第七十話【弓部門終了…お見舞いにてダメージをお見舞いされるメイリン達】
弓部門決勝戦を観戦する白百合のプリンセスこと闘姫でしたが、結果は意外な事に…。
そして彼女は依然のお見舞いに向かい、先に訪れた美鈴達と合流するのですが…。
おっす、俺は仮面の聖霊こと前世で美鈴のダチ公だった名尾君だ。
学院代表選抜大会、各部門の決勝も残すところ弓部門だけとなった。
勿論各部門の試合は同時進行となっているのであくまでも試合内容の実況解説とその結果のお知らせ、という意味だ。
その各部門の優勝者をおさらいすると。
槍部門…X(本名不明)、所属する部活動・不明。
剣部門…黎美鈴、魔法研究部所属。
魔法部門…安月夜、生徒会所属。
そして今から紹介するのは弓部門の決勝戦。
弓と言えば南貴族学院中等部にいた李若汐を思い出す。
彼女とみんなは臨海学校がきっかけで知り合ったのだが、その若汐は美鈴に惚れてしまい高等部に上がる頃には中央貴族学院に転入すると宣言してたな。
結構気が多いみたいで美鈴を取り合うライバルとなる明花にも好みだと言ってたし、コイツが来るとなるとまた話がややこしくなりそうだ…と、ソレは今はどうでもいい事か。
まあ、アイツはアイツなりに今頃中等部代表の座を掴んでる事だろう。
で、弓部門の決勝戦は確か白百合のプリンセスが観戦している筈だったな。
さて今度は念のため彼女と弓部門決勝戦の様子でも見ておくとするか。
…………………。
魔法の額縁に映し出された画面は弓部門決勝戦会場の方に変わる。
まだ試合開始前だ。
白百合のプリンセス…もとい、学院生徒名「闘姫」の姿は…と。
…………いた。
両選手が向かい合う丁度中央、そこから中段くらいの観客席に彼女が居た。
金髪はこの学院では少ないから直ぐにわかる。
何人かの生徒達から何やら話しかけられているようだ。
多分同じクラスの子達だろう、ワリと親しげな雰囲気だ。
それじゃ、ちょっと聞き耳を………。
………等と考えてる内に白百合のプリンセス達は静かになってしまった。
もうすぐ試合開始かな?
ここから視て左右の会場入口から二人の選手が入場してきた。
両者とも肩に弓宛てを装着してる。
背中には矢を入れている。
矢の容れ物自体は短めだから矢の方も短距離用の短めだろう。
手に持ってる弓も短めだった。
会場内はそこまで広くは無いから当然か。
もう片方の手に持ってるのも弓矢だ。
当然矢の先は安全対策から丸みを帯びていた。
それでも万が一目に当たったりしないようにするためだろう、鍔の長い帽子を被っていた。
防御シールドが守ってくれるとはいえそれはギリギリのラインになる。
仮にシールドが破られてしまえばその矢は目に到達する危険がある。
失明の恐れがあるから帽子は最低限の備えなんだろう。
矢は遠くからなら基本的に上から降り注ぐ角度になるからこれで何とか防げるという考えなのかな。
まあ、攻撃にしろ防御にしろ各自が魔法も使うだろうから気休めにしかならないだろうけど。
…と、選手同士が対峙していた。
しかしまるで知らない生徒同士の闘いだからあまり見る気はしないなー。
両者とも今のとろこ魔力、気力、霊力…どれをとっても三部門の優勝者には及ばない感じだ。
こうなれば弓の技術に期待するしかないかな…。
…と、思ったのだが。
「…………両者、引き分け〜!」
ブーブー!!
観客席からブーイングが飛び交う。
そりゃ当然だ。
その試合内容だけど…。
両者とも矢を打ち尽くして魔法を放ちあう。
その魔法もお互い決め手に欠けて直ぐ底をついた。
実力が拮抗していたのが原因だろうけど…他に攻撃手段を持たない両者は攻め手を失い困惑したまま立ち尽くしていた。
選手本人達も、審判の教師もバツが悪かった。
一体何だこりゃ?
