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第四十五話【救出任務は急を要す、馬車での山越えは休憩を要す!】

若汐(ルオシー)の仲間を救出するため馬車で山越えする美鈴(メイリン)達。


しかしその行程は思った以上に難儀をする事に…?


戦うだけではなく、そこに至るまでもが苦難となるのもまた現実でした。



若汐(ルオシー)の仲間を助けに行こうと意気込む美鈴(メイリン)、月夜(ユーイー)、そして彼女の従者の依然(イーラン)。


だが肝心のその場所を若汐(ルオシー)に尋ねたところ、


「それ、私達の臨海学校の場所より遠いじゃありませんか?」


………と、言う事が発覚した。


方向は一緒なものの道がこの先で左右に別れ、平坦な道の方を行けば美鈴(メイリン)達の泊まる施設、そして山あり谷ありの山道を抜けた先に若汐(ルオシー)の仲間達が監禁されてる彼女らの合宿場所がある。


戦弓部の合宿先に至る道は坂道の勾配を緩やかにするため曲がりくねった作りになっており、結果として距離と到着時間が長くなってしまうのだ。


「お嬢様、それなら先に私達と臨海学校の場所まで行ってから海伝いにその合宿先とやらへ行かれてはどうでしょう?」


「ですが愛麗(アイリー)、海伝いで向こうまで続く道はありまして?」


「さあ?わかりません。」


「どなたかご存知ございませんか?」


「んー、確か去年までそんな道は作られてなかったような記憶がありますけど…。」


「ホントですか、若汐(ルオシー)さん?」


「なら、泳ぎで行くしか…。」


「ストップ。美鈴(メイリン)君は出来るかも知れないけど他のみんなは無理じゃないかな。」


武器というのは意外に重い。


無事泳ぎきれても体力の消耗が激しくては人質救出やそれに伴う戦闘にも支障が出るだろう。


武器を所持して泳ぐならそれなりの訓練をした方が良いし、あまり距離を稼ぐような泳ぎには向いていない。


だからホントは美鈴(メイリン)だって泳いでいくなら安全のため手ぶらの方が良いくらいだ。


………いや、彼女なら魔法で何とかしてしまうだろうし、その異常なまでの体力と筋力でモノともしないかも知れないが。


「そうですね。結構な距離もあるし夏とはいえこれから夕方にかけて水温も下がって来るはず。」


「しかし、かといって明日では人質達の命の保証は無いかも知れませんね。」

月夜(ユーイー)にも判断が難しいらしい。


「そうですか、いっそ夜襲でも仕掛けようかとも思いましたが…。」


「何にせよ無事助け出すための計画を準備するにはあまりに時間が足りなさ過ぎですね。」

明花(ミンファ)の表情が暗くなる。


「やはり救出に向かうには臨海学校の施設へノンピリ向かってる暇はありませんわ!」


結局、美鈴(メイリン)はそう結論付けた。


「案ずるより産むが易し!今は行動あるのみ、ですわ!」

明るく美鈴(メイリン)がそう言うと明花(ミンファ)の表情も和らいだ。


(きっと、この人なら何とかしてくれる。)


