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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第二章【一年生の夏休み編】
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第四十五話【救出任務は急を要す、馬車での山越えは休憩を要す!】

若汐ルオシーの仲間を救出するため馬車で山越えする美鈴メイリン達。


しかしその行程は思った以上に難儀をする事に…?


戦うだけではなく、そこに至るまでもが苦難となるのもまた現実でした。



若汐ルオシーの仲間を助けに行こうと意気込む美鈴メイリン月夜ユーイー、そして彼女の従者の依然イーラン


だが肝心のその場所を若汐ルオシーに尋ねたところ、


「それ、私達の臨海学校の場所より遠いじゃありませんか?」


………と、言う事が発覚した。


方向は一緒なものの道がこの先で左右に別れ、平坦な道の方を行けば美鈴メイリン達の泊まる施設、そして山あり谷ありの山道を抜けた先に若汐ルオシーの仲間達が監禁されてる彼女らの合宿場所がある。


戦弓部の合宿先に至る道は坂道の勾配を緩やかにするため曲がりくねった作りになっており、結果として距離と到着時間が長くなってしまうのだ。


「お嬢様、それなら先に私達と臨海学校の場所まで行ってから海伝いにその合宿先とやらへ行かれてはどうでしょう?」


「ですが愛麗アイリー、海伝いで向こうまで続く道はありまして?」


「さあ?わかりません。」


「どなたかご存知ございませんか?」


「んー、確か去年までそんな道は作られてなかったような記憶がありますけど…。」


「ホントですか、若汐ルオシーさん?」


「なら、泳ぎで行くしか…。」


「ストップ。美鈴メイリン君は出来るかも知れないけど他のみんなは無理じゃないかな。」


武器というのは意外に重い。


無事泳ぎきれても体力の消耗が激しくては人質救出やそれに伴う戦闘にも支障が出るだろう。


武器を所持して泳ぐならそれなりの訓練をした方が良いし、あまり距離を稼ぐような泳ぎには向いていない。


だからホントは美鈴メイリンだって泳いでいくなら安全のため手ぶらの方が良いくらいだ。


………いや、彼女なら魔法で何とかしてしまうだろうし、その異常なまでの体力と筋力でモノともしないかも知れないが。


「そうですね。結構な距離もあるし夏とはいえこれから夕方にかけて水温も下がって来るはず。」


「しかし、かといって明日では人質達の命の保証は無いかも知れませんね。」

月夜ユーイーにも判断が難しいらしい。


「そうですか、いっそ夜襲でも仕掛けようかとも思いましたが…。」


「何にせよ無事助け出すための計画を準備するにはあまりに時間が足りなさ過ぎですね。」

明花ミンファの表情が暗くなる。


「やはり救出に向かうには臨海学校の施設へノンピリ向かってる暇はありませんわ!」


結局、美鈴メイリンはそう結論付けた。


「案ずるより産むが易し!今は行動あるのみ、ですわ!」

明るく美鈴メイリンがそう言うと明花ミンファの表情も和らいだ。


(きっと、この人なら何とかしてくれる。)


