第六十二話【秋の夜長の大騒動、愛麗(アイリー)の覚醒?!】
サブタイトルの「愛麗の覚醒」にはあまり期待しない方が裏切られませんよ(笑)。
一応新キャラは出ます、けど今後どう扱うかは不明。
後半は愛麗にスポットが当ります。
学院選抜戦も、もう間近。
月夜を始めとした生徒会役員達もその会場準備に追われていた。
「会長、これどこに置けばよろしいんですの?」
「ああ、美鈴さん。」
「ゴメン、細かい事はそこの眼鏡の子に聞いてもらえるかしら?」
月夜は他の役員生徒達と図面を見ながら何やら話し込んでいる為か背後の美鈴に振り返る事もなく指示を出した。
「…眼鏡の、子?」
見ると、確かにどんよりとした雰囲気を漂わせながら現場の草むしりをしている生徒が眼鏡をかけていた。
「ちょっとよろしいかしら?」
美鈴はしゃがんでその生徒に話し掛けた。
「この鉄パイプとテントの布、何処に置けばよろしくて?」
美鈴は両脇に抱えて来たテントの骨組みを目で指し示した。
眼鏡の生徒はボンヤリと美鈴の方を見るなりこう言った。
「そ、そんな重くて長い物を一人で持って来たんですか?!」
大人しそうな外見のその生徒も美鈴の怪力にはさすがに驚かずにはいられなかったのか、思わず声が上ずってしまったようだ。
「え?コレそんなに重いモノでしたっけ?」
当の美鈴にとってこれらは一般人に例えればプラスチック系の短筒とビニール袋程度の重さやサイズにしか感じてなかった。
その彼女の後ろでは折り畳み椅子を一つ運んで来た明花と白百合のプリンセスの二人が眼鏡の生徒と美鈴の会話を聞いていた。
明花は苦笑しながら美鈴に告げた。
「美鈴さん、もう少し御自分と一般生徒との違いを認識された方が…。」
白百合のプリンセスもそれに同意する。
「そうですよ、あまり目立つのはどうかと。」
と、そう言う白百合のプリンセスを見ながら明花は呆れたように溢した。
「あの…貴女がそれを言われますか?」
「ふえっ…?」
唐突に話を振られて変な声を出してしまう白百合のプリンセスだった。
そんな彼女も両脇に折り畳み椅子を両脇に二つずつ抱えていた。
明花が指摘するのも無理は無い。
普通の男子でも持ち運べるのは両脇に一つずつ、計二つ程度だろう。
ソレが筋力体格的に女子ともなれば普通は一つがやっとだ。
それを白百合のプリンセスは涼しい顔で左右に二つずつ、計四つも抱えている。
つまり美鈴程では無いにしろ、白百合のプリンセスもまたかなりの怪力を有する事になるのだ。
外見的に可憐で細くてか弱いイメージのある白百合のプリンセスだが、中々どうして。
彼女も伊達に仮面の剣豪を名乗るワケではないという事だ。
気が付いてないと見える白百合のプリンセスの耳元にゴニョゴニョと囁く明花。
すると顔が赤くなった白百合のプリンセスは慌ててステージの方へ椅子を置きに行ってしまった。
「あれでも加減されてるんだと思いますわよ?」
同類なだけに美鈴には理解出来るらしい。
ポカンとそのやり取りを見ていた眼鏡少女。
ふと思い出したように美鈴が両脇に抱えているテントと骨組みの置き場所を伝えた。
「テントは前日組み立てるのでステージの下に入れておいて下さい。」
「なるほど、ステージの下ですわよね?!」
美鈴はステージに向かって歩いて行った。
丁度白百合のプリンセスが折り畳み椅子をステージ下に並べて帰って来るところだった。
白百合はプリンセスは美鈴に話し掛けた。
「手伝いましょうか?」
一瞬言葉の意味が理解出来なかったらしく「うん?」という表情をする美鈴。
彼女からすれば全然楽々過ぎる作業なので
(超余裕なので必要ありませんわっ!)と危うく言い返すところだった。
しかしすぐに
(ああ、これはきっとプリンセスさんなりのお心遣いなのですわね?) と思い直した。
「そうですか、では半分持っていただけますか?!」
「はい、ありがとうございます。」
ニッコリ微笑んで美鈴から比較的軽そうに見える布の方を渡される白百合のプリンセス。
「ありがとう、だなんて。手伝っていただくのは私の方ですのよ?」
「それでも嬉しいんです、ウフッ。」
これはあれだな、完全に乙女な思考だ。
白百合のプリンセスからすれば
「本当なら手伝ってもらう必要なんてないのに私の気持ちを汲んでくださったんだわ♡」
と、言う気持ちなのだろう。
美鈴がここまで涼しい顔で汗一つ流さず息も切らさず運んで来たのを知ってるから、美鈴からの心遣いだとわかっているからこそ湧き上がる気持ちだ。
【おい美鈴、お前どうする?】
【完全にお前にベタ惚れだぞ白百合のプリンセスは。】
(わっかってますわよ!)
