第五十六話【仮面の剣豪と大魔王との戦いの歴史】
仮面の聖霊、名尾君は仮面の剣豪たる聖霊達を集めて美鈴に仮面の剣豪と聖霊の仮面の説明を始めます。
が、結構脱線してしまいます。
そして、真のラスボスと考えられる大魔王の存在を美鈴は初めて知るのです。
仮面の聖霊ことこの俺、名尾芸太。
俺は本来ゲーム【白百合の園の仮面の闘姫】に出演するキャラクターではない。
ゲーム主人公である美鈴が両親から受け継いだ仮面を装着すると必要な知識が仮面の変身能力と共に授かるというのが本来の劇中での描写だ。
というかこの世界、非常にゲームと良く似てるのだが別世界の俺や美鈴のこの世界への転生や元々の百合ゲームとしての要素(評価ポイント)の事など、全てが色々とおかしい。
特に美鈴の性格。
本来ゲームの中の美鈴はそれこそ今ここにいる白百合のプリンセスそのままで、高貴で清楚でお淑やかなお嬢様そのものだった。
そんな彼女に俺と兼悟は生前嵌まったモノだった。
………のだが。
それなのに俺の親友…というかゲーム友達だった亀井兼悟がTS転生した美鈴はかなりハチャメチャな性格になってしまってた。
脳筋で天然で朴念仁で喋り方は乙女ゲームの悪役令嬢そのもの。
戦い方は力押し、白百合のプリンセスになった時には緩和されるけど基本とにかく乱暴で大雑把、前世を反映してか好みから何からが男勝り。
前世でのアイツはハチャメチャではなくてむしろ大人しい部類だったから(オタク趣味に関してはその限りではない)、もしかしたら前世で抑圧されてた部分がここで弾けちまったのかも………知らないけどさ。
勝利や一番になる事に拘るし、何と言っても百合世界だというのに女性同士の恋愛に拒否反応を示すという厄介な存在なのだ。
(…まあ、そこに関しては最近若干緩和されつつあるようだが。)
そのためこうして彼女の前では聖霊の仮面について説明する、等と偉そうに語ってはいるけど実は俺を仮面の聖霊に指名した神様的存在を呼び出して必死こいて勉強し直したのだ!
つうかさ、もう最初から美鈴本人に神様的存在が直接全部教えた方が良くね?
………と、そんな愚痴を抱えながらも俺は最初から全て知ってるぜえっ!みたいな顔をして美鈴の前に立っているのだった。
周りには歴代仮面の聖霊である仮面の剣豪4形態(白百合のプリンセス含む)が目の前にいらっしゃるから実は非常に緊張している!
この仮面の剣豪4形態の方々も本来のゲームでは表立って現実世界には出て来ず、力だけ与えて遠くから聖霊らしく見守る…そんなスタンスだったハズなんだがな?
「名尾君、ブツブツ言ってないで早く説明を始めて下さいな?」
「お、おう。」
俺はキャンパスの教壇のような場所に立ち、目の前の机にバン!と両手を置いた。
「どこから話そうかな…、やはり聖霊の仮面が作られる原因からかな。」
「昔、人間の国家連合と大魔王率いる魔賊との戦争があった。」
「双方沢山の犠牲を払いながらも最後はそこにおられる初代仮面の聖霊さんが大魔王との相討ちにより戦いは終わった。」
「そ、壮絶な最後だったのですね…。」
美鈴が真面狩の方を見た。
「フフン、恐れいったか!」
真面狩はふんぞり返った。
「それで、それからどうなったのですか?」
「大魔王が倒れたことで魔族は辺境へと追いやられた。」
「そいつらは今は細々暮らしてるが、知能や文化を持たない獣である魔物達は魔族の魔力の影響を受けて今も産まれ続けている。」
「ではこないだの謎の存在はその魔族出身?」
「それはわからん。さっきの話の続き行くぞ。」
「倒された大魔王は三百年後で復活しやがった。」
「ええ?ちゃんとトドメささなかったんですの?」
美鈴が真面狩をジトッと見る。
「ハン!いつも血を見るのが怖くてトドメを刺せないお前に言われたくもないなー?」
ククク、と美鈴を嘲笑う真面狩。
「コホン。で、復活した魔王を倒すため討伐に望んだのが…。」
「この私、電光烈火というワケだ。」
鎧甲冑姿の大女がガチャリと鎧を鳴らした。
「当然、貴女も大魔王を倒されたんですのよね?」
「勿論だ。」
「…で、また復活した、と?」
「…当然だ。」
「どーせまた三百年後で復活したんでしょ?」
「その通りだ。」
臆面もなく淡々と語る電光烈火。
実は兜の下の表情はかなり恥じてるのかも知れない?