明花(ミンファ)の美鈴(メイリン)への信頼は絶大だった。


そして月夜(ユーイー)の乗る馬車に美鈴(メイリン)、依然(イーラン)、若汐(ルオシー)の四人が乗る事に。


范(ファン)先生は明花(ミンファ)、愛麗(アイリー)、芽友(ヤーヨウ)と同じ馬車に乗り合わせてそのまま臨海学校の引率者としての仕事を続行する。


「では参りましょうか。」


「あ、ちょっと待って貰えるかしら?」


「どうされました、月夜(ユーイー)先輩?」


「ん。ちょっとだけ待ってて。」


「依然(イーラン)、貴女もいらっしゃい?」


「お嬢様、如何なさいました?」


月夜は依然(イーラン)を連れてもう一台の馬車へと赴く。


「明花(ミンファ)さん、馬車に乗ったままで良いので私の言葉を聞いて貰えませんか?」


「月夜(ユーイー)先輩、改まってどうしました?」

明花(ミンファ)は馬車からヒョッコリと顔を出した。


「貴女に伝えたい事が二つあります。」


「一つは、貴女に対して身分差で差別するように取られるような言動をしてスミマセンでした。」


「いえ、その事はもう…。」


「本当に私らしくありませんでした、なのでお詫びしておきたいと思います。」


「本当に気になさらないでください、私が勝手に落ち込んだだけですから。」


「そう言っていただけて安心しました。」


「それともう一つ、この度は私の従者である依然(イーラン)の命を救っていただきありがとうございました。」


月夜(ユーイー)が頭を垂れると、依然(イーラン)も追随するように礼を述べ、頭を下げた。

「あ、ありがとうございました。明花(ミンファ)様。」


「お二人共、お顔を上げて下さい。私は自分がやるべき事をしたまでです。」


月夜(ユーイー)と依然(イーラン)が頭を上げる。


明花(ミンファ)は月夜(ユーイー)達に向けて親指を立ててニッコリした。


すると月夜(ユーイー)も同じように親指を立ててニッコリ笑う。


「あの…お嬢様方、その仕草は?」

ポカーンと親指を立て合う月夜(ユーイー)と明花(ミンファ)を交互に眺める依然(イーラン)。


「気にしないで。これは私と彼女との間の友情の証よ。」


「クスッ。」

悪戯っぽく笑う明花(ミンファ)。


「は、はあ…?」

ワケもわからず首肯く依然(イーラン)。


(明花(ミンファ)さんが何気無く向けたサインに同じサインを返した月夜(ユーイー)先輩…。)


(そういう事ですか。)


美鈴(メイリン)は自分と同類がもう一人増えた事に喜んだ。


そしてこの二人は互いに抱える同じ秘密を共有した事を認識した。


と同時に、少し嫉妬を覚えるのだった。


アドバンテージを持つという事は同時に孤独を得る事でもあるのだ。


(な、何故胸がチリチリしますの…?)


美鈴(メイリン)は複雑な思いで明花(ミンファ)の方に視線を移した。


「さあ、これで心置き無く若汐(ルオシー)さんの友人達を救出に行けます!」

元気良くそう告げた月夜(ユーイー)とそれに首肯く依然(イーラン)。


明花(ミンファ)が美鈴(メイリン)達に向かって叫んだ。

「皆さん、頑張って下さい。そしてどうかご無事で…!」


それに対してまず月夜(ユーイー)が答えた。

「ありがとう、貴女達も怪我無く臨海学校を楽しんで下さいな。」


依然(イーラン)も明花(ミンファ)に答える。

「ご期待に添うよう頑張ります…。」


そして美鈴(メイリン)が気持ちを切り替え、明花(ミンファ)に出発の挨拶をした。

「明花(ミンファ)さん、行ってきますわ。」


明花(ミンファ)も美鈴(メイリン)の言葉に答える。

「はい、少しでも早く合流されるのを待ってますね!」


良かった、何時も通りの明花(ミンファ)だ、と美鈴(メイリン)は安堵した。

何故嬉しいのか美鈴(メイリン)本人にも今はまだわからない。


側仕えの二人も口々に美鈴(メイリン)へと呼び掛ける。


「美鈴(メイリン)お嬢様、ご武運を!」


「美鈴(メイリン)様、お気をつけて!」


最後に、范(ファン)先生からヤンチャな自分の生徒達へ。

「四人とも、無茶はするなよ?それと門限までには帰ってくるように!」


教師らしいその言葉にプッと吹き出す美鈴(メイリン)と月夜(ユーイー)だった。


「皆さん、何から何までありがとうございます!」

若汐(ルオシー)がそう言うと共に二台の馬車は枝分かれした道をそれぞれの方向へ走って行った。


美鈴(メイリン)達は真剣な顔で曲がりくねった山道を馬車で進んで行く。


グングン、グングンと馬車はしばらく山道を進んで行く。


…………そして。


「ば、馬車を…停めてくれないかしら…?」


月夜(ユーイー)の顔が青い。


「お嬢様、大丈夫でございます…か…。」


依然(イーラン)の顔も青い。


「あら、まさかお二人とも馬車に酔われたのですか?」


「こ、こんなに曲がりくねった山道なんて、は、初めてだもの…。」


グッタリしている月夜(ユーイー)と依然(イーラン)。


「…仕方ありませんね、少し休みますか。」


かく言う美鈴(メイリン)も正直なところ、乗り疲れを感じ始めていた。


椅子がフカフカとは言えど、中世を反映したこの世界の馬車には路面の凸凹からの衝撃を緩める為のショックアブソーバなど付いて無いのだから乗り心地は良いとは言えない。


一応乗り心地に配慮してか申し訳程度に板バネが取り付けられているものの、あまりこれが効きすぎると今度は車体が前後左右にふわふわと揺れてしまうので却って乗ってる人は身体が揺れて気持ち悪くなってしまうのだ。


