第六十九話【蜂と鞭…それは陰謀の匂い?魔法部門、いよいよ決着!】
真剣な戦いの中にも月夜生徒会長はユーモアを忘れません?
というかマイペースを崩さないだけかも…。
ノセられそうな多彩蜂、しかし彼女も一癖ありまして…。
さて、月夜と多彩蜂の試合が続いてる。
月夜は取り敢えず狼を召喚して相手の出方を伺う。
多彩蜂は身軽な動きでこの狼の攻撃を躱す。
続いて月夜は鷹を繰り出す。
空と陸からの攻撃。
弱い相手ならこのコンビネーションでも充分倒せてきた。
だが相手は仮にも魔法部門決勝に駒を進めるだけの相手。
巧みに連携してくる鷹と狼の立体攻撃を難なく捌いていた。
「へえ…結構やりますのね。」
ならば、と月夜は鷹と狼を追加してその数を三羽と三匹にした。
これでかなり立体的な攻撃が可能となった。
(ここまで来ると流石に素手での対処は難しい、か。)
多彩蜂は手に棒を出現させた。
これはただの棒ではない。
ちゃんと武術で用いる棒だ。
そして多彩蜂はその棒を巧みに操り狼達を牽制し鷹の群れを追い払う。
「ここまでは武術での対応ね。」
「に、しても…。」
多彩蜂を眺めていた月夜は思った。
「多彩蜂さんと言ったかしら?」
「貴女が最初に見せたフェンシングの剣、何故使わないの?」
「え?使って欲しいんですか?」
彩蜂がニヤリと嗤った。
(この女…。)
月夜は認識を改めた。
コイツは油断ならない、と。
何よりこれは魔法部門としての試合だというのに未だに魔法による攻撃を見せていない。
本当は武術よりも魔法攻撃にこそ絶対の自信があるに違い無い、そう月夜は睨んだ。
「そう仰っしゃられる生徒会長の方もまだ実力の片鱗すら見せてくれないじゃありませんか。」
そう言葉を発する彩蜂は棒で同時に鷹と狼を、一羽と一匹仕留めた。
攻撃を受けて悲鳴を上げながら撤退する鷹と狼。
だがその隙に他の二羽と二匹が彩蜂の棒を破壊した。
「良くやったわ!…貴方達大丈夫?」
月夜は使役した鷹と狼を労った。
「ご苦労さん、もう下がってていいわ。」
月夜がそう微笑むと、鷹と狼全てが影のように姿を消した。
「そんな普通の動物の使役獣じゃなくてご自慢の霊獣をぶつけて下さいませんか?」
月夜が様々な霊獣を宿しているのは公然の秘密。
フレイムドラゴンこそ手懐けられなかったが、それに優るとも劣らない強力な霊獣を使役出来るという噂だ。
「まだまだ…貴女に私の大切な子達をぶつけるのは勿体無いわ。」
月夜は勿体ぶってるのでは無い。
これはあくまでも試合なのだ。
相手がどれだけの腕前なのか、どれほどの霊獣相手なら死なずに済むか、重傷を負わさずに済むのか、或いは自分の霊獣を損なわずに済むのか…それを見極めているのだ。
(それに私は何も霊獣使役だけの魔法使いではない。)
月夜の目が光った。
「?!」
多彩蜂は警戒した。
月夜の両腕を真っ赤な光が纏う。
「取り敢えず、こういうのはいかが?」
月夜が片手を前方に突き出す。
すると彼女の腕を纏っていた赤い光が帯のように伸びた。
それは火花を放ちながら多彩蜂へと高速で向かって行く。
「むん!」
多彩蜂は側転でこれを躱す。
が、赤い光の帯は弧を描いて背後から多彩蜂を襲う。
「なんと!」
ブリッジでこれを躱す。
すると多彩蜂の短めなスカートが捲れた。
ピンクの下着が見えた。
少し食い込みが入った下着を見てしまった観客は黄色い声を挙げた。
それを他人事のように状態を起こして聞き流す多彩蜂。
だが内心は
(今の…み、見えちゃった…かな?)
