第九十話【王都で出会った?西の珍客】
美鈴は学院対抗戦の前に以前の仲間達との約束を果たすため日帰りで王都に出向く事に。
そこで意外な出会いが。
今回が今年最後の投稿となります。
本格的な秋が到来する10月。
学院代表選抜戦の余韻も収まる頃、いよいよかく貴族学院代表同士による対抗戦の開始が近付いていた。
………が、その前に。
「中間試験〜?」
美鈴が気の抜けたような声を出した。
「そう言えば…そんなモノもございましたわね。」
まるで他人事のような物言いだ。
「お嬢様は試験勉強しなくても上位の成績取れるからそんな事言えるんですよ〜。」
愛麗がブツブツ言いながら芽友と食堂のテーブルに教科書を並べて何度も読み直していた。
「すると…皆さん全員試験勉強の真っ最中でございますの?」
明花、陰潜の一年生組は言うに及ばず、二年生の多彩蜂までもが試験勉強に勤しんでいた。
「まあ、みんな大変よねえ?」
「お嬢様、少しは我々も勉強致しませんと…。」
「何だか三年生組は余裕そうでございますわね?」
安月夜と依然の二人はあまり慌てる様子も無かった。
「だって、もう今までの成績からして卒業出来ないなんて事はありませんもの。」
「そうですね…しかしそれよりお嬢様の場合、まだ新たな生徒会役員が決まらず勉強や卒業すら上の空でございますから…。」
「あ…。」
その依然の言葉に美鈴達一年生組と二年生の多彩蜂はギクッとした。
「どうせなら一年生の頃から生徒会に入れておけばそのまま卒業まで…と行けるし、二年生なら生徒会長に抜擢するのに丁度良いわよね、依然?」
「そうでございますね、お嬢様。」
月夜と依然の二人がフフフと笑う。
ガタッと美鈴が席を立つ。
「わ、私、やはり自分の部屋でちょっとは試験勉強しようかと思いますわ?!」
「そ、そうですね…。」
「確かに自分の部屋の方が集中できますよね…?」
「愛麗、後は一人で頑張って下さいね?!」
「わわ、わっかりましたー!」
「みんな帰るなら私も…。」
「そ、そうだな?じゃ陰潜また明日な!」
みんなゾロゾロと自分達の部屋へも戻ってゆく。
「あ〜ら、皆さんそんなに急がなくても…。」
パラッ。
月夜の手の平には一枚の紙が。
「もう既に学院長代理に美奈さんを新生徒会役員として申請してありますわよ。」
【【【【【【【エエエエエ?!】】】】】】】
「今年は誰も立候補しないから学院側が強権発動しましたの。」
「あの、お嬢様を恨まないで下さいね?」
「このまま新生徒会が発足しないままだとお嬢様も私も卒業出来ないので本当に困っていたのです。」
「そういう事。」
「だから皆には悪いけど他に適任者もいない事だし…お願い致しますね?」
月夜と依然から頭を下げられた七人は仕方なく受け入れるしかなかった。
「まあ…私は少し躊躇はありましたけど他に部活動しているワケでも無かったので一応生徒会に入る事も考えてはおりましたし…。」
「ですので、そこまで言われて断る理由はありません。」
白百合のプリンセスこと闘姫は月夜からのこの無茶ぶりを受け入れる事にした。
「なので皆さん、力をお貸し願えませんか?」
邪気の無い彼女からそう言われたら断る事も出来なかった。
「…仕方…ありませんわね…。」
美鈴がそう言えば、最早反対意見など無かった。
で。
「私が次期生徒会長というのは決定事項なワケ?」
「次期というか、もう今の時点から貴女に決定よ。」
「ウソ〜ん?!」
ムンクの叫びのように顔を両手で挟んだ多彩蜂が叫ぶと、皆が大爆笑した。
……………………。
そんな風に美鈴達がなし崩しに生徒会入りされられ更には中間試験という難関を突破したその先に、ようやく貴族学院対抗戦が始まるのだった。
そして対抗戦を数日後に控えたある日の美鈴の部屋では。
…………。
「愛麗、今回の中間試験はちょっとは成績上がりましたか?」
「ええお嬢様、手応えバッチリです!」
「あれだけ芽友さんに手伝ってもらったのだから成績上がらないと嘘ですわよね。」
「エヘヘへ…本当、芽友様々です♪」
「ではお返しにデートにでも誘ってあげてはいかがですか?」
「もうとっくに約束してます!」
「そ、そうですの…。」
愛麗がかなり積極的なので面食らう美鈴だった。
そして。
(あ、愛麗は彼女との仲が進展してるようですわね…。)
彼女なりにヤキモキしてるようだ。
明らかに美鈴は焦りを感じてる。
(こ、これは私もノンビリしていては主人としての面子に関わるのでは…?)
と、ここでハッと気が付く美鈴。
(…て、何を考えてますの私は?)
(危ない危ない、危うく女の子同士でくっつこうなんて考えてしまうトコロでしたわ!)
