第七話【お屋敷の地下はお化け屋敷】後編
美鈴と愛麗は秘密の部屋でとんでもないモノを発見します。
そしてそれは美鈴の前世とも関わりがありました。
その日から美鈴の運命が大きく動き始めるのでした。
【ヒッヒッヒッヒ】【ヒッヒッヒッヒ】
部屋の至るところから声が反響してくる。
「お嬢様、ここで魔法を使えば書庫の古書を切り裂いてしまいます。」
「それもそうですわね。」
「では…『犬の耳』『犬の鼻』」
美鈴は付与魔法で愛麗の聴覚、嗅覚を強化した。
「さあ愛麗、あの声の主を聞き分けなさい。」
「そしてこのページの匂い。」
何で私が…と不満を覚えながらも従う愛麗。
「………覚えました。」
「では、お願いいたしますわ。」
「了解しました。」
四つん這いになりながらクンクンと床の匂いを嗅ぎ出す愛麗。
それを後ろから眺める美鈴。
(は、はううう。)
(な、何て愛くるしい姿なのかしら、愛麗?)
美鈴は、腰を降りながら匂いを嗅いでいる愛麗の後ろ姿に萌えていた。
「あ、お嬢様!わかりました!」
「わかりましたか?貴女って犬の真似がとても可愛らしいんですのよ?」
はわわ~。と目にお星様を浮かべて答える美鈴。
「お、お嬢様ぁ…?」
ほんのりピンク色に頬を染めながら愛麗が困り顔で答える。
いつもならこんなボケをかますのは愛麗の方なのだが、立場が逆になると反応に困ってしまう愛麗だった。
「…はっ!………コホン、それで愛麗、何がわかったのですか?」
「あ、はい。この匂いと声の発生は…。」
「あの大時計からしています!」
「!」
大時計の針の中心は透明なクリスタル。
美鈴はそこから魔力を感じた。
「そこですわね!」
美鈴がダガーから大時計の針の中心へと魔力を流し込んだ。
ゴーン、ゴーン………。
大時計が12時を指し示した。
すると大時計がゆっくり横へとスライドする。
「隠し部屋ですわ!」
二人は中へ入る。
部屋に灯りが灯る。
中には一台のテーブルと、その上には。
「これは張り紙で封印された小箱………ではこの張り紙の下の小箱の中に仮面が?」
「それがもしや、あの古文書の?」
恐る恐る二人が近づくと、そこには確かに。
【ヒーローになれる仮面】とマジックで書いた紙が小箱の上に貼ってあった。
しかもセロテープで止めてある。
ガクッとコケる二人。
「な、何ですの?この雑な書き方は?!」
「古文書にあるから、もっと荘厳なシーンを期待したのに、これじゃ肩透かしです!」
二人は威厳も何もないお粗末な光景にガッカリした。
とりあえずそのマジック書きの紙を剥がすと、その下には件の品と思われる仮面が置いてあった。
「誰かのイタズラでしょうか?」
「とりあえず被ってみたらどうですか、お嬢様。」
「………何だか悪趣味なパーティーに参加する怪しい紳士のイメージがいたしますわ。」
その仮面とは、両翼を広げた翼の形をしており、目の部分を隠すだけのものだった。
その目の部分は単にくり貫かれているワケではなく、ガラスのような細工がしてある。
「これで前が見えるのでしょうか?」
手にとって顔に付けて見る美鈴。
と、
【…やあっと会えたぜえ、美鈴!】
「ひゃっ?!な、何ですのあなたは?」
「お嬢様、どうかされましたか?」
「……………………………。」
「お、お嬢様?」
それきり、美鈴は黙ってしまった。
【安心するが良い。彼女は今、私から仮面の主となるための説明を受けているのだ。伝授が済めば彼女の意識は解放される。】
【故に、暫く待たれよ。】
「仮面の主?お嬢様が?」
「お嬢様、本当にヒーローの仮面に選ばれてしまったのですか…?」
「でも、お嬢様は女性なのだからヒーローではなくヒロインなのですが?」
愛麗の疑問はもっともだ。
それはおいといて、仮面による美鈴への伝授………だけではない会話は続いていた。
「あなた、私の事を知ってますの?」
【ああ、知ってるぜえ。それにお前の昔の事もな。】
「私の昔?子供の頃の事ですか?」
【もっと昔だよ。そうだな、前世って言えばわかりやすいかな?】
「え?………私の、前世…?」
【ここまで言っても思い出さないのか?】
「と、言われましても。」
【何だ、すっかり前世の事は忘れちまってるのかよー。】
「あの、その私の前世とあなたに何か関わりでもあったのですか?」
【だから、前にお前の夢の中で言っただろ?】
【ここはゲームの世界だって。】
「えっ?!」
「そ、それじゃ…あなたまさか?」
【おっ、その口調だと思い出したみたいだな?】
声の主は嬉しそうだった。
「一緒にゲームで遊んだ…。」
【同じヒロインに熱を上げてたよな?】
「じゃ、やっぱり…!」
【おう!そうだよ!】
二人は同時に前世の名前を呼んだ。
「名尾君!」
【ケンゴ!】
「名尾芸太、クラス一番のお調子者!」
【亀井兼悟、クラス一番の引き籠りオタク!】
「まさか、こんなところで再会するなんて?」