「あまり休んでいると日が暮れてしまいますよ?」


「あら若汐(ルオシー)さん、貴女は平気なのですか?」


「私は猟師の家系で山育ちだから、こんな道くらい楽勝ですよ!」


馬車から降りてピョンピョン跳ね回る若汐(ルオシー)。


が、


「キャン?!」


脚が縺(もつ)れてつまづき、コケた。


「ぷっ。やっぱり少し休んだ方がよろしくてよ?」


月夜(ユーイー)が笑った。


「あ、あれー?」

自分で思ったよりも動きや感覚がおかしい事に漸く気が付く若汐(ルオシー)だった。


「きっと慣れない暗殺任務や戦闘経験で思った以上に疲れたのでしょう(主に精神的に)。」


「でも、早く行かないとみんなが…!」


「因みに脅迫してきた連中からは何時までに帰って来いと言われましたか?」


「ええと、確か夜までと…。」


「馬車だとどのくらいかかりそうですの?」


「もう二時間もあれば大丈夫だと思いますけど、今何時頃かな…。」


馬車に付けられていた時計を月夜(ユーイー)が確認する。

「まだ午後2時くらいだからもう少しくらい大丈夫でしょ?夏場だから日が長いし。」


「しかし合宿場所が山中なら意外と早く日が暮れてしまいますから、やはり夕方までに行かないとなりませんわね。」


「では皆さん、あと五分したら出発しましょう!」

若汐(ルオシー)は自分の回復具合も考えずに無茶を言った。


「ええー?せめて三十分くらい待ってくれないかしら?」

月夜(ユーイー)が冗談じゃないとばかりに抗議する。


それらを聞いた美鈴(メイリン)は少し思案してから双方に折衷案を提示した。

「じゃあ、中を取って十五分でよろしいですわね?」


「「…う~ん。」」

少し両者から不満の声が挙がった。


だからか結局出発は二十分後となった。


はやる気持ちを抑えられないといった若汐(ルオシー)だったが、十五分後に美鈴(メイリン)から目をつむったまま片足で立つように言われて僅か五秒でふらついた。


そこでもう五分が休憩に追加されたのだ。


本当は月夜(ユーイー)の意見通り三十分休憩が望ましかったのだが、これ以上出発を遅らせると若汐(ルオシー)にとってかなりのストレスとなるし、少しでも早めに目的地へ到達した方が安全なのにかわりなかった。


何より人質達の安否が気がかりだ。


そしてこの後で三度の馬車酔い休憩を二十分ずつ挟んだ為、到着は当初の予定より一時間も遅れる事に。


「ボチボチと空が赤く染まり始めましたわね。」


「ええ。それにやはり山中だと美鈴(メイリン)さんの言われた通り、暗くなるのが早いらしいですね。」


「だからもっと早く出発しようと言ったじゃないですか!」

若汐(ルオシー)がそれ見た事か、と不満を洩らすと。


「貴女も酔ってフラフラだった…他人を責められる立場では、ない…。」

静かな怒りの眼を依然(イーラン)から向けられて小さくなる若汐(ルオシー)だった。


「皆さん、そろそろだと思いますよ。」

馬車の御者から声がかかる。


「御者さん、馬車はここまでで停めて下さいまし。」


美鈴(メイリン)に言われた通りに御者は馬車の歩みを停めた。


「では、ここからは歩いて行きましょう。」

美鈴(メイリン)がそう言うと、全員が首肯く。


四人は馬車から降りて山道を歩き出した。


「この辺りの景色は見覚えがあります。合宿場所はすぐそこです。」


若汐(ルオシー)が言った通り、一行はものの五分程度でその場所に到着した。


拓けた場所に到着すると、その崖下に窪地があった。


「皆さん、身を低くしてご覧下さい。」


若汐(ルオシー )から言われた通りに屈むようにして眼下を見下ろす美鈴(メイリン)達。


窪地の中には保養施設のような建物が何棟か建っていた。


「あそこが、貴女達の合宿所?」


「はい。主に学生の合宿に使われる建物です。」


「何人かが槍を持ってうろうろしておりますわね。」


「あれが戦弓部を監禁している連中です。」

「ここからは見えていませんが、他にも弓を持つ者達や剣を持つ者達が敷地内にいました。」


「数は何人?」


「わかりません。私達の前には槍と剣を持った輩が数人、それぞれが魔法を用いてました。」


「それだけでも…約十人くらいは居たかと。」


「他にもいると考えると、少なくともその倍近く…人数的に戦力差がありますわね。」


「こう言うのはどう?誰かが見張りを惹き付けて中が手薄になった所を他のメンバーが救出に向かう。」


「現状、私達は四人…二人を二手に分けるのが妥当。」

「和汐(ルオシー)が中に行くのは当然として、陽動には月夜(ユーイー)お嬢様と私が適任と思います。」


「…なら、私は若汐(ルオシー)さんと共に中に突入ですわね。」


「方針は決まりましたね、では私達は建物の付近で隠れてますので、月夜(ユーイー)さん達は頃合いを見て行動開始して下さい。」


「では…散開。」


月夜(ユーイー)の号令と共に四人は二手に別れて救出作戦を開始した。

敵は想像以上に大人数、たった四人だけで救出作戦は上手くいくのでしょうか?


そして最初は強者として登場した若汐(ルオシー)、早くもメッキが剥がれたのかポンコツ振りが露呈してきました…。

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