いや、この世界では女しかいないからか女の子同士か普通に結婚してるんだが…。
「あ、そうでした!」
ポン、と手を叩く愛麗。
「今回は試験明けという事もあり久々に皆で王都へ羽根を伸ばして来よう、という話しになりまして。」
「あら、二人だけのデートじゃありませんでしたの?」
「何言ってるんですかお嬢様?」
「以前王都に出掛けて時の約束、まさかお忘れになられたとか…?」
「…はて…以前の約束とは、何でしたかしら?」
この美鈴の反応に愛麗はプンスカした。
「もーう、私達にお揃いのプレゼント買ってくれるっていってくれてたじゃないですか!」
「お揃い…………。」
「…………、…あ。」
(そ、そ~言えばそーでしたわあ〜?!)
【以前、王都にある月夜の実家に招かれた時にそんな事もあったな。】
【確か美鈴と明花が色違いでお揃いのハリセンを買ったらみんなから羨ましがられたっていう…。】
(み、みなまでおっしゃられないで名尾君?!)
美鈴が真っ赤な顔して両手をブンブン振り回しながら恥じらっている。
【うんうん、とても前世では男だったと思え無いくらいに見事な女性っぷりだ。】
(ぜ、前世の部分だけは余計ですわ!)
まあ、少なくとも俺以外の目から見れば充分女性として見えるだろうな…等と余計な一言は本人の耳には入れないでおこう、そう思う俺だった。
「お…思い出されましたか、お嬢様?」
「え、ええ…あれは一時の気の迷いでしたわ…。」
「…何かおっしゃいましたか?」
「コホン、空耳でしてよ愛麗?」
(とは言え、やはりここは同行しないと後々面倒になりそうですわね…)
「…ん?」
「どうなさいましたかお嬢様?」
「あの…愛麗達のデートに同行するという事は…私も誰かとデートする、という事になりますの?」
「当然じゃありませんか?今回はその意味で范先生には仕方なく諦めてもらいましたけど。」
「あ…後が怖そうですわ、それ…。」
「で、私は果たして誰とゆけばよろしくて?」
「決まってるじゃありませんかあ?!」
何を今更、と愛麗が大袈裟に驚く。
「明花様と闘姫様がお嬢様のデートのお相手にございます。」
「ああ、そうでしたの?」
「心配しましたわ、明花さん一人だけだとそのままくっつけられてしまいそうでしたから…」
「…じゃ、なくて!」
「わ、私だけデートの相手が…ふ、二人もお?!」
これには俺も驚いたな。
「私達も正直困惑したんですけど…。」
愛麗が言うには、どうも明花と闘姫のどちらかだけを美鈴のデート相手に決めてしまうとドッチにしても角が立つらしい。
「なので、それならばいっそ美鈴お嬢様に二人とも相手してもらえば取り敢えず問題解決、となるのですよコレが。」
「いえいえ…それ問題解決どころか先延ばしなのでは?」
「そう思うなら、お嬢様が早くどっちか一人を選らんじゃえば済む事でございますよ。」
「まあどっちにしろ私はお嬢様に選んでいただけないのですけど…クスン。」
「アンタには芽友さんがいらっしゃるじゃありせんかーっ!?」
すかさず美鈴が明花とお揃いのハリセンで愛麗の頭をスパァン!と叩くのだった。
ふとそのハリセンを見つめる美鈴。
(これが…明花さんと私の初めてのお揃い…。)
「?お嬢様ぁ、頬が赤いですよ?」
「ん?んなワケありませんわっ!」
すかさず否定する美鈴だった。
かくして翌日早朝、お馴染みのメンバーで王都へ出掛ける事に。
今回は范先生の代わりに姫が美鈴、明花の二人に同行することに。
そして多彩蜂と陰潜も今回から美鈴一行の仲間に加わる事に。
多彩蜂は新血脈同盟のメンバーの疑いが残っていたのだが、それは安月夜が直々に本人の口から確認をしたところ、否定された。
今回は安月夜の実家への招待では無い為、前日彼女の実家から回して貰った馬車を使っての日帰りとなる。
かくして総勢九名、3台もの馬車によるお出掛け大移動となるのだった。
そして馬車に乗り込む前に美鈴がこんな一言を。
「皆さん、前回の二の鉄を踏まないように食欲はセーブ致しますわよ。」
と美鈴が言うと。
「皆さんは前に王都に出た時何かあったのですか?」
何気ない闘姫からの問いに皆は苦笑いしていた。
先頭の馬車には美鈴、明花、闘姫。
真ん中の馬車には安月夜と依然、
一番後方の馬車には愛麗、芽友、多彩蜂、陰潜が乗った。
朝早く出発したので午前中には目的の買い物を済ませ、全員でお昼を食堂で食べてからゆっくりと帰路に着く事が出来た。
王都の門の手前に付けてある馬車までやって来たメンバー達。
「コレで皆さん文句はございませんわよね?」
皆がそれぞれ思い思いにお揃いの品を美鈴に買って貰えたのでホクホク顔だ。
「いやあ、流石は代表選抜戦優勝者の美鈴だね!よっ、太っ腹!」
多彩蜂も陰潜とお揃いのリストバンドを買って貰えてご機嫌だ。
(てゆーか、本来なら優勝者の私こそお祝いしてもらう方じゃありませんの?)
