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第八十七話【火消しのメイリン】

巨大サラマンダーとの戦いは空中戦へと移行します。


しかし予想以上にコイツの炎は強敵でした。


美鈴メイリンは俊足を活かして巨大サラマンダーの周囲をグルグルと回り始めた。


当然彼女を追いかけている白百合のプリンセスもまた同じようにサラマンダーの周りを走り回る事になる。

 

グルグルグルグル…。

 

実に十周くらいは回っただろうか。


いつの間にか巨大サラマンダーも彼女らの後を追いかけるがごとく胴体を中心にしてドシドシと音を立てながらグルグル回転し始めていた。


その足音が地響きを立てる度に地面が揺れ動く。


美鈴メイリン達が巨大サラマンダーの周りを走り回り初めてからもう二十周目に到達した頃になるとさすがの巨大サラマンダーも面倒になったのだろうか。


グオオオオッ!


巨大サラマンダーの足元から轟音が轟いた。


見ると、そこから炎が噴き上がっている。


どうも巨大サラマンダーの足元から炎が噴き出して巨大サラマンダーの巨体が宙に浮いているようだった。


それが美鈴メイリン達を追い回す高速回転のままで…まるで鼠花火のように火を噴き出しながらグルグル回っているのだ。


「プリンセスさん!」


「ええ、飛びましょう、美鈴メイリンさん!」


二人は炎を避け、会話しながら既に空へ舞い上がっていた。


美鈴メイリンは背中から翼を生やして、白百合のプリンセスは足下から光りの粒子を噴出させてそれぞれが上空へと浮き上がっていた。


その眼下にはさっきまで巨大サラマンダーを相手にしていた火山とその麓、そして炎を噴射し回り続ける巨大サラマンダーがいた。


すると巨大サラマンダーそのものが徐々に自分達へと近づいて来るのが見えた。


しかもそのスピードは加速していく。


巨大サラマンダーは全身から火を噴き出し高速回転しながら真っ直ぐ上昇して来たのだ。


「まさか…あのデカブツ、飛べるとでも…?」


「そのようですわね、残念ながら。」


【まるで前世の亀型大怪獣みたいだな。】


(これがその特撮映画の中だけでなら良かったですわね。)


「来るわ!」


白百合のプリンセスがそう叫んだ。


二人は咄嗟に二手に別れて散開した。


グアッ、と下から飛び上がった巨体がその間を貫いた。


「凄いスピード!」


(まるでロケットですわね…。)


まだ薄暗い夜空をオレンジの炎を噴き出しながら回転する物体が上昇していく。


それはそれで中々幻想的な眺めでいいものだ。


…対戦中のモンスターでなければ。


それはある程度の高度で上昇を止めて停止。


その数秒後、まるで思い出したかのように落下を始めた。


それも身体から火を噴き出し回転しながらだ。


「こっちに来ますわ!」


美鈴メイリンさん!?」


その巨大サラマンダーは明らかに美鈴メイリンに向かって落下していた。


【モンスターにモテモテだな美鈴メイリン?】


(修業に来たのだから願ったり叶ったりですわ(笑)!) 

美鈴メイリンはダガーから風の魔力を発動させた。


「風の刃っ!」


幾つもの大きな風の刃が巨大サラマンダーの周囲で回転する火炎に突撃する。


…が、その尽くは火炎に包み込まれるや効力を発揮しないまま消えさった。


「風の刃が…効かない?」


咄嗟に巨大サラマンダーの突進を避ける美鈴メイリン


火炎の輪には触れてないものの、軽く服や髪の毛が焼け焦げる匂いがした。


巨大サラマンダーは飛行速度が速く質量も半端無いせいか再び襲ってくるまでには大きく旋回しなければならなかった。


おかげでこちらは対策を話し合う余裕が生まれた。



【おい、まーた手加減してないか?】


(してませんわよ!…何時もよりは?)


【ちなみにどの程度だ?】


(…【X】ちゃんの時の二倍程度かしら?)


もしかして中央学院代表選抜戦の四大部門決勝で美鈴メイリンが【X】に向けて放った巨大な風の刃三十発分の事を言ってるのか?


