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第八十三話【今、疾風を越えて神速となれ!】

竜巻拳(トルネードフィスト)を叩き込む美鈴(メイリン)、対する【X】もまたカウンター魔法とおぼしき技で迎え撃つ。


果たして優勝はどちらの手に?


【X】は槍を突き出した。


空間魔法で生み出した異空間と、そしてそのエネルギーを纏った槍の穂先を。


その先端の周囲には歪んだ空間が見えていて、そこへ僅かに美鈴(メイリン)の髪の毛先が触れた。


その瞬間、彼女の髪の毛の一部が消え失せた。


どうやら空間の断層を利用した切断、なんて生易しいモノじゃなさそうだ。

 

触れた物質そのものを消滅させるか、それともどこか見知らぬ異空間へと吹き飛ばす類の技かも知れない。


だが美鈴(メイリン)はチラリとも視線を動かさず真っ直ぐに【X】を見つめながら、その腕を動かした。


次の瞬間、その片腕の竜巻拳(トルネードフィスト)は【X】の槍に発生していた恐ろしい異空間を消滅させた。


それも一切振り向かずに。


そしてそのまま美鈴(メイリン)は【X】の槍を掴むともう片方の竜巻拳(トルネードフィスト)を【X】の胸元へとぶつけていった!


ガキイッ!!


今度は美鈴(メイリン)の拳が【X】の鳩尾を貫いた!


「貰いましたわ!」


「くっ!」

【X】顔に動揺が走った。


『美鈴(メイリン)選手の竜巻拳(トルネードフィスト)が【X】選手に決まったあ〜っ!!』



………かに見えた。



「なっ?」


「く…ククク…。」


美鈴(メイリン)の竜巻拳(トルネードフィスト)は【X】が胸の前に発生させていた異空間のフィールドを盾にして、辛うじて阻まれていた。


ここまで来てもなお【X】は驚異的な粘りを見せてる。


「これは反則ではなくて列記としたルールの範疇、そうですよね?」


確かに【X】の言う通り、アミュレットよりも強い防御力の魔法、魔術でアミュレットの付近を覆ってもそれが出場選手の用いた魔法であれば問題では無い。


「しかしこの状況では貴女も手は出せませんわよね?」


「手は出せない………けど、」


ん?


「力が出せないワケじゃ無いから。」


………え、待て?


ひょっとして…!


その時【X】の槍から放たれる歪みが輝きを増した。


「!!」


【ズドゥーン!!】


突如、美鈴の周囲の空間が歪んだ。


そして重々しい空気の圧力が彼女の姿を波打たせる。


『おおっ?!今度は美鈴(メイリン)選手の身体がイキナリ吹きとんだ〜?!』


『【X】は身動ぎ一つしてません、つまりコレは例のカウンター魔法…と思われます。』


多彩蜂(ドゥオ・ツァイファン)と依然(イーラン)は努めて客観的に状況を語った。


ていうか依然(イーラン)のヤツいつの間にか解説席に戻ってやがったんだ!


案外解説の仕事が面白くなったんだろうか?




「アーッハハハ!」


「どうかしら?自らが生んだ新必殺とやらのお味は?」


【X】が勝ち誇ったように笑いながら美鈴(メイリン)に問うた。


「………」

ガクッと沈む美鈴(メイリン)の身体。


その美鈴(メイリン)の身体へ向けて追い討ちをかけるように【X】が足で思い切り蹴り上げた。


ガツッ!!


