第五十三話【ナゾの敵?危うし白百合のプリンセス!】
美鈴は白百合のプリンセスに変身して事態を回収しようとするのですが、仲間を操られて大ピンチに?
精神的ダメージを受けた彼女が気が付くと、何故か美鈴の目の前に白百合のプリンセスが?!
盆踊り?と美鈴が内心思った肝試し会場での死霊によるイベント。
様々な死霊が踊って回り、月夜はやぐらの上でひたすら太鼓を叩きながら言霊を紡いで唄い続けていた。
それが本人の意思によるものなのか、それとも何者かに操られてなのかはまだ不明である。
やがて夜空を埋め尽くしていた雲間より月光が射し込んだ。
『そこまでです、皆さん!!』
大音量で鳴り続けていた「太鼓の音、笛の音、月夜の紡ぎ続ける唄。」が、その良く通る声に遮られてビタッと止まった。
踊っていた死霊達の目も一斉にその声の元へ向けられる。
そして月夜は静かに太鼓のバチを置いた。
おもむろに顔を月へと向ける月夜。
「どなたですか?今宵の皆の宴を邪魔する方は?」
彼女は目に赤い光を宿してきた。
幽玄な空気のこの場所で妖艶な月夜の瞳が満月を射抜く。
その視線の先には満月を頭上に頂いた教会の屋根が。
そしてその先端の避雷針があった。
その避雷針の先端に設けられた小さな輪を踏み台にして立つ、月光を浴びて白く輝く影。
「貴女は、何者です?」
「私は…。」
声の主が一言発する。
僅かな雲が満月にうっすらとかかり、月光が幾らか弱まる。
すると白い影のシルエットが色彩を帯びた。
白い影の全体は教会下から照射されたスポットライトに照らされ、その全体像が表れる。
『私は、仮面の剣豪・聖錬潔白。』
「…セイレン…ケッパク…?」
訝しげに月夜が反芻する。
『トウッ!』
聖錬潔白が地上へと舞い降りる。
ストッと教会の玄関前に立つ聖錬潔白。
『そしてまたの名を…。』
虚空からレイピアを取り出し顔の前に持ってくる聖錬潔白。
『白百合のプリンセス!!』
白百合のプリンセスがビシッとレイピアを攻撃の姿勢で構えた。
「貴女は月夜さんに取り憑いて何を企んでいるのです?白状なさい!」
「取り憑いて企んでいる…?何の言いがかりかしらね?」
「ならば。」
白百合のプリンセスがジャンプしてやぐらの上に立つ。
「貴女がシラを切るのなら私の魔力で引き離してあげましょう!」
(大概の悪霊なら魔法で無力化出来るはず?)
白百合のプリンセスが月夜に手を翳した。
【仮面の剣豪の形態の中でも聖錬潔白は魔法で穢れを払えるから霊的脅威への対応力は随一だ。】
【だから悪霊にも充分魔力が通じるハズ!】
(その言葉、信じますわ。)
『浄霊波!!』
白百合のプリンセスは手を光らせて白い光の奔流を放つ。
「この光はっ?!」
危機を察知し、咄嗟にかわす月夜。
「な、何をなさるのかしら白百合のプリンセスとやら?」
「お顔が焦っておりますよ、月夜さん?」
「仮にも私は四大名家の跡取りですよ?それを攻撃されるんですか?」
「ご安心ください、この光はあくまでも貴女に取り憑いている悪霊を取り除くだけです。」
「それとも、ご自身が浄化されるのがそんなに怖いのですか?」
微笑を浮かべる白百合のプリンセス。
「な、何をさっきから言いがかりを?」
「貴女のさっきからの私に対する態度が正体を物語っているのですよ?」
「まず貴女は月夜さんが良くご存知なハズの私を知りませんでした!」
「それに本来の月夜さんは私に対する愛情が半端ありませんでした。」
「私の姿を見ようものなら直ぐにでも抱き着きそうな勢いがありました。」
「それはもう、情熱的でした!思わず私も蕩けそうになるくらいに………。」
………と、そこまで語るとハッと我に返る白百合のプリンセス。
真っ赤な顔で恥ずかしがる白百合のプリンセスは先ほどまでの威厳はどこへやら、まるで年頃の純情な少女そのものだった。
一方、そんな白百合のプリンセスの姿と月夜の庶民的な姿を知った、月夜に取り憑いている悪霊?は、その意外性に唖然とするのだった。
「…んな?四大名家ともあろう者がそんなはしたない真似なんか…!」
「それがするのですよ、うちのお嬢様は。」
いつの間にかやぐらには依然と范先生も上がって来ていた。