明花ミンファ美鈴メイリンへの信頼は絶大だった。


そして月夜ユーイーの乗る馬車に美鈴メイリン依然イーラン若汐ルオシーの四人が乗る事に。


ファン先生は明花ミンファ愛麗アイリー芽友ヤーヨウと同じ馬車に乗り合わせてそのまま臨海学校の引率者としての仕事を続行する。


「では参りましょうか。」


「あ、ちょっと待って貰えるかしら?」


「どうされました、月夜ユーイー先輩?」


「ん。ちょっとだけ待ってて。」


依然イーラン、貴女もいらっしゃい?」


「お嬢様、如何なさいました?」


月夜は依然イーランを連れてもう一台の馬車へと赴く。


明花ミンファさん、馬車に乗ったままで良いので私の言葉を聞いて貰えませんか?」


月夜ユーイー先輩、改まってどうしました?」

明花ミンファは馬車からヒョッコリと顔を出した。


「貴女に伝えたい事が二つあります。」


「一つは、貴女に対して身分差で差別するように取られるような言動をしてスミマセンでした。」


「いえ、その事はもう…。」


「本当に私らしくありませんでした、なのでお詫びしておきたいと思います。」


「本当に気になさらないでください、私が勝手に落ち込んだだけですから。」


「そう言っていただけて安心しました。」


「それともう一つ、この度は私の従者である依然イーランの命を救っていただきありがとうございました。」


月夜ユーイーが頭を垂れると、依然イーランも追随するように礼を述べ、頭を下げた。

「あ、ありがとうございました。明花ミンファ様。」


「お二人共、お顔を上げて下さい。私は自分がやるべき事をしたまでです。」


月夜ユーイー依然イーランが頭を上げる。


明花ミンファ月夜ユーイー達に向けて親指を立ててニッコリした。


すると月夜ユーイーも同じように親指を立ててニッコリ笑う。


「あの…お嬢様方、その仕草は?」

ポカーンと親指を立て合う月夜ユーイー明花ミンファを交互に眺める依然イーラン


「気にしないで。これは私と彼女との間の友情の証よ。」


「クスッ。」

悪戯っぽく笑う明花ミンファ


「は、はあ…?」

ワケもわからず首肯く依然イーラン


明花ミンファさんが何気無く向けたサインに同じサインを返した月夜ユーイー先輩…。)


(そういう事ですか。)


美鈴メイリンは自分と同類がもう一人増えた事に喜んだ。


そしてこの二人は互いに抱える同じ秘密を共有した事を認識した。


と同時に、少し嫉妬を覚えるのだった。


アドバンテージを持つという事は同時に孤独を得る事でもあるのだ。


(な、何故胸がチリチリしますの…?)


美鈴メイリンは複雑な思いで明花ミンファの方に視線を移した。


「さあ、これで心置き無く若汐ルオシーさんの友人達を救出に行けます!」

元気良くそう告げた月夜ユーイーとそれに首肯く依然イーラン


明花ミンファ美鈴メイリン達に向かって叫んだ。

「皆さん、頑張って下さい。そしてどうかご無事で…!」


それに対してまず月夜ユーイーが答えた。

「ありがとう、貴女達も怪我無く臨海学校を楽しんで下さいな。」


依然イーラン明花ミンファに答える。

「ご期待に添うよう頑張ります…。」


そして美鈴メイリンが気持ちを切り替え、明花ミンファに出発の挨拶をした。

明花ミンファさん、行ってきますわ。」


明花ミンファ美鈴メイリンの言葉に答える。

「はい、少しでも早く合流されるのを待ってますね!」


良かった、何時も通りの明花ミンファだ、と美鈴メイリンは安堵した。

何故嬉しいのか美鈴メイリン本人にも今はまだわからない。


側仕えの二人も口々に美鈴メイリンへと呼び掛ける。


美鈴メイリンお嬢様、ご武運を!」


美鈴メイリン様、お気をつけて!」


最後に、ファン先生からヤンチャな自分の生徒達へ。

「四人とも、無茶はするなよ?それと門限までには帰ってくるように!」


教師らしいその言葉にプッと吹き出す美鈴メイリン月夜ユーイーだった。


「皆さん、何から何までありがとうございます!」

若汐ルオシーがそう言うと共に二台の馬車は枝分かれした道をそれぞれの方向へ走って行った。


美鈴メイリン達は真剣な顔で曲がりくねった山道を馬車で進んで行く。


グングン、グングンと馬車はしばらく山道を進んで行く。


…………そして。


「ば、馬車を…停めてくれないかしら…?」


月夜ユーイーの顔が青い。


「お嬢様、大丈夫でございます…か…。」


依然イーランの顔も青い。


「あら、まさかお二人とも馬車に酔われたのですか?」


「こ、こんなに曲がりくねった山道なんて、は、初めてだもの…。」


グッタリしている月夜ユーイー依然イーラン


「…仕方ありませんね、少し休みますか。」


かく言う美鈴メイリンも正直なところ、乗り疲れを感じ始めていた。


椅子がフカフカとは言えど、中世を反映したこの世界の馬車には路面の凸凹からの衝撃を緩める為のショックアブソーバなど付いて無いのだから乗り心地は良いとは言えない。


一応乗り心地に配慮してか申し訳程度に板バネが取り付けられているものの、あまりこれが効きすぎると今度は車体が前後左右にふわふわと揺れてしまうので却って乗ってる人は身体が揺れて気持ち悪くなってしまうのだ。


