第五十五話【夢の世界で現実を語る仮面の聖霊】
白百合のプリンセスの問題を抱えている美鈴のもとをあの女の子が訪ねて来ます。
明花としては面白くないでしょうけど。
そして仮面の聖霊、名尾君は約束通り美鈴を白百合のプリンセスと会わせるのですが…。
「美鈴さん、来ちゃいました!」
玄関前で開口一番、元気いっぱいに彼女は叫んだ。
「あ、貴方は…!」
「確か…中等部の…?」
美鈴と明花がビックリする。
【はい、李若汐です!】
何でコイツが今ここに?
「貴女たしか中等部に帰られたんではありませんでしたか?」
「はい、一度は皆と一緒に帰路に着きました。」
「けど、私が美鈴さんの事を忘れられなくて、ずっと塞ぎ込んで、それで…。」
「皆に背中を押されて、全力で駆けてきました!」
良く見たら、身体中が汗でビッショリしていた。
「ば、バカですか貴女は!」
「こんな炎天下で何時間も全力疾走なんてしてたら…。」
「…こうなりますよね?」
明花が指差したその足下には若汐が「はにゃああ~。」と目を回して気絶していた。
「る、若汐さんっ?!」
「…全く。」
明花は仕方ないという感じで美鈴に指示を出した。
「美鈴さん、岩塩と麦茶、それと氷嚢と乾いたタオルをお願いいたします。」
「は、はい!」
美鈴は台所へとダッシュした。
「何で私が恋敵の介抱なんてしなきゃならないのかしら…?」
つい口に出した明花だったが、それでも魔法医学に携わる者としての自覚を思い出すと自らにも汗が付くのを我慢しながら若汐を抱え上げるのだった。
明花から頼まれた物を一通り揃えて玄関まで持って来た美鈴だったが、そこにはもう既に二人の姿は無かった。
「もしや、私か明花さんのお部屋にでも運ばれたのかしら?」
美鈴は手に持った荷物で視界が遮られる事から階段を踏み外さないように足下を注意しながら運んだ。
そのため歩みは遅くなったものの、明花に任せておけば大丈夫だという信頼感から焦りは消えていた。
コンコン。
明花の部屋の前でノックをする美鈴。
「明花さん、いらっしゃるかしら?」
「あ、美鈴さん?」
「お頼みした物を持って来て下さったんですか?」
「ええ。手が塞がってますのでドアを開けてくださるかしら?」
「ええ、ただいま。」
ガチャリとドアが開く。
美鈴が持って来た物を幾らか受け取る明花。
「ありがとうございます、助かりました。」
「とんでもないですわ。」
「それより、若汐さんの容態は如何ですの?」
「予想通り熱射病と軽い脱水症状でした。」
「涼しい場所で休ませて小まめな水分補給をすれば徐々に回復するでしょう。」
「ああ、良かったですわ。」
美鈴が声をかけて上げようと部屋の中に入り、奥を覗く。
すると。
「な!?」
「な、な、ななな~っ☆☆☆」
狼狽える美鈴。
「どうしたんですか?」
ヒョコッと様子を伺う明花。
「なあんだ、若汐さんがうつ伏せに寝てるだけじゃありませんか?」
何をそんなに美鈴に(メイリン)が狼狽えているのかが明花には分からなかった。
「だっ、だっ?…だって、彼女、その…裸ですわよ?」
確かに。
若汐はベッドの上でうつ伏せに寝ていた。
美鈴が言う通り、全裸で。
但しうつ伏せだから当然前は見えてないし、腰にはシーツがかけられていたから肝心な部分は見えていない。
精々、シーツの隙間からチラッと見える横乳とお尻の谷間のほんの上、後は背中くらいだ。
「そりゃ、全身の汗を拭いてあげてたから…ハッ。」
そこまで言って明花はようやく美鈴は他人の裸に対し耐性が無い事に気が付いた。
「メ、美鈴さんって、実は物凄く殉情なんですね?」
「そ、そう言われる明花さんだって、こないだ私に着替えを見られて恥ずかしがってたじゃあございませんか!」
「あ、あれは…。」
確かにあと時は着替えを手伝って貰ってた側仕えの芽友相手には特に恥ずかしくもなかったし、芽友も普段と同じように粛々と手伝っていた。
なのに、美鈴の目線に気が付いた途端、猛烈に恥ずかしくて堪らなくなったのだ。
(………もしや、これは恋心のせい?)
