第六十四話【魅せる戦いと孤独な戦い】
予定通り白百合のプリンセスは会場全体の警護、美鈴は明花達に観戦されながら試合に臨みます。
今回は華やかな舞台で脚光を浴びながら戦う美鈴に対して一人警護に当たる白百合伸プリンセスの対比が描かれます。
「…ん。」
美鈴は夜中に目が醒めてしまった。
「zzzz…。」
少し離れた場所にあるベッドで高いびきを書いて寝ている愛麗をぼんやり眺めながら窓の外を見る。
「…なんか目が冴えてきましたわね。」
背中に上着を羽織り、窓から外へ飛び降りる美鈴。
「少しその辺の散策でもいたしましょうか。」
美鈴がゆっくりと庭を歩く。
長いベンチに腰掛けようと近付く。
と、そこには先客がいた。
「あらこんばんは。」
その少女はいきなり美鈴から話しかけられたにも関わらずニッコリ微笑みを返した。
(…銀髪が星明かりに照らされて反射してますわ…。)
加えて彼女の藍色の瞳にも星明かりがキラキラ反射していて思わず吸い込まれそうな気分にさせられる美鈴だった。
銀髪ショートボブのその少女はベンチから立った。
「身体を冷やさぬようお気をつけ遊ばせ。」
「あ…どうも。ですわ…。」
銀髪少女はそのまま寮へと入っていった。
「…あんな方、寮にいましたかしら?」
それが美鈴とその銀髪少女とのファーストコンタクトだった。
………………。
「…と、言う事が昨晩ございましたのよ。」
食堂で朝食を食べながら美鈴が昨晩の銀髪少女の事を友人達に話した。
「そ…うですか………ふぁあ〜…。」
欠伸を噛み殺しながら返事する明花。
「寝不足ですか?」
白百合のプリンセスが明花の顔を覗き込む。
「お嬢様、少し今朝は早起きしたもので…。」
美鈴達から一つ離れたテーブルで苦笑する芽友。
「早起き?何かありましたか?」
愛麗が対面の席の芽友に尋ねた。
「え、えと…特に気にされる程の事じゃないの、大丈夫よ?」
少し慌てる明花。
「…?」
明花からどこかウキウキした気分を感じた白百合のプリンセスは少し気になるものの詮索まではしなかった。
(…まさか、美鈴さんにアプローチするつもりは無いでしょうね?)
白百合のプリンセスは明花へ互いに出し抜かないよう協定を持ち掛けていた。
だからといって何もアクションを起こしてはならないワケでは無いし、後でシレッと「そちらも同じ行動されても良いですよ?」とか言われたらそれまでだ。
だが先にしてきた方が俄然印象が良いのは間違いないだろう。
(私も何か美鈴さんにしてあげるべきでしょうか?)
(いやいや、人の身である間に武や勉学以外特に嗜んで来なかった私に出来る事と言えばそれくらいしかないですね。)
何やらブツブツ悩み出した白百合のプリンセスから悶々とした闇を感じて警戒した皆が彼女から少し離れたのは言うまでも無い。
「さ、さーてお食事も済んだ事だし、そろそろ掲示板の対戦表でも見て来るといたしましょうか?」
美鈴が独り言のように席を立ち食器を片付けに行くと、皆も思い出したように彼女に着いていった。
…が、独り考え事に嵌っていた白百合のプリンセスだけはそれに気が付かずブツブツ考え事を続けていた。
(…あの、美鈴さん?プリンセスさん呼ばなくてもよろしいんですか?)
