第六十五話【決まるか?依然の決め技・万天突破!!】
選抜大会各部門の2日目、準々決勝が行われます。
美鈴の仲間達はそれぞれ各部門の偵察へと赴きます。
たまたま槍部門を観戦に行った愛麗と芽友ですが、そこで槍部門優勝候補の筆頭と目される依然の意外な苦戦を知り…。
学院代表選抜戦大会が本日で2日目になった。
トーナメント方式のこの大会、美鈴は最初のシード戦で自分と相手の剣を叩き折ってしまい、危うく両者失格の憂き目に合いかけるというポカをやらかしてしまった。
が、それ以降は危なげない試合展開で勝ち進み、早くもベスト8まで駒を進めた。
「明日は剣の部の決勝で三連戦。これを終えればいよいよ他部門も含めた四大決戦ですね。」
「初戦を警備の為に見逃してしまった私としましては残り全部の試合を観戦したいところです。」
食い入るようにトーナメント表を見ている白百合のプリンセス。
「そこはもう大丈夫だと思います、残りの大会期間中、生徒会が有志を集って警戒網を張るそうですから。」
白百合のプリンセスを気の毒に思った明花から生徒会長を継続している月夜に話を持っていったところ、月夜が動いてくれたのだ。
「そうなのですか?それは助かりますね。」
「ね、美鈴さん?」
白百合のプリンセスから話を振られて少し顔を赤らめる美鈴。
「そ…そう、ですわね…。」
どうやら白百合のプリンセスに警備依頼した事を忘れて彼女を労うのを忘れていた事を恥ずかしく思っているようだ。
それを見た明花は。
「これは仕方ないですよ、美鈴さんは試合の事で頭がいっぱいでしたから。」
「あの…私何も、申しておりませんのですけど…?」
【でも顔にそう書いてあったぞ美鈴?】
と、俺が突っついてやると…?
「別にこれっぽっちも試合の事で頭がいっぱいになってしまい白百合のプリンセスさんに依頼したのを忘れて申し訳無かったとか、なんて考えた事などございませんから!」
と、つい美鈴は大声で叫んでしまった。
…これ以上無いくらい見事な迄の自爆だった。
「あらあら、そこまで思っていただいてたなんて♪」
白百合のプリンセスは上機嫌に微笑んだ。
(う〜、完全に遊ばれてますわあ〜(汗)。)
机に突っ伏し外界の情報をシャットダウンする美鈴だった。
「このまま美鈴さんが順当に決勝まで進むとしまして、他部門では何方様が勝ち残られるのかしら?」
明花がそう言うと、芽友が手帳を取り出して開いた。
「その辺りをコッソリ調べてみたのですけど…。」
「やはり槍使いは依然さんが俄然トップと思われます。」
「弓の方は情報不足でまだ何とも言えませんが例年上位の生徒で決勝トーナメントは占められている事でしょう。」
「魔法の部門の方は…やはり生徒会長の月夜さんが優勝候補ですか?」
愛麗が芽友に尋ねた。
「私もそう思いたいのですが…あの方は毎年いいトコまで行くとヤル気を無くされて圏外に消えてゆかれるそうです。」
この言葉にテーブルに伏せていた美鈴はガバッと起きて反応した。
「ああそう言えば以前、忙しくなるから優勝したくないと申されてましたわね?」
明花がその話に乗っかった。
「私もあれから依然さんと少しお話させていただきましたが…結構そんな会長にお悩みのご様子でした。」
「月夜さんほどの方が実力を示さず自ら敗退、又は辞退されるとは…何か他にも深い考えがお有りなのかも知れませんね…。」
白百合のプリンセスが真剣な表情で呟く。
が、
『それは無い無い。』
他の皆は首を左右に振って一斉にその考えを否定した。
「あるとしたら、身体に飼ってる…もとい、宿しておられる霊獣達を宥めるだけのエネルギーを取り込むのが面倒なだけだと思いますわ。」
「そう言えば…あの方はお食事でそれを賄っていらっしゃいましたものね…。」
思わず苦笑いする明花だった。
「食べ物から何体もの霊獣を養うだけのエクトプラズムや霊気を得ようと思えば莫大な食事を摂取する必要がありそうですね…。」
