第六十一話【特訓、達人VS超人!ただし思考は凡人だった(笑)?】
学院代表選抜戦に向けて白百合のプリンセスとの特訓に励む美鈴でしたが、白百合のプリンセスから出される指摘を理解出来ず、それを歯痒く思ったのか白百合のプリンセスから指導と練習相手を放棄されてしまいます。
果たして二人はどうなってしまうのか?
その日、学院に美鈴達が登校すると学院掲示板に正式な学院選抜対抗戦の日程が貼り出されていた。
今回の日程は武器毎に別れており、それぞれ【剣】【槍】【弓】【魔法】の四部門から成っていた。
そして各部門は魔法とミックスさせても自由であり、【魔法】に関して言えば基本は杖を用い、魔法でどんな武器を作り出しての使用も可、とあった。
美鈴、明花、姫(ヂェン(白百合のプリンセスの学院生としての名前))の三人も他の学院生に混じって掲示板の通知を見ていた。
「これは魔法が使えなくても武器を用いて戦える有能な生徒を伸ばす為の措置と取れますわね。」
「良心的に考えればそうかも知れませんが、捉えようによっては武器を生み出せるならその魔法使いが優位に立てるとも思えますけど。」
「いえ、それは魔法使いの作り出せる武器のレベルと日頃の武術の鍛練次第です。」
「そうですわね、結局は日頃の鍛練がモノを言うのですわ。」
「多分それなら美鈴さんには誰も敵いませんよ…(苦笑)。」
ガヤガヤ騒がしい人集りの中、月夜が目敏く美鈴を見付けて声をかけてきた。
「おはよう美鈴さん。」
「あらこれは生徒会長、おはようございますですわ。」
「~その生徒会長もなんだけど…貴女方、時期生徒会役員への立候補お願い出来ないかしら?」
「はあ?私達これから学院代表戦で忙しくなるのですよ?」
「出場準備で頭がいっぱいなのはわかるの、だけどその代表戦の舞台と進行に関わる生徒達も大変なのよ?」
「現生徒会の一年、二年生の中にも代表戦出場者が何人かいて両方こなすのに人手が足りないんだから。」
「皆さん、お嬢様達三年生は本来、秋には引退なのです。」
「それを敢えて秋にズレこんだ学院代表戦のためにワザワザ現役延長されているのです、協力願えませんか?」
「そー言われましても…。」
美鈴はポリポリと頬を掻いた。
「…………わかりました、それなら私がお手伝いさせていただきます。」
「え?プリンセス…いえ、姫さんは出場されないんですか?」
明花が意外そうに尋ねた。
「はい、私は…と、…その、私は学院では裏方としてお役に立とうかと思ってまして…。」
「………あ、そ、そうでしたか…。」
美鈴達は彼女が白百合のプリンセス…つまり仮面の剣豪である事を知っている。
更にこの中では美鈴以外彼女と仮面の剣豪の正体について詳しくは知らない。
明花と月夜、依然の三人が知っているのは闘姫こと白百合のプリンセスは元々は何百年も過去に魔王を封じた英雄であり、聖霊が受肉化した存在であるという事だけだ。
この情報は白百合のプリンセスがこの世に人間として留まる以上、最低限の説明が必要で有るため彼女自らが身近に関係する少数の人達に教えていた。
この世に干渉するため今まではあくまで一時的に実体化してきたのが例の淫魔の一件のせいで
肉体を持ってこの世に留まる事を余儀なくされた、と白百合のプリンセスは説明した。
だが実際はあのピンチの場面で美鈴の心身を離脱させるため強引に美鈴の規格外な魔力量を用いて無理矢理肉体を作り出したのが原因なのだ。
「あら残業だわ。貴女と美鈴さんの試合、見てみたかったのに。」
「た、たはは…。」
月夜から言われた言葉に、美鈴は渇いた笑いをする。
実は白百合のプリンセスは何度も美鈴の練習相手に立ち会いをしていた。
そして美鈴はその悉くに駄目出しを食らい続けていた。
曰く。
「貴女の戦いはムダに力が入り過ぎております。」
「力押しに頼ってます、もう少し肩の力を抜いて下さい。」
「身体、剣、そして魔法。」
「もう少し繊細さを意識してはどうですか?」
その日の放課後も三人は寮の中庭に集まり稽古に励んだ。
その中の一人、明花は戦いそのものには素人同然で、当然代表選抜には参加しない。
だからか、白百合のプリンセスの口から出てくる美鈴への指摘やアドバイスがてんで理解出来なかった。
(一体、何がどういけないというのかしら?)
(端目にはほとんど互角、むしろ美鈴さんが圧してるようにすら見える時もあるのですが…。)
これは練習相手になって貰ってる当の美鈴もそう感じていた。
(力押し、と言われますけど…私と致しましては全然力んでないのですけど…?)
(むしろ、無茶苦茶力抜いてますのよ?)