そして白百合のプリンセスの後ろに立つ。
「すまん、来るのが遅くなった。」
「私達も加勢いたします。」
范先生が護符を、依然が伸縮式の携帯槍を構える。
「ではお二人は月夜さんが逃げられないように周りを固めて下さいますか?」
「「承知。」」
と、
ガシッと身体を押さえ込まれたのは白百合のプリンセスの方だった。
「な?何をなさるのですか?!」
やっと白百合のプリンセスは気が付いた。
二人の目が怪しく真っ赤に光っていた事に。
「さあさ、これで形成逆転ね?」
月夜の目もまた怪しく真っ赤に光っていた。
「!二人を操っているのですね?」
「その通り!」
月夜の手が白百合のプリンセスの胸元へと伸びる。
「抵抗するんじゃないわよ。抵抗したらこの身体とその二人がどうなるかしら?」
ニヤニヤする月夜。
「………や、やめて…くだ…。」
この時初めて白百合のプリンセスは恐怖した。
まともに戦えば白百合のプリンセスに敵はいないだろう。
だが今の敵は美鈴と仲の良い知人達の身体を乗っ取っている。
みだりに傷付けるわけにはいかない。
そして敵が自分に何をしようとするのかがわからない。
今度は自分を乗っ取るつもりなのだろうか?
そうなればもう誰もこの悪霊を倒せない。
月夜の手が白百合のプリンセスのドレスを掴んだ。
そして。
ビリビリイッ!
「キャアアーッ?!」
白百合のプリンセスの悲鳴が響き渡った。
登場以来、これが初めての彼女のピンチ、そして悲鳴となる。
「フフフ、良い格好ね白百合のプリンセスとやら?」
「…くっ。」
白百合のプリンセスのドレスは真ん中から縦に、上から下へと引き裂かれていた。
そして破かれて出来たそこから彼女の白くてきめ細かい肌と上下に着けている純白の下着が露となる。
加えて彼女の白くふんわりとした胸の谷間、そしてオヘソまでが見られてしまった。
「う、ううう………。」
白百合のプリンセスが羞恥と屈辱に耐えている。
彼女の肌がプルプルと震えていた。
「………その恥ずかしがりようだと、まだ生娘のようね?」
月夜の人差し指が、トン、と白百合のプリンセスのオヘソの下に置かれる。
月夜更にそこをグッと押した。
そこは彼女のパンティーの丁度上から見える肌
の部分でもあった。
「うっ…?」
今まで感じた事のないその部分への感覚に白百合のプリンセスは呻き、戸惑った。
月夜の指先からムズムズするような、何とも言えない感覚を覚えたのだ。
そして月夜の人差し指が白百合のプリンセスの肌を下から上へと撫でる。
「…あっ、ああ~…?」
ゾクゾクするその感触に白百合のプリンセスは仮面越しの目を閉じて涙を浮かべる。
「フフフ、感じてるのね?」
月夜、と言うか彼女に憑いた悪霊?がイヤらしい笑みを浮かべてした舐めずりする。
「…くっ…。」
恥じらいながらも人差し指から与えられる感触に耐える白百合のプリンセス。
オヘソから胸の下へと撫で上げた指先を白百合のプリンセスの口へと捩じ込む月夜。
「んぐっ!」
口の中に侵入した月夜の指に白百合のプリンセスの口内は蹂躙された。
その指をグチョグチョと白百合のプリンセスの口へと出し入れする月夜。
「さあ、どうやって汚してやろうかしら?」
月夜の人差し指が口から抜かれると白百合のプリンセスはプッ!と唾を床に吐き捨てる。
「こ、こんな事して何になるの?貴女の本当の目的は、何?」
「おや、澄ました顔より怒った顔の方がキュートね?」
「か、からかわないで!」
白百合のプリンセスの顔は真っ赤になった。
月夜は白百合のプリンセスへと顔を近付け、頬を擦り寄せながら優しく話す。
その頬はとても死霊に取り憑かれてるとは思えないほどに温かく、そして健康的な瑞瑞しさを備えた柔らかい肌だった。
そこから伝わる艶かしい「気」は果たして操られている月夜の物なのか、それとも操っている憑物から発せられるモノなのか。
確かな事は、月夜?からのこれらの行為は白百合のプリンセスの警戒心を嘲笑うが如く彼女を蕩けさせていた事だ。
「安心なさい、私はこの地の不成仏霊共を癒しに来ただけ。」
「少なくとも、今日の所は、ね?」
「…あ、貴女は人間の敵なのですか?」