確かにセーブしててもそれの二倍レベルとくればかなりの高威力と言えるが。


美鈴メイリンさん、アレからは強い魔力を感じます、ただの火炎では無さそうです。」


「おそらく風の刃は威力そのものを無効化されたのでしょう。」


「なるほど…小癪こしゃくな!」


「しかし見ていてください。」

「今度は私が…!」


白百合のプリンセスが魔力の光を剣に集める。


ちょうどそこへ旋回した巨大サラマンダーが再びこちらへ突っ込んで来ていた。


「水流剣…!」


白百合のプリンセスがレイピアの切っ先から水を噴出させた。


「喰らいなさい!」


ゴオオオッ!!


猛烈な水の奔流が剣となって巨大サラマンダーの火炎目掛けて発射された。


これはかなりの魔力を注ぎ込んでいるらしい、まるで滝のような水量だ。


ビシャアッ!


水の剣が巨大サラマンダーの火炎の輪へと突き刺さる。


そしてその水圧は巨大サラマンダーの飛行速度を半減させた。


「火炎が消えかけてますわ…!」


…確かに水流剣が当たってる場所は火炎が裂かれて削られてる。


けど、さすがに火炎そのもの消すまでには至らないか。


「くっ…!」


ここに来て白百合のプリンセスが苦しそうな表情を見せる。


無理もない、仮面の剣豪本来の力も出せないのにここまで美鈴メイリンを追いかけ共に戦って来たのだから魔力の消耗も著しかったハズだもんな。


そして遂に剣からの水流が止まった。

白百合のプリンセスも空中で棒立ちになっている。


まさか、魔力切れか?


【おい、早く避けろプリンセス!】


「…」


意識が薄れかけてる?

巨大サラマンダーはもう目の前だぞ!?


「危ない!」

美鈴メイリンは白百合のプリンセスをキャッチすると、横っ飛びにこれを躱した。


「ハア…ハア…。」


息を荒げる白百合のプリンセス。


「大丈夫でございますか?」


美鈴メイリンが抱えている両腕を光らせて魔力を補充する。


「あ、ありがとうございます美鈴メイリンさん…。」


「…風魔法が炎への優位性に欠けるのは納得出来ますが、今のは火魔法に対して有利なハズの水魔法なのに…。」

白百合のプリンセスが歯軋りした。


「…多分これは魔法の相性というより火炎そのものの威力と持続力ですわね…。」


【…そうか!消火に水をかけて火の勢いを削げても種火に燃料が注ぎ込まれ続ければ何時まで経っても鎮火しないもんな!】


(そういう事ですわ。)


「つまり、火炎の元のエネルギーの蓄積量が凄いのか、或いは何処からか無尽蔵に火のエネルギーを供給されているとしか…。」


「もしかして火山のマグマでは?」


「…有り得ますわね、サラマンダーとはそもそも火の精霊…(ちなみにあれはその名を宛てられた火炎生物の大トカゲに過ぎませんが)。」


「故に火の元素そのものを火山から吸い上げてるとも考えられますわね。」


「しかしその供給を断つ方法がわかりません。」


「ええ、ここが火山でなければやりようもありますのに。」


(果たして今の私の凍結魔法がアレに効きますかしら?)


(まあ本来それを確かめるつもりもありましたけど、今は確実に仕留めないと白百合のプリンセスさんまでが危険に…!)