溜りこんだ明花の表情を覗き込む美鈴。
「明花さん…?」
その声に明花は目の前に美鈴の顔が近付いていた事を知った。
彼女がユックリと顔を上げると、二人の顔は触れんばかりに距離が近くなった。
「メ…美鈴さん………。」
「明花、さん………。」
互いに相手の息を顔に感じた。
このまま、ほんの少し顔を前に出す事で二人はキスしてしまう。
明花は、そっと目を閉じた。
美鈴は何も考えられなくなっていた。
ただ、拒む気持ちや力の一切が働かず、吸い込まれるように顔を明花の方へと近付け………。
「う…うう~~~…ん。」
突然、美鈴の背後から若汐の声が聴こえた。
寝苦しくて寝返りでも打ったらしい。
「!!!」
美鈴はその声に呪縛を解かれたかのように飛び退いた。
「し、ししし…失礼いたしましたわ、明花さん…!」
「い、いえべつに謝らなくても…。」
明花は残念そうな顔をしていた。
そしてこんなタイミングで声を出した若汐を忌々しく思って目をやる。
と、明花の表情が突然固まった。
その視線に自然と誘導された美鈴の目に映ったのは。
「★~★☆!?」
ズデ~ン☆☆☆
…………取り敢えず、若汐が寝返りを打ってシーツを蹴飛ばし大の字になってた、とだけ説明しておこう。
あああ~…これは美鈴にとって、かなり刺激が強過ぎだったようだ。
何故なら美鈴はその場で卒倒したのだから。
「メ、メイリンさん?!しっかりして!?」
若汐の時とはうって変わって大慌ての明花だった。
その夜、寝間着を着せられた若汐を芽友のベッドに、美鈴を自分のベッドに寝かせた明花。
彼女は側仕え達に事情を話し、芽友に美鈴のベッドで寝て貰った。
「全く、何でこうなるのかしら?」
面倒なライバル、月夜は白百合のプリンセスに夢中となり戦線離脱中だというのに、ここに来てまさかの若汐の訪問とは。
ダークホースと思われる愛麗は芽友が押さえててくれるから大丈夫、以前夜這いを企んでた范先生も学園に帰った今は表だって動けないはず。
明花にとって完全に流れが自分の方に来ていたと言うのに。
しかし、彼女は恋敵となる可能性を持つもう一人の女の子の存在を失念している。
その女の子は今、悲しい事にすっかり月夜のいいようにされてしまっているのだが。
その彼女だが。
どうやら月夜の部屋の結界が弱まってるようなので、少しだけ様子を覗いて見よう。
ダブルベッドに横たわり満足げにスースーと眠る月夜。
シーツからは彼女の上半身が見えていた。
その彼女の素肌が月夜に照らされてぼんやり白く光っていた。
一方、その隣にはシーツで身体の前を隠しながら物憂げに空を見つめる白百合のプリンセスの裸の後ろ姿があった。
瞳に涙を湛えながら月を眺め、その視線を自身の素肌に何ヵ所も付いた…いや、「付けられた」赤い痕へと向ける。
「いつまで、私はこの方の所有物のように扱われ続けなければならないの…?」
本来なら美鈴が護るべき対象である月夜は自分にとっても護るべき存在であるはず。
だが今の状態では自分を篭の鳥にしてしまった月夜の存在を恨めしくも感じずにはいられなかった。
「美鈴さん………。」
白百合のプリンセスは一体となり共に闘った美鈴の事ばかりが脳裏に浮かんでしまう。
彼女は両手で顔を覆い、しくしくと泣いた。
「…貴女に、会いたい。」
「ううっ…メイリンさん、メイリンさぁん~…。」
そのまま静かに泣き崩れ、いつの間にか深い眠りへと白百合のプリンセスは堕ちていった。
だが彼女は忘れているのだ。
自分を手入れて離そうとしないのは何も月夜ばかりではないということを。
彼女をこんな境遇にしてしまった張本人である謎の敵。
向こうはハッキリと白百合のプリンセスを奪い取ると宣言したのだ。
ソイツが白百合のプリンセスを何れは奪いにやって来る。
それは単に時間の問題でしか無かったのだ。
その時が来たら、月夜に勝ち目など無いかも知れない。
それを思えば、どうせ同じように愛玩動物の如く飼い慣らされてしまうのならまだ人間側にいて美鈴とも会える可能性のある今の方が彼女にとって幾分マシなのかも知れない。
仮面の剣豪たる彼女にとってそれはどちらも耐え難い屈辱でしかないのだが。
泣き腫らした白百合のプリンセスはせめて夢の中だけでもという願いが叶ったのか、美鈴に優しく抱き締められる夢を見る事が出来たのであった。
或いは彼女を哀れに感じた女神が見せてくれた、それはせめてもの救いであったのかも知れない…。
もう間違いない、白百合のプリンセスは自分でも気が付かないうちに愛してしまっていたのだ。
(美鈴さん、私は貴女を…愛してしまいました…。)
白百合のプリンセスの夢の中で彼女から愛の告白を受けた美鈴は一瞬キョトンとしながらも、優しく微笑んで彼女を強く抱き締めるのだった…。
で、再びこちらは本物の美鈴。
彼女の寝顔を見つめていた明花が寝ボケて美鈴のベッドに入って抱き付いてるのは平常運転だから良いとして。
【さて、そろそろ始めるか。】
俺は美鈴に約束した通り、白百合のプリンセスと彼女を会わせる事にした。
但し、現実世界では色々難しい。
そこでそんな制約の通用しない精神世界を会話の場所に選んだんだ。
【第一回、「ゆりかめ」会議~☆☆】
パフパフ~ッ♪♪
「…何ですの、コレは?」
「え?この場所は…て、美鈴さん?」
美鈴の直ぐ隣には白百合のプリンセスを座らせてあげた。
これは二人への、特に白百合のプリンセスへの俺なりの配慮だ。
「あ!プリンセスじゃありませんか!?ようやく自由になれたんですの?」
「………え、……それじゃあさっきまでのは、夢…?」
思いきって美鈴に告白したさっきのは夢だった!
