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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第三章【学院代表選抜戦・一年生編】
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第六十四話【魅せる戦いと孤独な戦い】

予定通り白百合のプリンセスは会場全体の警護、美鈴(メイリン)明花(ミンファ)達に観戦されながら試合に臨みます。


今回は華やかな舞台で脚光を浴びながら戦う美鈴(メイリン)に対して一人警護に当たる白百合伸プリンセスの対比が描かれます。


「…ん。」


美鈴(メイリン)は夜中に目が醒めてしまった。


「zzzz…。」


少し離れた場所にあるベッドで高いびきを書いて寝ている愛麗(アイリー)をぼんやり眺めながら窓の外を見る。


「…なんか目が冴えてきましたわね。」


背中に上着を羽織り、窓から外へ飛び降りる美鈴(メイリン)


「少しその辺の散策でもいたしましょうか。」


美鈴(メイリン)がゆっくりと庭を歩く。


長いベンチに腰掛けようと近付く。


と、そこには先客がいた。


「あらこんばんは。」


その少女はいきなり美鈴(メイリン)から話しかけられたにも関わらずニッコリ微笑みを返した。


(…銀髪が星明かりに照らされて反射してますわ…。)

加えて彼女の藍色の瞳にも星明かりがキラキラ反射していて思わず吸い込まれそうな気分にさせられる美鈴(メイリン)だった。


銀髪ショートボブのその少女はベンチから立った。


「身体を冷やさぬようお気をつけ遊ばせ。」


「あ…どうも。ですわ…。」


銀髪少女はそのまま寮へと入っていった。


「…あんな方、寮にいましたかしら?」


それが美鈴(メイリン)とその銀髪少女とのファーストコンタクトだった。


………………。



「…と、言う事が昨晩ございましたのよ。」

食堂で朝食を食べながら美鈴(メイリン)が昨晩の銀髪少女の事を友人達に話した。


「そ…うですか………ふぁあ〜…。」

欠伸を噛み殺しながら返事する明花(ミンファ)


「寝不足ですか?」

白百合のプリンセスが明花(ミンファ)の顔を覗き込む。


「お嬢様、少し今朝は早起きしたもので…。」

美鈴(メイリン)達から一つ離れたテーブルで苦笑する芽友(ヤーヨウ)


「早起き?何かありましたか?」

愛麗(アイリー)が対面の席の芽友(ヤーヨウ)に尋ねた。


「え、えと…特に気にされる程の事じゃないの、大丈夫よ?」


少し慌てる明花(ミンファ)


「…?」

明花(ミンファ)からどこかウキウキした気分を感じた白百合のプリンセスは少し気になるものの詮索まではしなかった。

(…まさか、美鈴(メイリン)さんにアプローチするつもりは無いでしょうね?)


白百合のプリンセスは明花(ミンファ)へ互いに出し抜かないよう協定を持ち掛けていた。


だからといって何もアクションを起こしてはならないワケでは無いし、後でシレッと「そちらも同じ行動されても良いですよ?」とか言われたらそれまでだ。


だが先にしてきた方が俄然印象が良いのは間違いないだろう。


(私も何か美鈴(メイリン)さんにしてあげるべきでしょうか?)


(いやいや、人の身である間に武や勉学以外特に嗜んで来なかった私に出来る事と言えばそれくらいしかないですね。)


何やらブツブツ悩み出した白百合のプリンセスから悶々とした闇を感じて警戒した皆が彼女から少し離れたのは言うまでも無い。


「さ、さーてお食事も済んだ事だし、そろそろ掲示板の対戦表でも見て来るといたしましょうか?」

美鈴(メイリン)が独り言のように席を立ち食器を片付けに行くと、皆も思い出したように彼女に着いていった。


…が、独り考え事に嵌っていた白百合のプリンセスだけはそれに気が付かずブツブツ考え事を続けていた。


(…あの、美鈴(メイリン)さん?プリンセスさん呼ばなくてもよろしいんですか?)