【ええい、しゃあない。】


俺は遠隔魔法を用いて一時的に巨大サラマンダーの周囲をバリアで囲った。


【二人とも、今強制的にヤツの周囲を遮断した。】


【今の内に撤退するんだ、長くは持たない…。】


「しかし、ここまで来て背中を見せるなど出来ませんわ!」


美鈴メイリンさん、剣では火炎に邪魔され近付けないし魔法でも倒せません!今回は撤退した方が良いかと。」


「しかし私が全開で魔法を叩き込めば勝つのは可能かと…。」


「いけません、まだ下には通常サイズのサラマンダーがウヨウヨしてるんです!」


「貴女が全開魔法を放って魔力切れになれば私が貴女を抱えて飛ばないといけない…でも私も魔力の消耗が大きいので今サラマンダーの群れから火炎を一斉放射されたら…!」


見ると…確かに眼下の麓には洞窟に隠れていた通常サイズのサラマンダー達がまた集結し始めていた。


連中は地下でマグマから火炎エネルギーをチャージ

したのか、さっきより全身を多量の炎が包んでいた。


「くっ…!」


【急げ…離脱までの時間はもう残り少ない…】


正直、俺も遠隔魔法であのデカブツかつバケモノな巨大サラマンダーを囲っておくのは限界に近づいてた。


俺は立場上もあるが能力的に本来強制力や攻撃力は持てない。


だけど美鈴メイリンの色んな意味での成長なのかシナリオ進度のおかげなのか?この程度の補助くらいは出来るようになった。


でもこれ以上はさすがに無理だ。


…ちなみにそのゲームシナリオ自体はとっくの昔に既存ルートから外れてるのか、今は先の展開が全くわからないぞ。


ヒロイン達との百合カップル進度もシナリオが変わってから?は全く読めないし。


………ええい、それより今はあのデカブツをどうするかだ!


(考える、考えるのですメイリン!)


(水がダメなら氷…いいえ、もっと効果的なのが…)


(…そうですわ、消化器!)


【この世界に消化器なんて概念あるかよ!】

【それとも消化器を魔法で作るのか?】


(さすがに消化器を魔法で作るなんて有り得ませんわよね〜(汗)。)


(…え…?)


「そうか、そうですわ!」


美鈴メイリンの目が光った。


(用は、「中身」さえあれば良いのですわ!)


名尾ナビ君、私が合図したらあのバリアを解除して下さいな!」


美鈴メイリンがダガーを構える。


またそのダガーに風魔法を集め始めた。


【合図を待たなくても…もう…維持出来ないぞ…!】


俺のバリアはもう消えかけてた。


「間に合え!」


見る見るダガーの魔力が高まり、ダガーとその周りの魔力も白く発光した。


遂に、バリアが消えて巨大サラマンダーが飛び出してきた。



「真空の…ツルギーッ!」


美鈴メイリンがダガーを前方に突き出す。


すると、風の魔法エネルギーの中から巨大な光りの剣が現れすっ飛んでいった。


…あれっ?何時もの風の刃じゃないのか?


文字通り空気を切り裂く真空の剣が巨大サラマンダーに向かって飛んだ。



その剣は巨大サラマンダーと交錯する前に二つに別れて巨大サラマンダー両側の火の輪を突き刺した。



「さあ、散髪のお時間ですわよ!」


まるでガリガリという音がしそうになるくらい炎が削りまくられる。


まるでバリカンでの散髪状態か、工作機械のグラインダーで削ってるように見えるな。


あっという間に噴射炎は消え回転も止まる、そして真空の剣がそのままサラマンダーの胴体へ深々と突き刺さる。


『ゴエエアアア~ッ!!』


巨大サラマンダーが悲鳴を挙げる。


ドクドクとマグマのような炎が傷口から洩れ出た。


これが血液では無いと知っているからか、美鈴メイリンは全く動じなかった。


と、炎の噴射が消えたせいか巨大サラマンダーは落下した。


眼下の麓では慌てたサラマンダー達が我先にと洞窟へ逃げ込んで行く。


ズドドドドーン!!


