第五十話【夏の夜定番のアレ…対戦その一、明花(ミンファ)VS月夜(ユーイー)】
美鈴と明花の二人は側仕えの二人から夏夜定番のアレに半ば強引に参加されるのですが、美鈴は及び腰…。
一方仕掛ける側の月夜でしたが…?
「肝試しい?」
美鈴が気の抜けた返事をした。
「そうですよ!午後9時からスタートですから、早く玄関に集合しましょう!」
急かす愛麗に腕を引っ張られてイヤイヤに玄関へと連れてこられた美鈴。
「あ、美鈴さんも参加ですか?」
「側仕えに無理矢理…て、明花さんもですの?」
「ええ、私も似たようなもので…。」
チラッと芽友の方を見る明花。
(お嬢様?ここはチャンスですから!)
芽友は無言だが口許は明らかにそう言っていた。
「それはそうと…玄関にいるのは一年生だけですの?」
キョロキョロ周りを見ていた美鈴がそう呟くと。
「二年生は私達の後、三年生は驚かす方に回ったそうです。」
芽友が親切に説明してくれた。
「では、さっさと早く順番済ませましょう。」
如何にも面倒臭そうに美鈴がそう言うのだった。
「その前にまずペアの組み合わせ決めがあるそうです。」
「え?まさかくじ引きで相手を決めるんですか?」
「じゃあ、何時ものカップル以外の組み合わせになるの…?」
美鈴と明花は明らかに不満気だった。
美鈴の事が好きでたまらないのを周りの誰もが気が付いてる明花としては当然そう思うだろう。
そんな明花の自分への気持ちを友情だと勘違い(というか思い込み?)してる美鈴だが。
(ここでもしオバケを怖がってるところを見られたりしたら…学院中にその恥が知れ渡ってしまいますわ!?)
(まだ明花さんなら黙っててくれると期待出来ますけど…。)
(あああ、どう致しましょう?いっそお腹が痛くなったとか…。)
(いえ、それはダメですわ!)
(今腹痛を訴えたりしたら、先ほど戴いた明花さんお手製のパンのせいに…?)
「………さん、美鈴さん?」
「は、はい?何でございましょうか?」
「これ、引っ張ってください。」
明花から細長い紙が一本入った
筒が手渡された。
「はあ…何ですの、コレ?」
「ひょいっとな。」
紙を抜いた美鈴。
「美鈴さんで最後ですね。」
「あの、これ何…?」
「お嬢様あそこに見える掲示板に組み合わせが書いてあるそうですよ、見にいきましょう!」
またもや愛麗に腕を引っ張られて掲示板の前に行く美鈴。
「えーと、えーと、私は…Aでございます!」
「…はあ。私は…。」
何気なく紙を握った手を開く。
そこに握られていた紙には
『Z』
「あ、私はZでしたわ。」
ザワッ!
みんなが一斉に美鈴を見た。
「…?」
「あの、皆さん何か…?」
「何落ち着いてるの美鈴さん?」
「掲示板をよーくご覧なさいな?!」
「掲示板…?」
そこには
「AとB、CとD、EとF………。」
「あら。この並び順だと…?」
普通Zの前はYだからYのくじの人との組み合わせになる。
しかし。
「今日の肝試しは一年生の参加人数が25人しかいないんだ。」
「あ、范先生?」
「それぞれの家庭の事情とか色々あるからこの臨海学校自体が全員強制参加というワケでもなくて、自然とその人数になったんだ。」
「だからアルファベット26文字なら丁度収まると思ってアルファベットのクジにしたんだ。」
「あと不参加の中には臨海学校に参加したけど昨日途中で帰った生徒もいたようだし、暑さからか体調不良で肝試し不参加の生徒の生徒も何人かいてね。」
(絶対怖くてズル休みですわね?!)
【他人がみんな自分基準で動くと考えるのはどうかと思うぞ?】
と、美鈴にツッコミをいれておく俺こと仮面の聖霊・名尾君であった。
「高原の乗馬合宿の方はもっと人数が多かったようだけどね。」
(そりゃ、アッチの方は涼しいですものね。)
「待って下さいな?という事は…。」
「うん、一人あぶれちゃうね。」
「で、ではその一人は参加せずとも良い、というワケですわね!」
思わずガッツポーズをする美鈴。
(やりましたわ!これで怖がる姿を言いふらされずに済みます!)