恐る恐る明花が美鈴にそう尋ねたが。
(君子危うきに近寄らず、今の白百合のプリンセスさんには下手に話しかけない方が無難なような気がしますの。)
…つまるところ不気味だから関わっちゃいけない!と思っただけなのだ。
ゾロゾロと試合会場入口の掲示板に群がる美鈴達。
既にその掲示板の周りは生徒でごった返しており、遠目から確認することとなる。
「…あら?」
「一回戦、美鈴さんはシード扱いにされてますね?」
やはりドラゴン退治が効いたのだろう、アレは確かに悪目立ちし過ぎる行為だった。
「他にも優秀な先輩方がいらっしゃるのに、果たして良いのでしょうか?」
美鈴は本気でそう思った。
「美鈴様、逆に言えば他の生徒らの戦いをじっくり観戦できるのではありませんか?」
「おおっ、そうですわねさすが芽友さんですわ!」
「あの…その間私はこうやってお嬢様の剣を持って付き添い歩かなければなりませんのですか?」
重そうな数本の剣を背中に背負ってる愛麗がウンザリした顔で美鈴に聞いた。
「勿論ですわよ?」
「そもそも何で何本も剣を所持しないといけないんですか?」
「相手はどんなツワモノでどんな攻撃をしてくるかわかりません、剣を折られたくらいで敗退するワケには参りませんもの!」
「…お嬢様の剣を折れるような化け物、学生の身分でそうそういるとは思いませんけど…。」
汗を垂らしながらため息をつく愛麗だった。
明花はそんな愛麗を見ながら美鈴にこう言った。
「美鈴さん、この剣を持ち歩くだけでもかなりの負荷が筋肉にかかりそうですね?」
この言葉に美鈴はピクッと反応する。
「…そ、そうです、わね…?」
そして少し思案した後。
「ちょっと愛麗、流石にその剣を貴女にずっと持たせるのも辛そうですから…」
「私が全部持ちますわっ!」
美鈴はいきなり愛麗に持たせていた剣を全部かっぱらった!
「い、いけません美鈴お嬢様!」
「幾らなんでも側仕えの私が手ぶらで主人に全部持たせるワケには参りませんよ〜!」
「…ふむ、では…。」
「代わりにその明花さんが持っておられるバスケットを持ってあげなさいな。」
「い、いいですよ美鈴さん、そんな申し訳ないです!」
「いいから、ここは愛麗の召使い根性を満足させてくださいな?」
美鈴から笑顔でそう言われると断われなくなってしまう明花だった。
(自分から愛麗さんの助け舟を出したつもりが余計な世話を頼む結果になってしまうなんて…。)
(明花お嬢様、最初の剣の束と比べれば雲泥の差ですから充分あの子も助かってるんですよ?)
芽友からそう言われて思い直した明花。
「で、ではお願いします愛麗さん。」
「はい、お任せを!」
ニコニコしながら明花から大きなバスケットを二つ受け取る愛麗だった。
……………そんな一幕から早数時間後。
「…スヤスヤ。」
折角出番まで観戦と洒落込んだものの、凡戦ばかりが続いたせいかすっかり退屈して寝てしまう美鈴。
彼女はいつの間にか明花の肩にもたれかかってヨダレを垂らしながら寝顔を公然と晒していた。
周囲の警戒に当たっている白百合のプリンセスの苦労も気にせず自分はノンビリ寝てしまうところが美鈴らしいとも言えるのだが。
おかげで周りから生暖かい目で見られて赤面する明花だった。
(は、恥ずかしいよ〜!)