【ああ、俺も最初信じられなかったよ!】
「それにしてもあの部屋の薄気味悪い笑い声、貴方でしたのね?」
【いやあ、せっかくだから雰囲気盛り上げてやろうと思ってさあ。】
「要らぬ心遣いです!」
「それより、私が前世で亡くなった後、どうなったのですか?」
【ああ…とりあえず俺があの後どうなったのかだけは話しとくかな。】
名尾芸太だった仮面の聖霊が言うには、亀井兼悟だった美鈴が前世で亡くなった後、ひたすらそのゲームをやり込んだらしい。
その成果を自作のサイトで紹介するところまで行き、数年後そのゲームを製作した会社への内定も決まっていた。
そんな矢先に彼はゲームのイベント会場でストーカーに刺されそうになったコスプレイヤーを庇って命を落としたらしい。
「知らなかったですわ。名尾君がそんなに勇気のあるお方だったなんて。」
【いや、俺もそんなつもりじゃなくて、助けてあげて感謝されるのを切っ掛けにお付き合いするつもりだったんだけどな。】
「あ、やっぱりそんなとこでしたか。」
感動して損したー、という眼差しの美鈴。
【うっせー!】
「でも何故仮面の聖霊に?」
【そこは俺も何だかよくわかんねーんだよ。】
「因みに、いつからそこに?」
【さあ?気が付いたらこの仮面の中に転生させられてて、神様らしき人から持ち主となる少女が現れたら導いてやるように言われてさ。】
【千里眼みたいなので世の中の色んな事を見たり感じたりするうちに、ここはゲームの世界だと気が付いたんだ。】
「正式には今はゲームの始まる前に当たりますけどね。」
「貴方はどう思われます?私はここが百パーセントがゲームと同じ世界とは今一思えないんですけど。」
【そりゃ、俺達の知ってるゲームの世界は貴族学院の高等部に入学してからだからな。】
『白百合の園と仮面の闘姫』
百合オタク達のバイブルとまで詠われた名作。
元はラノベだったがコミカライズされた事で人気に火が付き、ゲーム化までされた。
しかし映像化を前に一部女性団体からの反対に会ったため念願のアニメ化は叶わなかったという、曰く付きの作品でもある。
「そう言えば、なんでヒロインは貴族の娘なのにタイトルには【姫】が付いてるのでしょうか?」
【ああ、そうか。お前はまだ二週目プレイまでで隠しシナリオまで見つけてなかったな?】
「隠しシナリオ?!そ、そんなのがあったのですか?」
【………と。まあまあ、そこは話しが近付いてきたら追々教えてやるから。】
【それにしてもその喋り方、お前本当に兼悟なのか?】
「そう言われましても…。」
「私は貴族の娘の赤ん坊として生を受けまして、夢の世界で貴方と会わなければ一生前世の自分を思い出す事も無かった事でしょう。」
「………もっとも、そのおかげで良いことも悪い事も全て思い出す事になりましたが。」
美鈴が血を見て気絶するようになったのも、思い出せばその頃からだった。
能力的な部分は過去世の影響を受けなかったようだが、内面的には一部前世の記憶の影響を受けたらしい。
とはいえ性別に関してはあまり過去世の影響を受けなかったようだ。
幾ら美人美少女揃いの召し使い達から言い寄られても、全く食指は動かなかった。
それどころか鳥肌がたちそうなくらい拒否反応が出ていた。
「私も前世では百合大好き人間でしたけど、今世で同じ女になってリアルで女性に言い寄られても全然その気はしなく無くなりました。」
「可愛い子を愛でたり美しい人に憧れたりはありますけど、エロい気持ちにはなれませんね。」
【…そういうモノなんか?】
「では聞きますけど、貴方がもし男の人から言い寄られたり、エロい目で見られたりしたらどう思います?」
【うっ、キモっ………!】
「でしょう?」
「私もこれが転生ではなくてまた何時でも直ぐ元の男性に戻れる前提なら百合ワールドを楽しんでたとは思いますけど………残念ながら?今は全くその気にはなれませんね。」
【でもあの側仕えの愛麗って子とはイチャイチャしてるじゃん。】
「いっ?!…何時私が愛麗とイチャイチャしてましたかっ?!」
【いや、その態度が既に肯定してないか?】
「してませんしてません!彼女は子供の時からの主従関係で、仲良しなだけです!」
【…まあ、そう言う事にしておくかあ。】
「そ、それより仮面の主足るための伝授とやらは、どうなさいましたか?」
【ああ。それなら潜在意識に直接刷り込んで置いたから大丈夫。】
「じゃ、この対話の意味は何ですか?」
【ん~、君と話したかったから。かな?】
「?」
【どうやら君は男の前世の記憶は持ってるけど、今は完全に女の子なんだね。】
「たま~に口調が男っぽくなりそうな時はありますけどね。」
【フフっ、百合嫌いな君は、本当は男の子の彼氏が欲しいんじゃないのかい?】
前世の名尾芸太の姿が現れ、美鈴の横に並ぶ。
【どうだい、俺と付き合わ………】
「~何バカな事言ってんですかあ!」
バキッ!
