第八話【ゲーム世界を予習復習いたしましょう】
夢の中で美鈴は前世で親友だった仮面の聖霊からこの世界の元となったゲームの世界について復習を兼ねた説明を聞きます。
色んな新しい事実に美鈴はあたふた。
そして説明を一旦終了して目覚めた美鈴を待っていたものは…。
【………以上だ。今日の所はここまでかな。】
「そろそろ目覚めないといけませんものね。」
パチッと目が開く美鈴。
「あら…またディスカッションの夢を見てましたわ。」
あれから3日。
毎日仮面の聖霊は美鈴の夢の中に出てきてゲーム世界の話しをしていく。
更に翌日の4日目はこんな会話をしていた。
【そろそろゲームの全体は思い出せたか?】
(いいえ、まだ主人公とメインヒロインのルート一つしか終わらせてなかったので、そこの流れくらいしか。)
【メインヒロイン攻略ルートはゲームの基本中の基本。でも、そこは実は単なる導入部に過ぎない事は知ってるか?】
(いえ、初耳です。)
【実はメインヒロインルートのみだとこの世界の大まかな部分しかわからないんだ。】
【世界の真実を知るためには隠しシナリオの隠しヒロインを攻略しなければならないんだが、…誰が隠しヒロインなのかわかるか?】
(いえ、全然。)
【まあ仕方ない。】
【まずは復習も兼ねてこの世界の全体像をざっと説明するぞ。】
【まずこの世界はあらゆるビジュアルが中華風にアレンジされている。】
【しかし実は中国ではない。】
(私も前世の時からそれは不思議でしたわ。)
(人名や建物や家具、衣服に至るまで色んなものが中華風…的なのに、酷く現代日本ぽくもある。)
【まあそこはゲームだから…て答えじゃ納得しないよな?】
ブンブンと首を縦に振る美鈴。
【一応この世界は現代日本に古代中国を融合させてる。もっと詳しく言えば、そこへ更に欧州の文化も入り交じっている。王政や貴族制度や魔法自体はそこら辺から入って来ている。】
「見た目は中華風、中身は現代日本、大まかなシステムは欧州的。まさにゲームのための都合の良い世界観を表現してると言えますわね。」
【そしてこの世界は全く別の次元に存在して独立している地球という特別な環境だ。この地球の世界全体がその世界観で作られている。】
【そしてこの世界を考証するその過程において仙術、気功を取り入れた独自の魔法技術が思い付かれてゲームのシナリオに採用された。】
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし?」
「それが本当でもこの世界には私達の国以外にも様々な国が存在しておりまして、色々あるのですが。」
【それは細分化していった結果だ。】
【この世界の学校では神が魔法で持ってこの世界を作り、神の国とそこに住む人間を作った。しかし神が人間にこの世界を任せて去ってしまうと人間同士が争い神の国は幾つもの人間の国に別れていった。………そんな歴史になってるはずだ。】
「ええ。大まかにはそうでしたわね。」
【そう、大まかにはその通りだ。】
【そして文化や風習、学問や魔法、土木、産業、様々な技術や知識など………それらも全て最初に神に与えられた事になっていた。】
「ゲームの設定でも確かにそうなっていましたわよね?」
【とりあえず何でも神の神業によるもので完結してる。まあこの設定のままでも特に問題はない。】
「逆に何かその設定のままだと問題でも起きるケースがあるのですか?」
【それには………隠しシナリオに到達しないとなあ。】
「またそれですか!」
【まあ、まだ知る必要は無いって事だよ。】
【それより今キミに重要な情報は学院高等部に入ってからの事だな。】
「そ、それです!」
「私の記憶では日常パートで会話、選択肢が出てきてそれを選ぶと好感度のポイントが増減するというゲームでしたわ。」