(でも、嬉しくもあるし…複雑な気分…。)
(それはともかく。)
そう、いい加減起こしてやらないとダメだ。
「美鈴さん、起きて下さい?」
「…ん、…後、少しぃ…。」
寝惚けてるのか、甘えて明花に抱き付く美鈴。
「ちょ、み…皆さんが見てますから!」
「見せてやれば…いいんですわぁ…。」
「私達の仲…自慢してやれば…いいんです、わぁ…。」
「ほ、本気ですかあ!?」
驚きと嬉しさのあまり思わず明花の声が裏返った。
「………ふぇ………?」
ここでようやく目が覚めた美鈴。
「…明花…さん…。」
「…あれ?」
キョロキョロ周りを見回しから数秒。
「ふえっ、…ひえええ〜っ?!」
慌てて明花から離れる美鈴。
「…こ、こここ…これは、大変失礼、つかまつりましたわぁっ?!」
気が動転してるのか美鈴の言葉使いがややおかしい。
「…い、いいえ…構いませんですけど…。」
ホッとしたものの結構残念そうな表情の明花だった。
「それよりもうそろそろ全ての一回戦が終了してシード枠の試合が始まりますよ?」
「ええっ?いつの間に?」
「貴女が高いびきかいて寝てる間に、です。」
「えっ、嘘ですわよね?」
「ハイ、高いびきまでは無かったです。」
ペロッと舌を出す明花。
「ただ、おかげで貴女の可愛い寝顔はたっぷり堪能させていただきましたけど?」
「あ、あううう〜。」
恥ずかしさのあまり火照った顔を隠してしまう美鈴だった。
………………。
その頃、各試合会場を見回っていた白百合のプリンセス。
彼女は怪しまれないよう制服姿で他の生徒らに紛れていたが。
「あ、闘さんごきげんよう。」
「ご、ごきげんようです…。」
「姫さん、試合は見に行かれないのですか?」
「え、ええ。少し用事が…。」
「そうですか、観戦をご一緒したかったのに残念でございますわ。」
「すみません。」
…このように色んな生徒から声をかけられてしまう。
彼女の金髪碧眼は結構目立つのだ。
ほとんどの生徒が黒髪か茶髪の黄色人種。
外国からの留学生も少数存在するものの、白人黒人となるとかなりの少数なのでそれだけでも目立つ。
とりわけ白百合のプリンセス…こと生徒名「闘姫」はその存在感が他の生徒らと比べて圧倒的なのだ。
(…これは少し考えものですね。)
(こっそり警備してるつもりなのにこのままでは任務に支障をきたしてしまいます。)
そう考えた白百合のプリンセスは。
(ここは変装でもすべき…?)
(いえ、変装というか別人になりきってしまえば!)
しかし変装セットなど当然持っているワケでもなく。
「となれば、…ここはアレしか?」
キョロキョロ周りを気にしながら繁みに身を隠す白百合のプリンセス。
そこから森に入ると黄金の仮面を取り出した。
(仮面の剣豪の姿に戻れば誰も生徒の闘姫だとは思わないはず…!)
………すみません、誰かこの娘にツッコんであげて下さい(汗)。
そんな姿なんかになったら余計目立つだろうが!
あいにく仮面の聖霊という立場の俺の声は聖霊の仮面の持ち主と認められた美鈴以外の心にしか響かないんだよな。
と、ここで顔に仮面を付けようとした彼女の手が止まった。
『ねえねえ、次はいよいよあの美鈴さんの試合よ?』
『早く観に行きましょう!』
『あの美鈴?』
『それは見逃せない!』
口々に美鈴の試合開始が伝わり生徒達は続々と試合会場へ向かっていった。
気が付くと周囲はほとんど人がいなくなっていた。
「…美鈴さん、かなり注目を集めてらっしゃるんですね…。」
ひょっこり繁みの外の様子を覗いた白百合はプリンセスは再び道に出た。
「うう…私も興味有るし見たいんですけど…。」
しかしその美鈴からは自分の試合中の警備を依頼されている。
「こんな事なら引き受けなければ良かった…。」
トボトボと警備の見回りに戻る孤独な白百合のプリンセスだった。
一方の美鈴だが。
試合開始され一年先輩の二年生と対峙する美鈴。
一年生で出場出来るのは全生徒と教員からの全員一致で推薦された美鈴のみだった。
他にも優秀な一年生が推薦されたりもしたが、皆辞退した。
『黎美鈴なんていうバケモノとなんて最初から勝負にすらならない。』
これが一年生全員の共通認識だった。
やはりあのフレイムドラゴンとの戦闘が全校生徒に中継サれたのが効いているんだろうな。
これが上級生ともなると話は別で。
『生意気だ。』
『舐められたくない。』
『あの子を負かして私の言うなりにしてみたい…♪』
と、プライドや一部変態的欲望から美鈴との勝負を選ぶ上級生は多かった。
この今対峙している二年生もそのうちのプライド派の一人だった。
『では、各人防御アミュレット動作確認問題無しと認め、試合開始!』
両者が怪我防止用アミュレットを光らせ全身にくまなくベールのような不可視のシールドを発生させると共に剣を抜いて睨み合う。
「まずは下級生の貴女からお手並み拝見といきましょう、かかって来なさい。」
二年生は相手が一年生だけに余裕を持って構えていた。
「いえ、私としてはむしろ先輩の方から攻めていただきたいたいのですが。」
(…そうしないと直ぐ終わっちゃいますから…。)
「…貴女、今心の声のつもりでしたでしょうけどしっかり聴こえてましたからね?!」
プルプルとその二年生は肩から震えていた。
「あれ?おかしーですわねー。」
「最近思ってる事が口から洩れてる事が多いみたいですー、ワザとじゃないんですのよー?」
一応説明するが、美鈴に本心から悪気は無い。
「つまり、そう思ってるって事じゃないのー?!」
二年生は剣を振り上げ突進した。
「オホッ☆その気になられましたか。」
ガイン!
