第四十八話【夏空の下の甘酸っぱい経験で加速する私達の関係】
こんにちは、明花です。
いつも美鈴さんと私達の応援、ありがとうございます。
さて今回は無事に若汐さんと戦弓部員さん達を助けた美鈴さんと月夜さん、そして依然さんが私達の宿泊する保養施設までたどり着くのですが…?
それでは、お楽しみください。
美鈴達が合宿施設棟から出てきた。
「おーい、月夜さーん。」
美鈴が手を振る。
彼女の後ろには戦弓を手にした戦弓部員達がゾロゾロと後に付いていた。
そして最後尾には後ろからの攻撃を警戒する若汐が。
「美鈴さん、上手くいったのね?」
月夜が顔を綻ばせた。
「ええ。なので観念なさいな、犯人さん達?」
ババッと戦弓部員達が犯人の兵士達を包囲した。
力なく両手を上げて武器を捨てる兵士達。
彼女らは全員捕縛され、中で捕まえられている犯人達と一緒に逆監禁とされた。
「後は出入り口を塞いで王国の兵士達にしょっぴいてもらいましょう。」
月夜が使い魔の鷹を出して王都の方へと放つ。
「これで良し。」
監禁場所には飲み水、トイレ、簡単な食料と毛布を置いてあるので三日くらいは大丈夫だろう。
「では私達は臨海学校に戻りますわ。」
「皆さんはこれからどうされますの?」
「はい、とりあえず学院都市へ戻って事の報告をします。」
「そうですか、帰りの道中気を付けてくださいな。」
「はいっ、何から何までありがとうございました!」
若汐と戦弓部員らが頭を下げた。
そのまま美鈴と月夜、依然は馬車に乗って合宿所を去ろうとしたが。
「あらら、既に真っ暗。」
辺りは薄暗くなっていたのに加えて森の中は僅かな日の光も通さないから暗闇になっていた。
夜通し馬車を走らせ、臨海学校の宿に到着したのは既に真夜中となっていた。
ぐううう。
美鈴の腹の虫が鳴った。
「あー、お腹が空きましたわー。」
「全くですね。」
「ですが宿はもうすぐ消灯時間かも知れません。」
依然の言葉通り窓の明かりはポツポツ消えてる部屋もある。
「この分だと食堂も閉まっちゃってるのかしら?」
「そ、そんなあ~。」
「ともかく入ってみましょう、部屋割りの確認も必要ですし。」
「そうね。せめてお風呂くらいならまだ入れるかも知れないし。」
「お風呂お?」
キランと美鈴の目が輝いた。
「お嬢様。ここの保養施設は温泉かけ流しで、しかも外湯に岩風呂が…。」
「それは楽しみね。美鈴さんも私達とご一緒しない?」
「はいっ!それはもう喜んで………」
「…はっ?!」
「どうかしたの?」
「いえあの、お、温泉というかお風呂と言えばやはりその、服は脱ぎますのよね?」
「当然じゃない、海水浴じゃあるまいし水着でも来て入るおつもり?」
「そ、そうでした、わね…!」
(なんと言うことか!)
(ここまで来てまさかの…すっ、…スッポンポンで裸のお付き合いとかですかああ~?!)
「まあ、他の諸外国とかでは水着着用が一般常識みたいだけど。」
チラッと美鈴の顔を見ながら月夜が呟く。
この言葉に必死に食らい付く美鈴だった。
「い、一般常識は大事ですわ!」
すると、月夜はとぼけた態度で美鈴をからかった。
「でもこの国では全裸で入浴が一般常識だしい…?」
この言葉にヤケクソ気味で反論する美鈴。
「常識なんて、糞食らえですわっ!!」
もはや支離滅裂だ。
その会話を聞いてきた依然は困惑して思わずこう言った。
「どっちですか?美鈴様…。」
月夜は恥ずかしがる美鈴の反応を笑って楽しんだ。
「そんなに恥ずかしがる事ないじゃない。」
コロコロと笑う月夜。
「美鈴様様は中等部ではどうされていたのですか?」
「え?ええと…。」
(そう言えばいつも夜中にコッソリとタオルを濡らして身体を拭いていたような…?)
(そ、それより!)
「あ、あの?月夜先輩はそちらの従者さんとご一緒に入浴されるのですの?」
「ええ。小さい頃からだから、お互いに見慣れたモノよ。何とも思わないわ。」
「美鈴様、何事も慣れでございます。」
「いえ、私は…。」
「あら、本命の相手以外には肌をさらしたくないとか?」
(別に本命の相手?などいませんけど…ここは話を手短にするため乗って話におきましょうかしら?)