既に身体への近くが入らなくなってきている白百合のプリンセス。
(まさか魔力を吸い取られてる?…しかし私の気は充分に満ちているし…。)
こっそり体内の気と魔力を全身に循環させてみるが、特に不足は感じられなかった。
そして白百合のプリンセスからの問いに月夜に取り憑いている存在はこう答えるのだった。
「それは秘密♪」
「でも、今日から一つ新しい目的が出来たわ。」
「新しい、目的?」
訝しがる白百合のプリンセス。
「フフフ…それは貴女よ。」
白百合のプリンセスほ頬にチュッと口付ける月夜。
彼女は怪しい眼差しを白百合のプリンセスへと向ける。
「あっ。」
その行為に対して不覚にも気持ち良さを感じてしまった白百合のプリンセス。
月夜は顔と身体を白百合のプリンセスから離すと、こう宣言するのだった。
「貴女の身も心も完全に奪うのが私の目的よ!観念なさい白百合のプリンセス!」
今度は白百合のプリンセスの胸の下着へと月夜の手が伸びて、ガシッと掴んだ。
「フフフ…。」
「な?何をなさるの?…まさか?!」
「ええ、貴女の想像通りの事をするのよ。」
「このまま、先ずは貴女の身体から奪ってやるわ。」
白百合のプリンセスのブラを掴んだ月夜の腕が下へと下ろされた。
ビリイッ!!
「やめてええー?!」
白百合のプリンセスが絶叫する。
その時、彼女の仮面が光った。
「むっ?」
思わず目が眩む月夜。
そこへ石が飛んできて月夜の前髪をかすめた。
「誰っ?!」
その石の飛んで来た方向には愛麗がいた。
「こらーっ!離れなさいー!!」
愛麗が怒鳴っていた。
まかり間違えば石は月夜に当たって大怪我させてるところだったぞ?
幸い当たらなかったけどさ。
思わずホッとする白百合のプリンセスだった。
(あらあら、あの子ったら逃げるように言われた主人からの言い付けを守らないなんて。)
(でもおかげで助かりました、愛麗さん…。)
安心からか少し膝がガクッとしそうになる白百合のプリンセス。
先ほどの辱しめが彼女に対し予想外の精神的ダメージを与えたのかも知れない。
「くっ、アイツはまさか…!」
愛麗の姿を見た途端、月夜に憑いている存在は焦った。
彼女の全身から凄まじいオーラを感じとったのだ。
そして掴んでいた白百合のプリンセスのブラをポケットへと詰め込んだ。
如何に月夜の身体を乗っ取ろうとも、如何に依然と范先生を操ろうとも、今これだけのメンバーがこの場にいれば不利だと悟った。
特にこの愛麗の魔力量は並大抵ではない。
あの子が本気になればこの程度の洗脳と精神操作など容易く解かれてしまうだろう、と悪霊?は判断したのだ。
勿論ソイツは愛麗がまだ防御魔法以外使えない事など知る由も無かった。
「どうやら邪魔が入ったようね。」
「でも覚えてなさい?今度こそ貴女を手に入れてみせるわ、白百合のプリンセス!」
(今日のところはいいお土産ももらえたからこれで由としてあげる。)
月夜の身体から黒い霧が抜け出て天へと登って消え去った。
その霧の中にうっすらと白い布きれが混じって見えていた。
「ま、待ちなさい!」
白百合のプリンセスは追いかけようと思ったが、先ほどまでの恥辱で受けた精神的ダメージで上手く身体が動かず取り逃がしてしまった。
………と、キョトンとした顔の月夜が白百合のプリンセスに話しかけて来た。
「あ、貴女は白百合のプリンセス様…?」
「………キャアア!な、何て破廉恥なお姿に?!」
と、言いつつも白百合のプリンセスの身体をガン見する月夜だった。
白百合のプリンセスは引き裂かれたドレスから中央の肌が丸見えにされていた。
胸元もブラを取られてしまったが幸いにも肝心な部分はドレスの両側の生地で隠れていた。
だが喉の下から胸元、お腹とオヘソ、そこからパンティーまでが露出して月夜の目の前に曝されてしまっていた。
恥ずかしくなって胸を両手で隠し、その場にしゃがみこむ白百合のプリンセス。
「…み、見ないで下さい月夜さん…(恥)。」
いつもの自信に満ちた高貴な姿ではなく、か弱い少女なままの白百合のプリンセスのその姿と仕草に月夜の心は鷲掴みにされた。
(と、尊い…何時もと違う意味で…!)