(でも今はちょっとくらいこの可愛らしいプリンセスさんを愛でさせていただけませんこと?)
美鈴は美鈴でこの状況を楽しんでやがるな。
女同士の恋愛なんて、と口では言いながら可愛い子やキレイな子に言い寄られる事自体には抵抗無さそうだ。
むしろデレデレしてないか?
いい傾向なのかも知れないが…ちょっと面白く無い。
前に俺に言ってた事と少し違って来てないか?
それともアレか。
真剣な重い愛やエロ積極的なのはダメで、こういうライトな百合系イチャイチャ程度なら許容範囲と言う事か?
まあ前世の現実世界でも普通に見られたからそれ自体は例え美鈴であっても不思議じゃないか。
友情以上、恋人未満。
それが今の美鈴なりの、精一杯の感情なのだろうな。
白百合のプリンセス、そして明花に向ける美鈴なりの愛情は。
そしてステージに運び終えた二人は仲良く明花のいる場所まで戻って来た。
ちゃっかりというか、ごく自然に美鈴と手を繋いでいる白百合のプリンセス。
その繋がった二人の手を目ざとく見つけた明花は途端にプリンセスに詰め寄った。
ボソボソ…。
(ちょっとプリンセスさん?前に私に言ってた事と違うじゃないですか?)
(はて、何の事でしょう?)
すっとぼける白百合のプリンセス。
(プリンセスさん?お互い出し抜くのは止めようとおっしゃられたのは貴女の方では?)
(出し抜いてませんよ。)
(じゃあその手は何ですか?)
(…?あら?いつの間に?)
と言いつつも手を離そうとはしない。
その二人の様子に気が付いた美鈴。
「?ああこの手ですか?気が付いたらこうなってまして…。」
「よろしかったら明花さんもどうぞ?」
そう言って明花に空いてる方の手を差し出す美鈴。
「え?」
ポッと頬が染まりながらもその手をそっと握る明花。
握った手を振りながら歩く三人の姿は周りで忙しく作業する生徒達からはかなり浮いていた。
「あの方達、どういうご関係なのですか?」
眼鏡女子はクイッと眼鏡の位置を直しながら月夜に尋ねた。
「…夫婦と愛妾さん、かしら?」
「へえ………えっ?」
「ど、どっちとどっちが夫婦でどっちが愛妾なんですか?!」
ドキドキしながら眼鏡女子は再度質問するが。
「ゴメン、第一夫人と第二夫人と言うべきだったかしら?」
「そ!それ本当ですか会長ー?」
周りの役員やそれを手伝ってる生徒達が一斉に月夜に質問した。
「あ、あくまで将来の可能性としては、というお話よ?」
皆の食い付き具合に一瞬焦った月夜は直ぐに訂正した。
そしてそんな風にワイワイやってる月夜達を横目に校舎の方に戻って行く美鈴達を眼鏡女子は眺めていた。
「…ふうん。」
その彼女の眼鏡のレンズがキラリと輝いた。
「これから色々と、楽しみかも…?」
と、一人雰囲気を出してる眼鏡女子。
が、
バサッと彼女の背中に箒がぶつけられた。
「ほらそこの地味子、遊んでないでさっさと抜いた草掃き集めなさい!」
現副会長から怒鳴られたのだ。
「へ?」
「これから運動部がリング設置に来るから早く掃除!」
「は、はい!」
慌てて抜いた草を掃き集める眼鏡女子。
「ほら会長達もサッサと仕事に戻る!時間無いんだよ?!」
月夜も取り巻きの役員達もこの副会長に各自の持ち場へと追いやられるのだった。
さっきの態度は一体何だったのか不思議に思うくらいにオカッパ頭のその眼鏡女子も掃き掃除に一所懸命集中していた。
…本当に何だったんだろう、この女子は?