「あまり休んでいると日が暮れてしまいますよ?」


「あら若汐ルオシーさん、貴女は平気なのですか?」


「私は猟師の家系で山育ちだから、こんな道くらい楽勝ですよ!」


馬車から降りてピョンピョン跳ね回る若汐ルオシー


が、


「キャン?!」


脚がもつれてつまづき、コケた。


「ぷっ。やっぱり少し休んだ方がよろしくてよ?」


月夜ユーイーが笑った。


「あ、あれー?」

自分で思ったよりも動きや感覚がおかしい事に漸く気が付く若汐ルオシーだった。


「きっと慣れない暗殺任務や戦闘経験で思った以上に疲れたのでしょう(主に精神的に)。」


「でも、早く行かないとみんなが…!」


「因みに脅迫してきた連中からは何時までに帰って来いと言われましたか?」


「ええと、確か夜までと…。」


「馬車だとどのくらいかかりそうですの?」


「もう二時間もあれば大丈夫だと思いますけど、今何時頃かな…。」


馬車に付けられていた時計を月夜ユーイーが確認する。

「まだ午後2時くらいだからもう少しくらい大丈夫でしょ?夏場だから日が長いし。」


「しかし合宿場所が山中なら意外と早く日が暮れてしまいますから、やはり夕方までに行かないとなりませんわね。」


「では皆さん、あと五分したら出発しましょう!」

若汐ルオシーは自分の回復具合も考えずに無茶を言った。


「ええー?せめて三十分くらい待ってくれないかしら?」

月夜ユーイーが冗談じゃないとばかりに抗議する。


それらを聞いた美鈴メイリンは少し思案してから双方に折衷案を提示した。

「じゃあ、中を取って十五分でよろしいですわね?」


「「…う~ん。」」

少し両者から不満の声が挙がった。


だからか結局出発は二十分後となった。


はやる気持ちを抑えられないといった若汐ルオシーだったが、十五分後に美鈴メイリンから目をつむったまま片足で立つように言われて僅か五秒でふらついた。


そこでもう五分が休憩に追加されたのだ。


本当は月夜ユーイーの意見通り三十分休憩が望ましかったのだが、これ以上出発を遅らせると若汐ルオシーにとってかなりのストレスとなるし、少しでも早めに目的地へ到達した方が安全なのにかわりなかった。


何より人質達の安否が気がかりだ。


そしてこの後で三度の馬車酔い休憩を二十分ずつ挟んだ為、到着は当初の予定より一時間も遅れる事に。


「ボチボチと空が赤く染まり始めましたわね。」


「ええ。それにやはり山中だと美鈴メイリンさんの言われた通り、暗くなるのが早いらしいですね。」


「だからもっと早く出発しようと言ったじゃないですか!」

若汐ルオシーがそれ見た事か、と不満を洩らすと。


「貴女も酔ってフラフラだった…他人を責められる立場では、ない…。」

静かな怒りの眼を依然イーランから向けられて小さくなる若汐ルオシーだった。


「皆さん、そろそろだと思いますよ。」

馬車の御者から声がかかる。


「御者さん、馬車はここまでで停めて下さいまし。」


美鈴メイリンに言われた通りに御者は馬車の歩みを停めた。


「では、ここからは歩いて行きましょう。」

美鈴メイリンがそう言うと、全員が首肯く。


四人は馬車から降りて山道を歩き出した。


「この辺りの景色は見覚えがあります。合宿場所はすぐそこです。」


若汐ルオシーが言った通り、一行はものの五分程度でその場所に到着した。


拓けた場所に到着すると、その崖下に窪地があった。


「皆さん、身を低くしてご覧下さい。」


若汐ルオシー から言われた通りに屈むようにして眼下を見下ろす美鈴メイリン達。


窪地の中には保養施設のような建物が何棟か建っていた。


「あそこが、貴女達の合宿所?」


「はい。主に学生の合宿に使われる建物です。」


「何人かが槍を持ってうろうろしておりますわね。」


「あれが戦弓部を監禁している連中です。」

「ここからは見えていませんが、他にも弓を持つ者達や剣を持つ者達が敷地内にいました。」


「数は何人?」


「わかりません。私達の前には槍と剣を持った輩が数人、それぞれが魔法を用いてました。」


「それだけでも…約十人くらいは居たかと。」


「他にもいると考えると、少なくともその倍近く…人数的に戦力差がありますわね。」


「こう言うのはどう?誰かが見張りを惹き付けて中が手薄になった所を他のメンバーが救出に向かう。」


「現状、私達は四人…二人を二手に分けるのが妥当。」

和汐ルオシーが中に行くのは当然として、陽動には月夜ユーイーお嬢様と私が適任と思います。」


「…なら、私は若汐ルオシーさんと共に中に突入ですわね。」


「方針は決まりましたね、では私達は建物の付近で隠れてますので、月夜ユーイーさん達は頃合いを見て行動開始して下さい。」


「では…散開。」


月夜ユーイーの号令と共に四人は二手に別れて救出作戦を開始した。

敵は想像以上に大人数、たった四人だけで救出作戦は上手くいくのでしょうか?


そして最初は強者として登場した若汐ルオシー、早くもメッキが剥がれたのかポンコツ振りが露呈してきました…。

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