恐る恐る明花(ミンファ)美鈴(メイリン)にそう尋ねたが。


(君子危うきに近寄らず、今の白百合のプリンセスさんには下手に話しかけない方が無難なような気がしますの。)


…つまるところ不気味だから関わっちゃいけない!と思っただけなのだ。


ゾロゾロと試合会場入口の掲示板に群がる美鈴(メイリン)達。


既にその掲示板の周りは生徒でごった返しており、遠目から確認することとなる。


「…あら?」


「一回戦、美鈴(メイリン)さんはシード扱いにされてますね?」


やはりドラゴン退治が効いたのだろう、アレは確かに悪目立ちし過ぎる行為だった。


「他にも優秀な先輩方がいらっしゃるのに、果たして良いのでしょうか?」

美鈴(メイリン)は本気でそう思った。


美鈴(メイリン)様、逆に言えば他の生徒らの戦いをじっくり観戦できるのではありませんか?」


「おおっ、そうですわねさすが芽友(ヤーヨウ)さんですわ!」


「あの…その間私はこうやってお嬢様の剣を持って付き添い歩かなければなりませんのですか?」

重そうな数本の剣を背中に背負ってる愛麗(アイリー)がウンザリした顔で美鈴(メイリン)に聞いた。


「勿論ですわよ?」


「そもそも何で何本も剣を所持しないといけないんですか?」


「相手はどんなツワモノでどんな攻撃をしてくるかわかりません、剣を折られたくらいで敗退するワケには参りませんもの!」


「…お嬢様の剣を折れるような化け物、学生の身分でそうそういるとは思いませんけど…。」

汗を垂らしながらため息をつく愛麗(アイリー)だった。


明花(ミンファ)はそんな愛麗(アイリー)を見ながら美鈴(メイリン)にこう言った。


美鈴(メイリン)さん、この剣を持ち歩くだけでもかなりの負荷が筋肉にかかりそうですね?」


この言葉に美鈴(メイリン)はピクッと反応する。

「…そ、そうです、わね…?」


そして少し思案した後。

 

「ちょっと愛麗(アイリー)、流石にその剣を貴女にずっと持たせるのも辛そうですから…」


「私が全部持ちますわっ!」

美鈴(メイリン)はいきなり愛麗(アイリー)に持たせていた剣を全部かっぱらった!


「い、いけません美鈴(メイリン)お嬢様!」

「幾らなんでも側仕えの私が手ぶらで主人に全部持たせるワケには参りませんよ〜!」


「…ふむ、では…。」

 

「代わりにその明花(ミンファ)さんが持っておられるバスケットを持ってあげなさいな。」


「い、いいですよ美鈴(メイリン)さん、そんな申し訳ないです!」


「いいから、ここは愛麗(アイリー)の召使い根性を満足させてくださいな?」

美鈴(メイリン)から笑顔でそう言われると断われなくなってしまう明花(ミンファ)だった。

 

(自分から愛麗(アイリー)さんの助け舟を出したつもりが余計な世話を頼む結果になってしまうなんて…。)


(明花(ミンファ)お嬢様、最初の剣の束と比べれば雲泥の差ですから充分あの子も助かってるんですよ?)


芽友(ヤーヨウ)からそう言われて思い直した明花(ミンファ)


「で、ではお願いします愛麗(アイリー)さん。」

 

「はい、お任せを!」

ニコニコしながら明花(ミンファ)から大きなバスケットを二つ受け取る愛麗(アイリー)だった。


……………そんな一幕から早数時間後。


「…スヤスヤ。」

 

折角出番まで観戦と洒落込んだものの、凡戦ばかりが続いたせいかすっかり退屈して寝てしまう美鈴(メイリン)


彼女はいつの間にか明花(ミンファ)の肩にもたれかかってヨダレを垂らしながら寝顔を公然と晒していた。


周囲の警戒に当たっている白百合のプリンセスの苦労も気にせず自分はノンビリ寝てしまうところが美鈴(メイリン)らしいとも言えるのだが。


おかげで周りから生暖かい目で見られて赤面する明花(ミンファ)だった。

 

(は、恥ずかしいよ〜!)

 

(でも、嬉しくもあるし…複雑な気分…。)


(それはともかく。)


そう、いい加減起こしてやらないとダメだ。


美鈴(メイリン)さん、起きて下さい?」


「…ん、…後、少しぃ…。」

寝惚けてるのか、甘えて明花(ミンファ)に抱き付く美鈴(メイリン)


「ちょ、み…皆さんが見てますから!」


「見せてやれば…いいんですわぁ…。」

「私達の仲…自慢してやれば…いいんです、わぁ…。」


「ほ、本気ですかあ!?」

驚きと嬉しさのあまり思わず明花(ミンファ)の声が裏返った。


「………ふぇ………?」


ここでようやく目が覚めた美鈴(メイリン)