どうして弓部門はこんな凡戦になったんだ?
…そう思ってすぐ過去の弓使い同士の試合の資料を検索してみたが別にこういう結果自体は珍しい事では無かった。
コレが的当て競技なら話は別だったかも知れない、が、こういう実戦形式の試合ともなると弓使いは不利のようだ。
というかすでに一回戦からコレに良く似た試合が続出してたみたいだ。
問題なのは背負える矢が少ない事。
あまり多く背負うと動きが鈍くなるし、かといって少数の矢しか持たないと直ぐに矢が底を付いて攻撃出来なくなる。
これが槍や剣なら折られない限り戦えるし、魔法部門なら魔力が尽きる前に何らかの武器を出しておけばそれ自体が魔法と認められ戦闘続行が可能になるんだけどな。
ハッキリいってコレは運営側による部門の分け方というか、試合形式の間違いだろうな。
そもそも実戦形式の試合を謳うなら戦弓部のような短距離で連発も想定した部活動でないと他の武器と試合すれば弓使いは試合が長引けば不利なことこの上ない。
残念な事にこの中央貴族学院に於いては「弓矢は遠くから援護射撃するためのもの」という認識が強くて戦弓部が存在しなかった。
通常の戦に於いてもこの遠方よりの射撃の為のシフトが組まれるらしいから今回のような中距離でのタイマン形式はそもそもが普通の弓使いには向いて無かったのだ。
勿論、弓使い達の練磨不足は否定出来ないし、彼女らの魔法における魔力不足や技術、練度にも問題はあったが…。
もう少し闘い方に工夫が欲しかったのが正直な感想だ。
「…本当でしたね、この学院の弓使いが不作状態だという話は。」
白百合のプリンセスがボソボソと呟く。
それに呼応するように彼女の周りの生徒達が話しかける。
「でしょー、姫さん。」
「他の部門と比べてあんまりだよねー…まあ、元々あまり人気の無い部門だから仕方無いんだけどね。」
「何故弓部門は人気が無いのですか?」
白百合のプリンセスが疑問に思い聞いてみた。
「そりゃ、遠距離にどうせ放つなら魔法の方が見栄えもいいし威力あるからでしょ。」
「矢は的あて競技ならまだいいけど、実戦形式となると矢を打ち尽くしたら負けだし。」
「その矢を後で拾い歩くのもまた面倒でねー。」
「あ、私実はその弓術部の所属なのよ、だからわかるのよ、こんな形式の試合にはつくづく向かないなー、てね。」
「なるほど…それでしたら来年からは弓部門の開催は難しくなるかも知れませんね…。」
「せめて撃った矢が自動的に弓使いの手元に戻ればなー、そしたら凄くマシになると思わない?!」
「ハハハ、それいいねー(笑)!」
「確かにねー。」
生徒達が談笑した。
(…?矢が自動的に弓使いの手元へ…? )
その光景に見覚えがあるような気がした白百合のプリンセスだった。
俺もそんな光景がフラッシュバックした。
………まさかな、そんなヤツがこの中央学院高等部に来たとしたら…。
いや、それはまだ先の話だ。
それはともかく少々頭が痛い展開になってるのが現実だ。
弓部門決勝戦が引き分けに終わったとなると、それはつまり両者失格で四部門決勝は弓部門を欠いた三部門で行われる事になるぞ。
つまりは剣、槍、魔法の三部門各代表のうち二人が試合し、残る一人と決勝戦と言う事になる。
つまりは一人だけ不戦勝で決勝戦。
なんとも盛り上がりに欠ける展開となってしまうけど…まあ仕方ない。
あ、白百合のプリンセスがそそくさと会場を後にしてゆくぞ。
他の生徒達もアッサリ退出し始めた。
当の対戦した選手達が真っ先に控室に逃げてったからな、無理も無いか。
可哀想なのはここを片付ける役員達だなあ。
まだ九月の暑い中、矢を一本ずつ回収して整地、掃除しないといけないんだもんな。