「そ、そうですわ!」
「ふーん。」
月夜の視線が途端に冷たくなった。
「あっそう。」
「行きましょ依然、美鈴さんの本命のお相手は私じゃないそうだから。」
「ええっ?!お嬢様ほどのお方との入浴チャンスを蹴るだなんて?!」
「美鈴様!」
ザザッ!と依然が美鈴に詰め寄った。
「お考え直しください!月夜お嬢様との仲を深める絶好のチャンスじゃございませんかつ、勿体無いっ!!」
「そ、そう仰られましても…。」
依然の勢いにタジタジとなる美鈴だった。
「一体何がご不満なのです?」
「こんなに容姿端麗、文武両道で皆様からの信頼も厚い高貴なお方と添い遂げられるなんて誰もが羨ましがると言うのに!」
「あ、それともその本命の方のせいですか?」
「一体どなたですか、その貴女の本命とやらは?」
「あ、あの…夜も遅いし静かにお話しいたしませんか…?」
「話を逸らさないで下さい!」
「その貴女の本命とは月夜お嬢様よりも高貴で容姿端麗で文武両道で人々からの称賛を集めるお方なんですか?」
「そうよね、そこは是非聞かせて欲しいわ。」
月夜が面白そうにこの光景を眺める。
「あ、あのですね?」
「そもそもの前提として月夜先輩以上に素晴らしい女性など私の身の回りにはいないと思うのですけど?」
「あら、さすがにわかってらっしゃるじゃありませんか!」
パッと笑顔になる依然。
「そ、そうよね?やっぱり?」
月夜も嬉しそうに笑みを浮かべた。
「はい、月夜先輩は私になど勿体無いお方ですわ。」
「ですので今後も、程よい距離感でのお付き合いをお願いいたしますわっ!!」
そして素早く回れ右すると、「すたたたーっ☆」と走り去る美鈴であった。
「あ…。」
唖然として動けない依然。
「に、逃げましたわね?美鈴さん…!」
ワナワナと拳を握り締める月夜。
…………。
宿泊施設である保養所の建物の陰で身を潜め、月夜と依然の二人が「ガックリ」しながら入り口から建物の中へと入っていくのを見届けた美鈴。
「ふうー、ようやく諦めてくれたようですわ。」
安心する美鈴。
「…あ。范先生に無事合流出来た事への報告してませんでしたわ。」
「んー…まあそれは月夜先輩達がしてくれるでしょう!」
と、報告を他人任せにして友人達の部屋を探す事にする美鈴だった。
夜中の宿泊施設の壁に貼り付き怪しく蠢く人影が一人。
手足をピッタリ壁に貼り付けながら外壁をよじ登って行くその姿は、さながら「スパイダーウーマン」のようであった。
「明花さん達の部屋はどこでございましょう?」
まだ部屋割りの確認すらしていないのに、勝手に明花と同室だと思い込んでいる美鈴であった。
そしてスパイダーセンスならぬ美鈴のマブダチセンサーが明花のものと思われる気配を感じ取った。
「どうやら、この辺が明花さんのいる部屋ですわね…。」
窓から中を覗こうとする美鈴だったが、カーテンが邪魔で部屋の中が見れなかった。
「まだ部屋は明るいし話し声もしますから起きてるでしょう。」
美鈴は窓に手をかけた。
「あら…鍵かけてませんのね?無用心な。」
「変質者が入って来たらどうしますの。」
そうやって夜中に窓から入ろうとする自分こそが他ならぬ変質者に見える事に気が付かない美鈴。
そして。
「よいしょ。」
ガラッ。
美鈴が窓とカーテン一緒に開くと。
「「「えっ。」」」
そこには、パジャマに着替え中で下着姿の明花と、これまたパジャマを渡そうとする着替え途中の芽友の二人が居た。
「あ、あらっ…?」
バツが悪い。
しかも明花の顔がみるみる泣きそうになる。
「あ、お帰りなさい美鈴さん。無事で何よりです。」
芽友の方は何の疑問も持たずというか、至って普通に話しかけてきた。
「か、帰りましたで…ござ、ございますわ…。」
美鈴の方は明花の事をボンヤリ見つめたまま気の無い返事を芽友に返しただけだった。
「あの…その…。」
見てはいけない!
…と思うのに目が離せない…。
胸がドキドキして動けない…。
白くて眩しい、健康的な肌…。
明花さんらしい、清純で真っ白な下着…。
そのふっくら柔らかそうな…その…膨らみ…。
「め…美鈴、さん…?」
今にも泣きわめきそうな表情の明花。
「ご、ごめんなさい、ですわ…!」
そう言うのがやっとだった。
「?、?、?」
芽友はそんな二人を不思議そうにキョロキョロと交互に見ていた。
「一体どうされましたか、二人とも?」
「め…。」
「め?」
「美鈴さんの…。」
「美鈴さんがどうかいたしましたか?」
「美鈴さんの、エッチィィッ!!」
やっと、明花はそう叫んだ。
のだが。
「は、はあううう~?」
美鈴は頭がのぼせ上がり、そのままフラア~☆と後方へ倒れた。
因みにそこは四階の部屋の窓の外だった。
ヒュ~~~…。
ズデエエエン!