と、ドキドキしていた。
「な、中々おやりになるわね…?」
月夜の言葉が少し上ずっていた。
彼女にも多彩蜂の下着が目に入ってしまったかも知れない。
「生徒会長、貴女がそう来るのなら…。」
今度は多彩蜂も両手を前に突き出した。
「炎の矢よ、無数に広がって敵を討て!」
紅蓮の炎が数多の矢となって天から月夜に降り注いだ。
すると対する月夜も。
「月光の矢よ、敵の矢を穿て…!」
地上に降り注いだ対地ミサイルを対空ミサイルで撃ち落とすように月光の矢が上空に放たれた。
一本も打ち漏らさず月光の矢は炎の矢を打ち砕いた。
「流石ですね生徒会長。」
「まだ油断してはいけませんよ、多彩蜂さん?」
「は?」
まさか?と多彩蜂が空を仰ぐ。
すると一本だけの月光の矢が彼女の頭上から狙い落ちて来た。
「ほ〜ら、言わんこっちゃない(笑)。」
クスクス笑う月夜を横目に多彩蜂は防御壁を展開してこれを防いだ。
ドォォン!
結構大きな衝撃が彩蜂を襲った。
(見た目は普通の魔法の矢だったのに…込められてる魔力量がハンパない…?)
(確か、このお嬢様は使役獣に与えるエネルギーが足りなくていつもピーピーしてると聞いた。)
(エネルギーが慢性的に不足してるハズなのに、何故こんな絶大な魔力量を消費する技が撃てる?)
多彩蜂は混乱した。
月夜の溜め込める魔力量自体は実はかなりの容量を誇っている。
それこそ美鈴には及ばないものの、中央貴族学院全生徒の中でも五本の指に入る程だ。
ただ彼女は体内に使役する霊獣達に魔力を与えてる為に魔力量不足に陥ってるに過ぎない。
霊獣への魔力供給が少量に抑えられる状況であれば、彼女は他の魔法への魔力を存分に配分出来るのだ。
「ホラホラ、そっちから来ないなら、こちらから参りますよ?」
今度は月夜は水流のロープで多彩蜂の全身を絡め取る。
「くっ?油断した!」
「さあ、そのままおとなしくしてなさいねえ?」
焦る多彩蜂とは反対にウキウキしながら次の一手を繰り出す月夜。
その方手には鞭があった。
「貴女、どんな調教がお好み?」
「は?」
まるで白百合のプリンセスのような仮面を付けた月夜がそこに居た。
いや、白百合のプリンセスのような高貴さや清楚さは感じられない。
むしろ真逆な毒々しく下卑た色合いの、パープルとピンクの合間な暗い色の仮面。
ギザギザが入った輪郭に鳥の羽根が付いたその仮面から覗く月夜の目付きがその仮面以上に怪しかった。
どうやら彼女のスイッチが入ったようだ。
…何のスイッチなのかは言わないでおこう(汗)。
「まずは…この攻めから!」
月夜の鞭が唸る。
ピシッ!ビシィッ!バシイイン!!
「ぐあっ?」
「あうっ!」
「ぎゃあっ?!」
「ホホホ!女王様とお言いなさいな?」
「…ああん、女王様あ〜?」
…………一応説明しておくが、確かに多少痛みは感じるものの安全の為の防御シールドが展開されるのでほとんどのダメージはこのシールドが吸収してしまう。
だから多彩蜂自体にはそんなにダメージは無い。
鞭でぶたれてるというイメージがそうさせるのか、或いは多彩蜂の方も結構ノリノリでマゾ役になり切ってるか…?
「…て、何やらせるのよ!」
あ、正気に戻ったみたいだ。
「あら、ついでに催眠でマゾ役にしたのにアッサリ暗示が解けたのね。」
あ〜、そう言うワケね?
『うわあ~』
『ちょっと、この人達何やってるの?』
ヒソヒソ…。
「ほら、貴女が変な事するから会場の雰囲気がおかしくなったじゃない!」
多彩蜂に指摘されて月夜が周りを見ると、二人ともビミョーな視線を会場中から浴びていた。
「あ、あはは…ちょっとウケを狙ったんだけど…あまり面白くなかったかしら?」
少し残念そうに水流のロープを解除する月夜。
本当にウケ狙いだったのか?
案外コレ幸いとばかりに自分の趣味に走ったんじゃないだろな…?