月夜の目がハートマークになって口は逆三角形となる。
今にも飛びかかって来そうな月夜の気配だったが心身に異常が感じられる白百合のプリンセスはそうならない事を祈るばかりだった。
更に、いつの間にか後ろの二人も洗脳が解けていたらしい。
「あら?」
「私達は…一体?」
「…どうやら洗脳が、解けたようですね。」
膝を床に付き倒れそうになる白百合のプリンセス。
范先生は白百合のプリンセスの姿に気が付き、上着をかけてあげた。
「大丈夫、ですか?」
范先生からの優しい言葉にうっすらと笑みを返す白百合のプリンセス。
「ありがとうございます。」
そしてゆっくり、フラッと立ち上がる白百合のプリンセス。
「今回は皆さんに助けられました。」
頭を下げる白百合のプリンセス。
「いえ、白百合のプリンセスさんのおかげで私とこの二人は解放されたんですわ。」
「私は今回は何のお役にも立てませんでした。皆さんが自由になれたのは愛麗さんのおかげです。」
それを聞いた愛麗は「どや顔」となり、やぐらの下からピースサインをした。
「エヘヘヘ!」
「では私はこれで。」
フラつきながら白百合のプリンセスが飛び立とうとするが。
クラッ…。
(…あ…)
集中の途切れた白百合のプリンセスは、やぐらの手摺りへ足をかけたところで前のめりに崩れそうになった。
「危ない!」
危うくやぐらから落ちかけた白百合のプリンセスを咄嗟に月夜が支える。
そのまま白百合のプリンセスは月夜の方へと倒れ込み、彼女へとふんわり体重を預けた。
その彼女の身体の軽さにビックリする月夜。
(白百合のプリンセス…今までこんなに軽いお身体で私を守って下さってたのですか?)
「すみません月夜さん…。」
「いえ、それより貴女のお身体の方が…。」
すると身体を支えてくれる月夜の腕を掴んで白百合のプリンセスがこう語った。
「私の事より美鈴さんをお願いします…彼女は墓場の敷地で横たわっているはずですから…。」
そう告げると白百合のプリンセスはグッタリと月夜の胸に倒れ込んだ。
「プリンセス様?しっかり!」
「先生、依然、貴女方は愛麗さんと一緒に美鈴さんの方を!」
「わ、わかった!」
「お嬢様、白百合のプリンセス様とやらはお願いします!」
コクリも首肯く月夜。
そして。
「………美鈴お嬢様?」
「美鈴君、しっかり!」
「お怪我はございませんか、美鈴様!」
「………ん?………あれぇ…?」
愛麗の膝の上でぼんやり眼の美鈴の顔が目覚めた。
「………私、何をしてましたっけ?」
のんびりと起き上がる美鈴。
「覚えてないのかい?」
「………はい、私は確か先生と一緒に肝試し会場の異常を調べに来たはず………。」
「なぜかここに来てからが全然思い出せませんの。」
「………おそらく月夜君に憑依していた悪霊の仕業だろう。」
「そうですね、私と先生もいつの間にかやぐらの上に立っていましたから。」
と、そのやぐらから月夜が下りてきた。
「私も目覚めたらやぐらにおりましたもの。」
「あら月夜先輩、悪霊に取り憑かれてたと聞きましたが…。」
「白百合のプリンセスに助けられました。彼女からは愛麗さんのおかげと言われましたけど。」
そう言うと背中に背負っていた白百合のプリンセスの顔を皆に見せた。
目を瞑りグッタリとしている。
何故か頬が赤く、小さくハアハアと苦しそうな呼吸をしていた。
その姿には美鈴もドキドキと興奮させられた。
そして同時に彼女は驚き、理解不能なこの事態に混乱した。
「し、白百合の…プリンセス?!」
愛麗もビックリ顔になった。
(お嬢様、これは…?)