身体強化魔法でも使ったのだろう、よほど強い力だったのか美鈴(メイリン)の身体がそのまま後方へとすっ飛ばされてしまった。


「美鈴(メイリン)さん!!」


明花(ミンファ)が叫んで飛び出して来た。


「危ない!」


咄嗟に白百合のプリンセスが上空から障壁を明花(ミンファ)の前に発生させた。


その障壁に美鈴(メイリン)の身体がぶつかって止まる。


「危ないですよ明花(ミンファ)さん、まだ試合中なのにグランドに出てくるなんて…。」


白百合のプリンセスが地上に降りて明花(ミンファ)を通せんぼする。


『美鈴(メイリン)選手を心配して飛び出す明花(ミンファ)さんを仮面の剣士が受け止めました。』


『多彩蜂(ドゥオ・ツァイファン)さん、あれは仮面の剣豪…白百合のプリンセス様にございます。』


『あ〜、あのお方が噂の白百合のプリンセスさんなんですね?』


『ええ…とても気高く気品溢れるお方にございます。』


『な、なるほど…確かに…。』


二人は白百合のプリンセスの美しさに暫し見惚れた。



「退いて下さい、私は美鈴(メイリン)さんを…」


「いえ、まだ試合は続いてますしそれに何より…」


白百合のプリンセスがそう言った時。


彼女の発生させた障壁に背中を預けていた美鈴(メイリン)がピクリと動いた。


「………なるほど、これがカウンター魔法と呼ばれた【X】の攻撃でしたか…。」


美鈴(メイリン)は振り替えった。


「ご心配なく、私は大丈夫ですわよ明花(ミンファ)さん?」


ニッコリと明花(ミンファ)に笑いかける美鈴(メイリン)。



「美鈴(メイリン)さん??」


「…もーう、本当に心配したんですよ?」


美鈴(メイリン)から笑いかけられ、安堵する明花(ミンファ)。


「ゴメンなさいですわ、やはりどうしてもあのカウンター魔法とやらが気になりまして…。」


「もしかしてワザと受けられたんですか?」

呆れたように白百合のプリンセスが美鈴(メイリン)に尋ねた。


「まあ、そんなところですわね?」


三人のそんな会話を聞きながら【X】も美鈴(メイリン)に話しかけた。


「あ…貴女さっきの技の威力で、何故…?」


「え?」


「ああ、あの竜巻拳(トルネードフィスト)でございますか?」

「確かに思った通りの破壊力でした、貴女の異空間フィールドを壊せたんですから大成功でしたわ!」


嬉しそうにはしゃいで語る美鈴(メイリン)を、俺はソコじゃないだろう?とツッコミたくなった。

 


それは【X】も同じだったようで…


「…ふ、ふ…ふ…。」


「…あら、何がおかしいんですの【X】さん?」


「…ふ、…ふざっけんじゃないわよっ!!」


「…あ〜、そっちの方の「…ふ、」でしたのね?」


「だからふざけてないっての!アンタの方こそふざけんなっての!」


「…?」

「ふざけてないのにふざけるな………?」

「はて、どっちにしろと言われるのでしょう?」


「だから!私はふざけてなくてアンタがふざけてんでしょうが?!」


「いえ、私は全くふざけてなどおりませんので、ふざけてるのは寧ろ言ってる事のおかしな【X】さんの方では…」


「…嗚呼〜、あー言えばこー言う〜?!」


ガシガシと痒くもない頭を掻きむしる【X】、無茶苦茶イライラしてるらしいな。


「それよりあの技を食らって何故ピンピンしてるのよ!」


「え?…私、貴女の技など食らってませんわよ?」


まあ、蹴りでふっ飛ばされたけどな…。


あ、あれもダメージを軽減するための受け身のつもりだったのかな?


「何を言ってる…」


そこまで言いかけ、美鈴(メイリン)の身体を見ていた【X】の表情が変わる。


「…どこも、ダメージを受けて…ない…?」


そう。

 

あの槍に纏われた異空間の刃ですら消してしまう程の竜巻拳(トルネードフィスト)をカウンターで威力をカサ増しされてぶつけられたのだから、肉体だけでなく衣服にも被害が出ていて当然なのだ。