美鈴は二年生の剣を剣で受け止める。
同時に二年生はひざ蹴りをぶちかました。
ドスッ!
二年生のひざが美鈴のミゾオチにヒットする。
ヒットした瞬間、その部分のシールドに僅かにヒビが入るのが一瞬見えた。
(おや、意外とダメージがあったんですのね?)
ワザと受けてみたがシールドにダメージがあるならちゃんと防御舌方が良さそうだ、と美鈴は考え直した。
「何を馬鹿正直に突っ立ってるの?」
「これくらい躱せないとこの先戦っていけないわよ?」
カン、カンカン、ビシッ、ガシッ、キイン!
更に剣と蹴りを繰り出し美鈴を攻めたてる二年生。
美鈴は一応どの剣も剣で受け止め、今度は蹴りも足でガードしてはいる。
「どうしたの?防戦一方じゃない!」
二年生は自分が攻めたてている事で優越感に浸っていた。
(…ふうむ。)
「基本、応用技…どれも授業で習う技の範疇でございますわね。」
「それのどこがいけないと言うの!」
「折角ギャラリーが観戦して下さってるのですから、皆さんを楽しませるような凄いワザを見せていただきたいのですわー。」
「ほいっ。」
バキイン!
ここで双方の剣が叩き折れた。
「…な?」
この意外な展開に驚く二年生。
「あら、少し手元が狂いましたか。」
ペロッと舌を出す美鈴。
『…剣が折れたなら試合にならない、両者失格…』
「待って下さい!」
「まだ私なら戦えます!」
二年生は刀身に手を当てる。
と、そこから光の剣が生まれた。
(あら、ビームセイバー?)
「このエナジーブレードで貴女のそのシールドをぶった斬ってやりますわ!」
『しかし、一年生の方の剣が…』
「あら審判の先生、私なら平気でございますわ。」
「愛麗、私の予備の剣を…!」
と、美鈴が言いかけた所で審判からダメ出し。
『それは許可出来ない。』
「え?」
『次に勝ち進んでからならともかく、同じ試合中に別に用意された武器の使用は禁じられているんだ。』
「えええ〜っ?!」
聞いてない!とばかりに驚く美鈴。
「お嬢様、それじゃ何の為に…?」
愛麗はガックリした。
「ま、まあ次の試合までに取りに行く手前が省けて良かったじゃありませんか?」
明花が焦りながらフォローした。
そして。
「…貴女、知らなかったの?」
二年生は呆れた。
『どうするのかね?このままだとキミの負けにしなければならないが…。』
ギクッとする美鈴。
こんな事ならナマクラ剣ではなくて霊斬剣でも持って来るべきだったと後悔しかけていた。
「ちょ、ちょい待っていただけます事?」
折れた剣を翳す美鈴。
「チョチョイと、こうして…。」
剣に美鈴が手を当てると刃の金属が整形され短い剣になった。
「リ、リーチで不利ですけど、一応これで使えますわよね?」
「ちゃんと刃先も丸めてありますから万が一当っても問題有りませんことよ?」
美鈴が審判に剣を手渡す。
審判の教師は自身の防御シールドを一旦消すと美鈴から渡された試合用の剣を確認する。
『確かに…だがいいのかね?』
「このまま決着にされてしまったら誰も納得なんてしませんことよ?」
『決着つけさせてー?』
『そうだそうだー!』
『本人達がやりたいんならやらせてあげればいいじゃなーい! 』
「…ね?」
美鈴がウインクする。
『し、仕方ない。だがこれ以上武器が破損すれば試合中断にするからそのつもりで。』