「さて、今度は真面目にやりますか。」
月夜は手に持っている鞭を光らせ、更にもう片方の手にも光る鞭を持った。
「光の鞭の二刀流…それなら。」
多彩蜂も両手にフェンシングのサーベルを出した。
更に。
「電光サーベル!」
彼女の両手サーベルは光の剣となる。
「さあ、今度はお互いの得物でシールドを破壊しまくるとしましょうか。」
「つまり先により多く相手のシールド…またはアミュレットを破壊した方が勝ち、というワケですわね?」
「シンプルでいいでしょう(笑)!」
「…まあ。これも生徒会長がいつまでも立っても霊獣を温存するから仕方無しにですけどね。」
「ア、アハハ…まあ、私にも事情と言うものがありますからあ〜?」
笑って誤魔化してるが、実はさっきまでの魔法でかなりの魔力を消費してる月夜。
ここで大量の魔力を消費してしまう強力な霊獣を出してしまえば多彩蜂を倒すよりも先に自分の方がぶっ倒れてしまうと自分で確信してしまってる月夜なのであった。
つまりが、さっき調子に乗り過ぎて魔力を使い過ぎたのだ。
あのウケ狙い?でやったエスエム調教ごっこは全くのエネルギーの無駄遣いだった。
ここまでの展開でおわかりいただけるだろうけど、ハッキリ言って月夜も結構おバカなのだ。
………等と言ってるうちに場面は光の双剣と光の両手鞭による攻防が展開されていたのだが…。
「あ、そう言えば」
「何ですか?」
「いつの間にか三分経過してしまいましたねえ…私を三分以内に倒すとか宣言してませんでしたっけ、生徒会長さん?」
「先に言い出したのは貴女の方ではありませんでした?」
「いえいえ、言い切ったのは生徒会長さんの方ですから…。」
「そのお言葉の権利ですけど、謹んでお返し致しますわね?」
「そんな〜、遠慮なさらずに〜♪」
「オホホホ、要りませんたら!」
年頃の美少女同士がケラケラと笑顔で斬る、そしてクスクスと笑顔でぶっ叩く。
光の剣と光の鞭が交差し、弾きあう。
その度に飛び散る火花。
そして不意に相手の懐に入り込んだ剣の切っ先が、更には鞭の先端が互いのシールドの一部を破壊した。
モザイクの一部が剥がれるように両者の防御シールドの一部が消失する。
魔力を纏わせた武器による攻防はほとんど互角だった。
意外なのは月夜の武の才能。
間合いとしては離れてる分には鞭の方が有利と言えるのも有るが、フェンシング部にいた多彩蜂の高速突きを防ぎながら鞭の打撃を加える月夜。
攻めながらも懐に入り込ませないように相手を上手くコントロール出来ているのだ。
普段は深窓の令嬢の如くお淑やかなイメージの月夜が汗水垂らして武術を営む姿など誰も目にした事が無い。
考えられるのは、以前白百合のプリンセスを淫魔から守るという名目で監禁紛いな事をしていた時に彼女から何らかの手解きを受けた可能性だ。
当時体調が優れなかった白百合のプリンセスからはさほどの師事を受けられなかったと推測出来る事から、元々の月夜の武の才能が秀でていたとしか考えられない。
………そんで、敢えて言うなら好きこそものの上手なれ…。
彼女の性格から来る趣味嗜好が鞭を上達させた、というのは果たして俺の考え過ぎなのだろうか??
……………暫くすると、二人ともゼエゼエと息が荒くなっていた。
両者とも、今にもへばりそうだ。
更に言えば二人とも既に汗だく、水も滴るいいオンナ♪…な、有様だったりして。
「………こ、ここまでやってもまだ決着つかないなんて…?」
「こちらこそ、おみそれ致しましたわ…。」
月夜の疲労の色が濃い。
しかしそれは多彩蜂もまた同様だった。
傍目にも、このまま二人とも戦闘不能になって引き分け…つまり魔法部門からの四部門決勝進出者は居ない事になるのが目に見えていた。
「こうなれば…私の全力で!」
遂に多彩蜂が奥の手を出した。
「キラー・ビーム!!」
殺人光線とは物騒な技名だな、オイ。
掌から放たれたのは高出力レーザーだった。
フラフラながらも咄嗟に月夜が躱す。
するとそのレーザーは観客席の防御結界の一部を砕き、壁に当たった。
壁は溶け、焼け焦げた穴が出来た。
「…な、何て威力?」
「それよりアレがまた観客席に当たれば…。」
ゴクッと唾を飲み込む月夜。
「さあ、観客席の被害を取るか、ご自身が受け止めて負けるか?どっちを選ぶのかしら生徒会長様は?」
「出力を絞りなさい、でないと周りに危険が…」
「あら、生徒会長ともあろうお方が手抜きを要求するおつもり?」
カチン。
「…なんですって?」
「でもまあ…いいよ?こっちとしても観客に怪我人出てから何か言われるの嫌だものね。生徒会長様に言われたから仕方無く出力絞るわね〜、手抜きだけど〜?」
「………その減らず口、閉じさせてもらうわよ!」
人間、怒りもあるレベルまで行くと逆に酷く冷静になれる時があるそうな。
おそらくこの時の月夜も相手からの徴発に対してそうなったんだろう。
月夜は相手の攻撃の際に出来る一瞬の隙に気が付いていた。
それは自身のレーザー光線があまりに眩いため、多彩蜂が瞬きをしてしまう事だ。
その隙があれば充分だった。
月夜はタイミングを測るため目を閉じ周囲の気配まで、全てを感じ取っていた。
…すると。
(………この魔術は?)