「安家が四大名家であればこそ可能、ですわね。」
普通の家庭では三日と生活が維持出来ないだろう。
「しかしいずれ、こんなやり方は破綻しかねませんわ。」
「今の月夜先輩に必要なのは…。」
その美鈴の言葉の続きは白百合のプリンセスが語りだした。
「屋敷に祭壇や神殿を設け、そこから毎日神気や霊気を受け取る瞑想が必要でしょう。」
「そして屋敷が霊脈の集中するパワースポットに建てられてなければ生らないでしょう。」
「今はまだ何とか成ってるようですけど、更に霊獣の数を増やしたり強大な力を持つ聖霊獣を従えるとなると維持は難しいと思われます。」
「月夜先輩、大丈夫でしょうか…。」
明花が心配そうな表情で美鈴の方を見る。
「…ふむ。」
その明花の顔を見た美鈴は少し思案顔になると、
「愛麗、紙とペンを用意して下さいな。」
「ハイ、只今。」
何か主人が思い付いたのだと察した愛麗はテキパキと筆記用具を用意した。
「お嬢様、便箋と封筒でございます。」
更に愛麗は手紙を差し出す準備も怠らなかっだ。
「あら愛麗、随分と準備がおよろしいことですのね?」
「そりゃあ、美鈴お嬢様と私との仲でございますからあ!」
ドヤ顔になる愛麗。
「美鈴お嬢様の事でしたら色々と知っております!ムフフ…♪」
「…そんな深い関係でしたっけ私達?」
少し美鈴の眉毛がピクッとした。
これは少し愛麗が調子に乗り過ぎて美鈴の気分を害したのかも知れない。
しかし、この美鈴からの不穏な前振りに乗っかってしまうのがドMな愛麗たる所以だろう。
「なにせ、美鈴お嬢様と私は同じベッドにご一緒した仲…。」
「そりゃ、アンタが勝手に布団に潜り込んだ時の話でしょうがあ〜っ?!」
美鈴の瞳が光った次の瞬間、食堂中に竜巻が発生した!
そして!
【超!昇!撃!波あああ〜〜っ!!!】
ズッゴオオオオンッ!!
一瞬で天井に、そして屋根に大穴が空いた。
と、同時に愛麗の姿もまた影を残して消えた。
そして突風により天井高く舞い上がっていたお皿やフォーク、スプーン等の食器類が床へと落ちた!
ガシャンガシャアン!
幸いこんな事もあろうかとあらかじめ明花からの提案で全ての食器は陶磁器から金属製に変更されていたので損害は天井と屋根と愛麗だけで済んだ。
まあ屋根と天井が吹きとんだのは正直痛いがこれも毎度の事なので学院長代理も多めに見てくれる事だろう。
遅れて高空から悲鳴が届いた。
『あ〜ーれぇぇ〜〜〜…………』
…?
何か忘れてるような気がするが気のせいだろう、きっと。
話が盛大に反れてしまったけど美鈴は手早く達筆でペンを便箋にしたためると封筒に入れて芽友に手渡した。
「…芽友さん、後の事はお任せして良いかしら?」
「ハイ、お任せ下さい。…(あの子のトドメでしたら。)」
芽友が言葉の最後に何やら物騒な呟きをしていたようだが、みんな気が付かない振りをして食堂を出た。
まあ、あの不死身の愛麗の事だから何の問題も無いだろう。
その三分後、愛麗が今度は天空から床を突き破って頭から地面に突き刺さった。
その愛麗に対して電気アンマの刑を敢行する容赦の無い芽友だった。
可愛さ余って憎さ百倍、とはこの事だろうか。
「ホレホレ気持ち良いですか、愛麗?」
グリグリグリグリ…。
「そ!それより早く引っこ抜いて…!」
「嫌です、もう暫くこうしてなさい。」
冷徹な表情を浮かべる芽友。
しかしどこか楽しそうな目をしているぞ。
「…や、止めてくださ〜い!気が、気が変になるうううう〜っ!?」
美鈴の暴力には完璧な?防御と回復力を誇る流石の愛麗も電気アンマ等という古典的な責苦には弱いらしいな。
少しギリギリな展開だから細かくは語らない。
まあ、本人達は楽しんでるようだからほっとこう。
(た、楽しんでませ〜ん!)
(仮面の聖霊さん、助けてええ〜??)
