第八十五話【いざ、パワー火山へ!】
学院代表戦優勝の余韻に浸る間も無く美鈴は一人コッソリ修業に出かけるのですが…?
まだ真っ暗な時間。
(…まだ誰も起きていませんわよね?)
コッソリ動き出す美鈴。
少し離れた場所にあるベッドを見ると同室の愛麗が「ぐお〜、ぐおお〜っ…」と、高イビキをかいて寝ていた。
(あらあら、芽友さんにバレたら向こうが百年の恋だったとしても冷めてしまいますわよ?)
クスクス笑いをしながら動き易い服に着替える美鈴。
ロングパンツにジャケットを着込み髪の毛をポニーテールに纏める。
そして眼の周りを魔法で防御する。
「…良し。」
腰のベルトに唯一護身用武器となるダガーを差して彼女は窓から飛び出した。
振り返り窓を念動力で締めておくと、フワリと着地する。
そして寮の門を跳び越えた。
暫く駆けていたが、町外れからは有翼飛翔魔術を使って空を飛んだ。
シュパアアアーッ!
まだ夜明け前の冷えきった空気を裂いて美鈴が翔ぶ。
(さ、さすがに冷えますわね〜!)
美鈴は凍えないうちに身体の周りを炎と空気のバリアで遮断した。
これで多少の弱風と地上の外気程度には気温低下を防げる。
(さて、飛ばしますわよ!)
美鈴は輝く火の玉となって空を飛び続けた。
世が世なら発見者からUFO扱いされた事だろう。
明花は早起きして炊飯の準備に取り掛かろうとしていた。
彼女はふと窓の外が薄明るくなった事に気が付き窓のカーテンを開けた。
「…あら?」
それは美鈴の火の玉飛翔体だった。
「…彗星…?」
(それともあれが前世でUFOと言われてたモノかしら?この世界にも存在するんですね…。)
明花、その心の声は俺にも聞こえてるから安易に前世とか言わない方が良いぞ?
一方で火の玉飛翔体に気が付いたもう一人がいた。
「あれは…まさか美鈴さん?」
飛翔体が発するその魔力から美鈴の存在を感じ取ったのか、白百合のプリンセスは深夜のパトロールを切り上げて美鈴と想われるその飛翔体を追った。
……………んで、俺こと仮面の聖霊…つまり名尾君は何処で何してるかと言うとだな…。
美鈴が脱いでハンガーに掛けっぱなしの制服の胸ポケットにまだ入ったままなんだよ〜!
つまりさっきまでの状況説明は俺の千里眼と地獄耳…もといテレパス能力によるものなんだ!
何てこった?
これじゃアイツはいざという時に仮面の剣豪へと変身出来ないじゃないか!
まあ、美鈴とは別存在で実体化しているもう一人の仮面の剣豪こと白百合のプリンセス(正式名称・聖練潔白)が追いかけてったのが幸いだな。
………しかし不安は一つ残されている。
そもそも今の白百合のプリンセスこと聖練潔白は現状聖霊の仮面からは独立して存在しているため本来の仮面の剣豪としての実力は発揮できないんだ。
仮面の剣豪がその実力を発揮するには聖霊の仮面こらの加護を受けなければならない。
だがそれが無い今の聖練潔白…つまり白百合のプリンセスは前世での実力プラスアルファ程度の能力しか無いんだな。
とは言え仮にも仮面の剣豪となり得た人物だけに元の実力は美鈴に優るとも劣らないくらいのハズだ。
…なんだけと、美鈴以上に白百合のプリンセスの方が心配な俺だった。
アイツらの状況は見聞き出来るから、せめて何らかのアドバイスくらいは出来たらしてやりたいな。
………つうか、そもそも美鈴のヤツ何処に向かう気なんだ?
何をしに行くんだ?
…等と考えてたら、そのうち火山が見えてきた。
頭頂部からモウモウと煙たなびく列記とした活火山。
マグマの噴火も恐ろしいが噴火で吹き上げられた岩石を上から浴びたりしたら一溜りも無い。
こんな危険な場所に、まさか降りたりしないよな…
…と、コチラがして欲しくないという期待を裏切るようにというか「やりかねんかもな」という嫌な期待に応えるかのように美鈴はその火山の麓へと降り立ったんだ。
アイツ、こんな場所で何するつもりなんだ…?
「ふうーむ、やはりここは修業にはピッタリな場所ですわね。」
手で「ひさし」を作りながら周囲を眺める美鈴。
てか、修業だって?
むしろ避難地区だと思うぞここは。
周囲数km以内に立ち寄っちゃいけない場所だろ、ここは?
「美鈴さん!」
ここで白百合のプリンセスが上空から美鈴に声をかけた。
「えっ?!」
ギョッとして空を見上げる美鈴は動揺してた。
上手く皆んなの目を逃れてここに来たつもりだろうが、どっこいオマエの動きに気が付いてたのは俺の知る限り三人はいたんだぞ。
白百合のプリンセス、明花、そしてこの俺だ。
「こんな危険な場所に何をされに来たんですか?」
「ゲゲゲ、ま、まさか白百合のプリンセスさんに追跡されてたとは…不覚!」
「ちゃんと答えて下さい美鈴さん?」
「ふう…仕方ありませんわね。」
観念したのか目的を話し出す美鈴。
…ていうかオマエら早く退避しろよ?
