されてると言えるのは主要幹線道路程度で。それも全線舗装まではいかない。
ほとんどが砂利すら敷き詰められていないし、雨でぬかるんだりデコボコも多い。
馬車での長距離移動も難儀する箇所が多いのだ。
美鈴が子供の頃に比べれば色々大分良くなったものの、水道以外のインフラはあまり行き届いていないのがこの大陸の現実だった。
「ん〜、しかし…。」
学院長代理は苦慮した。
「学院長代理、私に考えが…。」
コッソリ学院長代理に耳打ちするのは范先生だった。
「…なるほど、ではお任せして良いですか?」
「では、許可を得たと言う事で…。」
范先生は一年生の集まりへと向かった。
…が。
「闘姫さんなら赤い二人組が現れた途端に血相を変えて飛び出して行かれました。」
范先生からアミュレットによる転移魔法を打診された芽友はそう答えた。
すると范先生は「あちゃー。」という表情をしたのだった。
「なんてこった、自力で向かったのか…。」
「どうされたんです?」
「いや、転移魔法なら一瞬で現地に行けるから。」
「…多分大丈夫ですよ、それより他にもう一人連れて行かれては?」
「う〜ん…。」
少し考えた范先生だが。
「…やはり、アイツしかいないか。」
「すまんが芽友君、力を貸してくれ。」
「わかりました、緊急事態ですから。」
「芽友気を付けてね?」
「芽友、お嬢様を頼みますね?」
明花と愛麗に見送られ、芽友は「行ってきます」とだけ答えた。
こうして范先生は芽友を連れて、先ずは二年生の集団へと向かうのだった…。
そんな状況の中。
「ふん!」
「はあっ!」
キン、キン!
既に現場では美鈴と赤福…もとい赤服の女が斬り合いを演じていた。
そして時折もう一人が援護で放つ無音之矢を気配で察知して躱す美鈴だった。
「す…凄い…。」
結界の中で土門は素直に感想を洩らした。
自身もつい最近、闘姫と激しい剣戟を演じたばかりなのだが、それを差し置いても見劣りしない攻防が彼女の目の前で繰り広げられていたのだ。
「くっ、このコ中々やるわね!」
「我々の高速之刃と無音之矢の連携攻撃をここまで躱すとは…!」
二人組は美鈴を正直甘く見ていた。
ポッと出の一年生如きが一人で相手など出来るワケが無いと。
だがこの二人組の目の前にいるのはタダの生徒では無い。
八大武家長女にして実力はその両親に迫ると噂される御息女なのだ。
しかも両親は剣と魔法それぞれのどちらかに特化しているのだが、美鈴は剣と魔法どちらも両親に手が届く域に達している。
つまり彼女が本気を出せば総合力では事実上の国内一かも知れないのだ。
そんな鬼神の如き化け物を相手にしているとは流石に赤服の二人組は夢にも思わなかったに違い無い。
なんせ目の前に立ちはだかっているのはそれこそ黙ってさえいれば、じっとしてさえいれば壁に置かれたお人形のようにも見える美少女なのだから。
その細身の身体からは目にも止まらない速さで剣を振り、二人組による攻撃の悉くを粉砕する。
尚且つ流麗な動きは美しささえ彷彿とさせる。
白百合のプリンセスのような高貴さには一歩劣るが、それでも可憐さでは引けをとらない。
…改めて見ると、美鈴も結構可愛いんだよな…。
戦いで見せる凛とした表情は清楚なお嬢様って雰囲気だし。
剣捌きもまだ入学したての頃に見られた雑さが影を潜め優雅な舞いに近くなってる。
これは恐らく白百合のプリンセスとの稽古の成果か。
無断や隙を削ぎ落としながらこれだけの動きが出来るのには驚嘆した。
白百合のプリンセスがいなければ…というか、正直中身がアレと知ってなければ危うく惚れちまいそうになるほどだ。
アレが中身で無ければ多分白百合のプリンセスそのものな中身になってだろうに、実に惜しい。
ああ〜、かつてのゲーム時代の美鈴だったらなあ。
(………何を、人が一生懸命戦ってる時に、色ボケておりますの?!)
あれ、どっからか心の声が洩れたかな?
【すまんすまん、ところでその二人組…。】
(やはり貴方もそう思われますか?)
【うん、元のゲームのままならその身なりは…。】
そこまで俺達の会話が進んだところで。
『待ちなさい!』
【お、この声は…。】
「あ、貴女は!」
三人…いや結界に囲まれた土門を含めると四人か。
その彼女らの前に五人目の存在が空中からスタッと降り立った。
『私は仮面の剣豪、聖錬潔白。』
『またの名を、白百合のプリンセス!』
ピッとレイピアを正面へと突き出す白百合のプリンセス。
「美鈴さん遅くなりました、助太刀致します!」
「ありがとうございますですわ!」
さて、始めて白百合のプリンセスを見た二人組の感想は…。
「な、なんなんだこの金ピカ仮面は?」
「そんな格好恥ずかしくないの?」
いや、真っ赤っかなテメーらも充分恥ずかしい格好だと思うが…。
そして白百合のプリンセスを見た土門の感想はと言うと。
「か…カッコイイ…♡」
ポーッとなっていた…。
試合開始前の美鈴達を襲った二人組の正体とは?
そして駆けつけた白百合のプリンセス。
それに土門竜は一目惚れ?
大荒れの学院対抗戦!