と、席をたったはずの白百合のプリンセス…素顔だから生徒としての「闘姫」か。
その彼女が観客席の壁を飛び越えると試合が行われていたグランドに降りた。
そしてユックリと地面に刺さっている矢を一本ずつ回収している役員達の横を通り過ぎる。
それは疾風のようだった。
瞬く間に彼女は次々と矢を回収してゆく。
「ヒョイ、ヒョイ…ヒョイッ…と。」
彼女の片腕には十数本もの弓矢が抱かれていた。
「…はい、どうぞ。」
闘姫が矢を回収している役員達の前に立ち、にこやかに回収した矢を手渡す。
「…あ、ありがとうございます…?」
キョトンと矢を受け取る役員を見て満足したのか、闘姫はトン、トン!と軽やかに壁や席を飛び越えて会場の外へと飛び出していった。
「…あの身体能力、あの人も選手の一人??」
役員は首を捻りながらその様子を見送るのだった。
……………。
「…ふう、折角楽しみにしてたのに肩透かしでしたね。」
そして弓部門代表となる選手の偵察も兼ねていたのにその対象だった弓部門は引き分けによるまさかの両者失格。
「こんな事なら…美鈴さんの決勝戦を見てれば良かったです…。」
ショボンとする闘姫(ドウ!ヂェン)。
そんなトボトボ歩く彼女の元にクラスメイト数人が近づいてきた。
「あ、闘姫さん!」
「あ、皆さん…。」
「貴方達は誰の試合を見てらしたんですか?」
「私達は勿論、美鈴さんの応援よ。」
「美鈴さんの事だから心配無かったけどね。」
「あ、それより大変なのよ!」
「大変…?」
「ええ、その事で美鈴さんも血相を変えて会場を後にしたの!」
それを聞いて闘姫の顔色が変わった。
「一体…何があったんですか?!」
…………………。
ハア、ハア、ハア…!
校舎へ向けて駆ける、跳ぶ。
闘姫は急いだ。
「依然が倒された。」
クラスメイトからいきなり聞かされた衝撃の一言。
曰く、重傷を負わされたとの事。
以前、白百合のプリンセスは月夜と依然にはお世話になった。
…その時には月夜だけでなく依然にも素肌を見られたし、何なら触れられたりもしたのだが…と、別にやましい行為は無かったぞ?
俺が単に羨ましい…エ、エヘン、エヘン?!
と、とにかく、その時の光景や感触が甦りかけ、白百合のプリンセスこと闘姫は頭を振った。
(い…いけないいけない、私は何を思い出しているのやら?)
と、そんな事を考えたせいか危うく校舎の壁へと激突しかける闘姫だった。
「はっ!」
素早く跳躍し、そのまま飛翔を続けると校舎のベランダに着地する。
そこにはベッドに横たわる依然が。
「依然さん?!」
慌ててベランダから窓を開いて中に入る闘姫。
すると。
「はい、依然、アーンして。」
「は、恥ずかしいですお嬢様…。」
依然はすっかり元気になっていた。
多少は首や胸元、腕に刺し傷の跡が見られたがどれも傷口が塞がっており、後はカサブタが取れるのを待つだけだった。
そしてイチャイチャと依然の世話を焼く月夜がそこにいた。
(あの…私達、何を見せられてるんでしょうか?)
(ここは黙っていましょう明花さん、それは言うだけ野暮というものですわ…!)
(…月夜様、林檎の皮剥き下手くそですね…。)
(愛麗、貴女もあまりお上手とは言えませんけど?)
更にはいつもの面々が空気みたいにベッドの依然と世話を焼く月夜を囲んで突っ立っていた。
多分みんなお見舞いにやって来たのだろう…けど月夜が依然にイチャイチャしてるから声をかけるタイミングを逸したようだ。
それはベランダから窓に入った闘姫も同じだった。
そんな彼女と四人の目が合った。
何とも気不味い。
それでもソロリソロリと美鈴に近付く闘姫。
美鈴の両横は明花と愛麗に固められてるから、仕方なく明花の隣りに立つ闘姫。
(あの…一体どうなってるんですか?)