「…明花(ミンファ)…さん…。」


「…あれ?」

キョロキョロ周りを見回しから数秒。


「ふえっ、…ひえええ〜っ?!」


慌てて明花(ミンファ)から離れる美鈴(メイリン)


「…こ、こここ…これは、大変失礼、つかまつりましたわぁっ?!」


気が動転してるのか美鈴(メイリン)の言葉使いがややおかしい。

 

「…い、いいえ…構いませんですけど…。」

ホッとしたものの結構残念そうな表情の明花(ミンファ)だった。


「それよりもうそろそろ全ての一回戦が終了してシード枠の試合が始まりますよ?」


「ええっ?いつの間に?」


「貴女が高いびきかいて寝てる間に、です。」 


「えっ、嘘ですわよね?」


「ハイ、高いびきまでは無かったです。」

ペロッと舌を出す明花(ミンファ)


「ただ、おかげで貴女の可愛い寝顔はたっぷり堪能させていただきましたけど?」


「あ、あううう〜。」

恥ずかしさのあまり火照った顔を隠してしまう美鈴(メイリン)だった。


………………。



その頃、各試合会場を見回っていた白百合のプリンセス。


彼女は怪しまれないよう制服姿で他の生徒らに紛れていたが。


「あ、(ドウ)さんごきげんよう。」


「ご、ごきげんようです…。」

 

(ヂェン)さん、試合は見に行かれないのですか?」


「え、ええ。少し用事が…。」


「そうですか、観戦をご一緒したかったのに残念でございますわ。」


「すみません。」


…このように色んな生徒から声をかけられてしまう。


彼女の金髪碧眼は結構目立つのだ。


ほとんどの生徒が黒髪か茶髪の黄色人種。


外国からの留学生も少数存在するものの、白人黒人となるとかなりの少数なのでそれだけでも目立つ。


とりわけ白百合のプリンセス…こと生徒名「闘姫(ドウ・ヂェン)」はその存在感が他の生徒らと比べて圧倒的なのだ。



(…これは少し考えものですね。)

(こっそり警備してるつもりなのにこのままでは任務に支障をきたしてしまいます。)

 

そう考えた白百合のプリンセスは。


(ここは変装でもすべき…?)

(いえ、変装というか別人になりきってしまえば!)


しかし変装セットなど当然持っているワケでもなく。


「となれば、…ここはアレしか?」


キョロキョロ周りを気にしながら繁みに身を隠す白百合のプリンセス。  


そこから森に入ると黄金の仮面を取り出した。

(仮面の剣豪の姿に戻れば誰も生徒の闘姫(ドウ・ヂェン)だとは思わないはず…!)



………すみません、誰かこの娘にツッコんであげて下さい(汗)。


そんな姿なんかになったら余計目立つだろうが!

 

あいにく仮面の聖霊という立場の俺の声は聖霊の仮面の持ち主と認められた美鈴(メイリン)以外の心にしか響かないんだよな。


と、ここで顔に仮面を付けようとした彼女の手が止まった。


『ねえねえ、次はいよいよあの美鈴(メイリン)さんの試合よ?』

 

『早く観に行きましょう!』


『あの美鈴(メイリン)?』


『それは見逃せない!』


口々に美鈴(メイリン)の試合開始が伝わり生徒達は続々と試合会場へ向かっていった。


気が付くと周囲はほとんど人がいなくなっていた。


「…美鈴(メイリン)さん、かなり注目を集めてらっしゃるんですね…。」

ひょっこり繁みの外の様子を覗いた白百合はプリンセスは再び道に出た。


「うう…私も興味有るし見たいんですけど…。」

 

しかしその美鈴(メイリン)からは自分の試合中の警備を依頼されている。

「こんな事なら引き受けなければ良かった…。」


トボトボと警備の見回りに戻る孤独な白百合のプリンセスだった。



一方の美鈴(メイリン)だが。


試合開始され一年先輩の二年生と対峙する美鈴(メイリン)


一年生で出場出来るのは全生徒と教員からの全員一致で推薦された美鈴(メイリン)のみだった。


他にも優秀な一年生が推薦されたりもしたが、皆辞退した。


黎美鈴(リー・メイリン)なんていうバケモノとなんて最初から勝負にすらならない。』


これが一年生全員の共通認識だった。

 

