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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第三章【学院代表選抜戦・一年生編】
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第七十九話【清々しい朝に炎の【X】と氷の美鈴(メイリン)は対峙する】

それぞれの朝を迎える美鈴メイリンと【X】。


試合開始が近付く中、闘姫ドウ・ヂェンも警備を開始します。


そして睨み合う両者、その胸に去来するモノは…?


シン…とした夜明け。


ザク、ザク…。


芝生を踏みしめ寮の庭にやって来たのは美鈴メイリン


彼女の片手には何時もの30kgの鉛入り木刀が握られている。


そして庭の中央に立つと、おもむろに素振りを始めた。


上から下に剣を真っ直ぐ振り下ろす。


まずこれを十回。


続いて横に剣を傾け水平に払う。


これも左右に十回ずつ。


次は下から振り上げる。


右側から、そして左側から。


交互にこれを十回ずつ終わると左右からの突きを十回ずつ。


「さて、ウォーミングアップは終わりましたわ。」


まだ息も整っている。


汗すらかいていない。


彼女は頭上に剣を振りかぶると、再び剣を振り下ろす。


だが先程までとは違って、ワザとゆっくり剣を振り下ろすのだった。


今度は水平に払う。


そして下から振り上げる。

 

そのどれもを三十も数えながらゆっくりと行う。


因みに身体強化魔法は一切使用していない。


しかもどれもまた十回ずつ。


これを終わる頃にやっと美鈴メイリンの額に薄っすらと汗が滲み始めた。


「ふう〜、試合もある事ですし、今日はこの辺でやめときましょうかしら。」


美鈴メイリンは汗をタオルで拭うと、庭を後にした。


……………そんな彼女の様子を二階のベランダ角部屋から見下ろしていた寮生が一人。


黎美鈴リー・メイリン…朝から精が出る…。」


それは言わずと知れた【X】だった。


彼女も早く目が覚めてしまい、何気なく窓の外を眺めているうちに庭で素振りを始めた美鈴メイリンを見かけ、そのままボーッと眺めていたのだ。


「馬鹿な子…試合前にあんなに運動して、疲れないかしら?」


そうは言うものの、美鈴メイリンの真剣な練習を見てしまい胸が熱くなるのを感じる【X】だった。


(い、いけないいけない!)

(余計な事考えるな、私はとにかく今日の試合に勝てば良いんだから!)


(…そう、勝てば。)


だが、その勝利の先に本当に自分の望む幸せが待っているのかと言えばそうだと言い切れないのもまた本心だった。

 

…結果、【X】もまた室内で軽く槍の突きを十回だけ素振りした。


(疲れない程度なら、いいもん…!)


彼女にとって、これも気晴らしだった。


いずれにせよこれで【X】も完全に目が覚めてしまった。


(練習しないと時間をもて余す…)


かと言ってもう二度寝する気にもなれない。


(そうだ…!)

ニヤリとする【X】は制服に着替えるとコソコソと二年生の部屋を目指した…。



………………。



すうー、すう〜…。


耳をドアに近づければ小さな寝息が聴こえてくる。


そこは二年生、多彩蜂ドゥオ・ツァイファンの部屋。


(そーっと…そーっと…。)


出来るだけ物音を立てず、慎重にドアを開けて中へと入る【X】。


そしてベッドで寝ている多彩蜂ドゥオ・ツァイファンの寝顔を見る。


(クックックッ、良く寝てる。)


この前の仕返しに何かしてやろうと画策する【X】だった。


が、思い付きと勢いで来たのでノープランでもあった。


(さて、どんなイタズラしてやろうかしら…?)


等と考えながら多彩蜂ドゥオ・ツァイファンの寝顔を見ている【X】。


「すうー、すうー。」


(へえ…普段の破茶滅茶な感じと違ってワリとお淑やかな寝顔なんだ…。)


「う…ん…。」


多彩蜂ドゥオ・ツァイファンが仄かに艶っぽい寝息を漏らした。


その不意打ちに【X】はドキッとした。


(…………な、なな?)


少しドキドキする胸を抑える【X】。


すると更に追い打ちが。


「ん…、【X】ちゃん…。」


(え?何で私の名を?)


【可愛い…。】


(ふ、ふざけた夢でも見てるの?)


想定外の展開にオロオロする【X】。


と、ここでトドメが。


【…好き…。】


ズキュウウゥン!!


その言葉に【X】はハートを貫かれた!


(う、うあああ〜っ☆?!)


【X】は不法侵入がバレるのも無視してドアを思い切り開けると、脱兎の如くその場から逃げ出した!