「美鈴さん、そろそろ追い込みの特訓しなくても大丈夫ですか?」
「プリンセスさん、まさかお付き合いしてくださるおつもりとか?」
「多分私がご一緒しないといけないレベルの危険が伴うのでは無いかと思いまして…。」
「ソレでしたら私を治療回復に連れて
行くのは当然ですよね?」
「明花さん、貴女まで…。」
(困りましたわ…せっかくパワー火山辺りまでひとっ飛びして修行を口実にサラマンダー狩りでもしようかと考えてましたのに…。)
実は夏休みの臨海学校でたまたま巨大水棲生物の群れを退治した経験から再びモンスター狩りをしたい欲求が疼いていた美鈴だった。
要はずっと何か物足りなくて刺激が欲しかったのだ。
だが何が物足りないのかが中々思い出せないようだった。
(そうですわ、こんな時こそ愛麗辺りに聞けばわかるかもです!)
側仕えと言いながらここ最近の愛麗は明花の側仕えである芽友と一緒の方が多かった。
それに自分の側にも常に明花か白百合のプリンセスの二人が一緒なので中々愛麗ともゆっくり話せる時間は限られていた。
(久しぶりにあの子と家族水入らずでお話するのもいいものですわね。)
美鈴にとって愛麗は幼い頃から共に屋敷で一緒に育った幼なじみで、家族も同然だった。
それが成長するにつれ愛麗が露骨にセクハラするようになる。
その結果、美鈴もセクハラに対抗するためスパルタな仕打ちをするようになり今の関係が構築されて行ったワケなのだが…。
(さすがに芽友さんとくっ付いた今はもう大丈夫でしょう!)
あの子だって恋人が出来ればセクハラは落ち着くだろう、そう美鈴は考えていた。
が、それは愛麗の性癖を見くびっていた…というか見誤っていたというべきか…?
寮に戻ると美鈴は芽友と共に洗濯中の愛麗に話し掛けた。
「ご苦労さま愛麗、ちょっとお話する時間取れますかしら?」
「あ、お嬢様!はい、勿論…」
と、ここで芽友からダメ出しが。
「すみません美鈴様。」
「この後は宿題と夕食の準備がございまして。」
「そうですか、なら仕方ありませんわね。」
「愛麗、寝る前でよろしいかしら?」
「え…と?」
今度は愛麗が芽友の顔を意味深に伺った。
「…まあ、それなら問題無いと思います。」
「よろしいんですの?」
「はい、私もそこまで独占欲が強いワケではございませんし。」
「それに愛麗は元々美鈴様の側仕えにございますから。」
ペコリとお辞儀する芽友。
「それじゃ愛麗、またね?ですわ。」
「はいお嬢様!」
ウキウキしながら返事する愛麗、そしてそれを見てため息を洩らす芽友だった。
が、この時の愛麗の頭の中はアダルトな妄想でいっぱいになっていた。
(グフフフ…お嬢様と、二人きりの、夜…!)