【日常パートだけではないぞ。それ以外は基本ノベル形式になるがシナリオ毎にも突然選択肢が現れたし、戦闘シーンもノベル形式だが、そこでも戦闘に関する選択肢の選択次第で戦闘結果や様々なポイントが増減する。】
「え?そんなにシビアなものでしたっけ?」
【…まあ、現実には頭の中に浮かんだ何個かの考えのどれを選ぶか、てな展開になるだけだと思え。】
「でも、それが後の結果に反映されるのでしょう?」
【バッドエンドにならなきゃ大丈夫。もしそっちを選んだとしても俺が教えてやるよ。】
「バッドエンド以外にポイントの積み重ねが反映されるということはありますの…?」
【ああ、それはどのヒロインが攻略されるか、に反映されるな。】
「………はっ?」
【だから、これは基本百合ゲーだからな。そもそも本来は好みのヒロインを選んで攻略して百合カップルになるのが目的のゲームだから、何ら不思議は無い。】
「ヒロインを攻略って………まさか、私が女の子と百合カップルになって結ばれる的な、ですかぁ?」
【それ以外の何がある。】
「いえ、ちょっと待ってくださいまし?」
「あなた、ヒーローになるための仮面ですわよね?」
【巷ではそう呼ばれるかな。】
「いえ!ヒーローになる為の仮面が百合ゲーヒロインを攻略させて満足してちゃおかしいですわよ?!」
【ヒーローには勿論ならせてやるよ?それがヒロイン攻略の為の条件なんだからな。】
「それ、目的と手段が逆ではありませんこと?わ、わかりません…!納得できません…!」
【まあ、今はわからなくても納得出来なくてもいいけどさ。】
【つうか、前世ではそうやってヒロイン攻略して喜んでたんだろ、お前も?】
「そうでしたわね………私の黒歴史ですわ。」
【はいはい、しょげてないで次行くぞ。】
【学院は三年制度で一学年に5クラス。一クラス当たりだいたい二十人だ。】
【お前はここでまず三人の女性達と出会う。】
【教師、上級生、そしてクラスメイト。これらが最初の攻略対象だ。】
「ええ、たった三人だけなのが不満でしたわ。」
【それはまだ周回が少ないからだ。最初の周回では一年生から二年生までしかプレイ出来なくて攻略ヒロインも三人だけ。】
【だがある条件を満たすと三周目のシナリオが始まるし、二年生で攻略対象となる下級生と出会う。三周目でなれる三年生では更にもう一人が新一年として後輩対象に加わる。】
「という事は、攻略対象は生徒五人と先生一人の、計六人というワケですわね?」
【ところがここで落とし穴がある。】
「落とし穴?」
【攻略対象の上級生は最初三年生で現れる。どういう事かわかるな?】
「え?じゃあその人は二年生の時にはもう………ああっ!思い出しましたわ!」
「そうでした、確かに彼女は二年生の時にはいませんでしたわ!代わりに新一年の後輩一人が攻略対象になってましたっけ!だから実質攻略対象は五人までなのですわね?」
【逆に三年生の彼女とカップル成立すればそこでゲームオーバー。その彼女とのエンディングになる。】
「では、後のシナリオを進めるには上級生を選んではダメなのですね?」
【それが結構難しいかも知れないぞ?まあプレイ………もとい、学院生活してみればわかる事だ。】
いつの間にか美鈴にその気は無いのに女子であるヒロインを攻略しカップルになる前提で話しが進んでしまっていた。
「はあ…何だか説明聞いてるだけで疲れてしまいましたわ。…私、身体は寝てるハズなのに。」
【精神の負担が多かったようだな。今日はこの辺で止めとこう、朝グッタリして起きれなくなるぞ。】
「で、では…おやふみ、なひゃぁいい~。」
…………………。
…………………。
「…………………お………嬢…………ま。」
「………嬢様……お嬢様……………。」
「起きてくだいまし?美鈴お嬢様!」
「ふぁっ?!」
目を覚ました美鈴。
「お嬢様、起きてくださらないなら、私のキッスで……………。」
愛麗の唇が美鈴の眼前にドアップで現れた!
「な、な…?」
「何しとるか、我え~っ?!」
【昇】、【激】、【波】ぁ~っ!!