………。


少し間を空ける。


そして起き上がる多彩蜂ドゥオ・ツァイファン


「あれーっ?冗談が効きすぎたかなー?」

ニヘラぁっと笑う多彩蜂ドゥオ・ツァイファン


どうやらさっきのは多彩蜂ドゥオ・ツァイファンのイタズラだったようだ。


そんな朝の和やか?な風景が過ぎてゆく…。


そして。


ガヤガヤ…。


生徒会役員や教員らがまばらに登校してきた後で少しずつ生徒が増えて来た。


今日は学院代表選抜戦の最終戦。


そしてそれは四大部門決勝戦。


これの勝者が中央貴族学院高等部の代表となり、いよいよ各貴族学院高等部との代表同士による試合が始まるのだ。


美鈴メイリンは何時もと変わらぬ時間に登校し、何時もの面子メンツとお喋りしながら校門をくぐる。


まるで気負いが無い。

 

今日これから行われる決勝戦の出場者だと言うのに不思議なくらいに普段通りだ。


一方の【X】だが。


「【X】良く来たなー?」


美鈴メイリン相手にアッサリ負けちまえー!」



月夜ユーイー生徒会長の仇、美鈴メイリンちゃんの剣の錆になっちゃえー!」


罵声も勿論ある、が…


「【X】ちゃーん、頑張ってねー♪」

 

「上手くやれば結構勝てるチャンスあるかもよー?」


昨日、例の多彩蜂ドゥオ・ツァイファンの弁舌でいきなりにわかファンが発生した彼女にも応援する声が。


まだアンチが七割、ファンが三割といったところだが、それでも【X】にとって十分な声援と言えた。


(ブーイングは闘志に、声援は力に…。)


(私なら出来る、私なら勝てる…!)


【X】はこれまで武や魔法の実力もさる事ながら、その巧みな策によって勝って来た。

 

特にカウンター魔法が全生徒に与えた影響は大きく、これが更に彼女を優位な立場に押し上げた。


だが今日の相手は噂の規格外娘、黎美鈴リー・メイリン


実のところ【X】は不安と緊張に苛まれていた。


(とにかくこっちの情報を徹底して隠しまくる戦略は成功してるハズ。)


(…まあ、おかげでいつもボッチだけどさ…。)


自分で言っておきながらも少しイジケそうになる【X】。


(でもそれも今日のこの試合に勝つため!)


(勝って学院代表になれば、私は特待生として優待特権が得られる!)


【X】は心の中でザァーッと滝のような嬉し涙を流した。


(見てなさい黎美鈴リー・メイリン!)


(例え貴女がどんだけ規格外な魔法使いでも…)


(私には必殺のカウンター魔法がある!)


ゴゴゴ…と【X】の瞳に炎が燃え上がった。


「おーおー、何やら熱血なお方のようですわねー。」


そんな【X】に話しかけたのは何と美鈴メイリン


「あな、あな…貴女は黎美鈴リー・メイリン?!」


「はい、おはようでございますですわ【X】さん。」


美鈴メイリンがお辞儀する。


「こ、これはどうもご丁寧に…。」


【X】もつられてお辞儀を返した。


「気持ちの良い朝ですわね、正に絶好の決勝戦日和ですわ。」


「そ、そうですか。」


「ではまた、試合会場で。」


手を振ってその場を去る美鈴メイリン


その背中を追う明花ミンファ愛麗アイリー芽友ヤーヨウの三人も次々と【X】に会釈をして立ち去った。


(よ、余裕そうね黎美鈴リー・メイリン。)


少しタジろぐ【X】だった。


「おはよう【X】さん。」


次に【X】に声をかけて来たのは闘姫ドウ・ヂェンだった。


彼女は言わずと知れた聖霊の仮面の中にいた仮面の剣豪の一人、白百合のプリンセスその人だ。


「今日はいよいよ決勝戦ですね、貴女も美鈴メイリンさんもお互い悔いの無いよう正々堂々とした試合をして下さいね。」


そこに少し皮肉でも混じっていたのだろうか、【X】は爽やかな闘姫ドウ・ヂェンからの挨拶に少し眉をピクッとさせた。


「そんなに警戒なさらず、肩の力を抜いて下さい。」

闘姫ドウ・ヂェンは【X】の肩に手を置いた。


「…少し凝ってますね、マッサージしておきましょうか?」


「い、いりません!」


【X】は闘姫ドウ・ヂェンの手を払い後退あとずさった。


「ごめんなさい、急に触ったりして。」

ニコッと笑う闘姫ドウ・ヂェン


「では試合、頑張って下さい。」


闘姫ドウ・ヂェンはそのまま美鈴メイリン達の歩いて行った方へと去ってゆく。


(どうせ貴女もあの黎美鈴リー・メイリンのお仲間なんでしょ?)