困惑の表情の愛麗から見つめられる美鈴。
(ど、どういう事ですの?これ?!)
【落ち着け美鈴、取り敢えず今は皆に話を合わせてろ!】
(名尾君、これは一体?!)
【だから落ち着け!説明はまた後だ!】
(は、はい。)
頬を真っ赤に染めたまま眠る白百合のプリンセスを眺める美鈴。
(一体どういう事ですの?白百合のプリンセスとは、ついさっきまでこの私だったんじゃありませんでしたか?!)
その謎を秘めたまま、白百合のプリンセスは眠り続ける。
……………。
どこかの宮殿、どこかの薄暗い一室にその者達はいた。
奥の席に座る影が蠢いた。
「………今回は面白い収穫があったそうだな。」
入り口近くの影が答える。
「ええ。」
「兼ねてよりの邪魔者、仮面の剣豪のウイークポイントが見つかりましたわ。」
「仮面の剣豪の?」
「と言っても私が相対したのは白百合のプリンセスだけだったけど。」
「どうだった?」
「彼女は搦め手には弱そうよ。」
「ほう。力勝負ではなく策を弄すれば良いのか。」
「彼女は私がモノにするわ。それで少なくとも白百合のプリンセスは脅威では無くなる。」
「だが他にも超速星や不可視擬なる輩もいると聞くが?」
「…そっちは他のお仲間で何とかして下さる?」
「まだ他にもおるぞ。」
「安月夜暗殺のことごとくが失敗に終わったのは彼女の後輩である黎美鈴が一番の原因なのではないか?」
「………。」
「仮面の剣豪よりも、むしろ黎家の小娘の方こそが最大の障害だと思うのだがな。」
「まだ彼女は標的にする程の手合いではございません。」
「その根拠は何だ?」
「まだその実力を計りきれておりませんので。」
「これから秋には学院対抗戦の為の代表決定戦が始まります。」
「彼女が中央学院代表となり各学院代表に勝ち抜いて全学院の制覇でもすれば標的にするだけの価値があるかと。」
「なるほど、そうなれば安月夜よりもむしろ黎美鈴のみに狙いを絞れると言うものか。」
「御意に御座います。」
入り口から話し掛ける女の口角がニヤリと釣り上がった。
……………………………。
…………………(なんだこの光景は?)
突然頭に浮かんだそのビジョンに俺(仮面の聖霊こと名尾君)は嫌な汗をかいたのだった。
もしや、コイツらが事件の黒幕?今までもコイツらが…?
………さて、その一方ではそんな事など知らない美鈴が愛麗とコソコソ小声で話し合っていた。
(お嬢様、なんで仮面の剣豪がお嬢様とは別にここにおられるんですか?)
(私が聞きたいですわよ!)