聞こえな〜い、聞こえな〜い。
…………………………。
さて、側仕え達がそんな愛のある(?)ドタバタを繰り広げている頃。
『おおっ?!』
『こ、これは番狂わせだあ〜っ!!』
槍使いの部の準決勝。
紺色の長髪の女子が項垂れている。
それを見下ろす女子。
彼女は銀髪ショートボブだった。
「…すみませんね先輩。」
「…く、貴女一体?」
悔しそうに銀髪少女を見上げる紺色の髪の女子。
「ダークホースですよ。」
銀髪少女は手をヒラヒラさせながらグランドから去っていった。
……………。
一方、美鈴達は。
「私は自分の出番まで剣の部を見てますから、貴女達には他の部を見ておいて貰いたいんですの。」
「では私は弓の部の方でも見て参りますね。」
「お願いいたしますわ、白百合の…じゃ無かった、姫さん。」
生徒名「闘姫」こと、白百合のプリンセスはニッコリ笑って弓の部の試合会場に歩いて行った。
「私は武術に関しては正直素人なので見ても良くわからないと思います。」
「ですが魔法に関しては多少なりとも理解してるつもりですので、魔法の部の方を見て参りますね。」
「そうですか、では明花さんには月夜会長の応援もよろしくお願いいたしますわ。」
「ハイ、お任せ下さい!」
ハキハキと元気そうに答える明花だった。
「さて、槍の部の方は…。」
「あ、あの二人はまだ遊んでるのかしら?なら仕方ありませんわね。」
側仕えのコンビはまだ観客席には現れなかった。
「ハアハア、もう何処も試合始まってるんじゃないですか芽友?」
「貴女が美鈴様に色目使うからです!」
「いいえ!貴女の折檻が長いせいです!」
責任の擦り付け合いをしながら各部門の会場の間をウロウロとする二人。
「ところで美鈴お嬢様の試合会場はどちらになるんですか?」
「剣の部門の方でしたよね…。」
二人がキョロキョロ剣の部門会場を探していると。
『うわああ〜っ!!』
一際大きな歓声が聴こえた。
二人は顔を見合わせた。
「もしかして、あれだけの歓声が起こるのは美鈴お嬢様の試合では?」
「そうかも知れませんね愛麗?」
二人は良く考えずに取り敢えずこの大歓声が聴こえる試合会場の方へ向かう事にした。
これでもし美鈴が居なくてもそこの部門の試合を見て何らかの情報を得られれば良し、そんな打算も無かったと言えば嘘になるだろう。
が、この時の二人の行動と打算が後に思わぬ結果をもたらす事となる。
それはともかく二人は会場の前席通路からその会場を見た。
そこでは槍を持った生徒二名が試合をしていた。
俊敏な動きで翻弄する生徒、そしてほぼ立ち位置を変えずに涼しい顔で相手からの攻撃を受け流しつつ反撃する生徒。
「わあ…これは槍の部門の方でしたね…。」
「ええ、それにしても激しい攻防です。」
二人は白熱する攻防に皆が大歓声を送っているのだと直ぐ理解出来た。
そして縦横無尽にグランドを飛び回り駆け巡っていた生徒が一度動きを止めた。
「あ、あの選手もしかして?」
「…依然さん…安月夜生徒会長の従者さんですね。」
安月夜を狙う暗殺者に操られたり月夜を庇って矢を受けたりと何かと不憫な扱いを受けているイメージが強い彼女だが、その槍の使い手としての実力はかなりのモノ。
彼女を前衛に、月夜が後衛に立った時のコンビネーションは実際に他院の中等部生徒らが監禁された施設を警備していた護衛兵士数十名を圧倒した程だ。
この試合も依然が圧倒しているのだろう、途中から観戦したこの二人はそう思った。
「しっかしやるねー、あの銀髪の子。」
「去年は出場しなかったのかな、知らなかったわよあんな選手いたなんて。」
「あの依然さんがまだ勝負を決められないなんて、こりゃどうなるかわからないね。」
二人は耳を疑った。
「どういう事?依然さんが不利なんですか?」
愛麗は後の席で話していた生徒に聞いた。
「え?貴女確か黎美鈴の側仕え?」
「そうです。で、今の話の依然さんがてこずってるというのは本当ですか?」
「う、うん…。」