「ここは数ある霊山や火山の中でも非常に強力なパワーに満ちていると言われる、通称パワー火山。」
「更にはサラマンダーが生息しているとも言われておりますの。」
「…ああ、その話しなら私も聞いた事がございます…。」
白百合のプリンセスが降りてきて美鈴の近くに寄って来た。
「確かにサラマンダーが火山で発見されたという話しはあります。」
「かくいう私も前世ではサラマンダー退治を経験しておりますから。」
「ええっ?本当ですの?」
「はい、私がまだ仮面の剣豪になる前の数百年前では今と比べものにならないほど魔物、モンスターがウジャウジャしておりましたからサラマンダーもさほど珍しい存在ではありませんでした。」
「あ、そうでしたわ…白百合のプリンセスさんは大魔王を封じられた御方でしたものね。」
「ええ、大魔王が健在だった頃はその配下が魔物を増やして大群を率いておりましたので手が付けられませんでした。」
「そんな劣勢をどうやって逆転出来たのですか?」
「それこそ、コレですよ。」
ニコッと微笑みながら白百合のプリンセスは自分の仮面を指差す。
「聖霊の仮面…。」
「今のコレは単なる変身と能力強化に過ぎませんけど、本物の聖霊の仮面の実力はそれこそ一騎当千の実力を発揮出来るのです。」
「とは言え一度に大魔王軍を相手取るにはさすがに不利でしたから、その配下の軍勢を一隊ずつ撃破していって徐々に追い詰めて行ったのです。」
「フムフム、それで、それで?!」
「それで、これからが面白いんですけど〜♪」
すっかり仮面の剣豪英雄譚となってしまった白百合のプリンセスの物語に二人は夢中になっていた。
そんでそれは周りの状況も忘れてるようだったんだなあ。
…あ、案の定…。
ドスン!
ドシイン!
何やら地面が地響き立てている。
「…い、今のは…?」
「はっ?」
さすがにお喋りを中断して二人は足音の方を見た。
その視線の先には…
ノッシ、ノッシと低く身構えた多数のオオトカゲがそこにいた。
だがただのオオトカゲではない。
全身に焔を纏い、皮膚は溶岩の如く真っ赤に発光していた。
そして離れているのにすぐそばの空気までが熱く感じる程の高温が押し寄せているのがわかる。
それがどういう事を意味するのか。
「…つまり、アレがサラマンダーの群れ、という事かしら名尾君?」
【気付いてたのか?】
「…それはどちらについて問われてますの?」
「私が貴方の目と耳に勘付いてた事ですの?それともアレがサラマンダーの群れだとわかったという事ですの?」
【両方だっ!】
【サラマンダーとは本来は火の聖霊…】
【アレはソレになぞらえてそう呼ばれる爬虫類型の火炎生物だ。】
ゲームやラノベの異世界魔法ファンタジーなら定番
のモンスターだな。
その姿は竜かトカゲが多いが、今回はトカゲだったか。
「彼らは警戒してます、注意して下さい。」
「…まあ、イキナリ自分達の縄張りに知らない余所者の、しかも人間が入って来れば警戒するのも当たり前ですわよね。」
「このまま静かに交替しましょう、刺激を与えれば周りは灼熱地獄と化します。」
「ですわねえ〜♪」
白百合のプリンセスが穏便にこの場を去ろうとしているのにコイツときたら何処吹く風、みたいな態度だな。
【おい美鈴、オマエまさかとは思うがあのサラマンダーの群れと一戦交えようなんて思っちゃいないだろうな?】
「…………。」(白百合のプリンセスのジト目)
【…………。】(見えてないが俺のジト目)
「……………。」(図星を隠すような白々しい笑顔)
「あれえ〜っ??」
タハッ♪と笑って誤魔化す美鈴。
やっぱりそうだったか!
………その時、一匹のサラマンダーが口から火炎を放射した!
美鈴の横50cmを通り過ぎた火炎放射は後ろの岩盤をドロッと溶かす。
辺りに焦げ臭いようなロウソクのような匂いが立ち込めた。
ちなみに俺は嗅覚や皮膚感覚も遠方の状況を捉えられるようになったのだ。
進化してるのは美鈴だけじゃないんだぞ、どうだ参ったか!
(わー、スゴイスゴイー。パチパチパチ。)
棒読みな声援をありがとう、美鈴。
「今のは牽制ですわね。」
「ええ、ですから今のうちに…」
「そうですわね、牽制には牽制で返礼しないと失礼ですもの!」
美鈴が手を前に突き出すとお返しとばかりに氷の塊を発射した。
「も〜う、全然わかってない〜!」
嘆く白百合のプリンセスだけど、彼女の叫びも本気で嘆いてないような?
美鈴の発射した氷の塊もサラマンダーの群れの足元を凍て付かせただけに終わった。
少しジリッと後退するサラマンダーの群れ。
「貴方がた、人語は理解出来まして?」
美鈴がサラマンダー達に話しかける。
が、連中は首を傾げるばかりだった。
「ん〜、やはり連中は下っ端ですのね?」
下っ端とはいえ並の兵士だと一対一では勝ち目無いだろうな。
ソレが数十体はいようかというのにこの二人ときたら全然動じてない。
しかし気が付けばジワジワと二人は周囲を囲まれつつあった。
「美鈴さん、もしまた向こうが仕掛けて来ましたら…。」
「ええ、専守防衛という事で…。」
「取り敢えずこれで言質取れましたから遠慮いりませんわよね?」
「勿論です!」
二人が不敵な笑みを浮かべあった時、サラマンダーの群れが二人に飛び掛かって来た…!
行き掛り上、追跡してきた白百合のプリンセスと共同戦線となりました。
二人はこのサラマンダーの群れから無事帰還出来るのか?