彼女らは宿泊施設に戻り、翌朝まで自室での待機を言い渡された。
白百合のプリンセスは安月夜が自室で看病する事になった。
美鈴の部屋には真友?の明花と芽友が集まっていた。
「災難でしたね、美鈴様。」
「お怪我が無くて何よりです。」
「それで、白百合のプリンセス様の容態はどうでしたか?」
「それが、月夜先輩の話では怪我はされてないそうですの。」
「ただ、精神的に酷くダメージを受けられてるらしいとしか。」
「そうですか…一体悪霊?とやらとの間に何があっのかしら…?」
美鈴が神妙な顔付きで語った。
「私は思うのですけど、相手は悪霊ではなく身体を【気】に変えて精神を操っていたのではありませんかしら?」
「そんな事が出来るのですかあ?」
愛麗がたまげた。
「かなり高度な魔術か高位の仙術、それらを究めていれば不可能では無いのかも知れませんね。」
明花もまた真剣に話した。
「そのような相手が今後、私達の前に立ちはだかったりしたら…。」
芽友の顔が青褪めた。
「ま、その時には今度こそ白百合のプリンセスさんが何とかしてくれますわ!」
美鈴は努めて明るく話した。
(………でも、本来お嬢様が白百合のプリンセスさんでは?)
(今はそれを言わないで愛麗。)
美鈴は軽い頭痛がした。
そして白百合のプリンセスに熱狂的な月夜先輩はこの機会を良いことに白百合のプリンセスの身体にイタズラしてないかと、気が気では無い美鈴だった。
その頃白百合のプリンセスは月夜のベッドで横たわっていた。
ハアハアと小さく喘ぐ彼女は月夜の寝間着を着せられていた。
だが帯は締められておらず彼女の身体の中心が露出していた。
そのお腹を添い寝する月夜に優しく撫でられていた。
(ああ。こんな時が来るなんて…♪)
月夜はうっとりしていた。
ついでに言うと彼女も寝間着一枚羽織っただけで下はパンティーのみだ。
(でもどうしてこの仮面だけは取れなかったのかしら?)
破かれたドレスどころかパンティーまで代えさせられた白百合のプリンセスだが、唯一その仮面だけは彼女の身体からは離れなかった。
(身体だけでなくお顔も拝見したかったのに)
………気のせいかな?月夜がかなり際どいセリフを心の中に発したようだったが(汗)………。
…だが彼女としては白百合のプリンセスとの二人きりを堪能してばかりもいられなかった。
「一体、プリンセス様のこのご様態は何なのかしら?」
どこにも傷一つないし、特に異常は見当たらない。
だがたった一ヶ所だけ。
白百合のプリンセスが手で押さえている下腹部。
オヘソの下辺りだ。
(何か疼いてらっしゃるようだけど…私にはわからない。)
高名な医者や学者を読んでも最低1日はかかる。
「プリンセス様、私がついております。」
月夜は白百合のプリンセスにその肌を密着させて抱き締めるのだった。
そして魔力を少しずつ送り込み、彼女の心身の回復を願った。
今の彼女の頭の中は白百合のプリンセスのことでいっぱいだった。
美鈴には申し訳ないと思いながらも今の彼女の心は彼女自身にさえどうする事も出来なかった。
……………………。
さて、そんな月夜の動向も気になるため焦りまくる美鈴は。
(一体いつになったら白百合のプリンセスは元に戻れますの、私に戻りますの?)
(早く教えてくださいな、名尾君!!)
美鈴は、やっぱり落ち着かなかった。
そのあげく教師達に睨まれながらも庭で30㎏の鉛入り木刀を素振りする有り様だった。
「六根清浄、六根清浄~☆」
言葉の意味は良く知らなかったが、取り敢えずそう叫ばずにはいられない美鈴だった。
(時折寒気がするのは気のせいかしら?)
(そうよ、気のせいに決まってますわ!?)
とは言いつつ白百合のプリンセスが月夜先輩に襲われてるのでは?
と、沸き上がってくる要らぬ不安を必死に振り払うかのように、一心不乱に木刀を振り続ける美鈴だった。
………つうかさ?俺も今回起きた全部を美鈴に教えてやりたいのは山々だけど、色々わかんねえ事が起き過ぎなんだよ!
最早これまで知ってたゲームとは別物と言える展開と設定に俺まで正直混乱していたんだ。
こんなシナリオ知らねえ、どうなってんだ一体?!
今調べてるから待ってろよ美鈴!
どういうワケか白百合のプリンセスと美鈴が同時に別々に存在してしまいました。
これは一体何を意味するのでしょう?
そしてどうやら月夜暗殺を企む黒幕達の暗躍がハッキリしてきたようです。