ニコニコする美鈴しているつもりの美鈴の顔が下を向いていたせいか、皆の目には残念に感じる姿に見えた。
「美鈴さん残念ですわね、明花さんと一緒に歩きたかったでしょうに…。」
そしてぐぐっと手を握りしめるガッツポーズは如何にも悔しそうな姿と周りの目には映っていた。
「悔しそうな美鈴様、お可哀相…。」
ウルッとする者まで現れた。
「あ、でも安心してくれ。」
「あぶれた人は一人だけで歩いてくるだけで参加自体は出来るから。」
ズッコー!
と、心の中で盛大にズッコケル美鈴だった。
「美鈴さん、貴女と一緒に肝試しを歩けないのは残念だけど参加できるだけでも良かったですね。」
「お嬢様~一緒に歩けなくて残念ですう…。」
「愛麗、私は明花お嬢様と一緒になったけど他の美少女にセクハラしないでね?」
「芽友、私ってそんなに信用無いですかあ?」
(あの皆さん?私、そもそも参加自体がしたくないのですけど?)
「じゃあ早速、最初のAとBの組み合わせからスタートしてくれ。」
「あの、これはただ行って帰るだけなんですか?」
明花がスタート前に范(増やし)先生に確認する。
「うん、目的地に用意してある封筒を取って持ち帰るだけだよ。あとは全員終わった学年ごとに解散するだけだ。」
「早く帰った組み合わせの優勝、とか賞品とかは無いんですの?」
美鈴はこの催しの競技性や賞品について尋ねたが。
「そんなモノあるわけないだろう?」
范先生は美鈴の言動にやや呆れた。
「これは学院生徒みんなの一夏の楽しい思い出作りの一環が目的なんだ。」
「ああ、左様でございますの…。」
鼻先の人参が用意されてないと分かり、美鈴はすっかりやる気が無くなった。
「じゃあオバケ役や二年生を待たせても悪いからスタートしてくれ。」
「それじゃ、お先に行って参りますね美鈴さん。」
「美鈴様、芽友、待ってて下さいね?」
「行ってらっしゃいませですわぁ。お怪我の無いよう気を付け遊ばせ…。」
気持ちのこもらない喋り方をする美鈴。
だが明花が微笑んだままコクリと会釈を返したので、一応明花を心配してる事は伝わったようだ。
「芽友~、お土産…」
「ユーレイでも憑いて来たらそれがお土産ということでいいですか愛麗?」
「い、要りません…食べ物以外はノーサンキューですっ!」
明花と芽友は暗闇の中をランタンの灯り一つで進んで行った。
因みに目的地は1キロメーター先の教会だ。
途中墓地の横を通り抜け、教会の入り口手前に組み合わせ分の数だけ置いてある封筒を持ち帰る、ただそれだけだ。
行き帰りのスリル、そして組み合わせ同士で仲を深めるというこの二つをいかに楽しめるかがポイントだ。
が、元々主人と側仕え同士なので何時も一緒にいる明花と芽友のコンビには二人で夜道を歩くからといって特に変わった事があるうはずもなく。
「…静かで退屈ですね、芽友。」
「オバケ役の三年生が現れるまでは退屈になりますね。」
「三年生方はどの辺にいるのでしょう?」
「確か途中の墓地に隠れてるとか。」
「一声、労いの声でもかけるべきでしょうか?」
「やめてください、却って先輩方に申し訳ないです。」
「そうでしょうか…?」
その一組目の様子を遠目に眺める月夜。
「お嬢様、なぜオバケ役なのにメイクや衣装変えなされないのですか?」
白いシーツを上から被った、如何にもオバケっぽい姿の依然が主人の月夜に尋ねた。
「あら、別に驚かす役だからと言って私自らが出ていく必要無いでしょう?」
「え?」
「さあってとー、今夜はどの子を出そうかしらねー?」
ムフフと笑いながら月夜が指折り数えていた。
「ま、まさかお嬢様?」
「ご自分の体内に宿しておられるモンスターか異界のモンスターでも呼び寄せるおつもりじゃあ…?!」
「し?失礼ね、そんな事さすがにしないわよ!」
「いくら驚かすだけでもそんなモンスター出したら何があるかわからないでしょ?」
「は、はあ。」
(さっきの顔はモンスターを出す気アリアリにしか見えませんでしたけど?)