「私もそんなに武術に詳しいワケじゃないけど、少なくとも依然さんが手をこまねいてるのは確かだと思う。」
「私もそう見えてるよ、だってこれまで三分以内で勝って来た依然さんが五分経過してもまだ試合を決められないんだもの。」
口々にそう答える観戦中の他の生徒達。
愛麗がグランドに振り返ると再び攻防が始まっていた。
そして観戦していた芽友がボソッと洩らす。
「…依然さん、苦しそう…。」
「そりゃそうでしょ、ずっと動き回ってるんだもの依然さんは。」
そう、既に依然は汗だくだ。
「なのに、相手の銀髪の方は汗一つかいてない…ほとんど動かず躱して、たまに反撃するだけだもの。」
「何故?何故そんな展開に?」
愛麗が再び質問した。
「最初、銀髪が魔法による遠隔攻撃を仕掛けたの。」
「結構な威力でね、観客席の結界が防いでくれたけどアレはヤバかったあー。」
「最初は依然さんも魔法による遠隔攻撃で対抗したんだけど、遠隔攻撃の撃ち合いで依然さんは力負けしそうになったのよ。」
「なるほど、だから槍の間合いで純粋に得物の勝負へ切り替えた、と…。」
芽友はこの展開にやっと納得がいった。
「おそらく依然さんはそのまま撃ち合いが続いた場合の観客席へのもしもの事を考えた…?」
その芽友の推測を聞いた観客の生徒の一人がそれを疑問に感じた。
「でも防御結界が観客席を護ってくれてるから…。」
「いや、彼女の言う事も一理ある。」
そこに現れて口を挟んだのは氾先生だった。
芽友は唐突にあらわれた氾先生に驚きながらも質問した。
「先生?先生も観戦ですか?」
「私は防御結界も含めた警備全体の責任者の一人だからね、そういう意味で確認のため会場を見回っているんだ。」
「で、さっきの話だが」
「防御結界とは何種類か有るが、ここで使われているのは高エネルギーの壁を作り出す出す事で外部からのダメージを通さない種類のモノだ。」
「その維持には消耗する部分を補い結界そのものを維持するためのエネルギーを循環し続けなければならない。」
「そのエネルギー自体は普通は地脈から得るんでしたね先生?」
「そうだ。だから普通は人間による魔力攻撃程度ではまず破られる事は無い。」
「しかし普通の人間以上の存在や稀に現れる規格外の人間に対しては別だと言える場合がある。」
「それにそれだけの攻撃を受け続けたとしたら…。」
「結界はいずれ破られる…!」
「そしてその綻びから侵入した攻撃が観戦している生徒に被害をもたらさないとは言い切れない。」
「だ、だから依然さんは?」
愛麗が心配そうに試合を観戦し続けている。
「どうだろう?ソレは彼女自身に聞かないと何ともね。」
「しかし、それが却って彼女の戦いの幅を狭めて不利にしています。」
「ああ。芽友君の言う通りだ。」
「それじゃ、依然さんに勝ち目は?」
愛麗の瞳が潤んでいた。
芽友と氾先生は無言だった。
それは三人の会話を聞いていた生徒達も同様だった。
「…い、いい加減仕掛けて来たらどうなのですか?」
依然が忌々しそうに銀髪少女に吐き捨てた。
「かなり息があがって苦しそうですね依然さん?」
「でも大丈夫。そろそろラクにしてあげますから。」
ククク…と笑みを溢す銀髪少女。
「決めるつもり?なら私も本気を出させて貰います!」
依然が決め技を繰り出そうと構える。
「相手にとって不足無し。」
一方の銀髪少女もまた決め技の構えを取る。
「受けなさい!」
依然が叫ぶ。
【万天!】
依頼の瞳が輝くと、銀髪少女の周囲の空間が球体となった。
『おおーっ?!』
大技が繰り広げられる予感に観戦中の生徒全員が身を乗り出した。
「貴女のアミュレットがその身を護る事を祈ります。」
【突破ッ!!】
依然が槍を繰り出すと、銀髪少女を覆う球体内部に無数の光の点が現れた…!
依然が発動した魔法を用いた決め技、果たして謎の銀髪少女相手に勝ちをもたらすのでしょうか?
一方の銀髪少女の方も何やら決め技を繰り出すつもりのようでしたが…。
果たして四部門決勝ではどちらが美鈴の対戦相手として勝ち上がって来るのでしょうか…?