勿論防御アミュレットによる防御で威力が削減されてる事もあるだろうが…それにしても美鈴(メイリン)には被害の痕跡が一切見当たらないのだ。


アイツが非常識なまでに頑丈とはいえ衣服にもダメージを残さないのは凄いな…。


「まさか、さっきのは威力を抑えた一撃だったとか?そうでしょう?!」


【X】がそう思いたいのは山々だろうが…。


「…では、その貴女の胸元はいかが説明されるおつもりですの?」


美鈴(メイリン)が指差す先には胸元の破れた制服を着ている【X】がいた。


「…な?…な、何て破廉恥な事してくれるの!?」


【X】は咄嗟に復元魔法?で胸元の制服の破れを直してしまった。


『おやおや、【X】選手の胸元が先程の美鈴(メイリン)選手の攻撃で破れてたようです…直ぐに修復してしまったようで残念ですが…。』


『多彩蜂(ドゥオ・ツァイファン)さん、公共の場でそのような発言は慎んでいただけませんか?』


…相変わらず自由な実況解説してんな、この二人。


と、それはおいといて。


「さて、私は今ので確信致しましたわ。」


「貴女のカウンター魔法の正体を見破った事を!」


「さあ、コレで貴女には万に一つの勝機すら皆無にごさいます!」

ビシッと【X】を指差す美鈴(メイリン)。


タラッ…と冷や汗をかきながら気丈に【X】はこう答えた。


「ふん、バカバカしい!」


「私の決め技が見破られるもんですか!」


「では…答え合せと致しましょうか?」


美鈴(メイリン)が低く身構えた。


【X】はゴクリと唾を飲み込み、こう言い返す。

「お、面白い…じゃない…?」


緊張を隠してる積りだろうが丸分かりだった。


…………でも、こういうのがコイツの手の内だったから今度もそのまま信じるワケにはいかないかもな。


「さあ…準備はよろしいかしら?」


今度は竜巻拳(トルネードフィスト)は使わないようだ。


しかも剣を手にせず魔力の輝きすら発生させていない。



さすがにこれには【X】にも様子がおかしいと思えたんだろう、彼女は美鈴(メイリン)にこう聞いた。


「どういうつもり?」


「…何が、でございましょうか?」


「何故魔法を使おうとしないのか聞いてるのよ。」


「一応使うつもりですが、それが何か?」


美鈴(メイリン)は涼しげな笑顔でそう返事をした。


【X】は疑り深い顔をした。


おそらく彼女の心の中では葛藤が起きてるんだろう、美鈴(メイリン)が言葉通り魔法を使うのか、それともそれは嘘で本当は魔法を使わず攻撃するつもりなのか。


それを察したのか美鈴(メイリン)は【X】にこう話しかけた。


「ここまで来て今更決め技勝負しないなんて申しませんわよ。」



「…………ホントでしょうね?」


「ぶ………け、剣士に二言は御座いませんわ!」


今の、思い切り「武士」に二言は無いとか言いかけたろ?


「そ、それに観客の皆さんは互いの決め技決着を望まれてる…なら、それに応える事こそ競技者たる私達の宿命!」


「何か盛り上がってるようだけど、別に私はギャラリーなんて気にしてないからね?」


「あ…さいでございますか。」


「まあいいわ、その勝負に乗ろうじゃない!」


【X】はさっきと同じ魔法を使うつもりなのか槍に空間魔法の刃を発生させた。


しかもさっきまでより大きな空間の歪みを伴って。


「…さあ…これで今度こそ完全に決着を付けようじゃないの!!」


「おほっ♡結構ノリが良いんですわね♪」


「るさい、さっさと仕掛けなさい!」


「ええ……。」


美鈴(メイリン)がすぅー…と息を吸い込む。


『両者再び構えて睨みあう…さあ、今度こそ決着の時かあ?!』


『…まあ、私は既に勝負が見えましたけどね。』


『ホントですか依然(イーラン)さん?』

『で、勝つのはどっち…』


『おっと、ネタバレなんて野暮な事は致しません♪』


そう言うと再び解説席から逃げてゆく依然(イーラン)。


『…というわけで解説者がまた居なくなりましたが、果たして勝利を手にするのはどちらでしょう?!』


シ…ン。


ヒョオッ…と小さな風が吹いた。


カッと目を見開く美鈴(メイリン)。


(いざっ!!)


僅かに美鈴(メイリン)の踵が浮いた。


次にその足と地面との間が光った。


…………キイン…………


微かに音がした。


そして気が付くと既に美鈴(メイリン)は【X】の背後へと駆け抜けていた。



何が起こったのかわからない。


それは観客席のギャラリー達も、解説席と実況席の二人も同じだった。


(…え)


【X】は眼の前の美鈴(メイリン)が消えた事に呆然と突っ立っているだけだった。


まだ彼女の空間魔法の歪んだ異空間の刃は発生し続けている。

  

つまりカウンター魔法と見られる彼女の決め技は未だ効力を発揮しているのだ。


美鈴(メイリン)は後ろを振り返らなかった。

 

そして彼女の手には…


チャキッ。


…霊斬剣が握られていた。


その剣を鞘に収める美鈴(メイリン)。


「…審判、判定をお願い致しますわ。」


審判も呆気に取られていたが、美鈴(メイリン)の言葉に我に返ったのかキョロキョロする。


「は、判定も何もまだどちらも…。」


その時。


バキイン!


【X】の槍が、穂先が割れた。


そして彼女の制服がバッサリ斬られ、そこから真っ二つになったアミュレットの半分が地面に落ちた。


【X】の肌には切り傷はおろか引っ掻き傷の一つも見当たらなかった。


「…秘技、【居合威斬(いあいざん)】。」


美鈴(メイリン)がそう呟くと、ユラリと【X】の上体が傾き、そして彼女は膝から崩れ落ちるのだった。


「勝負、ありましたよ審判。」


白百合のプリンセスがそう告げると審判はコクッと頷いた。


「勝者、黎美鈴(リー・メイリン)ー!!」


そのコールと共に試合会場は大歓声に包まれた…!





こうして中央貴族学院・高等部代表選抜戦の四大部門決勝戦の優勝者は一年生の黎美鈴(リー・メイリン)となり、大会は幕を閉じた。


幾つかの謎を残しながら…。



【学院代表選抜戦・一年生編】完



手にすべき人が手にした優勝。


優勝者には他の貴族学院との対抗戦が待ち構えています。


その前に今大会で幾つか生じた疑問、それはいつ明かされるのか…?

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