【………気が付くのが遅い!】
(そ、その通りですわね…。)
「美鈴さん、今日はありがとうございます。」
闘姫は美鈴とお揃いのティーカップを買って貰えて嬉しそうだった。
「あ、私もありがとうございますね?」
明花もまた美鈴とお揃いでティーカップを買って貰えた。
つまり三人でお揃いとなるわけだが…まあ本人達が納得してるならいいか。
一方で月夜と依然は美鈴に「私達はいいわ。」と辞退した。
おかげで美鈴の財布は何とか持ちそうだ。
(ヤレヤレ…どうにか今月のやりくりは出来そうですわね…。)
幾ら高名な貴族とはいえ小遣いに関しては厳しくキッチリしているのが美鈴の実家だった。
「それでは皆さん、お帰りに…。」
『どあーっ?!』
いきなり後ろから声をかけられて振り返る美鈴。
「どなたですの、騒々しい…。」
「あ。」
「どわーっ、ですわあー?!」
今度は美鈴の方が騒々しい声を上げた。
「あ、あな、貴女は…炎龍?!」
「そそ、そういうテメエこそ、疾風の美鈴やないかー?!」
互いに指差しあう美鈴と炎龍。
………………。
「私達だけ先に帰って良かったんでしょうか?」
明花が心配そうに王都の方を振り返る。
既に彼女らを乗せた馬車は郊外の帰路に付いていた。
「なんでも中等部の代表戦でライバル同士だったと言われてましたので…積もるお話しでもあるのでしょう…。」
闘姫はライバル同士という関係に水を差してはいけない、と一人納得していた。
……………。
「…それで、西の貴女が何用で中央の王都にいらしてるのでございましょうか?」
「なあに、ここはついでに見物がてら寄ったまでや。」
「ついで?」
「ああ、ウチの…西の代表がこの中央貴族学院代表ともうすぐ対戦が決まったさかいな。」
「はあ…中央貴族学院代表と…。」
(て?それって私の事じゃございませんの?)
「ち、ちなみに貴女の…西の代表のお方はどちらに?」
「せや、その先輩やけどな…何時の間にかはぐれてしまったんや!」
「つまり迷子さんでございますか?」
「…一応文武両道で西の貴族学院では最強戦士なんやけど…とんでもない方向オンチでなあ…。」
「せやから、可愛がってもろうとったワイが付き添いに選ばれたんやけど…ホンマにあの人、どこ行きはったんや?」
「その人が代表という事は、つまり炎龍は代表に選ばれなかったんですのね?」
その美鈴からの何気ない言葉の刃にズキッ!と炎龍の胸が傷んだ。
「し…仕方無かったんや!ウチは代表選抜は一年生は絶対出場出来へんっちゅう考え方で凝り固まってるさかい…ワイかてホンマは選抜戦に出たかったんやけど上下関係が厳し過ぎてなあ…。」
「お気の毒でございますわ。」
「せやかてそういう美鈴もまだ出場出来へんのやろ?!」
「え?えと…。」
炎龍が気の毒で言うに言えない美鈴だった。
「さっさと話しいや、中央学院の今年の代表はどんなヤツなんや?」
ワクワクしながら聞いてくる炎龍。
「あ、そ、それは…えーとお…。」
(貴女の目の前にいますわよ!)
とは言え無い美鈴だった。
「そ、それより貴女はその代表の先輩をお探しで葉ありませんでして?」
「あ、せやった!」
「ほんならなー、またなー!」
また騒々しく去っていく炎龍だった。
「…さて、私もそろそろ皆さんを追いかけると致しましょうかしら?」
ドピュン!
土煙を上げて美鈴は猛スピードで王都から出て行くのだった。
………………。
ガサゴソ…。
「………依然、何かブランケットがモゾモゾ動いてるような気がするのだけど気の所為かしら?」
月夜が馬車の中で対面の空席を見てボソッと呟いた。
「奇遇ですねお嬢様、今私もそう思ったばかりでございます。」
二人がその対面の席のブランケットを注視していると…。
ガバッ!
「ぷはぁ~っ!」
何とブランケットからは一人の女学院生が現れた。
「貴女は何者です?いつの間にこの馬車に?」
依然が月夜の前に立ち警戒する。
「ふあ〜あ…よう寝たわあ…て、アレ?ここドコやろか?」
「…お姉さん達、ドコのお方?」
「「それは私達が聞きたいのですが?!」」
依然と月夜の声がハモった。
果たして依然と月夜の目の前に現れたのは?