月夜は自分の背後の壁から何かを感じた。
それを彼女が理解した瞬間、
「行っけええ〜!!」
眼前が白んだのを月夜が瞼の向こうに感じた。
多彩蜂が放ったキラー・ビーム…レーザー光線だ。
実は可視光より不可視光レーザーの方が高温で物体を焼く事が出来る。
だが見えなければ狙い通りに光線が放たれたかわからない。
だからこのレーザー光線は不可視光に同レベルの出力で可視光を纏っているのだ。
月夜はこのレーザー光線を受け止め………
………てはいなかった。
朧げな彼女の姿が消える。
いつの間にか自分の影をそこに置き、別の場所へと移動していたのだ。
そして月夜の影…つまり投影を貫いたレーザー光線はそのまま観客席前のシールドを破壊、観客席前の壁に激突する。
と、壁の前に垂らされていた横断幕にそれが当たった。
そしてその横断幕からは魔法陣が拡がった。
魔法陣はレーザー光線を撥ね返した。
「?!」
一瞬だった。
多彩蜂は自らが放ったレーザー光線を浴びた。
「こ、こんな?!」
その時、彼女の横から光がレーザー光線に当てられていた。
月夜だ。
レーザー光線が魔法陣で反射されるのを予測していた彼女がレーザー光線の出力を軽減したのだ。
やがてレーザー光線が止む。
それでも尚、月夜からの光の放射は続いた。
そして。
ピッ。
ピキッ…!
カシャアア〜ン!!
多彩蜂の防御アミュレットが割れて落ちた。
月夜はチャッカリしていた。
多彩蜂を守るついでに彼女のアミュレットも最初から狙っていたのだ。
『〜勝者、安月夜!!』
ワアアアッ!!!
紙テープが舞った。
「おめでとう、月夜生徒会長!!」
「三年目の正直ね!」
「信じてたよ、今年こそ決勝勝つって!」
観客席から月夜を祝福する声があらゆる方向から贈られる。
「……貴女、まさかさっき私の事を守って…?」
「さあ、どうでしょうね?」
月夜は質問をはぐらかした。
「それより貴女に聞きたい事があります。」
「あの観客席の壁の魔法反射魔術を仕込んだ横断幕、アレは貴女の仕業?」
「…さて?」
「それとあの光線魔法、私の知るどの流派や家系にも存在しない…それを貴女は何処で身に着けたのかしら?」
「………バレましたか。」
「教えなさい、貴女は何に所属してるの?何が目的?」
「………新血脈同盟。」
「新…血脈、同盟………それって?」
「これ以上は言えないわ。」
そう言うと多彩蜂は跳躍して去ってしまった。
常勤を逸した身体能力。
最初からコレを出されていたら、或いは月夜の勝利は無かったのかも知れない。
となると、最初からこれはレーザー光線反射による事故を狙った月夜の暗殺…?
しかし当の狙われた?月夜はもう終わった事を気にしてはいないようだった。
それよりも多彩蜂が洩らした名前の方が気になっていた。
「新血脈同盟…その存在は事実だった…。」
「そしてその中の人間がこの学院に潜んでいて…私や仲間の生徒らを狙った…?」
ブツブツ独り言を呟いていた月夜だったが、観客席から出て来た生徒達に囲まれ祝福の言葉を受けているうちに段々と表情が和らぎ、彼女らに礼を述べていた。
と、そこへ。
「生徒会長〜!!」
副会長が駆け寄って来た。
「あ、ごめんなさい、今試合終わったから、これから役員の仕事の順番を交代…」
「そんな事より、依然さんが…!」
副会長からの次の言葉を聞いた時、月夜は疲労と魔力不足、そして精神的ショックから倒れてしまった…。
多彩蜂の背後には新血脈同盟が居た?
しかし何とか月夜の魔法部門優勝で決勝戦は幕を閉じました。
倒れてしまった月夜ですが、依然が助かった事を知れば直ぐに復活してくれるでしょう。
そして残す所は弓部門の決勝戦のみ。
白百合のプリンセスはそこで何を見るのでしょうか。