「…きゃ、キャアアアッ?!」
今度は別の意味で明花が叫んだ。
「ありゃー、落ちましたねえ。」
「や、芽友?早くしないと美鈴さんがっ!!」
慌てて部屋を飛び出し階段を降りて行く明花。
「ああ、行ってしまわれましたか。」
(美鈴さんがあのくらいの高さから落ちたくらいで怪我するとも思えませんが。)
至って冷静に判断する芽友。
そんな事は露知らず、とっくに寝室で夢の中にいた愛麗だった。
「ぐふふふう、お嬢様あ~♪」
相変わらず夢の中でも主人にセクハラしまくる変態な愛麗であった。
そして。
「美鈴さん、美鈴しっかり?」
「明花さん…私はもうダメですわ…(貴女の肌を見てしまい、興奮が抑えきれませんの…)。」
「いやーっ、私を残して逝かないでーっ?!」
「ごめんなさい、私は先に極楽浄土へ参りますわ…(とってもムフフな夢の世界に…)。」
「美鈴さあ~ん…。」
明花は美鈴の顔を自分の胸に思い切り抱き締めた。
(ああ、苦しいような、幸せなような…☆)
この夜、美鈴は落ちた。
………色んな意味で。
そして朝。
ワイワイガヤガヤ。
「ちょっとちょっと、見て見てー?」
「あらあ、例のカップルじゃなーい!」
「もーう、朝から見せ付けてくれちゃってー。」
大勢の生徒達がある場所で一組のカップルを囲むように見ては囁いていた。
その中にはお馴染みのメンバー達もいた。
「め、美鈴さんたら朝っぱらから全く…!」
ワナワナする月夜。
「…美鈴君?中々顔を出さないと思ったらまさかこんな所で…。」
苦々しい顔で痛む頭に手をやる范先生。
「お嬢様ぁ?また私以外のお方とぉ!?」
ジタバタ暴れる愛麗を苦笑しながら羽交い締めにする芽友。
「やれやれ、これはかなり手強そうな相手ですね、お嬢様?」
もはや依然も、目の前の光景を眩しそうに見とれるしかなかった。
パジャマ姿で眠っている明花に膝枕されながら眠る夏服姿の美鈴。
そんな邪気の無い、あどけない表情ですやすや眠る二人を見ているとこの二人の関係を応援したくなる気持ちでいっぱいになる生徒達だった。
もっとも、当の美鈴にそんな自覚は無かったが。
…目覚めた後で二人は范先生からお叱りを受け、正午まで施設の庭の草むしりをさせられるのだった。
ジリジリと照りつける太陽の下で麦わら帽子を被り、体操服姿で黙々と草むしりをする美鈴と明花。
既に二人とも汗だくだった。
「あ、暑いですねえ、美鈴さん…。」
額からポタポタと滴る汗を軍手で拭う明花。
「うー。不覚でしたわ。」
「美鈴さんがあんな壁なんかよじ登ってくるからですよ?」
「いえ、問題なのはそこではなくて。」
「はあ…?むしろそこしか無いと思うんですけど?」
「いえ違います!」
「…何が違うんですか?」
「それは…!」
コホンと咳払いしてから話す美鈴。
「その…私とした事が、い…色香に動揺して…。」
「色香?誰のですか?」
「そりゃ当然、明花さんの…」
「えっ?」
ドキッとする明花。
「なな、何でも、ありませんわっ!!」
慌てて話を終わらせる美鈴。
「…フフッ…。」
微笑む明花。
「何か楽しそうですわね、明花さん?」
「いえ、別にい?」
そっぽを向いてとぼける明花。
そんな明花を黙って見つめる美鈴。
「…何か私の顔に付いてます?」
「別にい?」
「さあ、お昼まで頑張りますわよ!」
「そうですね、美鈴さんは昨日の晩から何も食べてませんからしっかりお昼ご飯食べなくちゃいけませんものね?!」
「…ああ、そうでした、すっかり忘れてましたわあ…。」
ガックリ項垂れ脱力する美鈴。
それを苦笑しながら励ます明花。
………。
「やれやれ、罰の最中でもあの調子か。」
「本当、バカップルな二人だな…!」
美鈴達が罰の草むしりをサボってないか監視に来ていた范先生は「やってられない!」とばかりに踵を返した。
「あーあ、明花君が羨ましいなあ…。」
そして彼女はトボトボと午前中の臨海学校のプログラムへと顔を出しに向かうのだった。
雲一つなく晴れ渡った夏空が、その日も暑くなる事を告げていた。
明花です。
か、かなり恥ずかしいところをみんなに見られて
たんですね?私達!
もう、本当に美鈴さんたら…!
…え?私も大概ですか?
そうかなあ?
さて次回は午後から海で遊んだり、夜には夏には恒例のアレが予定されてます。
ちょっとドキドキしてます!
どうぞご期待下さい?!