やはりあのフレイムドラゴンとの戦闘が全校生徒に中継サれたのが効いているんだろうな。


これが上級生ともなると話は別で。


『生意気だ。』


『舐められたくない。』


『あの子を負かして私の言うなりにしてみたい…♪』


と、プライドや一部変態的欲望から美鈴(メイリン)との勝負を選ぶ上級生は多かった。


この今対峙している二年生もそのうちのプライド派の一人だった。


『では、各人防御アミュレット動作確認問題無しと認め、試合開始!』


両者が怪我防止用アミュレットを光らせ全身にくまなくベールのような不可視のシールドを発生させると共に剣を抜いて睨み合う。


「まずは下級生の貴女からお手並み拝見といきましょう、かかって来なさい。」

二年生は相手が一年生だけに余裕を持って構えていた。


「いえ、私としてはむしろ先輩の方から攻めていただきたいたいのですが。」


(…そうしないと直ぐ終わっちゃいますから…。)


「…貴女、今心の声のつもりでしたでしょうけどしっかり聴こえてましたからね?!」

プルプルとその二年生は肩から震えていた。


「あれ?おかしーですわねー。」

「最近思ってる事が口から洩れてる事が多いみたいですー、ワザとじゃないんですのよー?」


一応説明するが、美鈴(メイリン)に本心から悪気は無い。


「つまり、そう思ってるって事じゃないのー?!」

二年生は剣を振り上げ突進した。


「オホッ☆その気になられましたか。」


ガイン!


美鈴(メイリン)は二年生の剣を剣で受け止める。


同時に二年生はひざ蹴りをぶちかました。 

ドスッ!

 

二年生のひざが美鈴(メイリン)のミゾオチにヒットする。


ヒットした瞬間、その部分のシールドに僅かにヒビが入るのが一瞬見えた。

(おや、意外とダメージがあったんですのね?)


ワザと受けてみたがシールドにダメージがあるならちゃんと防御舌方が良さそうだ、と美鈴(メイリン)は考え直した。


「何を馬鹿正直に突っ立ってるの?」

「これくらい躱せないとこの先戦っていけないわよ?」


カン、カンカン、ビシッ、ガシッ、キイン!


更に剣と蹴りを繰り出し美鈴(メイリン)を攻めたてる二年生。

 

美鈴(メイリン)は一応どの剣も剣で受け止め、今度は蹴りも足でガードしてはいる。


「どうしたの?防戦一方じゃない!」

二年生は自分が攻めたてている事で優越感に浸っていた。

 

(…ふうむ。)


「基本、応用技…どれも授業で習う技の範疇でございますわね。」


「それのどこがいけないと言うの!」


「折角ギャラリーが観戦して下さってるのですから、皆さんを楽しませるような凄いワザを見せていただきたいのですわー。」


「ほいっ。」


バキイン!


ここで双方の剣が叩き折れた。


「…な?」

この意外な展開に驚く二年生。


「あら、少し手元が狂いましたか。」

ペロッと舌を出す美鈴(メイリン)


『…剣が折れたなら試合にならない、両者失格…』


「待って下さい!」

「まだ私なら戦えます!」

二年生は刀身に手を当てる。


と、そこから光の剣が生まれた。


(あら、ビームセイバー?)


「このエナジーブレードで貴女のそのシールドをぶった斬ってやりますわ!」


『しかし、一年生の方の剣が…』


「あら審判の先生、私なら平気でございますわ。」


愛麗(アイリー)、私の予備の剣を…!」

と、美鈴(メイリン)が言いかけた所で審判からダメ出し。


『それは許可出来ない。』


「え?」


『次に勝ち進んでからならともかく、同じ試合中に別に用意された武器の使用は禁じられているんだ。』


「えええ〜っ?!」

聞いてない!とばかりに驚く美鈴(メイリン)


「お嬢様、それじゃ何の為に…?」

愛麗(アイリー)はガックリした。

 

「ま、まあ次の試合までに取りに行く手前が省けて良かったじゃありませんか?」

明花(ミンファ)が焦りながらフォローした。 


そして。


「…貴女、知らなかったの?」


二年生は呆れた。

  

『どうするのかね?このままだとキミの負けにしなければならないが…。』


ギクッとする美鈴(メイリン)

こんな事ならナマクラ剣ではなくて霊斬剣でも持って来るべきだったと後悔しかけていた。


「ちょ、ちょい待っていただけます事?」


折れた剣を翳す美鈴(メイリン)