巨大サラマンダーのその巨体が地面へと叩きつけられた。


その半身は地面にめりこむ。


同時に真空の剣も消えた。


「あのしぶとい火炎が…どうやったのですか美鈴メイリンさん?」


「え、ええ…空気には火が燃える為の酸素というモノがございまして…真空にする事でそれを遮断しましたの。」


あ、それで『真空の』剣、なのか。


確かに消化器の消化液も酸素を遮断して火を消すからな。


二酸化炭素消化器、なんてのもあるくらいだし。


「でもあの巨体が空から落ちたというのにクレーターまでは出来ませんでしたのね。」


「そ、そんな事になったら地下のマグマが噴出して大変な事になりますよ?」

白百合のプリンセスが慌てた。


「それはゾッとしませんわね。」

美鈴メイリンはどこまで本気なのか、苦笑いしていた。


二人は地面へと降り立った。


「大丈夫ですか?今から治療致しますわ。」


「プリンセスさん…お願い出来ますか?」


「え?倒したサラマンダーの治療を、ですか?」


「ええ、今回は討伐ではなく修業の為の手合わせに来ただけですもの。」  


「私は治癒魔法は得意では無いのですが…。」


白百合のプリンセスは考えた挙げ句、サラマンダーのエネルギーになる火魔法の魔力で同じ効果が得られるのではないかと思い至った。


美鈴に抱えられたまま白百合のプリンセスが火魔法の魔力を送る。


それを浴びた巨体サラマンダーの傷口が徐々に塞がっていく。


傷の完治を確認すると美鈴メイリンは白百合のプリンセスから離れ、巨大サラマンダーにお辞儀した。


「今日は私の修業にお付き合いいただきありがとうございましたわ。」


「それと、皆様方にはご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでしたわ。」


黙って聞いている巨大サラマンダーとサラマンダー達。


「それでは皆様、ご機嫌よう!」


言うが早いか、白百合のプリンセスの手を掴むとスタコラサッサと駆け足で逃げる美鈴メイリンだった。


「ちょ…美鈴メイリンさん?」


「さあ、とっととずらかりますわよ〜!」


ドピュウ〜ン、と音を立てて逃げ去る美鈴メイリン達を呆気に取られたように見ていたサラマンダーの群れだった…。


…………そこから数km離れた場所で空を飛ぶ二人。


因みにさっきまでサラマンダー達が怒って追って来ないように護符を設置していた。


「プリンセスさんが癒やしの護符を持っていて助かりましたわ。」


「パワー火山全体を癒やしの霊気で覆えばサラマンダー達の怒りも収まりここまで出て来る事は無いでしょう。」


…………因みにサラマンダー達は既にノンビリと寛いでいた。


身の危険が感じられなければもとから報復するつもりなど無いらしい。


…………。


すっかり日も高くなっていた。


「それで、修業の成果はありましたか?」


「う〜ん、結局修業の成果は何だか良くわかりませんでしたわ。」


(本当なら私の凍結魔法でアレをぶっ倒せるか試したかったのですけれど…まあ、結果オーライですわ。)


「強いてゆうなら火の魔法鉱石が少し手に入ったくらいですわね。」


いつの間にかちゃっかり魔法鉱石をゲットしていた。


結局魔物を倒したワケじゃないからその体内の魔石というわけじゃないだろうけど、パワー火山の麓だけに地下の魔法鉱石の幾つかが地表に露出していたんだろうな。




ぐるうう〜。


二人のお腹が鳴った。


「はい、美鈴メイリンさん。」


白百合のプリンセスが魔力補充のポーションを飲みながら予備のポーションを美鈴メイリンに手渡す。


グビグビ。


「ぷはーっ、ありがとうございますプリンセスさん。」


「フフッ、お腹空いちゃいましたからそれだけじゃ足りませんね。」


「ええ、早く帰って明花ミンファさんのご飯が食べたいですわ!」


と、ここで明花ミンファの名前が出たせいか白百合のプリンセスは美鈴メイリンの手をキュ…と握った。


「…その、もう少しだけ一緒に空を飛んでもらってからでも良くありませんか?」


「ま、まあ少しだけ、なら?」


「良かった…!」


パアッと微笑む白百合のプリンセスの顔を見て少しドキッとした美鈴メイリンだった。


………あ〜あ、何だか妬けるなあ…。




「…あ。」


明花ミンファは空から手を繋いで帰って来る美鈴メイリンと白百合のプリンセスを見てこう呟いた。


「居なくなったと思ったら、朝から二人でデートですか…?」


明花ミンファがプンプンしている。


あ〜あ、こりゃ明花ミンファのご機嫌取らないと朝ご飯食べさせてもらえないかもな、美鈴メイリン


美鈴メイリンは帰宅早々、今度は明花ミンファの嫉妬の炎を消す羽目になるのだった。


火消しに火を用いる…場合によってはこれも一つの手段ではある。

彼女の持ち帰った火の魔法鉱石が明花ミンファの機嫌を治す切り札となる………のかも知れない?


巨大サラマンダーの炎に勝った美鈴メイリンでしたが、今度の明花ミンファの嫉妬の炎はかなりの難敵のようです。


果たして美鈴メイリンは無事朝ご飯にありつけたのでしょうか(笑)?

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