取り敢えず医療に詳しい明花に彼女は話しかけた。
(…Xと名乗る銀髪の槍使いに決め技のダメージを還された結果、ご自身が怪我を負ったようです。)
(決め技を…?)
(その魔術こそがXの持つ決め技のようです。)
(恐ろしい魔術ですわね…。)
その話を美鈴が真剣な表情で聞いていた。
(でもこれだけダメージを受けたという事は依然さんも相手に向けて重傷を負わせるような技を使用したと考えられませんか?)
(プリンセスさん、それをこれから彼女に聞きたいところなのですわ。)
…しかし、と言いながら美鈴はその依然の方を見る。
その視線の先にはキャッキャッと笑い合う二人だけの世界に浸っていた月夜と依然がいた。
(((((来るタイミングを間違えたかしら…)))))
五人はため息をついて静かに部屋から退出した。
「明日は丁度お休みですし、また明日参りましょう?」
「その方が良さそうですね…。」
「明花さん、何だか疲れてませんか?」
「お嬢様は依然さんの治療に当たられましたからかなりの魔力を消耗したのでしょう。」
(加えるなら先程のイチャイチャを見せつけられた精神的ダメージもありそうですが…。)
「それは大変です!お料理誰が作るんですか?」
パカーンと頭をハリセンで叩かれる愛麗。
「ウチのお嬢様はコックや召使いじゃございませんよ、愛麗?!」
少し芽友がプンスカしていた。
そして美鈴へ借りたハリセンを返却するのだった。
「だ、大丈夫よ芽友?少し休めば…。」
「いけませんわ、今晩くらい無理せずユックリなさって下さいな?」
「そうですお嬢様は回復に努めて下さい、後は私が厨房のお手伝いを…。」
「何言ってるの?芽友は明花様に付いてあげなきゃダメでしょう?」
今度は逆に愛麗に窘められる芽友。
「あ…愛麗。」
ポッと赤くなる芽友。
それをいい顔をして微笑む愛麗。
【…愛麗、意外に男前なんだな?】
(どー言う意味ですか、仮面の聖霊様?)
いけね、つい愛麗に向けて呟いちまった…。
「まあ、愛麗の言う通りですわ。」
「食事の用意は厨房のおばさん達に任せて、今夜はみんなそれぞれユックリ寛ぎなさいませ?」
「それじゃ解散!皆さんお疲れ様でした、ですわ!」
手を振って部屋へと戻る美鈴。
その後を追う愛麗。
「では、そういう事で私達も…。」
「お疲れ様でした。」
お辞儀して部屋に向かう明花と芽友。
「ええ、お疲れ様です…。」
皆が部屋へと帰るのを見届けた闘姫。
(…さて…。)
彼女は誰も見てないのを確認すると懐から黄金の仮面を取り出し装着する。
瞬く間に彼女は仮面の剣豪こと白百合のプリンセスに戻る。
(銀髪のX…そして相手の決め技のダメージ返しをする魔術…。)
独断行動で白百合のプリンセスは何かを調べに行った。
向かうは学院の書庫か。
夕食時間になっても白百合のプリンセスは姿を見せなかった。
「…姫さん、お腹空かないのでしょうか?」
美鈴は姿を見せない白百合のプリンセスを心配した。
「部屋で寝てらっしゃるのかも知れませんね?」
そう言いつつ料理に齧り付く愛麗。
「私、後で軽く食べられる物を差し入れておきますね。」
「お願い致しますわ、明花さん。」
その頃、部屋に大量の書物を持ち込み読書しながら寝入っている白百合のプリンセスがいた。
彼女の開いているページには「カウンター魔術」と記されていた…。
何と、弓部門は引き分けによる両者失格。
四部門決勝は三部門決勝になりました。
弓部門と当たるハズだった一人は不戦勝。
果たして、例のXは誰と対戦するのか?