「チョチョイと、こうして…。」

剣に美鈴(メイリン)が手を当てると刃の金属が整形され短い剣になった。


「リ、リーチで不利ですけど、一応これで使えますわよね?」

「ちゃんと刃先も丸めてありますから万が一当っても問題有りませんことよ?」

美鈴(メイリン)が審判に剣を手渡す。


審判の教師は自身の防御シールドを一旦消すと美鈴(メイリン)から渡された試合用の剣を確認する。



『確かに…だがいいのかね?』


「このまま決着にされてしまったら誰も納得なんてしませんことよ?」


『決着つけさせてー?』

『そうだそうだー!』

『本人達がやりたいんならやらせてあげればいいじゃなーい! 』


「…ね?」

美鈴(メイリン)がウインクする。


『し、仕方ない。だがこれ以上武器が破損すれば試合中断にするからそのつもりで。』

コホンと照れながら再開を認める審判の教師。

美鈴(メイリン)に誑されそうになったなこの教師。


その審判が自身のシールドで身体を包む。


美鈴(メイリン)と二年生は再び試合開始地点に戻る。


「今度は本気で行くわよ、そろそろ決着付けましょうか。」


「そうですか、なら私もそれに応えると致しますわ。」


『では試合開始地点から再開…始め!』



「はあっ!」


「いざ!」


両者が小走りで距離を詰める。

 

「ロングレンジブレードーッ!」


上から振り下ろされた二年生の光の剣が頭上で伸びた。


「おっと、こういう仕掛けですの!」


美鈴(メイリン)は剣では受けずにこれを躱す。


剣の刃が地面を穿つ。


その剣が持ち上げられると地面には深い亀裂が刻まれていた。


「おや?危ない危ない、この剣で受け止めてたら洒落になりませんでしたわね〜?」

と言いつつ、何だか楽しそうだ(汗)。


「剣のリーチで私の圧倒的優位!」

「さあ、もうすぐ決着よ!」


この二年生は自身の勝利を信じて疑わなかった。


美鈴(メイリン)さん、不利ですね。」

明花(ミンファ)の呟いた通り、傍目にもそれはわかる状況だった。


さっきまでは美鈴(メイリン)が余裕そうに感じられていた戦いも、今は押されているようだ。


「お嬢様、それは一般人同士の戦いではそうだと思います。」


「だよね、さすがは芽友(ヤーヨウ)、わかってるう♪」


「茶化さないで愛麗(アイリー)?」


戦いについてわからない明花ミンファが二人に聞いた。

「二人とも、この状況を覆す何かがわかるの?」


「先程も申しましたが、ここ貴族学院とは魔法使いの通う学院でもあるのですよ?」


「それに、あの美鈴(メイリン)お嬢様ですからねえ〜。」


「…あ。」

「そう、ですよね〜…。」

二人の、特に愛麗(アイリー)のため息のような呟きに明花(ミンファ)は大いに納得した。


そしてその戦い。

 

ビュンビュン間合い無視の伸縮自在なその光剣に会場のグランドはズタズタに切り裂かれていた。


囲いや審判先生はシールドで護られいるから被害は無い。


「あらら〜。これは整備する生徒達がかなり気の毒ですわね〜?」


それ以前に足を取られて怪我をしかねないと思うぞ普通。


「…だ、だったら逃げ回るのをお止めなさいっ!」

ゼエゼエ息を切らしながら二年生が叫ぶ。


「…そうですわね。」

美鈴(メイリン)が剣を逆手に構えて片手持ちとした。


「これ以上ここを荒らすワケにもいきませんから、終わらせるといたしますわ。」


(…結局伸びるだけしか芸の無い剣でしたものね。)


いや、普通にそれだけでも充分に凄いからな?


「終わるのは、貴女の方よー!」


再び剣を振り回す二年生。


「だから、これ以上荒らすなと…」

美鈴(メイリン)が駆け出す。


「申してますのよー?」

彼女の手にする短い剣が僅かに輝く。


するとその剣は二年生の光剣をしっかりと受け止めた。

 

「!その剣、そんなに丈夫なの?」


「有り体に言えば強化魔法みたいなものですわね。」

 

「ほいさ。」


今度はそのまま光剣を弾く。


「あ…。」


時がゆっくり流れる。


「チェック・メイト…」


トン、と美鈴(メイリン)の片手が二年生の胸板に触れる。

「ですわ!」

そのままドスッ!と美鈴(メイリン)の掌底が二年生の胸元のアミュレットを叩く。

 

「ゴボッ?!」

二年生は口から唾を吐く。


そのまま彼女の身体はフェンスのシールドへと叩きつけられた。


フワッと彼女の身体からチェーンの外れたアミュレットが宙を舞う。  


そのアミュレットが地面に落ちた時、勝敗は決した。


『勝者、麗美鈴(リー・メイリン)!』


ワアッ!