白百合のプリンセスの綺麗な身体に傷一つ付けたくない、自然とそう思ってしまう美鈴はほとんど力を込める事など出来なかった。
だからと言って手抜きまではしていない。
もし剣が当たりそうになれば咄嗟に止めたり引いたり出来る事を心掛けてはいるが、それ以外遠慮なく仕掛けているつもりだ。
ここまで筋力や魔力に頼らず仕掛けているのにそれでもまだ力で押してると白百合のプリンセスから言われてしまう事に美鈴は戸惑いを隠せなかった。
暫く打ち合っていた白百合のプリンセスだが、一旦距離を取ると剣を置いた。
「…………ふう。」
「ど、どこか調子がお悪いんですの?」
あたふたする美鈴。
「………いえ、どうも私の意図が貴女に伝わっていないのだな、と感じまして…。」
「このまま私が練習にお付き合いしても進展は無いように思います。」
白百合のプリンセスはクルッと向きを変えた。
「私、当分生徒会のお仕事のお手伝いにまわろうかと思います。」
「え?」
「サポートなら明花さんが付いていれば大丈夫ですよね?」
「あ、あの?」
「………貴女が私の言葉の意味に気が付かれたならまた練習にお付き合いさせていただきます。」
そう言うと彼女は仮面を装着して仮面の剣豪の姿になるや学院棟の方へと飛び去ってしまった。
「…一体、何がいけなかったのでしょうか…?」
「美鈴さんがわからないのなら私にもわかりませんよ…。」
取り残された二人は白百合のプリンセスの言葉の意味がわからず、ただ呆然と彼女の飛び去った方向を見上げるだけだった。
………………。
「ふーん、そんな事があったのお…。」
月夜は書類と格闘しながら白百合のプリンセスにそう告げた。
横に聞き流してるようにも取れる声のトーンだった。
「私ちょっとガッカリしました。」
「彼女程の人なら私のアドバイスに気が付いてくれると思ってましたのに…。」
少し憤慨していたような白百合のプリンセスだったが手元の書類を見つめながらも、彼女の口調はやや寂しげなものへと変わる。
「姫さんは真面目過ぎですからね。」
やはり手伝いに来ていた依然がクスリと笑った。
「肩に力が入り過ぎているのは姫さんの方も同じなんじゃ無いんですか?」
依然から意外な言葉を投げ掛けられて驚く白百合のプリンセス。
「…わ、私が、ですか?」
フフン、と笑みを浮かべて二人のやり取りを聞く月夜。
いつの間にか他の生徒会役員達も手を止めて二人の会話に耳を傾けていた。
「美鈴さんへの指導に熱が入り過ぎるあまりに、つい今よりもハイレベルな技術を求めてしまってる………聞いていて私にはそう思えました。」
「そ、そうでしょうか…?」
「私はそこまで求めてないつもりですよ?」
「むしろ悪いと思えるところ…そう、無駄を少なくしてより研ぎ澄ませて欲しくて…!」
「そこですよ。」
「はあ?」
そのやり取りを聞いていてクスクス笑い始める月夜。
「ウフフフ…やはり武闘派同士だから会話が噛み合うのね貴女達。」
「月夜さんはわからない、と?」
「ええ。だって私、武器を持たない純粋な魔法使いですもの。」
「武術は依然に任せっきりだもの、だから私には必要無いものね?」
「そんな事で良く学院選抜を勝ち抜いてこれましたね?」
「だってお嬢様には必要ありませんから。」
「武術は私がカバーしております、ただし学院選抜はお嬢様自身のお力で行ける所まで行って貰えれば良いんです。」
「だってこれは、実戦ではありませんから。」
この依然の言葉ハッとする白百合のプリンセス。
ニッと月夜の目がイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「そうそう、所詮はお祭り、ね?」
「私はこの試合そのものでハナから優勝する気なんか無かったもの。」
「だって優勝すれば他校との防衛戦が待ってるのよ?忙しいじゃない!」
「そんな事に時間を取られるくらいならノンビリ紅茶でも飲んでいたいわ。」
月夜が指でクイクイ、と依然に合図を送ると依然が湯沸かし場へ行き紅茶を淹れ始めた。
「何をそんなに焦るのか知らないけど、待つ事も大事じゃないかしら?」
「しかし、選抜戦はもうすぐ…。」
「だから、紅茶でも飲んで一旦落ち着きましょ?」
月夜は机に書類を置いて椅子から立ち上がった。
「みんなー、お茶にしましょー?休憩休憩~♪」
「「「「わっ!」」」」
部屋の全員から安堵の声が出た。
「休憩は十五分よ、トイレ以外に外出しないでね?」
依然から運ばれる紅茶を浮けとって飲む者や廊下の窓を開けて外の空気を吸う者、ストレッチを行う面々。
「さ、貴女もどうぞ?」
依然から紅茶のカップを受け取る白百合のプリンセス。
「…いただきます。」
白百合のプリンセスは一口紅茶を口に運ぶ。
「……………ん。美味しい…。」
紅茶の香りに白百合のプリンセスの表情が解れる。
「そうそう、さっきまでの厳しい顔が嘘のようだわ。」
月夜がニタニタしながら白百合のプリンセスの顔を眺める。