「それにモンスターに驚いた生徒が反撃してきたら私でも抑えきれない危険があるからそんな事にこの力は使えないわ。」
「さようでございますか、ではどのようなお考えなのでしょう?」
「フフッ、単純にちょっと驚かす程度ならこれで充分よ。」
月夜が手の平を伸ばして上に向けると、そこから淡い光が現れた。
「この子はイタズラの妖精さん。」
「その妖精に生徒達を驚かして貰うのですね?」
月夜達の会話を聞いていた他の三年生達がワラワラと彼女の周りに集まってきた。
「へえー、可愛い♪」
「安生徒会長って、本当いろんな生き物の使役が出来るんだねえ?」
「ちょっと、私にも良く見せて下さる?」
ワイワイと墓地の周辺が賑やかになる。
それを横目に通り過ぎる明花と芽友。
「明花お嬢様、何かあちらで騒いでらっしゃいますよ三年生の方々。」
「何かしら?キレイな光ですね…あ、なるほど。」
「月夜先輩が何か出してみんながそれに見とれてはしゃいでらっしゃるようだわ。」
「生徒会長、真面目に仕事して下さいよ…。」
月夜達三年生は明花達の事など忘れたかのようにオバケ役そっちのけで妖精相手に盛り上がっていた。
「では次は空中で3回転させますわね、それ!」
妖精は光りながら月夜の手の平の上でクルクルと3回転回してからお辞儀した。
「キャーッ、可愛いーっ!」
「本当凄いですわ、月夜さん!」
「オホホホ、それほどでも。こんなのこの子にとっては朝飯前でございます。」
顎に手を当てて高笑いする月夜。
明らかに調子にのっている。
「あの、お嬢様?何か肝心な事を忘れてるような気が…。」
依然が月夜に具申しようとするも、
「今良いとこだから後でね依然!」
「は、はあ。ですが…。」
夜道の方を眺める依然。
ランタンの光りが段々と近づいていた。
(ああ、私もう知ーらないっ!)
依然はすっかり妖精の芸に夢中になってる三年生達を無視した。
そして本来の任務である月夜警護に戻って周囲の警戒に戻るのであった。
そして。
「あ、そろそろ本題の下級生を驚かす仕事に戻らないといけませんね?」
月夜が何気なく墓地の前の道路を見ると。
「あらっ?」
ついさっきまで見えていたランタンの灯りが見えない。
「おーいみんな、何やってたの?」
教会の方から別の三年生がやって来た。
「とっくにさっきの一年生二人が封筒持って帰っちゃったわよ?」
「「「「「エエエ~~~?」」」」」
「全くもう?新しい封筒教会に置いといたから、今度はちゃんとしてね?」
その生徒は教会の方に戻っていった。
「依然、もしやさっき貴女の言ってた事って…。」
月夜が冷や汗をかきながら依然の方を見ると。
「何でございましょうお嬢様?私今貴女様の身に危険が及ばぬよう警戒を厳にしている所で御座います。」
キョロキョロとあからさまに周囲を監視する仕草を見せる依然。
その言葉からはちょっとだけトゲが感じられる
と月夜は思った。
そして月夜はヒクヒクと笑みを浮かべながら言った。
「………つ、次こそはちゃんと驚かせましょうね、皆さん?」
「「「「「アンタが言うなー!!!」」」」」
月夜は周りから総ツッコミを受けた。
月夜さん、明花さんには不戦敗してしまいました(笑)。
彼女は美鈴を相手にこの失態を挽回出来るのでしょうか(笑)?