【X】は知らないだろうが闘姫ドウ・ヂェンは試合のため動きが取りにくい美鈴メイリンの代わりに学院内部での不穏な動きが無いか目を光らせていた。


そして不審な事に対しては内密に手を打っていた。


その証拠に試合会場から出た生徒の数名から学院とその周辺に白百合のプリンセスの姿が見られたという報告があった。


だが白百合のプリンセスが未然に防いできたそれらの破壊的工作?も証拠が不十分な為、未だ美鈴メイリンに報告するまでには至らなかった。

 

(無闇に不完全な報告をして試合中の美鈴メイリンの心をイタズラに掻き乱したりしてはなりませんものね…。)


彼女はいよいよともなれば自分一人ででも事件の解決に望む所存だった。


そして今日も白百合のプリンセスに変身するや、時に木陰に身を潜め…時に上空から観客席を見守る等して様子を伺っていた。


(前回は結局壁への反射魔法が仕掛けられた形跡は見つけられなかった…。)


(しかし敵の仕掛けがあの反射魔法だけとは限らない、必ずこの決勝戦でも何か仕掛けて来るはず!)


コソコソと動き回るフードを被った怪しい黒い影を追ったり、時には逆に襲いかかられレイピアで応戦した事も実はあった。


幸い向こうも本気では無く、直ぐに逃げ去ったのだが。


(安心して下さい美鈴メイリンさん、今日も私が貴女に代わってこの学院の平和を守り抜きます!)


明花ミンファからの伝手で生徒会が生徒や教員によるパトロールを実施しているものの、やはり正体不明の相手に対して普通の人間では心許ない。


結局白百合のプリンセスが警備せざるを得ないのだった。


そんな中、決勝戦開始時刻が目前に迫った。


「では、参ります。」


美鈴メイリンが控室から出て来る。


後ろには何時ものメンバー、明花ミンファ愛麗アイリー芽友ヤーヨウの三人。


さしづめセコンドといったところか。


この四人がゾロゾロと決勝会場のグラウンドに歩を進める。


『ご覧下さい、優勝の呼び声高い黎美鈴リー・メイリン選手の入場です!』


会場が声援で埋まる。


美鈴メイリンちゃーん♪」


美鈴メイリンファイトー!」


月夜ユーイーさんの仇をお願いー!」


圧倒的な歓声。


観客席のどこからも美鈴メイリンを応援する声。


その声援をバックに美鈴メイリンはグラウンドの中央に立つ。


今度は続いて【X】が入場してきた。


ブーイング!


ブーイング!


各所からのブーイング!


そして少しだけ温かな声援が。


その僅かな声援に【X】の顔は綻んだ。


「見てみて、【X】ちゃん笑ったよ?」


「ホーントだー、マジカワイイ〜♪」


「へえ、あんな顔するんだ…。」


「負けんなー【X】ちゃん!」


ブーイングをものともせず一部の観客席は【X】への応援で盛り上がった。


美鈴メイリンの目の間に【X】が対峙する。


「やっと、この時が参りましたわね。」


「ウン…この試合、絶対に、勝つ…!」


「あら〜、御冗談を?」


メラメラ闘志を燃やす【X】に対し、涼しい顔でニヤニヤ笑う美鈴メイリンであった。


…………なんかどう見ても美鈴メイリンの方が悪役にしか見えないなー。 


なんでこんな悪役令嬢っぽいキャラになっちまったのか…?


会場の反応的には確か美鈴メイリンがベビーフェイスで【X】がヒールという構図なんだけどなー?


もしかすると、美鈴メイリンに転生する前の亀井謙吾(♂)は根が英雄ヒーローよりも悪役ヒール寄りだった、なんて事はないよな…?


或いは性根がどうしようも無く捻くれてて望まれる役柄よりはその正反対の反応を選んでしまう、とか…?


………まあ、今更どうでもいいかそんな事。


とにかく、後は試合開始の合図を待つだけだ。


とは言え【X】についてはやはり気になる。


美鈴メイリンよ、本当の本気でやれよ?


手心を加えようなんて思うなよ、頼むから…。



何か事情がありそうな【X】。


美鈴メイリンは彼女に圧勝出来るのでしょうか、それとも苦戦を強いられるのか…?


そして敵?はどこに潜んで何を企むのか?

闘姫ドウ・ヂェンこと白百合のプリンセスはこれを見事撃退出来るのか…?

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