「そんなに私、厳つい表情してましたか?」
「うん、こんな感じ。」
月夜が手を使って目を斜めに吊り上げたり口をへの字に曲げたりした。
その思わぬ月夜の変顔に白百合のプリンセスはポカーンとした。
クックックッ…。
月夜の変顔にウケたのは、お茶を配り終えた依然だけだった。
「依然?!」
ちょっとムッとしたのか頬を赤くする月夜。
「ス、スミマセン…あの、お嬢様?早くお顔を直して下さい…。」
苦しそうに笑いを堪える依然を見て恥ずかしくなる月夜。
彼女はそれから黙ってお茶を飲み続けた。
「力を抜く…か。」
自分にはどんな要らぬ力がかかっていたのだろうか。
そう考えながら作業を手伝う白百合のプリンセスだった。
………………。
そして夜。
コンコン。
「どうぞー?」
白百合のプリンセスこと闘姫と書かれてある部屋のドアを二人の友人達が訪ねて来た。
「お邪魔、しますわ。」
「夜分遅くスミマセン。」
「貴女達でしたか、お入りください。」
「お茶、お持ちしますね?」
「ああいえ、お構い無く。」
「座ってもよろしいですか?」
「どうぞ此方へ。」
リビングに美鈴と明花を通すと二人をソファーに座らせた。
「冷めてますけど…。」
白百合のプリンセスは二人にポットに入っている紅茶を出した。
まだ夜になっても暑いので覚ました紅茶を用意していたのだ。
「ああ、湯上がりには丁度良い温度ですね。」
明花は紅茶の温度を褒めた。
「ありがとうございます、それでお二人はどのようなご用件で?」
「…いえ、午後の訓練で貴女に言われた事が気になりまして…。」
「無い頭で考えましたが結局理解出来ませんでした、ごめんなさいですわ。」
「ああ、あの事でしたか。」
「ごめんなさい、私も具体的にどうすれば良いのか説明もせず、つい感情的になっていました。」
「あ、そんな気にさらないで下さいな。」
「私の方こそ。」
「………その、あの後で月夜さんと依然さんから言われたんです。」
「あのお二人から?」
「何でしょう?」
美鈴と明花は興味深そうに身を乗り出した。
「私の方こそ余計な力が入ってやしないか、と。」
「………なるほど。」
「結構深いお言葉ですわね?」
「それで、月夜さんらの言葉からどんな事が得られたんですか?」
明花からの問いに対し、白百合のプリンセスはこう答えた。
「…わかりません☆」
白百合のプリンセスはこう言うと、茶目っ気たっぷりに舌を出した。
「「はあ?」」
美鈴と明花は意外な答えに驚いた。
「だから悩んでも仕方ない、そう思いました。」
「わからない内は悩まない、でもわかった時には考える…取り敢えずそうするしかないんじゃないかな、て開き直る事にしたんです。」
「はあ~。貴女程のお方でもわからない事があるんですのねえ~?」
「意外です。」
「お二人とも私の事を過大評価し過ぎです!私だってわからなくて手探りだらけなんですからね?」
ここで三人は一口紅茶を飲んだ。
「だけど。分からないなりに分かってる事を全部お伝えいたします。」
「美鈴さん、理解出来ない事が多いかも知れませんけど…それでも私を必要として下さいますか?」
「…………はい。私も分からないなりに食らい付きますわ。」
「美鈴さんがそう思われるのなら、私もお付き合いさせていただきますね。」
「…ありがとうございます、今後もよろしくお願いしますね。」
…………翌日、再び練習は再開された。
相変わらず白百合のプリンセスからは達人めいた指摘が飛んだ。
だが美鈴も分からないなりにフィーリングで判断した。
あまり噛み合ってないその会話に首を傾げながらも明花は二人を見守った。
そして。
「月夜先輩ー、お手伝いに参りましたわよー?」
いきなりの美鈴の生徒会室訪問に驚く月夜を始めとする生徒会役員達。
「え?訓練してるんじゃなかったの?」
その言葉に対し、申し訳無さそうに白百合のプリンセスがこう答えるのだった。
「…それが、お互いの考えや会話が中々噛み合わず…ここで少し頭の中から訓練を外そうと三人の意見が合致しまして…。」
この内容を明花が補足した。
「要するに私達、意見の合わない事よりも意見が合う事を優先する事にしたんです!」
「どうです先輩、私達って前より前向きになったでしょ?」
月夜は依然、生徒会役員達と目を合わせた。
そして彼女ら全員が少し物思いに耽った。
結果、月夜が下した結論は。
「…ま、いいんじゃないかしら?」
「…邪魔しないなら手伝ってくださいな?」
「あ、ついでに三人は生徒会入りについて真剣に考えておいてね?」
「「「…は、ハハハ…。」」」
愛想笑いしながら三人は日が暮れるまで生徒会室に籠って役員達を手伝うのだった。
どんなに強くて賢くても白百合のプリンセスも中身は年頃の女の子でした。
でも真剣に美鈴と向き合うからこそ彼女の事で意識がいっぱいになり自分の事に気が付かなくなるのですよね。
今回は少しだけ美鈴の方が大人だったかも知れません。