コホンと照れながら再開を認める審判の教師。
美鈴に誑されそうになったなこの教師。
その審判が自身のシールドで身体を包む。
美鈴と二年生は再び試合開始地点に戻る。
「今度は本気で行くわよ、そろそろ決着付けましょうか。」
「そうですか、なら私もそれに応えると致しますわ。」
『では試合開始地点から再開…始め!』
「はあっ!」
「いざ!」
両者が小走りで距離を詰める。
「ロングレンジブレードーッ!」
上から振り下ろされた二年生の光の剣が頭上で伸びた。
「おっと、こういう仕掛けですの!」
美鈴は剣では受けずにこれを躱す。
剣の刃が地面を穿つ。
その剣が持ち上げられると地面には深い亀裂が刻まれていた。
「おや?危ない危ない、この剣で受け止めてたら洒落になりませんでしたわね〜?」
と言いつつ、何だか楽しそうだ(汗)。
「剣のリーチで私の圧倒的優位!」
「さあ、もうすぐ決着よ!」
この二年生は自身の勝利を信じて疑わなかった。
「美鈴さん、不利ですね。」
明花の呟いた通り、傍目にもそれはわかる状況だった。
さっきまでは美鈴が余裕そうに感じられていた戦いも、今は押されているようだ。
「お嬢様、それは一般人同士の戦いではそうだと思います。」
「だよね、さすがは芽友、わかってるう♪」
「茶化さないで愛麗?」
戦いについてわからない明花が二人に聞いた。
「二人とも、この状況を覆す何かがわかるの?」
「先程も申しましたが、ここ貴族学院とは魔法使いの通う学院でもあるのですよ?」
「それに、あの美鈴お嬢様ですからねえ〜。」
「…あ。」
「そう、ですよね〜…。」
二人の、特に愛麗のため息のような呟きに明花は大いに納得した。
そしてその戦い。
ビュンビュン間合い無視の伸縮自在なその光剣に会場のグランドはズタズタに切り裂かれていた。
囲いや審判先生はシールドで護られいるから被害は無い。
「あらら〜。これは整備する生徒達がかなり気の毒ですわね〜?」
それ以前に足を取られて怪我をしかねないと思うぞ普通。
「…だ、だったら逃げ回るのをお止めなさいっ!」
ゼエゼエ息を切らしながら二年生が叫ぶ。
「…そうですわね。」
美鈴が剣を逆手に構えて片手持ちとした。
「これ以上ここを荒らすワケにもいきませんから、終わらせるといたしますわ。」
(…結局伸びるだけしか芸の無い剣でしたものね。)
いや、普通にそれだけでも充分に凄いからな?
「終わるのは、貴女の方よー!」
再び剣を振り回す二年生。
「だから、これ以上荒らすなと…」
美鈴が駆け出す。
「申してますのよー?」
彼女の手にする短い剣が僅かに輝く。
するとその剣は二年生の光剣をしっかりと受け止めた。
「!その剣、そんなに丈夫なの?」
「有り体に言えば強化魔法みたいなものですわね。」
「ほいさ。」
今度はそのまま光剣を弾く。
「あ…。」
時がゆっくり流れる。
「チェック・メイト…」
トン、と美鈴の片手が二年生の胸板に触れる。
「ですわ!」
そのままドスッ!と美鈴の掌底が二年生の胸元のアミュレットを叩く。
「ゴボッ?!」
二年生は口から唾を吐く。
そのまま彼女の身体はフェンスのシールドへと叩きつけられた。
フワッと彼女の身体からチェーンの外れたアミュレットが宙を舞う。
そのアミュレットが地面に落ちた時、勝敗は決した。
『勝者、麗美鈴!』
ワアッ!