ゴゴゴ…と愛麗の身体からはピンクと紫の焔が燃え…萌え上がるのであった。
「…?…何だか、寒気がしますわ…?」
早く温かい湯に浸かりたいと思う美鈴であった。
……………結局その夜、肝心な事は何一つ聞き出せずドタバタのセクハラ攻撃とその迎撃が展開された。
そして今まで通り、美鈴の力技で決着した。
『お〜嬢〜様〜………(キラン)☆』
決め技は久しぶりの人間飛ばし。
例の鉛入り木刀によるゴルフスイングで愛麗は遥かな星空に舞った。
「う〜ん、今のはかなり手加減しましたから精々80メーター、といったところでしょうか?」
普通に死ぬわそれ。
まあ重力が元の世界より弱めで愛麗自身が魔法を含めた鉄壁の防御能力と驚異的回復力を有するため間違っても死ぬ事などあり得ないが。
「あ、そうか思い出しましたわ。」
「ずっと引っかかってた物足りない何か…これだったのですわね?」
木刀をぐっと両手で掴んで目の前に翳した美鈴。
「人間飛ばし…学院に来てから一度もやってませんでしたもの、いやあー、スッカリ忘れてましたわ!」
気になってた事の正体が判明してスッキリしたのか、すぐに寝床に入って寝てしまう美鈴だった。
代わりに人間飛ばしで飛ばされた愛麗を回収する事をスッカリ忘れてしまっている。
何という鳥頭か…。
………………。
「イタタタ…。」
ターミネーターの如く不死身の愛麗とは言えさすがにモロにダメージを受けた直後は平気じゃないらしい。
しかし骨は折れてない。
顔の方も元々の作りはどうにもならないが傷は見当たらない。
木の枝から降りた彼女はとっくにピンピンしていた。
普通なら身体に鉛入り木刀がヒットした時点で即死、飛ばされて着地すれば全身複雑骨折は免れないレベルの衝撃なのに。
まあコレをわかっているから美鈴も手加減しているとはいえ安心してぶっ叩けるワケなのだが。
それに。
「ああ…久しぶりなお嬢様のお仕置き、やっぱりこうでなくては…!」
まだピリピリ疼く身体を抱きしめ、愛麗がヤバい顔で蕩けていた。
思い出したぞ、コイツはマゾ性癖もかなりのモノだった…。
そんなマゾ変態を、止せばいいのにワザワザ親切に回収しにくる奇特な人が。
「…愛麗さん、大丈夫でしたか?」
真っ白なドレスに黄金の仮面、そしてティアラ。
そう、白百合のプリンセスその人だ。
「あはあ、プリンセス様あ♪」
既にトロトロに蕩けた表情ノ愛麗がニヘラぁっ♪と上空から見下ろす白百合のプリンセスを見上げた。
その視線は明らかに彼女のスカートの中身を覗いているのが見え見えだ。
「どっ、何処を見てらっしゃるんですか?!」
愛麗の視線に気が付いたプリンセスが慌ててスカートの股と尻を手で隠す。
「良いじゃありませんかぁ〜、減るもんじゃ無いし〜?」
ウヘウヘと笑いながら今にも飛びかかって来そうな愛麗に身の危険を感じるプリンセス。
彼女の頬がヒクついていた。
「こ、コレは…。」
「戦略的撤退!」
白百合のプリンセスは一目散に飛んで逃げた。
「プリンセス様ぁ〜、二人でイイコトしませんかぁ〜?!」
「いやあ〜?!」
空を飛んで逃げる白百合のプリンセスを異常な速度で走って追う愛麗。
今ここで愛麗は身体能力強化の魔法を取得した!
それも本能的に!
いつの間にか二人は学院寮の敷地近くまで帰っていた。
その光景を窓腰しに見ていた芽友が一言呟いた。
ボソッ。
「帰って来たら…お仕置きよ愛麗?」
そんな騒動などつゆ知らず、自室のベッドでスヤスヤと眠る美鈴、そして明花だった。
芽友の恋人になったのに相変わらず愛麗は変態なままでした(笑)。
こうして見ると主人の美鈴も愛麗とは性格が似てるような気もします。
性癖に関しては別ですけど(苦笑)?
明花は少し影が薄かったかな?
白百合のプリンセスは元聖霊だけに優しいんだけど今回はそれが仇になりました(笑)!