観客席が湧き歓声と拍手がグランドに届いた。

 

「あの、ご無事でございますか?」


美鈴(メイリン)がフェンスに寄りかかっている対戦相手だった二年生に手を差し伸ばす。


「…あ、ありがとう…。」


ぐっ、と引き起こされる二年生。

 

「流石は二回戦に進まれた方でしたわ。」

「また来年も手合わせ出来たら良いですわね?」


「いや、私はもういいよ(苦笑)。」

「貴女、底が知れないもの。」


「…いやあ、気が付かれましたか?」

少しおどけてみせた美鈴(メイリン)


「そうよね、フレイムドラゴンと対等に渡り合ったくらいだもの、あれで実力なわけがないものね。」

フウー…と息を吐いて呆れる二年生だった。


「それはともかく、本日は手合わせしていただきありがとうござしました。」

美鈴は引っ張り起こすため握っていた二年生の手にだけ少し力を込めた。


その二年生は

「ド、どういたしまして…。」

痛いのを堪えながら何とか笑顔で握手に応じるのだった。


「中々感動的なシーンですね。」

芽友(ヤーヨウ)愛麗(アイリー)が見入っていた。


「そ、そうですね…。」

同意するものの、何か釈然としない明花(ミンファ)だった。


(このお方、良く見ると結構可愛いお方でしたものね…ここでどさくさ紛れにしっかり手の温もりを感じておきたいですわ。)


このようにちょっとだけ不謹慎な事を考えてる美鈴(メイリン)明花(ミンファ)は感じ取ったのかも知れない。




…そして。




(ところで、私はいつまでこうして一人で見張りを続けなければならないのでしょう?)

  

見張りと言いつつも一人だた孤独にベンチに座ってるだけの白百合のプリンセスがそこにいた。


試合が終わっても一向にプリンセスに顔を見せない美鈴(メイリン)


もしかしたらこの警備を頼んだ事すら忘れているのかも知れない?


「取り敢えず今日だけは夕方まで見張る事に致しましょうか…。」


明日以後は絶対ヤダ!

そう嘆く白百合のプリンセスであった。


その頃、美鈴(メイリン)達は言うと。


明花(ミンファ)さん、このお弁当美味しいですわねー?」


「はい、手軽に食べれるようパンに色々と挟んでみました♪」


「モグモグ…やはりお嬢様の作られるお食事は絶品でございます♪」


美鈴(メイリン)お嬢様、これはもうお嫁さんに来ていただかないとなりませんね?」


「むぐっ…たた、確かにこれだけのお食事を毎日食べれるとなると…かなりの誘惑ですわね…?」


真剣に悩む美鈴(メイリン)にクスクス笑う芽友(ヤーヨウ)愛麗(アイリー)だった。


「あら…そう言えば白百合のプリンセスさんはどこにいらっしゃるのかしら?」


「…あ、そう言えば?」


「多分近辺の警護されてるのではありませんか?」


「ふ〜ん、大変ですわねえ〜。」

サンドをパク付きながら聞き流す美鈴(メイリン)


今は完全に食事の事しか頭に無いな。


と言うか、自分から言い出したことなのにスッカリ警備を依頼してた事を忘れてるのでした、この女は!


「後で、彼女にも持って行ってあげませんとね?」

そう言いつつもう一つの小さなバスケットにも目をやる明花(ミンファ)だった。



ぐううう〜。


「お腹…空きました…。」 


お昼食べるのを忘れていた白百合のプリンセス。


この後で夕食前に差し入れられた明花(ミンファ)のサンドを感激のあまり泣きながら食べる事になるのでした。



白百合のプリンセスは苦労性というか損な役回りを背負う性格なのかも知れませんね?

明花(ミンファ)からの差し入れを食べた時はさぞかし救われた気分になった事でしょう。

こうして明花(ミンファ)に餌付けされた仲間がまた一人…(笑)。

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