観客席が湧き歓声と拍手がグランドに届いた。
「あの、ご無事でございますか?」
美鈴がフェンスに寄りかかっている対戦相手だった二年生に手を差し伸ばす。
「…あ、ありがとう…。」
ぐっ、と引き起こされる二年生。
「流石は二回戦に進まれた方でしたわ。」
「また来年も手合わせ出来たら良いですわね?」
「いや、私はもういいよ(苦笑)。」
「貴女、底が知れないもの。」
「…いやあ、気が付かれましたか?」
少しおどけてみせた美鈴。
「そうよね、フレイムドラゴンと対等に渡り合ったくらいだもの、あれで実力なわけがないものね。」
フウー…と息を吐いて呆れる二年生だった。
「それはともかく、本日は手合わせしていただきありがとうござしました。」
美鈴は引っ張り起こすため握っていた二年生の手にだけ少し力を込めた。
その二年生は
「ド、どういたしまして…。」
痛いのを堪えながら何とか笑顔で握手に応じるのだった。
「中々感動的なシーンですね。」
芽友と愛麗が見入っていた。
「そ、そうですね…。」
同意するものの、何か釈然としない明花だった。
(このお方、良く見ると結構可愛いお方でしたものね…ここでどさくさ紛れにしっかり手の温もりを感じておきたいですわ。)
このようにちょっとだけ不謹慎な事を考えてる美鈴を明花は感じ取ったのかも知れない。
…そして。
(ところで、私はいつまでこうして一人で見張りを続けなければならないのでしょう?)
見張りと言いつつも一人だた孤独にベンチに座ってるだけの白百合のプリンセスがそこにいた。
試合が終わっても一向にプリンセスに顔を見せない美鈴。
もしかしたらこの警備を頼んだ事すら忘れているのかも知れない?
「取り敢えず今日だけは夕方まで見張る事に致しましょうか…。」
明日以後は絶対ヤダ!
そう嘆く白百合のプリンセスであった。
その頃、美鈴達は言うと。
「明花さん、このお弁当美味しいですわねー?」
「はい、手軽に食べれるようパンに色々と挟んでみました♪」
「モグモグ…やはりお嬢様の作られるお食事は絶品でございます♪」
「美鈴お嬢様、これはもうお嫁さんに来ていただかないとなりませんね?」
「むぐっ…たた、確かにこれだけのお食事を毎日食べれるとなると…かなりの誘惑ですわね…?」
真剣に悩む美鈴にクスクス笑う芽友と愛麗だった。
「あら…そう言えば白百合のプリンセスさんはどこにいらっしゃるのかしら?」
「…あ、そう言えば?」
「多分近辺の警護されてるのではありませんか?」
「ふ〜ん、大変ですわねえ〜。」
サンドをパク付きながら聞き流す美鈴。
今は完全に食事の事しか頭に無いな。
と言うか、自分から言い出したことなのにスッカリ警備を依頼してた事を忘れてるのでした、この女は!
「後で、彼女にも持って行ってあげませんとね?」
そう言いつつもう一つの小さなバスケットにも目をやる明花だった。
ぐううう〜。
「お腹…空きました…。」
お昼食べるのを忘れていた白百合のプリンセス。
この後で夕食前に差し入れられた明花のサンドを感激のあまり泣きながら食べる事になるのでした。
白百合のプリンセスは苦労性というか損な役回りを背負う性格なのかも知れませんね?
明花からの差し入れを食べた時はさぞかし救われた気分になった事でしょう。
こうして明花に餌付けされた仲間がまた一人…(笑)。