「で、アタイの出番となったワケ。」
紫のチャイナドレス娘がケタケタ笑っていた。
「因みにアタイが倒した後もまた復活しちゃったんだよー?」
「それも三百年後、ですわよね?」
「ご名答ー♪」
「はあー、何で三百年後に復活しちゃうんですの?人類側は対策打てなかったのですか?」
「同一人物が復活するワケじゃないさ。」
「魔族の中には大魔王を復活させてかつての勢いを取り戻そうとする連中が延々とその考えを受け継いでいて、魔族に限らず至るところからそれに相応しい人材をスカウトしてるんだから。」
「それと三百年周期とどんな関係が?」
「三百年毎にこの世界のエネルギーが最大値まで高まる、それを魔族とその宮殿が利用してるらしい。」
「魔族の宮殿でその儀式が完了するとき、新たな大魔王が生まれる、それが大魔王復活の真相だ。」
真面狩が真剣な表情でマジマジと語った。
「では、これからこの人間世界からも大魔王となる人物が現れる、とでも?」
「可能性も無いワケじゃない。」
「そしてもう一つ、初代大魔王の魂そのものをその人材に宿して復活させているという側面もある。」
「では、その大魔王の本体たる魂を封じてしまえば?」
「それを成し遂げたのが、この私です。」
「ええ?白百合のプリンセス様が?」
「はい。私はここに居られるお三方の聖霊を宿した仮面を授けられた事でそれに成功したのです。」
「最後は我々が分離して大魔王の動きと魔力を封じ、その娘が大魔王の魂を封印する事に成功したのだ、それが実に約千年前になる。」
「へえー。」
「…へ?」
「今、分離とおっしゃいましたか?」
「通常では無理だが…たまたま連中の儀式の最中で凝縮された魔力によって一時的ではあるが別々に実体化する事が可能になったのだ…と言うのが私と推察だ。」
真面狩は初代である事と魔法に精通してる事もあるので自分たちに起きた現象を詳しく語ってみせた。
「…て、それってもしや?」
美鈴が白百合のプリンセスと目を合わせた。
「…はい、もしかしたら。」
「二人とも気が付いたか。」
「美鈴に溜め込まれた尋常では無い魔力量があれば一人くらいの仮面の聖霊の肉体を完全に復元させる事も可能になる。」
「エエエーッ?!」
「わわ、私はてっきり白百合のプリンセスが元に戻れないのはあの謎の敵のせいだとばかり…。」
「私もです、…では私はこの世界に再び人としての生を受けたという事ですか?」
白百合のプリンセスは信じられないといった表情だ。
「自然の摂理には反するかも知れないけど、一応はそうなるかな?」
俺は真面狩大先生の方を見てこの推測が当たってるか判断してもらうことに。
「………異論は無いな。」
どうやら当たってるらしい、良かったー。
「しかし、となると聖練潔白…いや、白百合の…プリンセス、か…その子が我らの元にはもう戻れないという事か?」
電光烈火が俺に尋ねた。
「うーん、こうして精神だけは戻れるけど肉体を持って活動中は無理だろうな。」
「じゃあさ、彼女の仮面の聖霊としての能力はどうなるのさ?」
今度は不可視擬が聞いてきた。
あのさ、俺別に何でも知ってるワケじゃないからね?
雇われ聖霊だから知ってる事も限られるんだよ!
「…えと、そこんとこは実際に彼女に聞いた方が早いかな?」
「どうなんだ、聖練潔白。」
真面狩が仮面の聖霊名で白百合のプリンセスに聞いた。
「わかりません。…正直今は、まともに身体が言うことを聞かない上に魔法も上手く操れないのです。」
「しかし魔力や体力には異常が感じられないのです。」
「あの、白百合のプリンセス様?もしやあの謎の存在が貴女の身体に仕掛けた何かが貴女の戦闘能力を阻害してるのではありませんか?」
「美鈴、冴えてるな。俺もその通りだと思うぞ。」
「では、やはり?」
白百合のプリンセスが青い顔で俺を見る。
「推測だけど、その可能性は大いにあると俺は見てる。」
「何だろうね、その仕掛けた何かって?」
不可視擬が興味深そうに聞いてきた。
俺もこの際出来るだけ知りたかったので白百合のプリンセスから情報を得る事にした。
「白百合のプリンセスさん、他に何か異常は?」
「…その、とても恥ずかしいのですけれど………。」
…と、彼女は下を向いて黙り込んでしまう。
「プリンセス様…。」
美鈴が彼女の手を握り、ハグした。
「大丈夫ですわ、それがどんなに恥ずかしい事でも私は受け入れますわ。」
「貴女は私と運命を共にしてきた、大事な人ですから。」
『大事な人?!』
突然白百合のプリンセスが叫んだ。
しかも彼女の瞳にハートマークが輝いてる。
「あああ~、美鈴、やっちまったなあ…。」
俺は軽い目眩でクラッときた。
「へ?」
当の本人は何の事やらという顔してやがる。
頬をピンクに染め、感激で瞳をうるうるさせてる白百合のプリンセス。
「私は、私は美鈴にとって大切な人なのですか?」
「は、はい、大事な人ですよ?」
「ウフッ♪ウフフフフッ…♪♪」
あー、これはもう完堕ちだな。
月夜がどれだけ白百合のプリンセスを手元において彼女を玩んだとしても心を完全に奪い取る事は出来なかったようだな。
再びパンパン!と俺は手を叩いてみんなの注意をこちらに向けさせた。
「ま、まあとにかくだ。」
「つまりだ美鈴、仮面の剣豪4形態となる仮面の聖霊さん達とは、過去に大魔王を倒した方々だったんだ。」
「ええ、ここまで聞けばそのくらいはわかりますわ。」
「そして彼女らは倒した筈の大魔王の復活を無念に思い、聖霊の仮面の中に集合した。」
「白百合のプリンセスの代になって漸く大魔王対策として聖霊の仮面が作られたんだ。」
「そしてその仮面に宿った聖霊の力と増幅された自らの魔力を持って、大魔王をやっと封印する事が出来たのです。」
美鈴の腕に抱かれながら白百合のプリンセスが語って俺の説明を補足する。
「しかし美鈴、ここが精神世界で良かったな。」
「こんな今のお前を見たら明花が黙ってないぞ?」
「いっ?な、何でここで明花さんの名前が出てくるんですの?!」
本気で驚くなよ美鈴?