お嬢様らしくない怒号を叫んで美鈴が愛麗の顔面に掌底を食らわせた。
「おー嬢ーさーまーぁー………。」
愛麗は明けの明星となった。
そして美鈴が起きがけの湯浴みを済ませて部屋へと戻ると、愛麗が
頭からベッドに突き刺さっていた。
腰から足しかベッドから出ていないが、さっき宙に昇った愛麗が帰還したのだと美鈴は結論付けた。
「…主任、新しいベッドと交換しておいてくださいな。」
「承知いたしました。」
愛麗が別に死んでるわけでも怪我してるわけでも無くて、ただお嬢様からの仕打ちにむしろ悦んでいるだけだとわかっているから、誰も全然彼女を心配しなかった。
「わかってるんだけど、…ちょっとだけ侘しい…。」
ボソッと溢す愛麗であった。
そんな変態側仕えの幼なじみは放っておいて、美鈴は他の召し使い達の手で新しい制服に袖を通した。
「これが、高等部の制服……。」
以前の中等部の制服よりも装飾品が多く、やや目立つデザインとなっている。
「これを着てしまうと、嫌でも新しい校舎で学ぶことに身が引き締まる思いですわ。」
「お嬢様、とてもお似合いです。」
口々に召し使い達がお世辞ではなく誉めてくれる。
「ありがとう、みんな。」
思わず美鈴の顔が綻んだ。
このお目出度い時間、愛麗は首にコルセットを装着されていた。
「う、うぐっ、あいたたた。」
「この程度に軽減できたのが驚きじゃよ、普通なら全身グチャッ!!だったのじゃぞ?」
高齢者の医者から説教される愛麗。
「でも変なんですよ、いつもなら全然無傷だったのに。」
「…もしかすると、聖霊の仮面の影響かも知れんな?」
「お嬢様が、今まで以上にパワーアップした、とかですか?」
「あり得ん話しじゃなかろう。」
「う~ん、なら少し対策考えませんとねえ。」
「………いや、ソコはお前が変態行為を控えればいいだけじゃろうに?」
「いいえ!それは無理です!」
「お嬢様に変態行為を働くのも、その結果お嬢様に冷たくあしらわれるのも、どちらも私の至上の喜び!何者にも変えがたいのですから!!」
ぐわっ!と両手をグーに握り、バックに炎を燃え上がらせる愛麗。
「堂々と自分が変態であることを認めおったぞ、コヤツ。」
「っ、というかお前、首の方はもういいのか?」
「ん?あれっ?」
首をコキコキ慣らしながら動かす愛麗。
「あれあれ?何だか私の首、大丈夫になったみたいです!」
首が治って喜ぶ愛麗。
「コヤツの回復力も充分驚異的じゃな。」
(首の方もじゃが、コヤツよく仕事をクビにならんのう?)
愛麗が召し使いをクビにならないのはこのお屋敷での七不思議の一つに数えられていた。
召し使い主任から以前その理由にもなるであろう、彼女が側仕えに選ばれた理由を説明された数名の召し使い以外には未だにそれは七不思議だった。
ともあれ、美鈴は今日から貴族学院高等部の一年生となった。
つまり、いよいよ百合ゲー世界の反映されたゲーム世界の物語がスタートする。
「両親は先に入学式へと馬車で向かわれましたし…。」
「さあっ、行きますわよ、愛麗!」
「はい、お嬢様。」
「お嬢様、行ってらっしゃいませー。」
「はい、行ってまいりますわ!」
「愛麗、お嬢様のご迷惑にならないでね?」
「ぜ、善処いたします!」
愛麗の返答にプッと笑う美鈴。
彼女の制服の胸ポケットには二つに折り畳まれた仮面が入っていた。
【はあ~~、この温もり、感触、役得やなあ~~♪】
「………名尾君の、スケベ………。」
ポッと頬を赤らめ呟く美鈴。
少し胸がくすぐったいような気がして僅かに身じろぐ美鈴だった。
「今日から私達は三年間寮生活となります。」
「油断は出来ませんことよ?」
そう言って、美鈴は良くわからない恥ずかしさを感じた事を誤魔化した。
【そんな長期間、少しは肩の力抜かないと参っちまうぜえ?】
【ホレ、アイツを見習いな?】
「待って下さい、お嬢様ぁ~。」
後ろから重たい荷物を背中と両手に、懸命に追いかけてくる愛麗。
「ほらほら、ノンビリしてると置いて行きますわよ?」
その様子を振り返って、クスクス笑う美鈴だった。
彼女も重さ35㎏の鉛入り木刀と通学用鞄を両手に持っている。
美鈴が自分に向ける眩しい笑顔に愛麗は幸福を噛み締めた。
これから訪れる騒動と波乱を予感しながら、二人…いや、仮面の聖霊を含めた三人は和やかな春の道を歩いて行った。
泣いても笑っても、遂に始まってしまうゲーム。
しかしこれは元々は百合ゲーム。
元が男性とは言え、転生して完全な女性へと成長した美鈴にとっては百合は生理的に無理な話し。
しかしゲームは誰か一人を攻略しなければならない!
果たして、バッドエンドを回避しながらも百合ラストは避けられるのか、どんなラストが彼女を待ち受けるのか?
そして聖霊の仮面の存在意義は単なる百合ゲーのガイド役なのか(笑)?