【あ、アッパーカット…?】
宙に舞う名尾芸太。
そしてズ、ズウンと地に伏す。
「貴方は前世が元男の親友と知ってても手を出すような節操の無い野郎だったんですかあ?」
【じょ、冗談だよ。ノリ悪いなあ。】
「さて、懐かしい話しも終わりました。私の意識はどうやって帰れば宜しいのですか?」
【あ、待てって、まだ色々大事な事をまだ…】
「それも潜在意識に刷り込んでおいたのでしょう?」
【そんな便利なモノじゃないんだよ、…しょーがねえ、また夢の中ででも説明する。それでいいか?】
「ええ、重要な事はなるべく頭に入れておきたいですから。」
【そんじゃまたな。まだ肝心な事は喋ってないんだ、とにかく早くゲームの内容を思い出すんだぞ!】
美鈴の意識が急速に身体へと戻って行った。
「………おっ。」
「お嬢様?」
「愛麗?」
「お嬢様!良かった、お戻りになられたんですね!」
「ええ。やっと聖霊との会話が終わったところですわ。」
(肝心な事って、…何かしら?)
(【早くゲームの内容を思い出せ!】)
(あ。そうでしたわ!)
(ちゃんとゲームの内容、聞いておくべきでした!)
部屋に戻ったらゲームの内容を出来るだけ思い出して書き記しておこう、そして夢の中で名尾芸太こと仮面の聖霊に知らない部分を聞いておかなければ!
そう決意する美鈴であった。
「そう言えば、あのマジックで書かれた紙、誰がセロテープで貼りつけたのでしょう?」
……………………。
「あの子、ちゃんと仮面を見つけられたかしら?」
「大丈夫さ、私達の娘なんだから。」
「そうでなければ怖いの我慢して地下の秘密部屋まで張り紙しに行った甲斐がありませんわ!」
「あと、私も現代文ページを挟んだ古文書を真
っ先に手に取るように精神誘導の細工を古文書に施しておいたけどね。」
「それにあそこは秘密部屋、と言うか秘密の古書室なんだよね。雰囲気出すために【秘密】とだけ書いた名札に替えておくサービスまでしてたらキミ、私を置いて先に逃げちゃうんだもんなあ。」
「だ、だってえ。早く出たいのにアナタが中々出ようとされないから怖くて我慢出来なかったったんですもの?」
「よしよし。私も我慢してたんだけどね?」
(あの部屋からは古書に宿ってる色んな聖霊が地下にウヨウヨと出入りしてるからなあ。いきなり驚かされたりもするし、私も出来れば行きたくない場所なんだよ。)
「ともあれ、我が家代々の秘宝【聖霊の仮面】の娘への伝授、無事終了だ…多分。」
「私も先代の両親から周りくどい伝授をさせられたものですわ。」
「果たして今度こそ、聖霊が主と認めてくれれば良いのだが。」
「聖霊の仮面…またの名を救世の仮面。」
結局、今回の事は美鈴の両親が仕組んだ事だった。
そしてこの日、美鈴の真の運命が決まった。
美鈴がとっとと旧友との話しを切り上げてしまったために肝心なゲームの話しを聞けませんでした。
まだ全容が謎に包まれているこのゲーム、美鈴はどれだけ覚えているのでしょう。
そして聖霊の仮面の加護を受けた美鈴の前に、何が待ち受けるのか。