何か明花が可哀想になってきたぞ。
あ、今度は白百合のプリンセスがショボンとしてる?
「すみません…そうでしたね、美鈴さんは明花さんという方が…。」
ゆっくり名残惜しそうに白百合のプリンセスの身体が美鈴から離れる。
「ええっ?ちょっと待って白百合のプリンセス?」
「俺別にそんなつもりで言ったんじゃあ…(汗)」
こ、今度は俺まであたふたしてきた!
「やれやれ仮面の聖霊さん?あんたもデリカシー無いよねえ。」
不可視擬が「ヤレヤレ」というポーズ
を取って呆れてた。
「うむ。せっかく恋しい美鈴と会えた聖練潔白なんだ、もう少し自由にさせてやれ。」
電光烈火さんまで?!
「…で、説明とやらはこれで終わりか?」
真面狩一人だけが興味無さそうにアクビをしてた。
「な、なんかグダグタしてきたから、今回は一旦これで解散します!」
「ちょっと待って下さい?ここを閉じられたら私はまた美鈴さんとは?」
「…んー、じゃあもう少しだけ二人はここにいられるようにするよ、その代わり今夜だけ。」
「後はまたここに召集する事もあるかも知れない。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「良かったですね白百合のプリンセス。少なくともここにいる間は月夜さんの支配から逃れられるワケですから。」
「そうですね、今夜は寝かせませんよ?」
「いえ、私達は寝てるからここにいるんですけど…。」
「それもそうですね?」
アハハと笑い合う美鈴と白百合のプリンセス。
その笑い声を背に俺達はこの場を後にした。
「ありがとうな、仮面の聖霊よ。」
電光烈火が俺にお礼を言ってきた。
「何が?」
「最初ここで再会した時の聖練潔白はとても暗く沈んだ、哀しげな表情だった。」
「ふむ、確かに生気の無い顔色だったな。」
真面狩が白百合のプリンセスの表情に関心があったとは…。
仲間?に無関心そうだったが、彼女なりには心配してたのか?
「だけど美鈴と再会したら、段々明るくなってきた。これも美鈴と君のおかげだよ!」
不可視擬よ、あまり持ち上げないでくれ。
と思いつつ、俺の顔はニヤケていたようだ。
しかし。
「でも彼女の身体に仕掛けられたモノを何とかしないと解決には至らない。」
「それともう一つの難問が月夜だ。」
「あの女を誰かが正気に戻さなければならんな。」
電光烈火が難しい事を言ってくれる。
「あれ?あれが彼女の本性なんじゃ無かったの?」
不可視擬さん、それは思ってても普通中々言えない事ですよ?
「まあ、今のところはたまに美鈴とこうして精神世界で会わせて心のケアをするしかないかな。」
「誰かが月夜を正気に戻す、か…。」
確かにそうするしか無いだろうな。
しかし誰がそれをやると言うんだ?
それもどうやって?
俺は仮面の聖霊の世界の自室に戻った。
もうじき夜が明ける。
美鈴も白百合のプリンセスも肉体へと戻り、またあの日常が始まる。
何とかしたいんだけどな…。
…あれ?
俺何か忘れてるような…。
………何だったっけ?
そうだ思い出した!
大魔王の封印が効果を発揮出来るのは千年だけ。
その千年後が再来年度、つまり美鈴の高等部三年生に当たるんだった!
まあ、まだ少し先の事だからまた後でいいか。
………実はもう一つ大切な事を忘れてた事にこの時の俺は気が付かなかったんだな。
そしてその結果。
明花の部屋で目覚めた美鈴と寝ボケて彼女に抱き着いてた明花、そして隣のベッドで寝てた若汐の間でちょっとした修羅場の大騒ぎになった。
これに俺はまだ気付かなかったのであった。
白百合のプリンセスは精神世界での出来事とはいえやっと美鈴と再会出来ました。
しかし、同時に美鈴のせいで本格的に美鈴に対して恋に落ちてしまった様子。
美鈴はつくづく無自覚な女タラシです。