しかも本物の本人が今自分の直ぐ目の前にいる!
白百合のプリンセスは恥ずかしくなって泣き出した。
「いやあ~ん、恥ずかしい!私を見ないで下さい~!」
「い、一体どうされましたの?」
【あ~あ、女の子を泣かしてやんの~♪】
「私も女の子ですわよっ!?」
そんなドタバタの最中にソイツらがやって来た。
『いい加減我々を紹介してくれないか?』
『アタイ達暇なんだから急がないけどさー。』
『くははは、私は力さえ奮えればそれでいい!』
「あー、何ですかこの方達は?」
美鈴が面倒臭そうに彼女らを見た。
「あら、難解見覚えありますわね?」
『この電光烈火を忘れるとはご挨拶だな。』
全身鎧甲冑で武装した大女が不満そうに喋った。
「ああ、一番最初に使用させて頂いた仮面の剣豪の形態でしたわね。」
『美鈴美鈴、アタイの事覚えてるよね?』
今度は紫のチャイナドレスの少女が話し掛けて来る。
「勿論ですわよ、不可視擬ちゃんは可愛いから忘れるワケないですわ。」
『エヘヘヘ。可愛い?ヤッパリね♪』
『ハン、私達は仮面の剣豪。戦ってナンボの存在だ。可愛い等と何を下らん…クッククク…。』
「あのー、名尾君?」
【ああ、あの人とは初対面になるな。】
「何ですのこの方?全身金色のローブだし、さっきからクレイジーな笑い方されてるし…。」
「なんだかんだ危ないヤツ感有りまくりなのですけど?」
『危ない?それは最上の誉め言葉だよ、クッククク、ハッハッハー!』
「とうとう気が触れましたかしら?」
「そ、それはさすがに失礼ですよ美鈴さん?」
「あらどうしてですの、プリンセス?」
「あの方こそ初代仮面の剣豪、『真面狩』様です!」
「…ふぇっ?しょ、初代?」
『フフン、たまげたか?』
ふんぞりかえる偉そうな態度の真面狩。
「あの、名尾君、初代ということはもしや?」
【ああ、今夜は白百合のプリンセス…聖廉潔白と会わせるだけが目的じゃない。】
【彼女達…仮面の剣豪と美鈴の関係、】
【そして聖霊の仮面のシステムについてきちんとお前に説明するためにこの場を設けたんだ。】
「仮面の…システム…?」
「とうとう、これを彼女に教える時が来たのですね…。」
白百合のプリンセスは美鈴の手を握った。
美鈴もまた白百合のプリンセスの手を握り返した。
そして二人は互いに見つめあう。
その二人が何となくいい雰囲気を醸し出している間に他の三人の仮面の剣豪達は俺の用意した席に着いていった。
パンパン!と俺が手を叩くと美鈴と白百合のプリンセスはビックリして俺の方を向いた。
【…さて、それじゃ始めようか。】
【聖霊の仮面のシステム、そしてこれが産み出されて現在までの、その歴史の説明をさ。】
普段ふざけてる俺も、今日ばかりは少々襟元を正した。
何と、仮面の剣豪の大集合!
但し美鈴の夢の中で、ですが。
これから語られる仮面の剣豪、そして聖霊の仮面の真実とは。
果たして白百合のプリンセスは美鈴と結ばれる事が出来るのか?
…もとい、また一体化出来るのか?




